【元吸血鬼王女】死刑執行官カルミーナの悩み   作:haku728

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漫画に描かれたカルミーナ①

満月が美しく輝く夜。

 

レディ・ヴァンパイアカフェ『ロ―ズ・ブラッド』はその日も多くの来客で賑わっていた。

 

その中に仕事帰りのOLや主婦層の姿もちらほら目につく。

 

最近《渋いおじさまヴァンパイア》が入店したとの口コミが広がり女性客の来場も増えているのである。

 

「オジョウサマ。ユックリオクツロギクダサイ」

 

元吸血鬼国王ベラミールは赤ワインのグラスを並べながらにっこりと笑う。

 

その様子を十字架の祭壇から銀城が不機嫌そうに睨んでいる。

 

(あちゃ―!今日も店長の機嫌が悪い……)

 

それを横目で見ながらカルミーナは気が気でならない。

 

案の定、閉店後に吸血鬼父娘は控室に呼び出された。

 

(何で私まで……?)

 

不貞腐れるカルミ―ナの前で銀城の説教が始まる。

 

『吸血王よ!笑顔を振りまいてどうする!』

 

『え!いや……しかしですな……。せっかくお越し頂いたお客様方にはくつろいで貰いたく……』

 

『それがいかんというのです!何度も言っているでしょう!ここは吸血鬼が支配する恐怖の館なのです!』

 

『それは分かっておるのですが……。どうしても言わなければなりませんかな?「お前はわたしの生け贄になるのだ!」とかか「今晩は首に死の接吻を恵んでやろうか」とか……』

 

『ベラミール殿……。貴殿はまだまだ《吸血鬼になる》修行が必要なようだ。今晩も接客ロールプレイングにお付き合いいただく』

 

『うぐ!今宵もですかな……』

 

『当たり前です!そしてその後ゴシックホラーの名作DVDも最低三本は見ていただく。ベラ・ルゴシやクリストファー・リーの表情などを見てよく勉強してください!』

 

『三本ですかぁ!』

 

目の前がクラクラするベラミール。

 

「あの……店長。私は帰ってもよろしいですか?」

 

「カル……何を寝言を言っているんだ……君も一緒にやるんだ!」

 

「あうう!」

 

がっくりとうなだれる吸血鬼親子。

 

 

 

 

 

銀城にこってりしごかれてから退館し、帰宅した頃には空が白じんでいた。

 

「ハァ―!疲れた……!」

 

カルミ―ナがあくびを噛み殺しながら部屋の入口の襖を開けた時、ちゃぶ台の上に置かれた一冊の漫画雑誌が目に入った。

 

横に殴り書きされたメモ書きが置いてある。

 

(泰造さん……相変わらず字が汚ない!)

 

彼女は顔をしかめながら紙片を見た。

 

『コンビニで立ち読みしていたら面白いものを見つけたぜ。読んでみな』と記されてある。

 

(面白いもの?)

 

彼女は雑誌を手にとった。

 

《実話タックル》という名である。

 

「聞いたこともない雑誌ね……」

 

彼女は表紙をめくってみた。

 

目次には『ヤクザのシノギの実態』『ホスト悲哀録』『特殊清掃員の話』『壮絶!ラブホテルの受付』などの怪しいエピソードが並ぶ。

 

彼女はその中の題名の一つを見て目が飛び出そうになった。

 

『恐怖!女吸血鬼による死刑執行!血塗れの儀式』

 

「何これ!」

 

彼女は牙を剥きながら激しくページをめくった。

 

そして掲載ページにたどり着くと、角が折ってある。

 

彼女は眉間にしわを寄せて、赤い瞳を瞬きもせずその劇画調の漫画を読み出した。

 

 

 

 

――日本の闇!女吸血鬼執行官は実在した!その死刑の恐怖の実態!

 

――作 じゅんちゃん

――画 入墨パンダ

 

 

満月の夜に浮かぶ 拘置所のシルエット。

 

《大東拘置所》の看板。

 

薄暗い執務室の中で二人の男性の執行官が引きつった顔でお互いの顔を見合わせている。

 

 

『うう……もうすぐ…… 執行の時間だな』

 

『ああ……あと三十分後には……』

 

『い、嫌だ!もう囚人の悲鳴は聞きたくない!』

 

『シッ!大きな声を出すな!』

 

二人は執務室のドアに目を向ける。

 

拘置所の薄暗い廊下の中を歩く背中にバラの刺繍がなされた黒マント姿の女性の後ろ姿。

 

足元のピンヒールは細くて高い。

 

カツ―ン、カツ―ンと足音を響かせながら執務室に近づいていく。

 

そして、 執務室のドアがコンコンとノックされる。

 

『あの御方がご到着された!』

 

二人の執行官は飛び跳ねるように同時に起立する。

 

執務室のドアが開くと、そこには1人の銀髪ロングヘアの女性が立っていた。

 

『お―ほほほほほほほほほ!ごきげんよう!』

 

彼女は長い牙をむき出しにして高笑いする。

 

とがった耳に裂けた唇、ド派手なアイシャドウに猫のような縦長の瞳。

 

全身は黒マントに覆われ、裏地の赤い立襟がついている。

 

『今晩もわざわざご足労をいただき誠にありがとうございました!』

 

二人の執行官は彼女に向かって敬礼する。

 

『うふふ…今宵は良い月よ。楽しい宴になりそうね』

 

『は!その通りであります!』

 

『今夜の悪い子はどんなお痛(いた)をしたのかしら?』

 

『は!山田太郎三十九歳、元食品会社勤務、妻とその浮気相手の男性併せて二人を包丁で殺害し、死刑が確定しております』

 

『まあ!お二人も殺しちゃったの……悪い子ね!楽しみ甲斐があるわぁ!お―ほっほっほっ!』

 

『あの……カルミ―ナ様……一つお願いがあるのですが』

 

『なあに?』

 

『吸血死刑は……できればルールに則り……穏やかに御執行いただけないでしょうか?』

 

『あなた!私のやり方に指図するおつもり?』

 

『い、いえ!決してそのような……』

 

『あなたから先に《執行》しようかしら?』

 

『ひ!ひえ!お許しください!』

 

『うふふ…冗談よ。さあ 準備はよろしいのかしら?』

 

『は!囚人は固定を完了しております』

 

『いいわ!では始めましょうか!血の宴を!』

 

 

   

 

 

「もう!何なの、これ!?」

 

ここまで読んで、雑誌をちゃぶ台の上に叩きつけるように置くカルミーナ。

 

怒りで体の震えが止まらない。

 

「何が『面白いものを見つけた』よ!泰造さん、ひどい!起こして文句言ってやろうかしら……」

 

カルミ―ナは二階に顔を向けた。

 

 

(でも……続きが気になるのよね……)

 

彼女は再度雑誌を手に取ると、ごくりと唾を飲み込んでページをめくった。

 

 

 

 

 次回 

 

カルミ―ナ、執行シーンの酷さに激怒する。

 

 

 

 

 

 

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