クスコさんが警備兵と一緒に格納庫を出ていくと、待っていた整備員がすぐ一号機へ取りついた。さっきまで人を乗せて戻ってきたことを気にしている暇もないらしい。焼けた左肩の装甲が外され、腰まわりには複数の端末が繋がれていく。俺も戦闘報告を終えてから機体のそばへ戻ったが、今度は乗る側より整備する側の方が忙しかった。
「肩は表面だけで済んでる。問題はこっちだ」
整備長が受け取った記録を見ながら、腰と右腕の数値をまとめて確認していた。
「マグネット・コーティング自体は正常。前より動くようになって負荷軽減もされてるが、今回の高負荷機動でも負担が残ってる。右腕もまだ使えるけど、以前からの負荷が消えたわけじゃないし、腰は警告を何度か出してる。部品交換と再調整までやれば出撃可能域には戻せるぞ」
「完全には戻らないですよね」
「そこは無理だな。今からフレームまで替える時間はない。できるのは使えるところを確実に使える状態へ戻すことだな」
はっきり言われた方が分かりやすい。俺も完全に戻るとは思っていなかった。右腕も腰も、今日だけ壊れた場所じゃない。ジャブローからここまで何度も直して、その上からまた使ってきた。
整備長は交換部品の優先順位を整備班へ伝えると、そのまま二号機側へ移った。アムロもすでに戻っていて、二号機の周囲では武装と関節の点検が始まっている。
俺は一号機を見上げたあと、ブライトさんから呼ばれていたブリッジへ向かった。
報告そのものは長くかからなかった。エルメスの武装とビットの動き、こちらが破壊した箇所、クスコさんが自分から戦闘を停止して機外へ出たこと。感応についても隠せる話ではないので、そのまま伝えた。
「クスコ・アルについては医務確認を済ませた後、警備を付けて収容している。今のところ抵抗はない」
ブライトさんはそれだけ説明し、それ以上クスコさんの話を広げなかった。俺も今すぐ会わせてくれとは言わなかった。自分から来たとはいえ、敵軍のパイロットだったことまで変わったわけじゃない。
ブリッジでは戦闘後の位置確認が続いていた。先行艦隊との距離を取り戻した直後に戦闘へ入り、その間にも各艦の隊列は崩れている。ミライさんが周囲の艦との相対位置を合わせ、通信席では途切れた部隊回線を一つずつ拾い直していた。
俺が退出しようとした時、前方の観測画面が急に白く染まった。
「何?」
ミライさんの声とほぼ同時に、ブリッジのあちこちで警報が鳴る。
「大規模な光学反応! 方位――確認します!」
「攻撃か?」
「わかりません、直撃コースではありません。距離があります。ただ、規模が……」
光は一瞬で消えなかった。遠く離れた宙域が、不自然なくらい明るくなっている。嫌なものが頭に浮かんだ。
ソーラ・レイ
原作と同じなら、あの向こうにはレビル将軍の艦隊がいる。そしてデギン公王も――そこまで考えて、口には出さなかった。見えた光だけで誰が死んだと決めつけるわけにはいかない。
「艦隊反応を再確認! 照射方向にいた味方識別が……消えています」
「どれくらいだ?」
「待ってください、数が合いません。第三群、第五群の一部も応答なし」
通信席から呼びかけが飛ぶ。返事はない。少し遅れて別の艦から被害報告が入り、途中で途切れた。その後ろではさらに別の通信が重なり、何隻が残っているのかさえすぐには分からなくなった。さっきまで画面を埋めていた味方の識別表示に、大きな穴が空いていた。
「ミライ、こちらの進路は変えず、照射宙域へ近づきすぎないように距離を取れ。残っている艦から指揮系統を確認する」
「はい」
「通信は呼び続けろ。応答のある艦だけでも整理してくれ」
ブライトさんの指示で、止まりかけたブリッジがまた動き始めた。誰も被害の全体像を掴めていない。それでもホワイトベースまで止まるわけにはいかない。
俺は観測画面に残った光を見ていた。
知っていた出来事に近い。それでも、実際に艦が消えていくのを見るのは別だった。そこにいたのは年表の数字じゃない。さっきまで同じ回線に声を出していた艦も、戦闘で横を通った部隊もいる。
しばらくして、断片的だった報告が少しずつ揃い始めた。レビル将軍の座乗艦を含む主力部隊は壊滅。将軍本人も生存確認が取れない。さらに、照射された宙域にはジオン側の艦もあり、デギン・ソド・ザビ公王が同席していたらしいという情報まで入ってきた。
その頃には、俺の中でも疑いはほとんど残っていなかった。やっぱり、ソーラ・レイだ。
レビル将軍の戦死が確認されたという報告が入ったのはさらに後だった。ブリッジが一瞬静かになったが、ブライトさんはすぐ残存艦隊から送られてきた新しい指示へ目を通した。
「攻撃は中止しないそうだ。残存艦は再編後、予定通りア・バオア・クーへ向かう」
あれだけの艦が消えても、戦争は止まらなかった。誰かが声を上げたわけでもない。ミライさんは新しく指定された合流座標へ進路を修正し、通信席では生き残った艦の一覧が作られ始めた。俺も格納庫へ戻った。
そこで待っていたのは、さっきと同じ一号機だった。左肩の装甲はすでに外され、腰の一部も開かれている。整備員たちは主力艦隊が消えたことを知らないわけじゃない。それでも手は止めていなかった。
その夜、ホワイトベースの格納庫から作業音が途切れることはなかった。
◇
艦内時計の日付が12月31日に変わっても、外に朝が来るわけじゃない。
代わりに変わったのは周囲の艦だった。前日まで同じ隊列にいた艦がなくなり、その穴へ別の部隊が入っている。損傷した艦も混じったまま新しい戦列が組まれ、指揮系統も何度か更新された。失われた戦力を埋められるはずはない。それでも残った艦は、ア・バオア・クーへ向けて進んでいた。
一号機は出せるところまで戻っていた。
「左肩は外装交換と内部確認まで終了。腰は制限値を少し下げてある。右腕も使える。ただし、昨日より余裕がないのは覚えておいてくれ」
整備長は一号機の最終記録を確認しながら、一度に必要なところまで説明した。
「無理な姿勢変更を繰り返せば、また腰から先に警告が出ると思う。MCは問題なし。だから動かないんじゃなくて、動くからこそやりすぎないでくれよ」
「了解です」
「お前なら分かってるだろうが、一応言うのが俺の仕事だからな」
隣の二号機も出撃準備を終えつつあった。アムロ用に調整されたアレックスのビーム・ライフルに加え、ハイパー・バズーカがラックから運ばれている。シールドはない。アムロは機体の周囲を移動しながら自分で武装の取り付けを確認し、整備員と短く言葉を交わしていた。
「一号機、出せそう?」
こちらに気づいたアムロが聞いてくる。
「出せるよ。ただ、腰は昨日より余裕ないって」
「二号機も似たようなものだよ。動きは良くなったけど、壊れない機体になったわけじゃないし」
「まあ、そりゃそうだよな」
そこで会話は終わった。今さら互いに気をつけろと言い合わなくても、何をしに行くのかは分かっている。
格納庫の別区画では、カイさんとハヤトのガンキャノンへ弾薬が積み込まれ、クリスさんのジム・コマンドも推進剤補給を終えていた。セイラさんのコア・ブースターも発進準備に入っている。アレックスだけは整備台に残されたままだった。
発進準備の放送が流れ、俺は一号機へ乗り込んだ。コックピットを閉じると、昨夜まで開かれていた機体とは思えないくらい普通に起動した。右腕を動かす。腰を回す。応答は速い。警告も出ない。それでも昨日より良くなったわけじゃない。今使えるようにしてもらった。それだけだ。
『各機、聞こえる?』
クリスさんの声が回線へ入った。
『ホワイトベース周辺はすでに友軍機が多いわ。発進後は単独で前へ出ないで。カイ、ハヤトは艦の近傍から火力支援。セイラは外周を見て。アムロとレンは前方へ出てもいいけど、友軍の射線を横切らないこと。要塞砲には特に注意して』
『了解』
『分かったぜ』
それぞれの返事が重なる。カタパルトの先に、ア・バオア・クーが見えた。遠目には巨大な岩塊にしか見えない。その周囲を艦艇の光点と無数のMSが埋め、要塞から伸びる砲火が連邦艦隊の中へ何本も突き刺さっている。こちらからも艦砲射撃が返され、命中した場所では岩肌と砲台がまとめて吹き飛んでいた。その間をMSが飛んでいる。一機一機を追っていたら、それだけで周囲を見失いそうな数だった。
『アムロ・レイ、ガンダム二号機、出ます!』
二号機が先にカタパルトを走った。
「レン・イズミ、一号機、行きます!」
固定具が外れ、加速が身体をシートへ押しつける。ホワイトベースを離れた直後、右側を友軍のジムが横切った。さらに前ではキャノン系の機体が敵MSへ砲撃している。ミノフスキー粒子のせいで表示される情報は近距離中心になり、目に見えるものと識別信号を自分で重ねなければならない。
要塞側が光った。固定砲の射線が艦隊を横切り、一隻の連邦艦の横腹へ当たる。装甲が大きく弾け、その周囲へ破片が広がった。避けた友軍MSがこちらの進路へ流れてきたため、一号機を上へ逃がす。
その先にも敵がいた。ゲルググが一機、損傷した友軍艦へ向かっている。照準を合わせたところで、別のジムが横から射線へ入りかけたため一度トリガーから指を外した。友軍機が抜けるのを待ってから角度を変え、ビーム・ライフルを撃つ。
ゲルググが回避する。その動いた先へ二号機の射撃が入り、敵機はさらに進路を変えた。
『レン、そっちへ行った!』
「見えてる!」
一号機を加速させる。
敵一機だけを見ていればいい戦場じゃない。要塞砲の次弾がどこを通るか、友軍がどちらへ動くか、ホワイトベースがどこにいるか。その全部を残したまま、逃げるゲルググへもう一度ライフルを向けた。
次の砲火が要塞から走った。
終戦まで多分ですが後3話か4話位になると思います。
先に言っておきます! アムロ側の描写はほぼしません! 先に言っておきます!