まるでフリーゼの心の中にある
「大いなる
(これだ……)
さくらはすぐに察知した。かつてほんのわずかに覚えた『違和感』がこれだったのかと。
「私の片方の身体や人格は
いまだ
「あぁ……よくわからないと思うが、私自身ももうよくわかっていない。何のためにそうしているのか。いや、何のために生きているのかすらわからなくなる瞬間もある」
珍しく
「ずっとそのようにして生きてきたんだ。王女であると同時に、私にはもう一つの『仕事』がある。私はそれを成すために、とうに王女という立場を捨てていた」
フリーゼの肩が震えた。ゆっくりと腕を動かし胸に手を当て、再び語り出した。
「私は
さくらときなこは次に紡がれる言葉に覚悟し、静かにその時を待った。
「私は暗殺者だ」
突然の風とともに、遠き空で
フリーゼは続けた。
「ある時から、そのように育てられたのだ。組織の隊長として。そして終わりのない戦いが、その時から始まった。いや、すでに終わることのない戦いになってしまっている」
さくらにはその違いはわからなかった。わかるはずもなかったが、それでもフリーゼを理解しようとする気持ちはあった。なにがどうなっているのか、まずは受け止めようと思った。
「発端は
フリーゼの震える頬に雫が光る。それをフリーゼは乱暴に拭った。
それでもフリーゼは語り続け、さくらは黙ってその言葉を待った。
「もともとここセンチュリオン王国は、強大な国家ではなくなっていた。先ほどキャットシーの末裔に聞いたと思うが、北の大国『
フリーゼは小さくため息をついた。未だ癒えぬ強打した頭を抱えながら目を閉じ、しばらく口を閉ざす。
さくらは少しのあいだ考えた。今この国はどのような状況なのかと。フリーゼの語りから、わずかに想像できることを頭の中で整理していた。
センチュリオンはその頃から、大掛かりな事業計画を、ある人物を中心に進めていた。その結果、軍備は拡充した。ここで普通の国家ならば戦争は起こさず、軍備があることを対外に示し、攻め込む余地がないことを誇るのが、通常の軍事外交のはずだ。
しかしフリーゼは、さくらのそんな想像を打ち消すように言葉を続けた。
「その時に、ことは起こったのだ」
さくらときなこは思わず冷や汗が背中を伝うのを感じた。喉の奥の唾を飲み込むのも苦しい。握りしめた指は、血が滲むほど手のひらに食い込んでいた。
「祖母が何者かに殺された」
さくらは心の中でどれほど大きな声で「
「私が五歳の頃のことだったそうだ。急にお婆さまがいなくなり、子どもながらにおかしいと思っていた。盛大な葬儀も行われたが、幼い私にはそれが理解できなかった。それから私はお婆さまを探すようになり、いないとわかると泣き出し、夢で祖母の幻影を見る日々が続いた。私の心は徐々に歪んでいった。その頃から私には特殊な訓練が施されるようになった。それが今の私を作り上げた」
フリーゼは身に
「そして十歳になる頃、私は病を発した。その時期に同時に真実を知った。お婆様が何者かに殺されたこと、それが敵国ロシェリアの諜報員によるものだということ。それを知った私は修羅として生まれ変わらされた。復讐の鬼と化した私は、自分自身を制御できず、ある者の命令に従って動く兵器となった」
さくらは、いまは冷静に語るフリーゼの眼差しを受け止めることができずにいた。次々と突きつけられる衝撃に、今にも足が崩れそうだった。
フリーゼはそんなさくらから目を外し、自分の手のひらを見つめる。
「私はこの手で何人もの人間を殺め続けてきた。古代の戦闘魔法を一部解析した者から訓練を受け、それを身につけさせられた。人を殺すための兵器として、私は働き続けた」
さくらは、笑みとも取れるフリーゼの震える唇を見つめた。
「半分の私は敵国ロシェリアの諜報員と思われる者たちを、何人もこの手にかけた。緩衝地帯を越え、直接敵地で作戦を実行することもあった。私は復讐のためならば、何人殺そうが構わなかった。誰一人として、私の目の前で生きることを許さなかった。無惨に殺された祖母を思えば、のうのうと息をしている者の存在が許せなかった」
わなわなと震える手を、フリーゼはもう片方の手で押さえる。しかしその震えは収まらない。
「復讐が復讐を生むというが、精神を失っていた私にそんなことは関係なかった。逆らうものは敵であろうが味方であろうが斬って回った。そんな
さくらはそのあまりに残忍な言葉に、思わず耳を塞ぎたくなった。しかしふっと我に返り、再びフリーゼの言葉に耳を傾けた。
「私は操られていたんだ。心を。体を。思うままに、何かに操られていた。半分の私は、なぜこれほどまでにいつも疲弊しているのかすらわからなかった。昨日の自分が、自分で理解できなかった。そうしているうちに、もう半分の残虐性は徐々に薄れていった」
フリーゼは少し落ち着きを取り戻した様子で、「少し座ってもいいか」と疲れた声で言った。さくらときなこが頷き、三人は再び焚き火のほとりに腰を下ろした。
「私はもうやめたい。これ以上人を殺して、何になる。お婆様はどうしたって戻ってこない。あんなに大好きだったお婆ちゃんの顔が浮かぶたびに思った。『これは無駄だ』と。お婆ちゃんは望んでいない。こんな私の姿を見たくもないし、見せたくもない。そう思い、そのまま私はSSSから自ら遠ざかった」
『心は病んだままだが』と、その口の動きがさくらたちに伝わった。そして顔を伏せる。
「だが、その後の私はもうお察しの通りだ。学院にも通えず、同学の者との交流もできない。勉学に励むこともできず、片方の私は心を閉ざす一方だった。でも」
フリーゼは不意に顔を上げ、言葉を続けた。
「そんな時、あなたに出会った」
ほんのわずかだが、フリーゼは微笑んだ。さくらはその表情を見て、思わず目を見開いた。
「おじいさまは素性を知られぬよう行動しているつもりなのだが、あの通り奔放でな。私の役目はおじいさまを監視することだったのだが、少し手を焼いていたところに、あなたたちに出会った。私の心は、花が咲いたようだった。目の前がぱっと明るくなった。こんなにも胸が高鳴る瞬間があるのかと、心から驚いた」
フリーゼは少しそわそわし、恥ずかしげに顔を背けた。その姿に、さくらは少しだけ安堵した。
「なぜかはわからない。しかしあなたに惹かれた。ずっとそばにいたいと思った。押しかけてでもあの店で働かせてもらいたかった。あなたの、さくらちゃんの側にいたかった」
フリーゼは静かに瞼を閉じ、「黙っていてすまなかった。これで