異世界でとんかつ屋さんとして生きていきたい   作:藤沢春

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20 賑やかな夜のあと

「「「はは~~~っ!!」」」

 

 さくらときなこ、そしてリゼロッテは床に膝をつき、土下座の所作をとる。

 

「よいよい」

 

 ライテスは三人に面をあげるよう促す。フリーゼが一人ひとりに手を貸し、支えるようにして立たせた。

 

「こうなるのは本意ではなかったがのう、致し方ない」

 ライテスはちらりとエリックを横目で睨み、紹介の仕方が悪いとでも言いたげな表情を浮かべた。

 

「お祖父様、いずれは知られることです。さ、皆も気を確かにしてくだされ」

 

 三人はがっくりと肩を落とし、これまでに失礼はなかったか、不手際はなかったかと身震いしながら、直近の自分たちの言動を必死に振り返っている。

 

「さくらさん、ワシはすでに王の座を退いておる。どうか気にせんでくれ」

「そんな……私、いままで本当に失礼を……」

「しておらんぞ」

 

 ライテスはきっぱりと言い切った。これまでのさくらの言動を思い返しても、無礼を受けた覚えなど一つもない。そのことを示すような、あっけらかんとした態度である。

 

 一方のさくらはというと、もはや首をはねられる覚悟を決めたかのような様子で、全身から力が抜け、ぐったりとその場に沈み込んでいた。

 

「あまり気にするでない。ワシが素性を隠しておったのが原因じゃ。さ、頭をあげてくれい」

 

 ライテスはそう言ってガハハと笑う。その豪快な笑い声に、ようやくさくらたちの胸に張りつめていた緊張も、少しずつほどけていくのだった。

 揚げ物とエールを「うまいうまい」と頬張るライテスは、しばし夢中になって食事を楽しむ。

 

 そんな折、さくらはふと気づいた。

 

「あれ?もしかしてフリーゼさん……さまって……」

「あはは、そうだ。バレてしまったか」

 

 バレるも何も、『お祖父様』と呼んでいるではないか、とさくらは思う。

 

「えっと、フリーゼさんのお名前って『フリーゼ・マジカルスウォーデン』さん……さまですよね?」

「ああ、そうだ。ただし、それが『名前』なのだ」

「???ということは…………すごく長いお名前なんですか?」

 

「その通り。フリーゼと呼んでもらって構わぬが、正式な本名は『フリーゼマジカルスウォーデン・センチュリオン』だ。よろしく頼む」

 

 フリーゼは胸に手を当て、丁寧に名乗った。その仕草は、この国の学園で受け継がれる象徴的な所作である。

 

「あ、あの……わたくしと同じ『エクレール女学院』の生徒さんなのですよね?」

 

 リゼロッテは同い年であるのに、これまで一度も顔を合わせたことがないという。

 

「そうだ。リロ殿と同じ学園なのだが、私は少々特殊でな。滅多に表には出ぬ特待生なのだ」

「そして王家の王女様……………………」

 

「…………」

 

「「「はは~~~っ!!」」」

 

 三人は再び土下座し、フリーゼに最敬礼した。

 

「また始まった。やめてくれ、私は今はただの学生だ。お願いだから普通に接してほしい」

 

 そんなことを言われても、と三人は再び床に額を擦り続けるばかりだった。

 

 

 

「すっかりご馳走になってしまったわい。すまんのう、疲れておるだろうに」

「いえいえ、これくらいなんてことありません。本当にいつでもいらしてください」

「待ってますにゃ」

「お待ちしておりますなのです」

「さくら殿、たびたび世話になる。すまぬが、お祖父様にしばらく付き合ってやってくれ」

 

 こうしてこの夜は、賑やかな騒ぎと共に心地よい疲労のうちに更けていった。

 

 

 

 

 翌朝。

 

 二人は快適なベッドに潜り込み、しばらくは微睡む朝の眠気に身を委ねていた。やがてのそのそと布団から抜け出し、簡単に朝食をこしらえた。今日は朝から肉の調達に行く予定になっている。

 

 王都の高級マーケット『グランデ・マルシェ』でいつも仕入れていては、原価がかさみすぎる。当座に必要なものを整えるには便利だが、さすがに割が合わない。

 

 しかも高価な肉を使えばよいというものでもない。平凡な食材をいかに美味しく仕立てるか。それが料理屋の妙味である。工夫を凝らし、付け合わせとの調和を図り、一つの定食として完成させる。そこにこそ真価があるのだ。

 

 さくらは以前ブルーウッドで世話になった精肉店の主人から紹介を受け、メインストリートから少し外れた場所にある同じ系列の精肉店へと足を運んだ。

 

 

 

「こんにちは、とんかつ さくらの店主です」

 

 さくらはブルーウッドの精肉店からの紹介状を差し出す。

 

「よお、聞いてるぜ。いろんな種類の素材が揃ってるからな。安心して任せてくれ」

 

 牛、豚、鶏に加え、ときには海産物も入るという。ただし今は、むやみにメニューを増やす段階ではない。まずは基本の献立をしっかり定着させ、そのうえで少しずつ新しい挑戦を取り込む方が賢明だ。

 

「ひとまずロース、ヒレ、ひき肉でお願いします。これからたくさんお願いしたいと思ってますので、よろしくお願いします」

 

「よっしゃ!こちらこそよろしくな!」

 

 この精肉店は配達もしてくれるそうだ。

 

 

 

 次に向かったのは酒屋。ここはライテスの紹介で、つまり王家御用達の店である。ライテスの好物である『モルトウイスキー』と『エールビール』を契約した。これも配達してもらえるという。

 

 さらに八百屋。こちらはグランデ・マルシェ内の一角にある店で、特に高級店ではないが、品揃えがいい。付け合わせの野菜やフルーツ、そしてソース作りに欠かせない各種素材を買い付ける。ここは彩りや季節ものを自分の目で確かめたいので、毎日通うことに決めた。

 

 こうしてほぼすべての基盤が整う。

 

 それは、開店二日目の朝のことだった。

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