異世界でとんかつ屋さんとして生きていきたい   作:藤沢春

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24 芽生え

「今日もおつかれさまでした~」

 

 さくら、きなこ、リゼロッテの三人は、営業終了後に再びエールで乾杯していた。とにかくオープン以来、連日慌ただしく多忙な日々が続き、このひと時こそが三人にとって何よりの安らぎの時間であった。

 

「う~ん、やっぱりこのエールは美味しいね~」

「最高なのです。仕事のあとのこの一杯は格別なのです」

「二人ともなんだかオッサ……いやなんでもないにゃ」

 

 ワイワイと揚げ物、野菜、フルーツを囲み、楽しい夜を過ごしていると、リゼロッテがある報告をしようとした。

 

「さくらちゃん」

「うん、なぁに?」

「今日、とあるお客様に言われたのです。『今度大勢で来ていいか』と」

 

「どのくらいの人数なんだろう?」

「『三家族』とおっしゃっていましたのです」

「なるほどぉ……そうすると十五人前後ってとこだねぇ……」

 

 さくらは口に手を当てて考えた。

 

「テーブルを全部くっつけて円卓にしますか?なのです」

「それだと小さいお子様がいたら、テーブルと椅子では落ち着いて過ごせないよねぇ」

「先ほどのご婦人の方にも宴会を提案されていましたよね?これからそういった方が増加すると思うのです」

 

 『とんかつ さくら』はオープン以来、大規模な宴会はまだ経験していない。この人気が続くとなると、更なる規模の来客が予想されるという局面である。

 

「うーん…………ん……?……はっ……!よし!いい考えがあります!」

「「うぇ!?」」

 

 突然立ち上がり、『ピコーん』と電球をつけたような仕草をするさくらに、きなことリゼロッテは驚きを隠せない。

 

 ふんすと鼻息を荒くし、腰に手を当て、得意げな顔をしたさくらは、それほど広くない店のどこを見ているのか、遠くを見つめるような視線で、どこか未来を展望しているようでもあった。

 

 

 

『本日定休日』

 

 この札をかける日がとうとう来たのであった。さくらときなこは朝起きてすぐにこの木札をこしらえ、店の扉の中心に掲げた。

 

「ようやくお休みがとれたのにゃ」

「うん、でもゆっくりもしてられないね!」

「まったくさくらは。けれども、それがさくらなんだにゃ」

 

 せっかくの休みなのに朝から動こうとしているさくらに、きなこは心配そうな顔を向け、やれやれとしながらも感嘆している。

 

 二人はさっそく『警視庁警部補 エリック・ヤング』に会おうと、ここ『とんかつ さくら』のある一番街からメインストリートを、王宮までの道のりにある各省庁が林立する建物群へと向かった。

 

 

 

「少々お待ちください」

 

 警視庁を訪れたさくらときなこは、窓口にてエリックを呼び出すよう伝言した。

 

「おや、あなたたちでしたか。これは珍しいですね」

 

 難しい顔を常としているエリックが颯爽と現れ、二人の顔を見つけるとやや顔を綻ばせる。

 

「突然お呼びしてすみません」

「いえいえそれよりも、どういたしましたか?」

「はい、以前看板でお世話になったジェイムズさんのところに行きたいのですが」

 

 ジェイムズ・アームストロング、通称『ジェイアーミー』。王宮御用達の腕利き大工である。『とんかつ さくら』オープンに際し、帝王ライテスイーボーン・センチュリオンの依頼により『一枚板の看板』を作成した人物だ。

 

「ほほう、それはどのようなご用件で?」

「お店の改装をお願いしたいんですよ」

 

 さくらは最近置かれている、とんかつ屋の状況をエリックに話した。

 

「……なるほど。それは面白いですね」

「せっかく作っていただいたお店で、もう改装なんて心苦しいんですけど」

「いやいや、お店の営業とは常に変わるものです。さっそくジェイムズさんに連絡をとりましょう」

 

 エリックは魔導ベルですぐにジェイムズの事務所に電報を飛ばした。

 

 

「返事がありました。事務所に彼がいるようです。行ってみましょうか」

 

 エリックはわざわざさくらたちをジェイムズのところまで案内してくれるようだ。どういうわけかエリックはさくらたちのこととなると、何より最優先事項のように動きをみせるのだった。

 

 さくらたちは恐縮しながらも、ジェイムズの事務所までエリックについていった。

 

 

 

「へえ。なるほどねぇ。そいつぁ面白いこと考えるじゃねえか」

 

 ジェイムズはさくらの話をきくなり、大いに乗り気であった。もともとさくらのアイデアは、地球では当たり前のようにあったものでも、この世界ではなんとも斬新なものなのだろう。ブルーウッド公園での折りたたみテーブルセットの話しにしても、思いもよらない品物に、ジェイムズは興奮を隠しきれないようだった。

 

「んで、その『草』をどうやって、どのようにしていくんだい?」

「えっとですね、たぶんなんですけど、このようにですね……」

 

 さくらはジェイムズにその『あるもの』を図説で説明する。さくらにしても作ったことがあるわけでもないので、完全に想像のものになってしまう。しかしながら、それでもなんとかジェイムズは理解ができたようだ。

 

「わかったぜ。だが、まずはその『草』を手に入れなきゃなんねえな」

「まずあるかどうかですけどね……」

「ところでねえちゃん、なんでこんなものを思いつくんだい?」

「え?あ!あはは!急にこういうの天啓のように舞い降りてきちゃうんですよねぇ!あはは」

 

 なんとも言い難いとぼけ方だが、さくらという人物を知る人間にとって、こういった発明などは朝飯前なのだろうという認識があるのかもしれない。ジェイムズとエリックは一瞬顔を見合わせるが、特にそれ以上突っ込むこともなく、やり過ごしてくれた。さくらときなこはほっと胸をなでおろすのだった。

 

「でしたら()(かた)が適役かと」

 

 エリックがその『草』探しにある人物を推してきた。すぐに魔導ベルでその者を呼び出し、黒装束の者たちはすぐに広大な草原へとその者たちは向かうのだった。

 

 

 

 ジェイムズによると、材料が入ってから一週間ほどで出来るだろうということだった。さくらときなこは楽しみに待つとして、二人はいつもとは違う日常を過ごそうということになった。

 

 時刻は昼過ぎ。二人は王都の中心部を散策し、カフェでランチをしたり、洋服店を見て回ったり、普段ではできないことを夕方まで楽しんでいた。

 

「つぎはどこか行きたいところある?きなこ」

「そうだにゃ。大聖堂を見てみたかったけど、今はなんだかバリケードが張られているみたいにゃ」

「そうだね、なんだか物々しいね。大聖堂はまた今度にしようか」

「にゃ」

 

 ふたりはそのまま夕食を食べようと、とあるバーに入った。さくらはまたそこで酒を嗜み、今後「とんかつ さくら」にて出せそうな酒を選ぼうという口実のもと、たくさんの酒を楽しむのであった。

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