【元吸血鬼王女】死刑執行官カルミーナの悩み 作:haku728
法念の死刑執行から1週間。
カルミ―ナにとって待ちに待ったこの日がやってきた。
清滝春人から送られてきた血液を開封するのである。
彼女はこの日に備えてコンディションを整えてきた。
通常、吸血鬼は一度に大量の血液を飲んで満腹になってしまった場合 、1ヶ月ぐらいは空腹にならない。
余談だが吸血鬼は寝るのが得意で、その気になれば10年ぐらい睡眠することもできる。
その際、冬眠した動物のように体力の消費はほとんどなく血液の補給もいらない。
しかし彼女は、夜間のランニングや腕立て伏せ、腹筋などの筋トレを行い、 昼間もベッドの誘惑に負けず、目蓋が落ちそうになりながら耐え忍んだ。
こうして短期間で空腹状態を得た。
その日の夜。
時計の針が0時を回った。
いつも散らかっている部屋は綺麗に片付けられている。
カルミ―ナは入念にメイクを整え髪を巻いた後、押入れからビニールに包装されている衣装を大事そうに取り出した。
彼女はそれをゆっくり着用して最後に銀色のティアラを頭に乗せ、自分の姿を鏡に映してみる。
生地の色は深いワインレッド。
ジャケットは金のボタンに、同じく金の刺繍の入った詰襟、袖にも金色の縁取りが入り、王家の儀礼用の軍服らしさを感じさせる。
しかし絞られたウエストに黒の太いベルトが締められ、ロング丈のフレアスカートが合わされたそのデザインは、堅苦しさよりも優雅な女性らしいシルエットである。
彼女の脳裏には、かつて彼女が君臨していたブランシュテイン城の情景が思い浮かんでいた。
(いつか……必ず戻ってみせる!)
彼女は唇をキュッと噛みしめた。
そしていよいよ冷凍庫の横に置かれている解凍庫に視線を移した時、カルミ―ナはハッと何かを思い出した。
(いっけな―い!あれを貰わなくっちゃ!)
彼女は 襖を開けて部屋を出ると、階段の下からニ階に向かって声を張り上げた。
「泰造さ―ん!泰造さ―ん!」
シーンとしていたニ階に、がらりと引戸を開ける音がする。
そして眠い目をこすりながら、不機嫌そうな顔で碇谷が階段を降りてきた。
「お前なあ!何時だと思って……あっ!またそんな格好しやがって!」
「泰造さん……今日は大切な日なんですよ」
「何が大切な日だよ!血を飲むだけじゃねえか!それなのにいちいちおめかししやがって」
「血を飲むだけ!?春人君の血ですよ!とっても 神聖な儀式なのです!」
「分かったよ!るっせえなあ……で、用事は何なんだよ?」
「レミー・マルタンを分けて頂きたいの」
「な!お前何言ってんだ!あれは俺の大事な……」
「ねえ……お願い!ほんの少しだけでいいから!」
「ほんの少しって……あれ、いくらするか分かってんのか?焼酎甲類でやれよ!」
「いやです!春人君の血を焼酎なんかで汚したくない。レミ―お願い!レミ―!レミ―!」
「くっ!連呼すんな!分かったよ……」
「やったあ!」
「今回だけだぞ、全く……次から自分で買えよ!」
「分かりました」
「ほんとかな……めちゃくちゃたけえのに……」
碇谷はぶつぶつ言いながらニ階に戻ると、大切に保管していたレミー・マルタンの瓶を持って降りてきた。
そして彼はカルミ―ナが捧げ持つガラス細工の小さなカップに琥珀色の液体を数滴落とした。
「これでいいだろ」
「もうちょっとだけ!」
「お前なあ……」
碇谷は仕方なしにもう数滴落とす。
カルミ―ナはにっこりと微笑んだ。
碇谷は渋い顔である。
「さてと。お待ちかね!春人君!」
彼女は両手を擦り合わせると解凍庫を開け、春人のラベルが貼られた瓶をうやうやしく取り出した。
ちゃぶ台の上にはテーブルクロスが貼られ、とっておきのワイングラスが置かれている。
「上手く解凍してるわ!」
彼女は上機嫌で瓶のキャップの蓋を開けると、中身の血を半分だけワイングラスに注いだ。
中身が半分残った瓶を冷凍室に戻す。
そしてワイングラスに碇谷からもらったコニャックを数滴垂らした。
「ああ!素敵な香り!」
グラスに鼻を傾けうっとりする彼女。
カルミ―ナは、日本に来てから血液に酒を添加することを覚えた。
お酒単体では受け付けないのに、カクテルにするとグイグイいける。
ほんの少し混ぜるだけで味と香りが劇的に美味しくなるのだ。
しかもほんのり酔いが回り気分も良くなる。
ただし醸造酒は今一で、蒸留酒、それもアルコールの純度が高い酒が合う。
焼酎甲類に始まり、ウォッカやテキーラ、ジンなども良いが、やはりコニャックは別格である。
そしてこれを知ってから、カルミ―ナはただの生血が飲めなくなってしまったのだ。
カルミ―ナはちゃぶ台の前に正座すると、血液の瓶に添えられていた1通のレターを開いた。
(ああ!なんて繊細で美しい文字!)
彼女は目をウルウルさせながら手紙に目を通した。
『血液を送るのが1週間ほど遅れてしまってごめんなさい。予定の採血日に風邪を引いてしまったので回復するのを待っていました。カルミ―ナさんにはいつも最高の状態で僕の血をお届けしたいから。美味しいって思って貰えたらとっても嬉しいな。次回の採血日には遅れないようにします。それではお元気で。春人』
カルミーナは手紙を持つ手を感動でブルブル震わせた。
そして、春人と最初に出会った日のことを思い出していた。