今回は、ヒロインのアスナとサクラの話です。
あと、展開が遅くてすみません……
サクラ サイド
午前八時に設定した起床アラームによって、わたしは目を覚ます。そして自分が自宅ではなく宿屋の一室で寝ていたことを確認する。
(やっぱり、助けは来ないんだ……)
デスゲーム宣言から一週間たったが、外部からの助けは一切無い。また、この世界で死ねば意識は現実に戻るはずだと言って外周部から飛び降り自殺をした人たちがどうなったのかも分からない。確かめる方法が無いのだ。だって、わたし達はこの世界に閉じ込められて現実に帰れないのだから。と―――
「…朝……?」
「あ…おはようございます、アスナ先輩」
「…ええ、おはよう…」
もう一つのベッドで寝ていたアスナ先輩が目を覚ます。わたしはなるべく普段どおりに挨拶をしたけど、アスナ先輩は力なく返事をした。普段のアスナ先輩からは信じられないくらい、今のアスナ先輩は弱弱しかった。でも―――
(昨日よりも、声が出てる!)
三日ほど前から、アスナ先輩は少しずつ活力を取り戻し始めていた。元に戻るにはまだ時間がかかりそうだけど、先輩が元気になってくれるのはとても嬉しかった。
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「私、戦うわ」
「…へ?」
あまり美味しくない朝食を摂った後、アスナ先輩は唐突に言った。わたしはそれに対して間の抜けた声を出してしまった。しかし、先輩が言ったことの意味を理解した途端、反対する。
「ダ、ダメです!危ないですよ!」
「でも、サクラは戦っているでしょ?」
「そ、それは……」
事実だ。わたしは、一昨日から宿代と食事代を稼ぐために戦い始めた。でもそれはあくまで”はじまりの街”周辺で『フレンジーボア』を倒すだけのものだ。目の届く範囲に他のプレイヤーがいて、なおかつ自分の目の前にポップしたボアしか倒さない。
その理由は単純だ。死ぬのが怖い。だから、アスナ先輩に同じことをさせたくない。
「でも、アスナ先輩が戦う必要なんてありません!生活費なら――」
「違うわ」
はっきりとした声で、先輩はわたしの言葉をさえぎる。
「攻略するのよ、このゲームを」
「な…何を、言ってるんですか…?」
「脱出するために攻略するって言ったのよ」
「それこそダメです!!死んじゃいます!!」
実際、生活費を稼ぐだけの狩りでも死者がでた。それなのに、さらに危険な場所へ行くなんて自殺をするといっているようなものなのだ。だけど―――
「このままここでゆっくり腐っていくくらいなら、最後まで自分らしくいたいの」
「…アスナ先輩……」
今の先輩からは、言葉にできない暗いものを感じた。それと同時に、先輩を止めることは無理だと悟った。だから―――
「…わたしも、行きます……」
先輩を一人にしない。それが今のわたしにできることだと思うから。先輩は一瞬驚いた顔こそしたけど、
「そう…なら、よろしく」
と、わたしの同行をあっさりと受け入れてくれた。
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「ねえ、サクラ」
「なんですか?」
「これ、邪魔なんだけど……」
先輩が言った”これ”とは、頭に被ったフーデットケープのことだ。ちなみにわたしも被っている。
「絶対に外したらダメです!」
「サクラ、ナンパ防止って言ったわよね?もうフィールドなんだし―――」
「何処に誰がいるか分かりません!」
「うっ……」
先輩も分かってくれたようで、フーデットケープについては何も言わなくなった。ただ……
「サクラは分かるけど……私もつける必要、あるのかな?」
このように、自分の容姿が優れていると思っていないのだ。そのためわたしは、現実では何度もしたやり取りをここでもする。
「アスナ先輩、もっと自分の容姿を自覚してください」
「十分してるわよ」
「してません!男の人が絶対にほっとかないぐらい美人なんだってこと、いつになったら理解してくれるんですか!?」
「私よりサクラの方が綺麗だと思うわよ?」
いくらわたしが先輩は美人なんだって言っても、先輩はわたしの方が綺麗だと言う。しかも本気で。どうして先輩は自分の魅力に気づかないのだろう………
「楽しそうだナァ、サーちゃん」
「はひっ!?」
「誰!?」
突然後ろから声をかけられ、わたしは情けない声を上げ振り返る。一方で先輩は腰の細剣に手をかけ、警戒しながら振り返る。
「ワァ!待っタ待っタ!!」
「もう一度聞くわ。貴女は誰?」
先輩は警戒を解く事無く彼女―――アルゴさんを見る。
「アスナ先輩、この人がアルゴさんです!だから警戒しないでください!!」
「この人が?」
「そうサ!情報屋の鼠のアルゴとはオレっちのことだヨ!」
先輩はアルゴさんの顔をまじまじと見つめ、特徴的なヒゲペイントを確認する。それでやっと警戒を解いてくれた。
「それにしても驚いたナ。サーちゃんにツレがいたなんテ」
「さっきは失礼な態度をとってしまい、申し訳ありませんでした。貴女のことは、サクラから聞いています」
「そこまで気にしなくていいヨ。あ、まだ名前を聞いていなかったネ」
ここでわたしは嫌な予感がした。しかし、それを先輩に言う前に先輩が口を開く。
「”結城 明日奈”です」
「イヤイヤイヤ!それ本名ダロ!?オレっちが悪かっタ!プレイヤーネームを教えてクレ!」
「あ!」
先輩も自分の失敗に気が付いたようだ。顔が赤くなっている。けど………
「…アスナ、です」
「そうカ。さっきのことは忘れといてやるヨ。それにしても……」
先輩はきちんと名乗る。加えてアルゴさんも本名のことは忘れてくれるのはありがたい。しかし、さっきからアルゴさんの目が怪しく光っている気がして落ち着かない。
「最初に本名を名乗ル、プレイヤーネームと本名が同ジ、サーちゃんと同じことしてるナ!ニャハハハ!!」
「それは忘れてくれる約束だったじゃないですかぁ!」
一昨日したことを先輩の前で暴露してきた。先輩は目を丸くして驚いている。わたしは自分でも分かるくらいに羞恥で赤面してしまう。さらにアルゴさんは大笑い。しばらくはそのままになってしまう。
「おっト、今日はコレを渡しに来たんだヨ」
たっぷり笑った後、アルゴさんはそう言ってわたし達に本を一冊ずつくれた。
「攻略本?」
先輩の問いにアルゴさんは頷く。
「ここで読んでもいいですか?」
「別にいいヨ、アーちゃん」
「「アーちゃん?」」
「アスナだからアーちゃんダヨ。オネーサンが考えたあだ名ダヨ」
そうだった。この人は他人をあだ名で呼ぶのだ。しかもこちらがいくら頼んでもやめてくれない。
「アスナ先輩、気にせずに読みましょう」
「…そうね」
やめてくれないから、スルーするしかない。それよりも攻略本だ。ここにわたし達が戦うために必要な情報が詰まっているのだから。
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「それで、ここのドロップ率の内訳が不明なのはどういうこと?」
「まだ確認しきれていないんダヨ…」
「このクエストボスの行動パターンデータが甘いですよ?」
「え~っト、それは……」
「あと、このマップなんだけど―――」
「もウ……やめてクレ……」
三十分ほどで攻略本を読み終えたわたし達は、データが甘いところや不明なところ、個人的に気になったことを質問し続けていた。はじめの方こそアルゴさんもきちんと答えてくれたが、いつの間にか疲れ果てた表情をしていた。何故だろう?
「いいわ。あとは自分で確かめましょう、サクラ」
「はい!」
先輩は質問するのをやめると、歩き出す。と、丁度目の前にボアがポップする。
「フレンジーボア、ノンアクティブmob……こちらから攻撃しない限り襲われないっと」
左手に持ったままだった攻略本のページをめくり、
「細剣のソードスキルは……」
攻略本から現在使用可能なソードスキルを確認し、
「リニアーのモーションは……」
攻略本に記されたとおりにモーションをとる。すると先輩の剣がライトエフェクトを纏う。
「ふっ!」
『リニアー』が発動し、ボアのHPが一撃で全損する。……って、一撃!?細剣ってスピード重視で攻撃力は高くなかったんじゃ……
「”スキルのブースト”ね……思ってたより簡単じゃない」
先輩のこの呟きを聞き、わたしはポカーンとしてしまった。アルゴさんも顔が引きつっていた。
「ビギナーにはまず無理だと思っテ……面白半分に載せただけなのニ……一発で成功させるなんテ……アーちゃん化物じみてるヨ…」
「アスナ先輩、すごいですから…」
先輩はわたし達に背を向け、近くにポップしたボアを『リニアー』の一撃のみで倒していた。感覚を確かめるように、何度も何度も。それを眺めていたら、ふいにアルゴさんから注意をされた。
「サーちゃん、アーちゃんを先輩って呼ぶのはよくないゾ。リアルの関係がバレるからナ」
「あ!」
「気をつけたほうがいいゾ。この世界の男は女の子に飢えているからナ」
「はい…」
「何を話してるの?」
先輩がいつの間にか戻っていた。アルゴさんは今さっきのことを先輩に話し、先輩も納得していた。
「これからはさんづけでいいんじゃない?」
「はい、そうします。……アスナせ…さん」
今まで先輩と呼んでいたので、とても違和感がある。でも、その内慣れるだろう。
「それじゃあ、私達はこれで」
「アルゴさん、ありがとうございました」
「アーちゃんもサーちゃんもまたナー」
アルゴさんとフレンド登録を済ませ、わたし達は彼女と別れる。
「―――今日は”ホルンカ”まで行きましょう」
「あそこの武器は買わないほうが良いってありますね」
攻略本の情報を元に、わたし達は自己強化のための道筋を大まかに決める。そして翌日から、わたし達は本格的に戦い始めた。
自分が、自分であるために。生きて帰るために。
やっぱりアルゴの口調に自信が持てません……
誤字、脱字、アドバイス等ありましたら、感想にてお願いします。