【元吸血鬼王女】死刑執行官カルミーナの悩み   作:haku728

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死刑執行その⑥

処刑執行辞令が届いてから1ヶ月。

 

カルミ―ナは大東拘置所に居た。

 

 

「やあ!カルミ―ナさん。いい感じで仕上がっていますね!」

 

白鳥は笑顔で、両目が落ち窪んだ彼女に声掛けした。

 

(何が……いい感じなのよ!)

 

カルミ―ナは恨めしげに白鳥を睨みつける。

 

 

この1ヶ月の間、彼女は一滴の血も口にしていない。

 

もちろん大好きなカクテルも飲めないでいる。

 

 

 

死刑執行時は一気に大量の吸血を行わなければならない。

 

人間は一度に約3リットルの血液を失えば、命を落とすことになる。

 

体格によってはそれ以上の吸血が必要になる。

 

しかしそんな量は通常はとても一気に飲み干せない。

 

その為、執行時に備えて体を枯渇状態にしないといけないのだ。

 

 

しかしこれがカルミ―ナにとってたまらなく辛い。

 

味の素で豊かになった旨味も、アルコールによるほろ酔いも一切我慢。

 

待っているのは飲みたくもない大量の生き血と、囚人の悲鳴である。

 

(自分達が執行ボタンを押したくないからって……)

 

彼女はやり場のない不満を胸に燻らせていた。

 

 

「はい。これが今回の囚人のカルテ」

 

白鳥から無言でバインダーを受け取り目を通す。

 

 

 

死刑囚名:金城 必勝(きんじょう まさかつ)

 

罪状:殺人罪

 

属性:31歳男性 過激派 鉄血革命連合 書記長

 

犯行内容:メンバーを四人を組織の風紀違反と称して殺害

 

確定判決:死刑

 

 

 

「過激派?」

 

「うん。世直しの為には《正しい暴力》はやむを得ないって言ってるこわ―い集団」

 

「そうなんですか。殺害理由が風紀違反って……」

 

「彼の演説中にあくびをしたとか、組織の規則を一文覚えてなかったとか……そんな理由らしいよ」

 

「そんな些細なことで!」

 

彼女は何か胸に重しを抱えるような気持ちになった。

 

 

 

カルミ―ナは執行室のドアを開けて中に入ったが、イスに固定されている死刑囚は正面をじっと見据えたまま、彼女の方を一瞥すらしようとしない。

 

彼女は「ちょっと失礼します」と言って部屋の隅に移動すると執行官の制服を脱いで、コウモリのマークが胸にプリントされた白Tシャツと短パン姿になった。

 

これは、吸血執行時に囚人が暴れて血が飛び散り制服が汚れるのを防ぐためである。

 

 

今際の際の囚人の最後のあがきは凄まじい。

 

どんなに硬く牙を突き立てていても血が漏れることがしばしばある。

 

 

そのたびに彼女は自己負担で制服をクリーニングしていたのである。

 

彼女は刑務官長の柴田に必死の直訴を繰り返し、ようやく着替えの許可を得たのであった。

 

 

彼女は死刑囚の横に立ち自己紹介した。

 

囚人はゆっくり彼女の方に振り向く。

 

青白い肌色。

 

開かれているのかどうかわからないような細いキツネ目。

 

感情が全く窺えないその表情にカルミーナは背筋に冷たいものが走った。

 

 

「あなたが執行官ですか?」

 

彼は薄い唇を開いた。

 

 

蛇が這うように耳へ忍び込む、か細く高い声である。

 

 

「はい。そうです」

 

「何故あなたは制服を着用していないのですか?」

 

「え!」

 

「何故あなたは制服を着用していないのですか!」

 

「そ、それは……」

 

「死刑執行時の服務規定によれば制服を着用することになっているはずです。あなたはなぜそれを遵守していないのですか?」

 

(う!なんでそんなことを……この人知ってるんだろう)

 

カルミ―ナは返答に詰まった。

 

 

「あなたの……おっしゃる通りです。すみません」

 

「服務規定違反ですね 。これでは執行はできませんね」

 

「ま、待って下さい。着替えますから!」

 

 

彼女は慌てて部屋の隅に戻ると制服を着用して金城の元に戻った。

 

 

「ハァハァ。あの……すいませんでした。執行手続きを継続いたします。死刑方法は私の吸血による執行となります」

 

「ほう。吸血による死刑ですか?事前に処刑方法の告知は受けていませんが?」

 

「え!は、はい……そうなんですか?」

 

「逆に質問されても困ります。《刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律 第百七十八条》をおっしゃってみてください」

 

「う!あの……その……」

 

「さあ!早く!」

 

「お、覚えていません……」

 

「嘘をついてはいけません!『覚えていない』ではなく最初から知らなかったのでしょう!」

 

「は、はい。すみません……」

 

「いいですか。《第百七十八条(死刑の執行)

3項 死刑方法は事前に告知するものとする》となっています。明らかな告知義務違反ですね。執行 停止を要求します!」

 

 

「ひい!待ってください!」

 

「何を待つのですか?早く手錠を解除しなさい!」

 

「確認します!確認しますから!ちょっと待ってください!」

 

 

カルミーナは泡を食って執行室のドアの横についているインターホンにかけよった。

 

慌ただしく受話器を取り柴田を呼び出す。

 

 

「一体なんだね!カルミーナくん!」

 

「あの……囚人が死刑方法において事前告知がなかったと言っています。どうすればよろしいですか?」

 

「君は何を寝ぼけたことを言ってるんだね!」

 

「え?」

 

「事前の手続きは全て終わっているのだ。君はただ 処刑執行を完遂すれば良いのだ!」

 

「し、しかし……」

 

「『しかし』では無い!囚人の言葉にいちいち取り合うな!早く持ち場に戻りたまえ!」

 

(そんな!無茶苦茶よ!)

 

 

一方的に会話を打ち切られカルミーナは仕方なく 受話器を元に戻した。

 

ふと金城の方に視線を戻す。

 

 

(ひっ!)

 

彼女の背中に悪寒が走った。

 

 

彼の細い目は、まるで全ての光や感情を吸い込むブラックホールのように見えた。

 

 

 

 

 

 

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