センチュリオン王国の北側には、センチュリオンと
国境付近は、現在こそ穏やかな状態、いわば
そこに
最前線で戦闘を担う『レンジャー』、そのレンジャーが帰還した際に各種手当てを
司令官はそれほど頻繁に交代することはないが、レンジャーはとかく人員の入れ替わりが激しい。現在は戦時下ではないにもかかわらず、である。意外に思われがちだが、軍隊への志願者は多い。平常時である今は戦闘もなく、衣食住が保証され、わずかながらも給金が支給されるからだ。
頭脳労働を得意とせず、
志願兵たちはまず、王都にある王宮前の部隊詰め所で兵役解除式を終え、その後、
「3番!ハンメルくん!ご苦労であった!」
「はっ!」
「4番!」
「6番!」
「7番!」
次々と名前を呼ばれ、
「今回は、割と多かったな……」
一人、
トーシュウゾ・ハンメル。
身体は
しかし食べることは何よりも好きで、給金の大半は食費に消えていく。酒も好み、もっぱら安酒を愛飲していた。
「トーシュウゾや」
「わっ、なんだよおばあちゃん。わざわざ迎えに来てくれたの?」
「ああ。お
「うん、ただいま」
トーシュウゾは祖母と二人暮らしだった。祖母は戦争で夫を失って以来、娘夫婦と共に暮らしていた。しかし、その娘夫婦にも先立たれ、今ではこの孫であるトーシュウゾと二人きりで生活をしている。
祖母は
その祖母が、『ミンチェスティ大聖堂』前の広場でトーシュウゾを待ち構えていたのである。
「こんなところで待っててくれたの?会えなかったらどうするつもりだったのさ」
「トーシュウゾの行きそうなところくらい、わかるわい」
「それもそっか」
トーシュウゾは帰りに、祖母のために王都の
夜の
「おばあちゃん、なにか食べて帰る?」
「トーシュウゾの好きにすりゃいいよ」
「そうだなぁ……」
トーシュウゾは祖母の手を取り、立ち止まる。大聖堂は
そこへ、不意に香ばしい匂いが漂ってきた。
「スンスン……おばあちゃん、なんだかいい匂いがするね」
「わたしゃ鼻はあまり効かんのだが……うん、確かにするね」
「なんだろう、この匂い……すごく美味しそうな……」
「そういや、隣の奥さんが言ってたよ。一番街に
二人は辺りを見渡した。それほど時間はかからず、すぐに目星がつく。なにしろ、その一帯だけが明らかに異質だった。
異国情緒のある店構え。行列ができ、店の小窓からは弁当が飛ぶように売れている。目につかないほうが難しいほどである。
「おばあちゃん、あそこに行ってみようか」
「そうしようかね」
二人は導かれるように、その店へと連れ立って歩いていった。
「いらっしゃいませなのです。お二人様でよろしいですか?」
ようやく行列から解放され、店内に案内されたものの、カウンターや
その時、店の中央にあるテーブル席に座っていた四人組が、さくらに声をかけた。
「俺たち、席かわるよ」
「では、お二階のお座敷ではいかかですか?宴会が入ってるんですけどよろしいですか?」
「おっ、上、あがっていいの?そりゃよかった。じゃあ
勤め帰りの役人たちは、思わず声を
「すみません、譲ってもらっちゃって」
トーシュウゾは深く頭を下げ、礼を述べる。
「いいんですよ。俺たちも、まだまだ飲みたいし」
ここは酒も飲める店なのだ、とトーシュウゾは思った。四人はそのまま二階へ上がり、トーシュウゾと祖母は空いた席に腰を下ろす。
それから二人はメニューの説明を受けた。祖母には
「おばあちゃん、ぼく、こんなに食べられるかな?」
「ふん。自分で頼んだくせに」
そう言いながら祖母はくっくと笑う。そしてさくらに勧められた薄めのハイボールと、魚のフライを口にする。思わず「うまい」と声を上げる祖母の前で、トーシュウゾは無言のまま、がつがつと箸を進める。
二人の間には、穏やかでありながら、多幸感に満ちた空気が流れていた。
「おかわり、いかがですか?」
「あっ、お願いします」
「かしこまりました」
さくらは笑顔で、トーシュウゾの大きな茶碗に、またしても漫画のような大盛りご飯をよそってきた。
「おまえもよく食べるねえ」
「食べるのだけが、楽しみだからさ」
「そうかい。しかし、こんなに美味しいのは久しぶりだねぇ……」
祖母は遠くを見るような目をする。その下がった
「おばあさま、優しいお孫さんですね」
不意に、さくらが祖母に声をかける。
「ん?うん……まあ、そうだね。優しい子だよ」
「はい、わかります」
祖母は不思議そうにさくらを見上げた。なぜこの少女は、こんな言葉を自分にかけてくるのだろうか。しかし、その表情には、なぜか他人事とは思えない、どこか懐かしい感情が
祖母はしばらくさくらの笑顔をみつめていたが、テーブルに肘をかけ、ようやく言葉を返した。
「あんたさ」
「はい?」
「この店、あんたが経営してるのかい?」
「ええ。最近始めたばかりですけど、なんとかやれています」
「そうかい。でも、いい店だね。変わった食べ物に酒に、よくこんなもの思いつくね」
「はい、私の思いつきで全部やっています」
「へぇ、そりゃすごいねぇ。うちの方でも
「それはそれは。とてもありがたいです」
「このこもアタシも、食べたり飲んだりするのが好きでね」
「そうですか。ではよかったら、もう一杯ハイボールはいかがですか?」
「ははは!商売上手だね!じゃあ、もう一杯だけもらおうか」
「ありがとうございます」
そんなやりとりを交わす間も、トーシュウゾは夢中で揚げ物を
「銀貨五枚になりますのです」
「はい?そんなに安くないですよね?」
トーシュウゾは思わず耳を疑った。あれほど好き勝手に食べ、祖母も結局三杯飲んだというのに、この金額で済むのかと。
「いえ、これが普通のお値段なのです。みなさん同じようにお代を頂いてますのです」
慌てて硬貨を落としてしまい、リゼロッテが一緒に拾ってくれる。
「あ……ありがとうございます。では、これで」
「はい、ありがとうございますのです。またのお越しをお待ちしていますのです」
リゼロッテはにっこりと微笑み、祖母の身体を支えながら、店を出るまで丁寧に見送った。
「おばあちゃん、このお店、すごくよかったね」
「そうだね……また、来たいね」
「うん」
すっかり夜も