ミンチェスティの
まるで我々刑事のように、毎日事件が起きては消え、また発生し、その
近頃は特に冷え込みが厳しくなり、警視庁の建つ王都メインストリートに、各省庁が林立する建物の隙間から吹き抜ける激しい木枯らしが不意に身に染みた。
私といえば、近頃は王家とのやり取りも少なくなっており、せいぜい前王ライテスイーボーン・センチュリオンとの会食という名の
あの『
私も私で、上司である『シド・トゥルーガー警部』へいくつかの提案をしていた。一つは、できる限り彼女を私の
これだけを並べれば、何かを疑われても致し方ないとは思う。実際、私が彼女に『
それが
しかし、やはり以前の感情とは違う気がする。彼女に対して抱く安心するような、温かく包み込まれるような、すべてを許してくれそうな感覚。
そして、たとえばこちらがどれほど
今、私は通常の勤務に戻りつつある。彼女への接近に関する私の提案は、残念ながら上司のシド警部には受け入れられなかった。どうやら、機密組織『
それ以来、私は彼女との関わりを持つようになったのだが、ここへ来てあえなくお
SSSのナンバーツーであり実権を握っている『コードネーム:CL【
そして、SSSの一番隊長『コードネーム:FMS【
室内では警部と王家の一部、そしてSSS幹部による会合が行われているようだった。内容を把握した私はすぐさま駆け出した。
行き先は、いつもの馴染みの店だ。走りながら思考を巡らせる。何かが起きている。そして、彼女の身に危険が及ぶかもしれない。そう直感した私は、警部の忠告すら無視して彼女の元へと急いだ。
以前から彼女は、王家とSSSによる監視と保護、そして囲い込みの対象となっていた。その役割の一部を私が担っていたが、役目を終えたことで公的な繋がりは断たれた。
しかし、私は彼女から『頼られる』という信頼に値する関係を築いていたため、形を変えながらも交流は続いていた。
大抵の出来事は、彼女の独特な発想や発明が中心で、それは常に彼女の商売に関することばかりであったが、時に意図せぬ形で利用されることも増えていた。
そしてついに、SSSが本格的に彼女を利権として食い物にしようと動き出したのだから、もはや見過ごせる事態ではない。
折に触れて違和感は覚えていた。彼女の特殊能力だけでなく、それを都合よく利用せんとする動きだ。
特に『コードネーム:CL【鴉】』から発せられる『ヒュー』という呼吸器疾患特有の音が、彼女の周辺で度々察知されることがあり、
が、しかし、私一人が目を光らせていても、限界はあるのだ。
私は思わず舌打ちし、地面を強く蹴った。しまった、
だが、争ったような物々しい跡はなく、家屋も荒らされた様子はない。一瞬の
このような時に悔やんでいても始まらない。私は即座に彼女の居場所を特定しようと動くと同時に、上官への『辞表』をしたためた。警部補という立場だけでなく、刑事としての職務そのものを辞すること。それは私の人生における初めての大きな決断だった。これで私の行動を縛る制約は消えた。
安直な決断だろうか。いや、決して場当たり的なものではない。この事態に、なりふり構っている余裕などなかった。私はすぐさま当庁して辞表を差し出し、次なる行動へと移った。
街の探偵であり、かつてシド警部の上司でもあった当時の警部が営む『ノベル探偵事務所』に依頼し、情報を求めた。
流石は私の尊敬する元警部だ、たった数時間で情報を探り出してみせた。彼女は今日の夕方にブルーウッド郊外の丘にある森林へ向かったという。
私は事務所を飛び出し、その丘へと向かった。深夜にもかかわらず対応してくれたノベル元警部には、後日何かしらの特別報酬を届けたい。酒と煙草と缶詰しか好まず、
辿り着いた『丘の森』には、複数の影があった。お馴染みの彼女と付き添いの魔獣。そしてその両親だろうか、いつもの魔獣よりも巨大な猫型魔獣の姿があった。
そして私を
すなわちSSSの一番隊長、『コードネーム:FMS【吹雪】』であった。私が到着した時には既に事態は収束していたようで、皆が一様に、いや三者三様の複雑な表情を浮かべていた。
当の彼女は私の顔を見るなり驚いたようだったが、察しの良い彼女のことだ、私がここへ来た理由をすぐに見抜いたようだった。
『コードネーム:FMS【吹雪】』は負傷しており、やり取りも深刻なものであったことは、その表情から十分に汲み取れた。
私は彼女たちに駆け寄り、まずは『コードネーム:FMS【吹雪】』の容態を確認した。店主の彼女の説明によれば、混乱はしているが命に別状はないとのことだ。
それよりも、
王宮に到着し、まずは『コードネーム:FMS【吹雪】』を世話役に引き渡し、安静にするよう手配した。その後、私は国王パルデスブレイディオ・センチュリオンと
パルデス国王は意外にもそれを快諾し、直ちに会議を開くと言い出した。私は会議には加わらず、彼女をこの場へ連れてくる任務を帯び、あの丘の森から店へ戻ると言っていた彼女の元へと再び足早に向かった。
この時の役目が、その後のセンチュリオンの未来を決定づけるものになるとは、確信には至っていなかった。しかし、これこそが私にとって最重要の課題であった。
彼女のために、私は走り続けた。既に辞表は受理され、私はもう刑事ではないのかもしれない。しかし、これが刑事としての最後の仕事であるならば、完遂しなければならない。
国家のためなどではなく、私自身のため、そして彼女たちの未来のために、私は走り続けた。
店に戻っていた彼女に、預かった言葉は正確に伝えたと報告した。彼女は安堵の色を見せたが、すぐに不安げな表情を浮かべた。すべてを聞かずとも、私は大方のことを察知できる。彼女のことなら、今は何でも感じ取れる気がした。
「さくらさん、一つ大切なお話があります」
「はい、何でしょうか」
「私は、あなたを完璧に守ってあげることはできないかもしれません。ですが、きっと良い方向へ導くことはできると信じています。訳がわからないでしょうし、私自身もまだ整理がついていません。しかし、あなたのなすべきこと、そして向き合うべきこと、それらを私に預けてはもらえませんか。そして私と同じ道を歩んでいただけないでしょうか。きっと、私はあなたと……何と言いますか、穏やかな日々を過ごせる気がするんです。勝手な言い分で申し訳ありません」
「うふふ、急にどうしたのですか。でも分かりますよ、エリックさん。あなたは私の信頼できる方ですもの。どうか、よろしくお願いしますわね」
私は彼女の手を取り、祈りを捧げた。それは紛れもなく、真実の誓いであった。