【元吸血鬼王女】死刑執行官カルミーナの悩み 作:haku728
金城は瞬きせずカルミ―ナを見つめた。
「事前告知の件はどうなんですか?」
「…………」
「聞こえませんでしたか?事前告知の件はどうなんですかと聞いています。無視しないでもらえますか!」
「……事前手続きは……問題ないと……」
「ほう。ではこのまま執行を進めるということですか?」
「はい……」
「なる程。それではもう一つ伺います。今日は何曜日ですか」
「はい……?今日は……確か土曜日のはずです」
「カルミ―ナさん。刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第百七十八条 2項を述べてみてください」
「すいません……分かりません」
「法律も知らずにあなたは本当に執行官ですか?《第2項 日曜日、土曜日、国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日、一月二日、一月三日及び十二月二十九日から十二月三十一日までの日には、死刑を執行しない》となっているのですよ 」
「え!」
カルミ―ナは目の前が真っ白になった。
唇が小刻みに震える。
「全く無茶苦茶ですね。先ほどの事前告知無視の件と併せ、これらは明らかに組織絡みの不法行為です」
「い、いえ!そんな……」
「違うのですか?ではあなたの独断ですか?」
「ち、違います……」
「ならばやはり組織絡みということですね?」
「うう……」
絶句するカルミ―ナに金城はさらに問いを重ねる。
「カルミ―ナさん。口を開けて見て下さい」
「え!何故?」
「いいから!早く!」
「は、はい……」
渋々唇を開くカルミ―ナ。
金城はそれを見ながら無表情で呟いた。
「鋭い牙ですね……わたしは今、大変恐怖を覚えています」
「ええ!」
「あなたはその牙でわたしの首筋を貫き惨殺しようとしています」
「ちょ!ちょっと待って下さい。吸血処刑に残酷な意図は有りません。むしろ苦痛を和らげる人道的な手段として国に認可され……」
「あなたの主観は関係有りません。わたしが恐怖と苦痛を感じると言っているのです。残忍でおぞましい処刑でわたしをなぶり殺しにしようとしています。これは明らかに《基本的人権の尊重》に反します!」
「き、基本的人権?」
「《日本国憲法 第36条(拷問・残虐な刑罰の禁止) 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる》と定められています。しかしあなたはわたしを食い殺そうとしています」
「あ……い、いえ……その……」
「先程の組織ぐるみの違反行為と人権侵害に対して異議申し立て致します。弁護士を呼んで下さい!」
「待って……待って下さい……」
もはやカルミ―ナは半ベソ状態である。
「何を待つのです?」
「上司に……相談させて下さい」
「何を相談するのです?」
「ですから……金城さんの御意見につきまして…確認を……」
「……いいでしょう。早くおやりなさい」
カルミ―ナはお辞儀をすると再びインタ―ホンに走る。
「いい加減にしないか!早く執行したまえ!」
「し、しかし!法的にどうなのか……」
「手続きは済んでいる!以上だ!」
ブッと会話を切られた。
プ―、プ―、と無情に鳴り響く受話器を力無く戻す。
うなだれるカルミ―ナ。
どうしてよいか……わからない。
進退極まった様子の彼女に金城はニヤリと笑みを浮かべた。
「カルミ―ナさん。どうです。今の国家はあなたの味方でない事がよく分かったでしょう?」
「…………」
「あなたにひとつ提案が有ります。一緒に日本政府を打倒しませんか?」
「ええ!」
「あなたなら国家の犬共を蹴散らし、わたしをここから救い出す事が出来る筈です。そして再び同志を 集めて闘争を再開します。あなたの《正しい力》はきっとこの世を変える事ができます!」
「き、金城さん……」
「さあ!わたしの捕縛を解いて下さい。共通の敵である腐った国家と戦いましょう。そして一緒に革命を成し遂げましょう!平和国家樹立のために力を合わせようではありませんか!」
「…………」
「何を迷う事があるのです!それともあなたがたの不法を糾弾されたいのですか!法律は私の味方ですよ!」
「よく……分かりません……」
「何だって?」
「わたしは無知です。わからない事だらけです。しかし……知っていることが一つだけあります」
「な、何だ!それは?」
「あなたが4人の命を奪った……殺人犯だという事です」
それを聞いて金城は眉間にしわを寄せた。
「違う!私は組織の規律を乱す者を《総括》しただけだ!平和国家樹立という大義の前ではやむを得ないのだ!」
「いいえ!あなたはただの人殺しです。これより死刑を執行いたします」
カルミ―ナの目が赤く光った。
「ま、待て!その行為は基本的人権の侵害だ!」
金城の目に動揺が走る。
彼女は素早く金城に抱きつき頸動脈に牙を通した。
彼は必死に身をよじって絶叫する。
「ぐああ! 日本国憲法第三十一条! 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない!」
彼女の枯渇した体は金城の血液をスポンジのように吸収する。
「第三十六条……公務員による拷問及び残虐な刑罰は………絶対にこれを………禁ずる」
彼の体が徐々に力を失っていく。
カルミ―ナの喉は鳴り続ける。
「第……十一条……基本的……人権は………侵すことのできない……………永久の…………………権利…………………」
金城は完全に動きを止めた。
首から口を離した彼女は、虚ろな彼の目から顔を背けた。
検死鑑定中、カルミ―ナは柴田に詰め寄った。
「一体どうなってるんです!事前告知がなかったり、土曜執行したり!おかしいじゃないですか!」
「君には言ったはずだ。事前の手続きは全て終了していると」
「で、でも!」
「彼は拘置所の待遇や職員の勤務態度、服装その他に関して異議申し立てや難癖を色々つけてね。通常の執行予定が立たなくなったんだ。それに今回の判断は我々だけのものではない。言えることはそれだけだ」
「そんな……でもルール違反は看過できません!死刑囚の言い分はどうなるんです?」
そこに白鳥が割って入った。
「なる程。カルミ―ナさん。じゃあ彼に意見聞いてみよっか?」
彼はそう言うと、仰向けに横たわる金城の額をペシペシと叩いた。
「くっ!」
カルミーナは唇をギュッと噛みしめた。
深夜の帰路。
誰もいない横断歩道が赤信号に変わった。
車道は静寂に包まれ、車の影は1台もない。
カルミ―ナは渡ろうとした。
(いや……待とう……)
彼女は足を引っ込め、青信号に変わるのを待ってから横断歩道を渡った。
そして夜道を去っていく彼女の姿を月光が明るく照らしていた。