余白物語 作:平行四辺犬
いずこマップ
001
近道について考える。
考えてみれば妙な言葉である。道が近いのではない。目的地が近づいてくれるわけでもない。曲がる角を一つ増やして、通る道幅を一段狭くして、そうやって遠さをこちらの手で削っているだけのことを、僕らは道のほうが縮んでくれたみたいな顔で、近道と呼ぶ。道は一歩も動いていないのに、である。手柄の横取りもいいところだ。近道、抜け道、裏道、逃げ道。世に道の異名は多いけれど、そのどれもが、道の形ではなく、そこを通る人間の下心のほうに名前をつけている。縮んでいるのは道ではなく、こちらの了見のほうなのだ。もっとも、そういう横取りを二年も三年も続けていると、いつのまにか本線と支線が頭の中で入れ替わって、近道のほうが正規の道に昇格し、正規の道のほうがむしろ回り道に格下げされて、しまいには地図の上では何ひとつ変わっていないのに体の中の地図だけがこっそりと書き換わり、その書き換えに当の本人だけが最後まで気づかない、というようなことが起こる。案外、道について考えるというのは、道について考えている自分の足元を疑うということなのかもしれない。
体の中の地図。
我ながら怪しげな言い回しだけれど、しかし実際、人間はあの精度の割にいい加減な器官を頼りに毎日を移動している。現に僕は今、その地図に裏切られている最中だった。
十二月の半ば。期末試験が終わり、冬休みまでの数日を消化試合みたいに過ごしている、受験生の平日である。放課後は市立図書館に通うと決めていた。家では妹どもがうるさいし、暖房費は公共施設に負担してもらうに限る。学校から図書館までは自転車で十五分――のはずだった。のはずだったのに。
「四十分かかった」
図書館の駐輪場で、僕は誰にともなく言った。
「昨日は三十五分。一昨日は三十分。日ごとに記録を更新している。成長期か」
誰にともなく、のつもりだったが、返事はあった。足元の影から、からかうような笑い声が湧く。
「かかっ。お前様、三日続けて同じ町で迷子とは、いよいよ焼きが回ったのう」
忍である。
金髪八歳児の見てくれをした、元・怪異の王。春休み以来の腐れ縁で、今は僕の影に住んでいる同居人だ。家賃は僕の血。たまにドーナツ。
「迷子じゃない。断じて迷子じゃない。道はぜんぶわかってる。わかってるのに――着かないんだよ」
「道はわかっておるのに着かぬ、とな。それはもう迷子ではのうて、迷宮じゃな」
「勝手に難易度を上げるな」
「ミノタウロスは出たか」
「出てないよ。出てたら図書館の駐輪場が、もっと血なまぐさい」
「なんじゃ、つまらん。牛の一匹も棲まぬ迷宮など、ただの遠回りではないか」
「その、ただの遠回りが、できないんだよ。……いつもの近道の、入り口の角が、見つからないんだ」
「それを世間では迷子と呼ぶのじゃがな」
「違うって言ってるだろ」
我ながら、口に出すと馬鹿げた話だった。
通い慣れた道である。三叉路の酒屋の看板を目印に右へ入って、細い路地を二本抜ければ、大通りの信号を三つ飛ばせる。高校二年の秋に開拓して以来、雨の日も風の日も使ってきた、僕の正規の道。それが、ここ三日、どうしても見つからない。酒屋の看板までは行ける。その先の、曲がるべき角が、無い。あるべき場所に路地が無くて、無いはずの場所にフェンスがあって、仕方なく大通りへ戻ると、律儀に三つの信号が全部赤になる。
「ふうん」
影の中で、忍がつまらなそうに鼻を鳴らした。
「で、お前様はそれを、儂に相談したいわけか。怪異のせいかもしれぬ、と」
「…………」
「顔に書いてあるぞ」
書いてあるのだろう。実際、頭をよぎらなかったと言えば嘘になる。道を封じる怪異なら、僕はよく知っている。よく知っているからこそ――それはない、と即座に打ち消せるのだけれど。
あれは、もういない。
この町の、どこにもいない。
「……なんでもない。ドーナツ買って帰るぞ」
「うむ。ゴールデンチョコレートじゃ」
現金な影である。
002
翌日、僕は科学的に行くことにした。
まず本屋で住宅地図を立ち読みした。ページを繰って、例の一角を探す。酒屋。三叉路。その先の路地――は、ちゃんと地図に載っていた。ほら見ろ。あるじゃないか。僕の記憶は正しい。正しいのだが、それなら現地のあのフェンスは何なのだ。地図にあって現地に無いなら、間違っているのはどちらなのか。地図か、町か、それとも僕か。
次に、現地検証である。
自転車を押して、徒歩で三叉路から歩き直した。電柱を数えた。一本、二本、三本。記憶では四本目の電柱の手前が路地の口だ。四本目。……無い。正確に言えば、四本目の電柱そのものが無い。三本目の次が、いきなり五本目みたいな顔をして立っている。電柱に顔は無いが。
三十分後。
電柱の根元にしゃがみ込み、金属の管理プレートの番号を手帳に書き写している男子高校生の姿が、そこにはあった。
ていうか僕だった。
通行人のおばさんが、露骨に距離を取って通り過ぎていった。わかる。わかるぞおばさん。年の瀬に電柱を調査している学生服は、どう好意的に見ても不審者だ。しかし僕にも言い分はある。番号が飛んでいたのだ。電柱の管理番号が、一つ、綺麗に欠けていた。つまり四本目の電柱は「無い」のではなく「無くなった」のであり、それはつまり、僕の記憶違いではないということで――そこまで確認して、僕はようやく気がついた。
フェンスの向こう。
路地のあった空間そのものが、細長く掘り返されて、土が剝き出しになっている。
……工事、か?
なんだ。工事か。
安堵が半分、拍子抜けが半分だった。怪異でもなければ神隠しでもない、ただの工事。それで済む話なら最初からそう考えろという話なのだが、まあ、この一年の僕の生活を思えば、道が一本消えたときに真っ先に工事を疑える神経のほうがどうかしている。犬も歩けば棒に当たる式に、僕が歩けば怪異に当たるのだ。当たってきたのだ、実際。
それでも、と思う。
それでも、何かが釈然としなかった。工事なら工事でいい。だがあの近道が封鎖されたのが最近だとして――じゃあ、この違和感はいつからだ? 三日前からか? 本当に?
思い返せば、この秋からずっと、通学路の時間が読めなかった。十五分の道が二十分かかり、二十分を見込めば十分で着いた。方向音痴になったのかと思っていた。受験勉強で頭が煮えているのだと思っていた。けれど僕の体の中の地図は、たぶんもっと前から、どこかで一本、道を間違えて描いていた。
羽川に電話しようかと、ポケットの携帯を握って、やめた。
あいつなら精々三十秒で解いてしまうだろうけれど、なんでもかんでもあの委員長に頼るのは、そろそろ卒業しなければならない。受験生どうしでもあるし。それにこれは、どうやら怪異でも事件でもない、ただの道の話なのだ。ただの道の話くらい、自分の足で解きたい。
と、いうようなことを考えながらフェンス沿いを引き返した、その先に。
その人は、立っていた。
003
「やあ、こよみん。奇遇だね――と言ってあげたいところだけど、あいにく奇遇じゃないんだ、これが」
ラフなジーンズに、着崩したシャツ。年齢不詳の、悪戯っぽい笑顔。ポケットに両手を突っ込んで、工事フェンスの前に、まるで待ち合わせでもしていたみたいに立っている。
臥煙伊豆湖。
忍野メメや貝木泥舟の大学の先輩筋にあたるという、専門家の中の専門家。夏の終わりの、あの一番苦い日に会って以来だから、およそ四ヵ月ぶりになる。会うのは四ヵ月ぶりなのに、この人はまるで昨日の続きみたいに喋る。
「……臥煙さん」
「うん、いい返事だ。ちゃんと名前を覚えてもらえてるってのは嬉しいもんだね。なにせ私は嫌われ者だから」
「何してるんですか、こんなところで」
「散歩。町の点検。あとはまあ、きみを待ってた」
「点検って、何をですか」
「町がちゃんと地図どおりにやってるか、さ。たまにサボるんだよ、町ってのは。道を一本くすねたり、電柱を勝手に間引いたり。今日みたいにね」
「……待ってた、っていま言いました?」
「三日も同じフェンスの前をうろうろされたらね、そりゃ耳にも入るさ。私は何でも知ってるんでね」
出た。
この人の、これだ。
何でも知っている。忍野の「何かいいことでもあったのかい」や貝木の「金が全てだ」と同じ、この業界の人間が背負ってくる決まり文句。ただしこの人のそれは、他の連中の決め台詞とは少しだけ質が違う。羽川の「知ってることだけ」が守備範囲の申告だとすれば、臥煙伊豆湖の「何でも」は――申告ですらない。天気の話みたいに言うのだ。
試してみたくなるのが人情だろう。
「じゃあ……今朝の僕の朝飯は」
「白飯と味噌汁と卵焼き。卵焼きは砂糖が多すぎた。焼いたのは下の妹ちゃんだね。違うかい?」
「……合ってます。不気味なくらい」
「はったりだよ。受験生の朝飯なんてのは統計的にそんなもんだし、砂糖の多い卵焼きを僕は今朝食ったって顔をきみがしてる」
「顔でわかるか、そんなもん!」
「わかるんだなあ、これが」
臥煙さんはからからと笑った。
「安心しなよ、こよみん。何でも知ってる人間なんてのは実在しない。あれは看板だ。商店街の福引きの『豪華賞品』と同じでね、九割は言ったもん勝ちなんだよ。――ただし」
と、そこで彼女はフェンスを親指で差した。
「残りの一割で、大抵の用は足りる。たとえば、きみが三日探してる路地のことなら知ってるよ。訊くかい?」
僕は一瞬迷って、頷いた。迷ったのは、この業界の人間に物を訊くことの相場を、多少は学んでいたからだ。五百万円とまでは言わないにしても。
「……おいくらですか」
「はは。話が早くて助かるね。金は取らないよ、友達価格だ。貸し一つ。それも大した貸しじゃない、そのうちくだらないことで返してもらう」
「くだらないこと」
「くだらないことさ。私は友達をくだらないことにしか使わない主義なんだ」
どういう主義だ。
しかし断る理由もなかった。頷くと、臥煙さんは講義でも始めるみたいに、フェンスに軽く寄りかかった。
「下水道の敷き替え工事。先月の頭からだ。あの路地は幅が狭すぎて、重機が入らないんでね、いっそ掘り返して、管ごと替えることになった。工期は三月いっぱい。市の広報の十月号に載ってた――まあ、読んでないだろうけど」
「……読んでないですね」
「電柱が一本消えてたろう。あれは移設。工事帯にかかるんで、揃って三十メートル先に引っ越した。きみの目印の酒屋の看板も、年明けには一度、外れるよ。あそこの店主、この機会に、建て替えるんだと」
なんというか。
拍子抜けするほど、隅々まで、ただの答えだった。怪異の入り込む隙間が一ミリもない。道が消えた謎は、市役所と酒屋の店主とで割り切れる。世界は僕が思っているより、ずっと事務的に回っている。
「――と、いうのが、きみの訊いた質問への答え」
臥煙さんはそこで、寄りかかっていたフェンスから背を離した。
「で、ここから先はおまけだ。訊かれてないことだけど、サービスしとく。何でも知ってるお姉さんからの、歳末大売り出し」
「……はあ」
「こよみん。きみがあの角を最後に曲がったのは――八月二十一日だよ」
一瞬、何を言われたのか、わからなかった。
「工事が始まったのは、先月だ。でもきみの近道は、そのずっと前から使われてない。秋の間じゅう、きみは一度も、あの路地に入ってない。雨の日も、風の日も、遅刻しかけた朝もだ。体が勝手に、手前の角で逸れてた。……律儀なもんだよ、人間の足ってのは」
「…………何の、話ですか」
「さあ。何の話だろうね」
臥煙さんは、笑った。何でも知っている顔のままで、何も言わない笑い方だった。
「私は何でも知ってるけど、それが何の話かまでは、決めてあげないことにしてる。地図は道を教えるだけだ。どの道を選ぶかは、歩く奴の仕事――っと、いけない。説教くさいのは嫌われるんだった」
じゃ、貸し一つね、と。
言うだけ言って、その人は片手をひらひらさせながら、フェンス沿いを歩き去っていった。振り返りもしなかった。立ち尽くす僕と、掘り返された路地だけが、その場に残された。
八月二十一日。
夏の終わりの。
あの、一番苦い日。
004
その夜、僕はもう一度、自転車を出した。
図書館は閉まっている時間だった。目的地なんて最初からない。ただ、確かめておきたかった。僕の体の中の地図が、どこで一本、道を描き替えたのか。
「お前様」
影から、忍の声がした。夜気の中では、その古風な声は昼間より少しだけ、澄んで聞こえる。
「儂は寝ておるからな。ドーナツ屋はもう閉まっておる時間じゃ、用は無い」
「寝てろ寝てろ」
「……ふん」
寝る、と言ったくせに、影は消えなかった。そういう奴なのだ、こいつは。
夜の住宅街を、ゆっくり走った。三叉路。酒屋の看板。年明けには外れるという看板の、色褪せた文字。その先のフェンス。ここまでは、昼間と同じ道だ。問題はここからだった。近道が封鎖されているなら、迂回するしかない。迂回路は二本ある。一本は大通りへ戻る道。もう一本は――浪白公園の前を抜ける道。
僕の足は、この四ヵ月、二本のうちのどちらを選んできたのだろう。
考えるまでもなかった。大通りだ。信号が三つもあって、遠回りで、夕方は車の多い、大通りのほうだ。効率だけが取り柄の受験生が、毎日毎日、飽きもせず非効率なほうを選び続けていた。理由なんて考えたこともなかった。考えないことが、たぶん理由だった。
公園前の道に、自転車を向ける。
ハンドルが、一瞬だけ重くなった気がした。気のせいである。物理的には完全に気のせいである。それでも僕は自転車を降りて、押して歩くことにした。この道は、そういえばいつも、歩くはめになる道だった。自転車で走り抜けようとすると、決まって途中で呼び止められたからだ。決まって、途中で、通せんぼされたからだ。
街灯が、公園の入り口を照らしている。
その角では、昔――と言っても、ほんの数ヵ月前まで、よく知り合いに行き遭った。ツインテールに、身体より大きなリュックの、迷子のくせに人の名前ばかり上手に間違える、口の減らない小学五年生に。行き遭うというか、待ち伏せされていたのか、こちらが待ち伏せしていたのか、今となってはどちらでもいい。とにかくこの角は、そいつの縄張りだった。
今は、いない。
この町の、どこにもいない。
だから僕の足は、この角ごと地図から消したのだ。工事よりも三ヵ月早く、市役所よりもよほど手際よく、誰にも相談せず、告知も広報も迂回路の案内板も一切出さず、あろうことか地図の持ち主である僕にすら黙って、四本目の電柱どころか道一本まるごと、綺麗に、几帳面に、消しゴムの滓ひとつ残さずに。……律儀なもんだよ、と昼間の声が耳の奥で蘇る。まったくだ。律儀にもほどがある。せめて本人の許可くらい取れ。
「――お前様」
影から、声がした。
「なんだ。寝たんじゃなかったのか」
「あの蝸牛の小娘の、縄張りじゃったな。ここは」
「…………」
「……ま、道くらい、好きに曲がるがよいわ」
それきり、忍は本当に黙った。眷属の心、主知らずである。いや、知っていて黙る主なのだった、うちのは。
僕は公園の前を、端から端まで、ゆっくり歩いた。
何も起きなかった。
誰にも呼び止められなかったし、誰にも噛みつかれなかったし、リュックの角が背中に刺さることもなかった。ただの冬の夜道だった。世界で一番なんでもない、ただの、通り道だった。それがこんなに歩きにくいのだから、人間の足というのは、つくづく地図に向いていない。
角を、曲がる。
曲がって、それから振り返って、街灯に照らされた無人の角を、しばらく見た。
「……よし」
何がよしなのかは、自分でもわからなかった。わからなかったが、口に出すなら、それしかなかった。
005
翌日から、僕は公園前の道で図書館に通うことにした。
走ってみればなんのことはない、こちらの迂回路のほうが大通りより四分早い。信号は一つも無いし、車も来ない。つまり僕はこの四ヵ月、毎日四分ずつ、遠回りに人生を費やしていた計算になる。受験生の四分を積み立てたら、単語の百や二百は覚えられただろう。惜しいことをした――と思うことにしている。惜しいことをした、で済む話に、僕がようやく格下げできた話なのだから。
ちなみに例の近道は、三月まで開かない。
三月。
卒業式の頃だ。工事が終わって、路地が開通して、僕の開拓した正規の道が戻ってくる頃には、僕はもうあの道を通わない。近道というのは、つくづく間の悪い生き物である。
006
後日談というか、今回のオチ。
数日後の夕方、図書館の自習室で英単語と格闘していたら、机に影が差した。
「よ、こよみん。勉強してるかい」
「……図書館まで来るんですか、あなたは」
「貸しを返してもらいに来た。言ったろ、くだらないことで返してもらうって」
臥煙さんは実にいい笑顔で、一枚の紙を机に置いた。見れば、市の広報の――年末年始特別号とやらの、アンケートはがきである。
「広報を読んだ感想を書いて出しといて。『道路工事の告知が丁寧で助かりました』って。市役所の広報課にね、ちょっと貸しを作っときたいんだ」
「くだらな!」
声がでかい、と司書さんに睨まれた。僕は首をすくめて、はがきを受け取った。臥煙伊豆湖に借りを残すよりは、五十円切手のほうがずっと安い。安いのだが、しかし、何でも知っているくせに自分でははがき一枚出さないこの人のことを、僕はやっぱり、どう扱っていいのかわからない。
「ところで臥煙さん。一つ訊いていいですか」
「ん? 一つと言わず十でもいいよ。友達価格だ」
「――伊豆湖って、変わった名前ですよね。伊豆の湖って書いて」
「ああ。よく言われる。いずこ、なんてね、まるで『何処』だ。どこの誰とも知れない女ってわけさ。名は体を表すだろう?」
そう言って、その人は片手を軽く振って、司書さんに睨まれる前に、さっさと消えてしまった。神出鬼没。まったく、何処の誰とも知れない人である。何でも知っているのに、誰にも知られていない。あの人の体の中の地図には、いったいこの町の何もかもが、どんなふうに描いてあるのだろう。
僕は英単語帳に戻った。
戻る前に、窓の外をちらりと見た。
冬の日暮れの、灰色の町。この町の道は今日もどこかが掘り返されていて、どこかの角が消えて、どこかに新しい角ができている。地図は毎日書き換わる。紙の地図も、体の中の地図も。それでいい。書き換わらない地図のほうが、たぶんよっぽど、迷子への近道なのだ。
……ドーナツ屋に寄って帰るか。
影の中で、聞き耳を立てている気配があった。