【元吸血鬼王女】死刑執行官カルミーナの悩み 作:haku728
――執行室のドアを開けて中に入る女吸血鬼。
椅子に拘束されている丸坊主の死刑囚が、マント姿の彼女の姿を見て驚く。
『え!な、なんだお前は!』
『《元ベルランド国王女》にして《吸血鬼死刑執行官》カルミーナ・ドラキュラよ!よろしくね!お―ほっほっほっ!』
『ひい!吸血鬼!?』
『そうよ。これから吸血処刑を執行するわ!』
『そんな……聞いてない!』
『うふふ……わたしの美しい牙で……あなたの血を全て飲んであ・げ・る』
『い……嫌だ……嫌だァァァ!誰か!誰か助けて―!』
『駄目よ。あなたは人殺しの悪い子ちゃんなんだから……。それに泣いたって誰も来ないわよ』
『うぐ……。許して……許してください!』
『あらぁ……。あなた……許してほしいの?』
『は……はい!』
『助かりたいの?』
『はい!助かりたいです!』
『うふふ……分かったわ。助けてあげる』
『え!本当ですか?』
女吸血鬼は囚人に近寄ると、足の結束バンドを外し、両手にはめられた手錠を引きちぎった。
執務室にいる二人は愕然とする。
『ま、まただ!カルミーナ様の悪い癖が……』
『うう……耐えられない……』
『さあ……お逃げなさい』
『あ、ありがとうございます!』
死刑囚は出口に駆け寄り、ドアレバーを必死にひねる。
『お、おい!開かない……。頼む!開けろ!開けてくれ!』
死刑囚は激しくドアを叩きながら悲痛な叫びを上げる。
『ねえ、あなた……こっちを見て』
『ちくしょう!何だ!』
死刑囚が涙と鼻汁にまみれた顔で振り向く。
その瞬間女吸血鬼はマントを脱ぎ捨てた。
『ゲェ!なんだその格好は?』
目をむく死刑囚。
女吸血鬼は黒のコルセットとロンググローブ、ロングブーツとコウモリチョ―カ―を身につけている。
いわゆるSMの女王様のようなスタイルであった。
『お―ほほほほほほほほほ!わたくしから逃げてごらんなさい!楽しい追いかけっこの始まりよ!』
カルミ―ナのページをめくる手が止まった。
彼女は雑誌を持ったままブルブルと震えて固まっている。
「ひどい……。あまりにもひどすぎる……」
その赤い瞳に涙が溜まっていた。
(こんなでたらめ書かれて……黙っているわけにいかない!全部内容を把握して……出版社に文句を言わなくちゃ)
彼女は唇をかみしめながら続きを読み始めた。
『嫌だァァァ!助けて!』
『あらぁ!なかなか逃げ足が早いのね。その調子 よ!』
泣きじゃくりながら逃げ回る死刑囚。
舌なめずりしながら追いかけ回す女吸血鬼。
ついに死刑囚は追いつかれ、背中から羽交い締めにされた。
『ヒィィ!化け物に食い殺されるのは嫌だ!』
『まあ!元王女に対して失礼ね!こうしてやるわ!』
彼女は死刑囚の首筋にガブリと噛みつき思い切り血を吸い始める。
『ギャァァァ――!!』
『ゴクゴクゴクゴク!』
『グウェェェ……!』
執務室で両手で耳を押さえながら身震いする二人。
『あ…………う…………』
恐怖に染まった表情で目を見開いたままぐったりする死刑囚。
首筋から口を離した女吸血鬼は血まみれの顔でニヤリと笑った。
『ああ!人間から直に吸う生血は最高ね!』
そういうとマントを拾いあげる。
執行室のドアが開き、二人の執行官が重く沈んだ表情で入ってくる。
『カルミ―ナ様。刑務執行……お疲れ様でございました……』
『うふふ……ありがとう。それで早速だけど、次の執行予定はいつなの?』
『そ、それは……まだ決定しておりません』
女吸血鬼は厳しい表情で2人を睨む。
『まあ……。早く決めてよね!あんまり待たされるなら……町の人を襲っちゃおうかな!』
『そ、そんな!それだけは絶対に勘弁してください!』
『ならば早く決めることね。私の次の獲物を……』
『は!か、かしこまりました!』
『いい子達ね!お―ほほほほほほほほほ!』
――こうして大東拘置所では《死刑執行》の名のもと、囚人達が女吸血鬼の餌食となっているのだ!
あなたも死刑になるような犯罪は犯さない方がいい。もしそうなれば、カルミーナが現れるかもしれないぞ!
――おわり――
次回 カルミ―ナ、出版社に乗り込む。