「フリーゼには新しい人生を歩んでもらいたい」
パルデスは改めて、自身の娘であるフリーゼの未来を
「そこでなんですけど」
「アリシアさーん!」
「まぁ、さくらちゃん、きなこちゃん」
ある晴れた冬の始め、黄色い
さくらときなこは、フリーゼが静養しているグラン・パレスの南西、アリシアとアドリアーノが住むヴァンデンバーグ家の屋敷へとはるばるやってきた。
この辺りは天然要害という異名を持つほどの未到の地が広がる岩石地帯であったが、イーヴィルエンジンの進歩により
そうして舗装されつつあるグラン・パレスの道をさくらたちは屋根付きの自動
「まあまあ、よう来たね。疲れただろうに、ねぇ」
「アリシアさん、お体のお加減はいかがですか?」
「ええ、さくらちゃんのおかげなんよほんと。毎日あったかい温泉に入れて嬉しいわ。ありがとねぇ」
「いえいえ、少しでもお元気になられてなによりです!しかしそれにしても……」
さくらとフリーゼは文通で意思の
「山菜や薬草がたくさん増えましたね~」
「パルデスくんのおかげなんよ。でもセンチュリオンだけでなく、世界各国からたくさん植物を送ってくれるもんだから、選別が大変なんよ。変なもん植えられんし」
さくらがパルデスに提案したこと。それは、グラン・パレスで静養するフリーゼに、アリシアの療養に併せ、薬草の研究をさせてはどうだということだった。自然に触れ、土を
「うふふ、
「そう!ツルが伸びて伸びて大変だったんよ」
「あ、植えちゃったんかにゃ……」
さくらときなこは楽しくアリシアとの再会を喜んでいた。
「まあそんなことより、早く会っておやりよ」
アリシアは二人を連れ、屋敷の少し離れた研究所へと案内した。そこは小さく、一人二人がようやく作業できるような本当に小さな小さな
アリシアはノックをしてからしばらく待つと、扉の
「さ、さくらちゃん……きなこちゃん…………」
ひとつの影が姿を見せた。気恥ずかしそうに、そしてなにより再会を心待ちにしていた一人の少女がそこにはいた。
「あはは……ぼたんちゃん……元気だった……?」
さくらの瞳から勝手に涙が溢れた。きなこも思わず目を細めた。
「さくらちゃん……きなこちゃん……うわぁあ……」
フリーゼも顔をくしゃくしゃにしてボロボロと大粒の涙をこぼした。さくらはそんなフリーゼを抱きしめ、さくらの胸でわぁわぁと泣き叫ぶフリーゼの頭をさすり続けた。そんな姿をみたアリシアも持っていた手ぬぐいを両目にあて、
しばらく再会を喜んだ四人は、フリーゼを一度落ち着かせようということになり、ヴァンデンバーグの屋敷で働くメイドたちがフリーゼの相手をしてくれることになった。さくらときなこはアリシアと一緒に温泉に向かい、プカプカと浮かぶ黄色い実を転がしながら、湯の中で
そうしてひとしきり湯を楽しんださくらときなこは改めて屋敷のキッチンを借りた。以前訪れた時とは違い、大量の道具と材料を持ち込んだものだから、メイドと執事は目を輝かせた。メイド達にも手伝ってもらい、たくさんの揚げ物や一品物を作り、温かいご飯も大量に炊いた。
かくして夕食の時間となり、フリーゼもようやくダイニングに現れた。さくらときなこ、そしてフリーゼはまた目頭を熱くしたが、言葉を交わすことなく笑顔でテーブルに向き合った。
「いただきまーす」
大きな声を皆で上げ、熱々の揚げ物にみな
「ウイスキーはまたお持ちしますね」
「ありがとう、ほんとうに嬉しいんよ。でも道が出来たらさくらちゃんのお店にもようやく行けるようになるんかな」
「そうですね、今日来た道は以前は岩でしたから。今後もっと掘削が続けば道だけじゃなく、温泉地もできあがるでしょうね」
「このグラン・パレスが賑やかになるなんて考えもしなかったんよ」
「ええ、本当に。さくらさんのアイデアと技術には恐れ入ります」
アドリアーノも揚げ物を肴にさくらウイスキーを嗜み、ご満悦の表情を浮かべながらさくらにそう言った。
「私は……ほんのきっかけにしかすぎません。大切なのはその技術をどう世の中の為に役立てるか、そう思っています」
さくらは少し影を落とした。自分の発明がどういった発展を遂げるのか、はたまた悪い方向へといってしまうのか、それは誰にもわからない。パルデスの言葉通り理想が現実になるのかなんて、結局は希望でしかないのだ。
相変わらず一心不乱にさくらの料理を食べ続けるフリーゼを横目にさくらは語った。アリシアとアドリアーノも一連の
「でも王様もおっしゃっていました。私に手を貸して欲しいって。私は惜しみなく協力することを伝えています。私の心は最初と変わりません。たくさんの人と楽しく関わっていきたいなって」
さくらはアリシアとアドリアーノに微笑んだ。その朗らかな笑顔は二人の胸を確かに熱くした。ほっとしたアリシアはまたグラスを傾けるのだった。
「それにしてもぼたんちゃん、食べ過ぎじゃない?」
「そうだにゃ。いくらなんでもがっつきすぎだにゃ」
さくらときなこは、さっきから無言で食べ続けるフリーゼを心配するように声をかけた。
「だって」
ようやくフリーゼがさくらときなこの正面をまっすぐ見据え、まっすぐの瞳でようやく声をあげた。
「さくらちゃんときなこちゃんの料理」
えびのしっぽを
「またしばらく食べられへんやんか」
「「うぇ!?」」
さくらときなこはフリーゼの放った言葉に思わず白目を剥いた。アリシアはついにバレてしまったかといった表情を、申し訳なさそうにさくらときなこに向けていた。
「ぼたんちゃん……?」
「おいぼたん。いまなんか変な喋り方したのにゃ?」
「なんでや。あたしなんも変なこというてへんやん。二人が帰ってしもたらまたしばらく食べられへん言うただけやでしかし」
「ごめんねさくらちゃん、きなこちゃん」
そう言ったアリシアにハッとして、さくらときなこはアリシアに振り向いた。
「しばらく私と一緒に暮らしていくうちに私の言葉遣いがうつってしまったみたいなんよ……」
アリシアは心底申し訳なさそうに俯いてしまった。
「で、でもアリシアさんそんなにコテコテじゃないですよね!?」
「そうなんよ。なんでこんな喋り方になってしまってん……」
「わはは、そない気にせんでもええやん」
「いやすっごく気になるにゃ」
先ほどまでとはうってかわって気取らない感じというか、喋り方も相まって随分とフランクな雰囲気に変わってしまったと思うさくらときなこだった。
「きなこちゃん。それ、毒やで」
きなこが食べようとした皿には猫にとっては少々キツいハーブが乗っていたようだが、きなこはそんな言葉は無視し、フリーゼを横目で
「それじゃまた来ますね」
「私も絶対にさくらちゃんのお店にいくからね」
「さくらちゃん、きなこちゃん、ほんまおおきにな~」
さくらときなこは一晩中フリーゼと語らい、温泉にも一緒につかり、ひさしぶりの時間を堪能した。さくらは裸の付き合いをした際、改めてフリーゼの体をみてほっと胸を撫で下ろした。魔導の
そうして楽しい時間を過ごし、さくらときなこは
「きなこ」
「にゃ」
「久しぶりに楽しかったね」
「……にゃ」
「ぼたんちゃん、可笑しかったね」
「…………にゃ…………」
「あら、そんなとこで眠ったら危ないよ。後ろの荷台に移って?」
運転をするさくらの隣にいたきなこは、ゆらゆらと揺られながら