【元吸血鬼王女】死刑執行官カルミーナの悩み 作:haku728
凄まじい形相でカルミ―ナを睨みつける虎牙。
「くっ!」
「どないやねん!早よ首吊りの用意せいやあ!物の怪アホンダラ女!」
(嗚呼もう!……どちらにしろ……やるしか無い!)
カルミ―ナは居住まいを正し、虎牙に向かって宣告した。
「虎牙死刑囚。これから貴方を吸血処刑いたします!」
それを聞いた虎牙は一瞬呆気に取られた。
そして顔を床に向けると静かになる。
(え?どういう事!?)
予想外の反応にゴクリと唾を飲み込むカルミ―ナ。
「ぐっ…ふふ……」
虎牙の肩が小刻みに震えだした。
そして次の瞬間彼は天井を仰いで爆笑した。
「ぐは!ぐはは!ぐははははは!」
「な、何が可笑しいのですか?」
虎牙の笑いがピタリと止まった。
「おう……カルボナーラ。おどれは、わいを本気で怒らせた!」
そう言った次の瞬間、彼は後ろ手にはめられている手錠を両側に引っ張った。
手錠をつなぐ鎖がパキンという音を立ててちぎれる。
「え!嘘!やだ!」
茫然となるカルミ―ナ。
続けて両足をしばっていた縄をいともた容易くぶちぶちと引きちぎる。
そして、虎牙はゆっくりと椅子から立ち上がった。
「こんなもんはのう、いつでも外せたんや。そやけどわいは人殺しや。一応大人しゅう罪を償うつもりやった。でものう……気が変わった!」
「虎牙死刑囚!いけません!椅子に戻りなさい!立ち上がってはなりませ……」
グワシッ!
岩石のような拳がカルミ―ナの顔面にめり込んだ。
制帽が宙を舞う。
彼女は吹っ飛び、入口ドアに背中を叩きつけられた。
そのままずるずると背中を滑らせて床に崩れ落ちる。
「ふん!化け物風情がわいに勝てると思とんか!クソだぼが!」
虎牙はせせら笑いながらドアに背を持たれてぐったりしているカルミ―ナを見下ろした。
その時であった。
彼女の目が妖しく光った。
「な、何や?その目……うが!!」
カルミ―ナは跳ね起きて虎牙の懐に一瞬の内に飛び込む。
そして彼を羽交い締めにした。
虎牙の肋骨がミシ、ミシと悲鳴を上げる。
「ぐ、ぐああ!万力で締められてるみたいや!こ、こいつ、どないなってんのや!」
カルミ―ナは鼻血まみれの顔で必死に叫んだ。
「わ、わたくしの握力は500kgあります。1トンのバ―ベルだって上げられます!抵抗しても無駄です。暴れないで下さい!」
「う、うなアホな!離せ!離せ!離さんか―い!」
虎牙は凄まじい力で身をよじって暴れまくる。
人間離れした凄まじい力である。
カルミ―ナも解かれないよう必死に締め付ける。
「虎牙さん!吸血を開始します!」
そう言うと彼女は虎牙の首筋に噛み付いた。
「アホ!吸うたらアカン!やめやめやめ!」
虎牙は振り解こうと全力で体を揺らす。
しかし食らいついているカルミーナは離れず、その喉がゴクゴクと鳴る。
「吸われるんがなんぼのもんじゃい!血が無くなるんがなんぼのもんじゃい!」
虎牙はもがき続ける。
だが、彼女の牙は頸動脈を捉えて離さない。
彼の血液は急速に失われ顔面が蒼白になっていく。
「おどりゃ……カルボ……ナラ……」
彼女は目を閉じて必死に吸い続ける。
虎牙は痙攣し始めた。
「なん……ぼ……の………もん……じゃ…………い……………………………」
虎牙は白目を剥いて静かになった。
彼女が両手を離すと巨体は床に崩れ落ちた。
「ハァ、ハァ」
カルミーナは荒い息使いで床に膝をついた。
髪の毛は乱れ、制服は血で汚れている。
(虎牙さん……)
彼女は床に転がる虎牙の虚ろな表情を見て顔をそらした。
その時であった。
入口の鋼鉄製のドアが開き、白鳥と検死官の茶山 四郎(ちゃやま しろう)が入室してきた。
「相変わらずお見事ですね!」
白鳥は虎牙の死体を見てにっこりと笑う。
カルミ―ナは眉間にしわを寄せて白鳥を睨んだ。
「何が……面白いんですか?」
「え、何がって?」
「人が死んでいるんですよ!」
「やだなあ……こいつ死刑囚じゃないですか?害虫が駆除されただけでしょ」
「くっ!……」
彼女は(彼も人間です!)という言葉をぐっと飲み込んだ。
「さあ茶山さん。検死結果はどうですか?」
虎牙に聴診器を当てていた白衣姿の茶山が、白髪頭をボリボリ掻きながら振り返った。
「脈拍 0。瞳孔大散。血圧0。死因は頸動脈破損からの出血死。死亡時刻 21時35分47秒」
「は―い!執行終了!」
白鳥はパンパンと手を叩きながら完了を告げる。
そして彼はカルミ―ナに声掛けした。
「あとはやっとくから。もう帰ってもいいよ」
「…………」
カルミ―ナはふらつきながら立ち上がると、床に落ちている制帽を拾ってから無言で部屋を出た。
執務室で柴田が彼女の姿を見て声を荒げた。
「なんだ!そのなりは?制服を汚すなと言ったじゃないか!」
「はい……すみません……」
彼女はか細い声でつぶやくと頭を下げた。
「言っとくがクリーニング代は自己負担だからな。次回までに綺麗にしておくように!」
「……分かりました」
彼女は生気のない目で床を見つめていた。
「はい、これ」
カルミ―ナが更衣室で着替えてから執務室に戻った時、白鳥から一通の茶封筒を手渡された。
「……ありがとう……ございます」
彼女は封筒をバックにしまうと帰宅の途についた。
拘置所を出た時に立ち止まって封筒の中身を見た。
『死刑執行謝礼金口座振込案内』の表記。
シールをめくると『20,000円』と金額が記されてある。
彼女は夜空を仰ぐと溜息をついた。
大気が澱んでいるのか、星の姿はほとんど見えなかった。