クロスオーバーではございません。
警備局じゃないのかって?撃つ弾の補充に事欠いてドーナツ屋の
ヴァルキューレ警察学校。
子供の国たる学園都市キヴォトスの司法と治安維持を担う、一種の連邦警察機構である。
ところがキヴォトスを形成する数千の学園という名の独立国家に介入するには、権限がまったくと言っていいほど足りておらず組織は形骸化。上層部から末端に至るまで汚職が蔓延し、民衆からは
学園都市の最高指導者たる連邦生徒会長が消えた間の混乱を救った救世主、シャーレの先生ですら内心ヴァルキューレを嫌っているのは公然の秘密だ。
連邦生徒会を凌ぐシャーレの支持に覆い隠されているが、『先生は生徒みんなの味方』と嘯くあのハゲは警察学校のことになると露骨に扱いを変える。
所詮彼は善性を持つだけで本質はゲヘナ同様無法者、社会秩序よりも己の考えを最優先する
それはさておき。警察としての仕事を満足にこなせない警察学校には、もう一つ大事な仕事を与えられている。
それは消防業務だ。
警察業務に直接関わる部局が集約された本部、刑務所たる連邦矯正局、そして消防局がヴァルキューレ警察学校の大まかな組織図となる。
警察が消防も?と思うかもしれないが、ブルーアーカイブというゲームは外見だけ日本向けに作られているだけで根本的には開発国たる韓国の文化に準拠している。
日本の消防庁が総務省の外局なのに対して、韓国の消防庁は内務省と警察庁の機能を有する行政安全部に属している。これはそのままヴァルキューレの上層部である連邦生徒会・防衛室を当てはめることができる。
つまり明らかにダメな政府として描かれている連邦生徒会が、管理を横着して一つの学園に組織を統一してもおかしな点はないのである。
それにしては公式直々に散々ひどい扱いをしておきながら、テロが絶えないキヴォトスにおいて重要な仕事である消防まで担わせていると後出しするのは如何なものだろうか?
D.U.第6地区幹線道路で多重衝突事故発生。
輸送トレーラー一両が突如バランスを崩して横転。後続の乗用車六台がそれに巻き込まれて次々と追突し、うち二台が炎上する大惨事となった。
ヴァルキューレ消防局は消火活動と並行し、早急な現場の片付けのために“特殊車両部隊”──通称特車部を出動させた。
『緊急車両通ります! 道を開けてください!』
サイレンを鳴らしながらポンプ車を始めとした赤い消防車が道路をひた走る。
トレーラーの荷台がとつぜん激しく燃え始めたため、最初に到着した車両だけでは足りずに増援が要請された形だ。
その一方で特車部の
ローダーキャリアの運転席でハンドルを握る隊員が不満げに呟いた。
「いったいどうしたのよ今日に限って」
煩雑な手続きがなくてもバカみたいに出動が遅い警備局に対して、生活安全局は日頃の仕事で頭に叩き込んだ地図を頼りに迅速な現場急行を実現している。しかし今回はどういうわけか誰一人もこの場に辿り着いていない。
助手席側後部のシートに座る“部長”は、無線機ではなく自身のスマートフォンを手に取った。
「小泉、今から聞いてみるから落ち着いて」
「生活安全局長にですか?」
「問題児の一年生に全てを投げるボンクラが答えるわけないでしょう? 現場に直接聞くのよ」
とある生徒の番号へダイヤルをかけるが、相手が電話に出たのはコール音が十回以上鳴ってからであった。
『──はい、どちら様?』
「合歓垣巡査、消防局特車部の
『げっ』
「生活安全局が交通整理をしないせいで、我々は
部長がいうところの問題児の片割れ、合歓垣フブキは心底嫌そうな声で語り始める。
『いやね、私たちもすぐに本部を出ようとしたんだよ? でも先生がやってきて』
「シャーレの先生が?」
『人手が欲しいからすぐ来てくれって言ってさ。断ろうとしたんだけど、他の生徒がその気になっちゃって……』
「全員で行ってしまったと」
『いま芝タウン三丁目の公園を中心に、観光ツアー客の迷子を探してて、ちょっと行けそうにないっていうか』
「……了解した。苦情はシャーレへ出すから、さっさと見つけてこっちに来い」
返事を待たずに通話を切り、あのハゲと小さく罵る。
「部長、ダメそうですか」
「またシャーレ様の特権。くそでもくらえ」
シャーレという錦の御旗を掲げれば、それがどれだけ道理に合わない行いでも良い行いということになってしまう。
今のキヴォトスは先生という絶対的存在を中心に回っている。その寵愛を受けれない者は一方的に損をするだけだ。
「まあ、私たちは後片付けに必要なだけ。到着は消火活動が終わった後でも問題な──」
その時、無線機のブザーが早く出ろとばかりに鳴り響いた。
「はい。特車部部長、東雲」
『公安局尾刃だ。貴様らの現在位置はこちらで把握している』
あ、これ別の厄介事だ。
「それはそれは公安局長、消防局になんのご用でしょうか?」
『そちらから見て南西に一キロ先、カラマリデパート前に我々がいる』
「カイザーほどではないにせよ、随分と大口な所ですね。また武器でも恵んでもらったんですか?」
『笑えない冗談だ。どこかのバカが雇ったヘルメット団が押し入って、警備ドローンを蹴散らして略奪中だ』
並みのヘルメット団であるなら公安局だけで簡単に対処できる相手だ。所活幸のような野生の超重武装勢力はふつう現れない。
かつてのカタカタヘルメット団やジャブジャブヘルメット団のように大口の依頼者兼スポンサーがいる*2か、あるいは他に何かがある。
『連中はデパートに展示してあった新型の作業用パワーローダーを強奪した。デモンストレーション用に武装していたうえ、我々は通報内容の誤りから対物火器を用意していない』
「つまり偶然近くにいる我々に対処しろと」
『それが金食い虫の貴様らの存在意義だ。予算分は働いてもらいたいものだな?』
有無を言わさず無線が切られた。
「……だいぶ苛立っているようね」
『ホ! クビになって何の権限もないくせに、生活安全局を煽ってクーデターを起こした奴らしい高貴な言い分のようで』
「黙りなさい京田」
キャリア二号車運転手の嫌味を咎め、東雲部長は現場までの最短ルートを瞬時に組み立てナビへ入力する。
消防局長の事前許可を得ない命令の責任は向こうに取ってもらう。公安局長は責任感が強いのだから、それは当然のこととして処理されるだろう。
無線機を手に取り、キャリアの背中に載せられた機体へ回線を繋ぐ。
「P1号車千川へ、無線は聴こえていたわね? 一号キャリアはこの場でデッキアップ、P1号車は徒歩で公安局の支援へ急行せよ」
『事故現場の片付けは?』
「“コング”があれば問題ないわ。ラージシールドを置いていかないように」
『緊急車両が通ります! その場から
キャリア側面から固定用のアウトリガーを伸ばして車体を固定すると、荷台が立ち上がって載せられたパワーローダーがその威容を示した。
パトカーではなく消防車両であることを表す赤いボディに、まるで趣味の世界を具現化したようなヒロイックな風貌。
もしもヴァルキューレ本部にまともな予算があれば、この車両は制服パトカーの
窮屈な操縦席で搭乗員がHMDのバイザーを下げた。
『“ピースキーパー”、起動完了。出場します!』
巨大な両足が舗装道路を踏みしめると、サイレンを鳴らしながら車と車の隙間を縫って駆け出し始めた。時おり物損事故を起こしながら。
『ホラホラどうしたぁ! キャハハハハハ!』
三本の指がパトカーの屋根を掴み取り、その車体を空の段ボール箱かのように放り投げる。
緩い放物線を描いて飛んだ
さながら電球に手足を生やしたような巨大ロボットが、頭頂部のタレットからバルカン砲を撃ちながら闊歩している。
砲口は駐車場の車やヴァルキューレの装甲車を穴だらけにし、後ろに隠れていた公安局の生徒を吹き飛ばした。
公安局は二手に分かれていた。カンナが率いるグループが敵車両を引きつけている間に、コノカが残りの隊員と共に逃走を図ったヘルメット団本隊を追っている。
アロハシャツを着た不良よりも“狂犬”の方が圧倒的に認知度が高い。ローダーの搭乗者は全能感に浸って正義の鉄槌を下している気分でいた。
『どっせぇーい!』
だからこそ右横から駆け寄ってくる
『ぎゃあああ!?』
違法駐車のトラックを大きな音と共に潰した暴走車両を前に、“ピースキーパー”は左脇から巨大な拳銃を取り出して砲口を向けた。
『動くな! 搭乗者は武器を捨てて直ちに車両から降りるんだ!』
それで止まるなら犯罪などやらない。倒れ込んだままタレットが向いたのを目視し、P1号車は瞬時にシールドを構えた。
毎分六〇〇〇発の砲弾の雨が盾の表面を削って耳障りな音を立てるが、まもなく弾切れを起こしてカラカラと空回りを始めた。
『うげっ』
『犯人に投降の意思なし、発砲!』
ズドン!
機体を動かすコンピュータが詰まった箇所を撃ち抜かれ、暴走ローダーはあっさりと動かなくなった。
艦砲用かと思うほどの巨大な薬莢が、鈍い音を立てて舗装道路の上を跳ねた。
「ご苦労だった。後は我々の仕事だ」
隠れていた公安局が集まり手早く乗降ハッチを開くと、ヘルメット団員を外へ引きずり出して暴力を振るい始めた。明らかに要らない武力の行使だ。
「この野郎! 散々手こずらせやがって!」
「お前が装甲車壊したせいで来月の予算がどれだけ消えたと思ってやがる!」
「ヘイロー割れちまえクソが!!」
「公営ヤクザめ! 暴力反対ー!」
「……お前ら、そのぐらいにしておけ」
『姉御ー! 逃げたヘルメット団は全員とっ捕まえましたよ!』
“ピースキーパー”の搭乗員はHMDを跳ね上げ、その様子をモニター越しに淡々と見つめていた。
『P1号車! こちら一号キャリア東雲、現状を報告せよ!』
「こちらP1号車千川。暴走車両は制圧、搭乗者は公安局に捕縛されました」
『東雲了解。たぶんそのまま片付けをやらされるでしょうから、その場で待機してちょうだい』
「了解」
通信を切って千川はため息を一つつく。自分は
巨大ロボットを自分の手足のように動かすのは楽しいが、デリケートな新人“ピースキーパー”を動かせる生徒を早く増やしてもらいたいものだ。彼女はそう愚痴をこぼさずにはいられなかった。
……
D.U.某所に店を開くラーメンと焼鳥の屋台、“スズちゃん”。そこは常に周りへ威厳と威圧を張らなければならない公安局長にとっての憩いの場である。
カンナは無駄が多く煩雑な書類作業を終えてここを訪ねると、ヴァルキューレ消防局のジャケットを着た背中を暖簾ごしに見つけた。警察学校でここに来る者は限られている。
「今日はお前も息抜きか? マト」
「そうね、もう食べ終わるけど」
飲み物に焼鳥の盛り合わせとラーメンを注文し、カンナは先客の隣へ座った。
「昼間は特車部のお陰で助かった。デパートから火器を徴収しても良かったが、おそらく世論はロクな事を言わないだろう」
「きっと鬼の首を取ったかのようにリベートの件を掘り起こすでしょうね。どれだけ説明しても理解は得られず、シャーレの先生は助けようともしない」
「……いつもの事だが先生への当たりが強いな」
「事実をもとに述べたまで。おじさん、お代置いておくわ」
「あいよ」
穏やかなトーンの声とは裏腹に、ベンチから立ち上がった東雲マトの感情は冷ややかなものである。
「もう行くのか?」
「
そう言って歩いていく後ろ姿が遠ざかっていくのと入れ替えに、その現人神とやらが暖簾を潜って現れた。
「"スズちゃんラーメン一つ、それと特製ウーロン茶"」
「お疲れ様です、先生」
「"カンナも来てたんだ?"」
良くも悪くも今の学園都市で知らぬ者はいない、連邦捜査部シャーレの顧問。名は不思議と触れられないが“先生”と呼ばれている。
「"今の子は?"」
「先生のことが嫌いで嫌いで仕方がない奴ですよ。触れてやらないでください」
特車部の東雲マトは大の“アンチ・シャーレの先生”で知られている。反発するとやたら具体的に『嫌いになるに値する理由』を語るので、ストーカーか反転アンチだと揶揄されているが。
「"ああ、消防局の"」
「昼間も生活安全局を根こそぎ横取りしていったせいで、仕事に支障をきたしたと文句を言っていました」
「"でもキリノたちのお陰で迷子はすぐに見つけられたよ?"」
そんな事はどうでもいいとばかりに、この大男は自分が動かした生徒の成果を褒め称えた。
『先生は生徒を褒めるフリをして、こちらの状況を皮肉るゲスな一面があるわ。カンナなら嫌でも身に覚えがあるんじゃない?』
「(先生の本性、か)」
膝の上に落ちていた一枚の羽を拾い上げて、カンナは前に彼女が話した言葉を思い起こす。
「"あれ? それ何の羽?"」
「はい! ラーメンおまち!」
「お気になさらず。それよりも──」
東雲マトは遠くに見える屋台の灯りに振り返り、
「あなたがどれだけキヴォトスを誑し込んだとしても……特車部へ手を出させない」
その瞳に狂気を宿しながら、一人の生徒はゆっくりと夜の闇に姿を溶かしていった。
使い道がない設定資料
★特殊車両部隊(特車部)
ヴァルキューレ消防局に属する人型重機部隊。
設立は三年前。警察学校全体が財政難になっている一方で、こちらは東雲重工というメーカーがスポンサーについているため運営が安定している。
任務は火災現場での消火活動、瓦礫の撤去や交通事故処理、人命救助など多岐にわたる。
キヴォトスのご多分に漏れず武装しており、警備局や公安局の要請を受けて暴徒鎮圧や武装勢力の制圧に動くこともある。
バカの警備局からは火消ししかできない怠け者連中と見下されている。お前は何を言ってるのか。
特車部の部室は成り立ちの関係上、消防局本部とは別の場所に独立したものが建っている。
■本作オリジナルキャラクター
※名前は「名付けポン」様で調べて命名しております
■東雲 マト(舞都)
ヴァルキューレ警察学校 消防局3年生。
トリニティ自治区出身、東雲重工という重機メーカーの社長令嬢。
三年前に発起人である先輩のスポンサーとなり特車部を立ち上げに協力、今は自ら部長を務めるやり手の生徒。
公安局のカンナとは親しい間柄の一方、シャーレの先生を『客観的事実から』嫌っている。
やたら情報通だが、原作を知る転生者なのかただ物知りなのかは不明。
■千川 アツハ(敦羽)
特車部1年生、“ピースキーパー”専属搭乗員。
消防士に憧れてヴァルキューレへ入学するも、高い反射神経と適性を買われて新型機のドライバーにされた。
■小泉トキワ(登樹環)、京田ミラノ(鏡乃)
共に特車部2年生、ローダー
生活安全局を信頼してるのが小泉、身内に暴言を吐くのが京田。
●登場メカ
●“コング”
全高約6メートル
装備:放水銃
M230チェーンガン(オプション)
M134“ミニガン(オプション)
Mk.19自動擲弾銃(オプション)
:東雲重工HU-00、零式人型重機。
特車部の主力パワーローダー。ブルアカのゲーム内で実際に見られるもの同様、無骨でどんくさそうな見た目をしている。
頑丈さとエンジン搭載によるハイパワーが売りであり、正面からだと12.7x99mmの弾を防ぐ。
キヴォトスではハイパーテクノロジーが巨大ロボットの急激な進歩を促していないので、本機はまだまだ現役である。
●“ピースキーパー”
頭頂高9.02メートル
装備:オートハンドカノン(デザートイーグルL5)
電磁警棒(警杖)
ラージシールド
インパルス消火システム(脚部)
:東雲重工HU-04、四式人型重機。
某機動警察の零式と17式を足して2で割ったような見た目のかっこいい最新機。
器用さや電気駆動による軽量性を活かした災害救助用であるらしいが、専用の手持ち武器を用意しているあたり技術立証用のデモンストレーターとしての趣が強い。
シャーレの先生はこれの写真を一目みるなり"どうして白黒じゃないの!?どっからどうみてもパト■イバーじゃん!!"と喚き散らしたという。