異世界でとんかつ屋さんとして生きていきたい   作:藤沢春

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7 屋台

「ではこれで手続きは完了です。お疲れ様でした」

「ありがとうございます!」

 

 さくらときなこは、保健所の『店舗拡大事業計画』窓口にて、『青空店舗』の手続きを終えた。要するに屋台運営の許認可を得た、ということだ。届出から登録まで、わずか一日で済んでしまうのは、王国がこの計画を推し進めるために特別に整えている制度に他ならない。現代日本ではまず考えられないことであった。

 

「では次に、移動販売車のレンタルについてご説明しますね」

「えっ、屋台を貸してくれるんですか?」

「はい。期限付きで、レンタル料もかかりますが、用途に応じて形や道具も選べますよ」

 

 なんだ、そういうことなら早く言ってほしかったと、さくらときなこは心の中で思った。しかし、これはまさに渡りに船。ありがたく借りることにした。

 

 屋台の形と道具を決めたあとは仕入れである。だが、二人にはまったく人脈がなかったため、保健所が斡旋する仕入れ先を利用することにした。相場より多少高くなるかもしれないが、今は仕方がない。いずれは自分たちでより良い仕入れ先を探し、利益率を高めたいところだ。

 

 そうして二人はようやく屋台を借り、保健所を後にした。

 

 

 

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!」

「どりゃあああああああ!」

 

 さくらが屋台を引き、きなこが後ろから押す。こんなに重いなんて聞いていない。

 

「なかなか……進まないよう……」

「女と猫じゃ……厳しいにゃ……」

 

 車輪が付いているだけまだマシだが、このままでは日が暮れるどころか、いつまでたっても公園にたどり着けそうになかった。

 

「わあ、ネコちゃんだぁ、かわいい」

「おう、俺たちも手伝うぜ!」

 

 街角で遊んでいた子供たち数人が駆け寄り、屋台を押すのを手伝ってくれた。

 

「へ……あ、ありがとう。すごく助かるよ」

「ボクはネコじゃないにゃ。神聖なる魔獣であるぞ」

「うわ、ネコが喋った」

 

 軽く挨拶を交わしながら、子供たちの助けを借り、なんとか公園までたどり着いた。

 

 

 

 そうして『ブルーウッド王立公園』の指定エリアに屋台を停車させ、さくらときなこ、そして子供たちはハイタッチを交わした。

 

「ところで、おねえさんとネコちゃんは何をするんですか?」

 一人の女の子がさくらに問いかける。

 

「私たちは食事を提供しようと思っているんだ。とんかつっていうんだよ」

「へえ、なにそれ?」

 

 さくらは子供たちにとんかつの説明をしたが、皆まったくピンときていない様子だった。そこで試作をすることにし、子供たちにお礼を兼ねてとんかつを振る舞ってやろうと思い立ち、屋台の試運転をしてみることにした。

 

 

 

 二人と子供たちは、保健所指定のマーケットへ食材を買いに向かう。街の市場は十分な品揃えで、とんかつを作る材料に困ることはなかった。しかしやはり原価が高くつく。これは早めに対策を講じなければならない、とさくらは考えた。

 

 食材と調味料をそろえた一行は公園の屋台へ戻り、早速調理に取りかかる。それにしてもこの屋台、色々と準備が大変であった。火をかけるのに薪を燃やさなければならないし、温度調節も難しい。水道もないので野菜や手を洗う時は、公園の井戸まで行くしかない。しかし今は贅沢を言っていられないし、屋台を借りられただけでも幸運だったので、特に文句も言わず、二人はテキパキと準備をこなすのだった。

 

 さくらの手際はよく、借りてきた調理道具や食器のおかげで下ごしらえは順調だった。肉を適度な厚さに切り、塩で下味をつけ、小麦粉、卵、パン粉の順にくぐらせていく。

 

「さくら、揚げるのはボクがやるにゃ」

「うん、やってみて」

 

 チリチリ、パチパチ、コロコロと揚げ音が変わっていく。きなこは器用に菜箸を使い、次々とかつを揚げていった。さくらは少し驚いたが、「まあ、こんなこともあるか」と受け止めておく。きなこの秘めた能力はこれだけではないのだろうと、ぼんやりとだがさくらは思うのだった。

 

 その間にさくらはキャベツを千切りにし、付け合わせを作る。安かった柑橘系のフルーツも添える。主菜に副菜といった付け合わせ。このバランスが定食は大事だ。ただマーケットにはやはりソースがなかったので、仕方なく塩味で食べることにした。

 

 子供たちは興味津々で二人の作業を眺め、よだれで辺りが洪水になりそうなほどである。

 

 やがて、きなこの揚げたとんかつをさくらが切り分け、皿に盛り付けた。

 

「できましたよ!どうぞ食べてみて!」

「わぁ!」

 

 子供たちはハフハフと熱そうに頬張り、一切れずつ味わった。

 

「うわ、なにこれ、すげえうめえ!」

「サクサクしててアツアツで、ほんとにうまい!」

「わたしこれ大好き。とってもおいしい」

「こんなおいしいの、食べたことないよ」

 

 どうやら大好評らしい。不思議な食感と味に、皆が舌鼓を打っていた。

 

「よかったぁ……これはなんとかなりそうだね」

「うん、さくらの料理はなんでもおいしいから間違いないにゃ」

 

 二人は子供たちの食べる様子を眺めながら、どこか感慨に耽った。まずは子供の腹を満たす。思いがけないスタートに、確かな手応えを感じていた。

 

 

 

 

 

「ところで、みんなは普段どんな遊びをしているの?」

 さくらは片付けをしながら、この国、そしてこの時代の娯楽について尋ねてみた。

 

「え? おにごっことか」

「かくれんぼとか」

 

 子供たちは口々に、素朴な遊びを語った。さくらは「どこの国でも子供の遊びは似たようなものなのだな」と思ったが、この世界にはテレビゲームはおろか、テレビすらないことに改めて気づかされる。公園に遊具らしいものもない。

 

 もっと知的な遊びもすべきだし、その場を提供することもできるのではないか。さくらはふと、そんなことを考えた。

 

 やがて夕方が近づき、子供たちは家路についた。さくらときなこも、前夜世話になった安宿へと帰る。

 

「きなこ、私もうひとつ考えたんだ」

「なんだにゃ? さくらはいろんなことを思いつくんだにゃ」

 

 二人はベッドに潜り込み、深い眠りとともに安らかなひとときを過ごすのだった。

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