SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 最近暑くなってきましたね……しかも梅雨で窓とかあんまり開けられずムシムシして……


九十八話 BoB開幕

 クロト サイド

 

 予想通り多数のプレイヤーでごった返す酒場の一角で、遠巻きに向けられる視線を務めて無視しながら、オレ達は当初の予定通り本戦のルールの確認をしていた。

 

 「―――とまぁ、ルールについてはこんなモンだ」

 

 「大体わかったよ、相棒」

 

 BoB本戦のフィールドの広さに驚くなど、少し……いや、半ば以上オレの解説をアテにして読み込んでいなかったんじゃないかと疑いたくなるキリトのリアクションには少々呆れたが、今の説明で何とかなっただろう。

 

 「じゃあ、スタートしてから最初のスキャンでお互いの位置を掴んだら、合流する……でいいか?」

 

 「んー、間に厄介なヤツが居なけりゃいいんだが……」

 

 「厄介なヤツ?」

 

 オウム返しに聞いてくる相棒に頷くと、本戦参加者の名簿を表示し、可視モードで彼の前に突き出す。

 

 「例えばこの、獅子王リッチー……別命立てこもリッチー」

 

 「た、立て……?」

 

 「デカい機関銃持ちの火力特化なヤツでな……高台に陣取ったらもうそこから一歩も動かねぇんだよ。後は砲台みたいに近づいてきた連中を無差別にハチの巣にし続ける。ハッキリ言えばお前の天敵さ。確かバックパックから直接弾丸供給できる装備と整えた筈だから、マガジン交換無しで延々と弾をバラ撒き続けてくるぞ」

 

 「うげぇ……それは勘弁」

 

 溜息を吐くキリトに、とにかく近づかなければいいと告げ、他に警告しておくべき者がいないかと名簿に目を走らせる。

 

 (けど、昨日の様子を見た感じだと……不意打ちされない限りは大丈夫な気がするんだよな)

 

 強いて挙げるならば、シンプルに強い闇風だろうか。彼とは前回大会の事もあって、贅沢を言えば一対一で決着を着けたかったが……今そんな余裕は無い。なので彼の名を相棒に告げると、急に好奇心に駆られた視線を向けてきやがった。

 

 「闇風って、アレだろ?一緒にMストに出てた……GGO(こっち)でのお前のライバル」

 

 「否定はしねぇけどよ……前回鎬を削り合った以外、マジで他の交流とか無いぞ」

 

 「そういうシンプルな関係が気に入られていたりして」

 

 否定できない。少なくともオレは、闇風との今の関係を結構気に入っている自覚がある。VRMMOを普通のゲームとして楽しめている証の一つとして、彼との戦いは心躍る楽しいものだった。

 

 「……人を誘っておいて放置とか、どういうつもり?私をイラつかせて、本戦でミスさせようって魂胆かしら?」

 

 「おいキリト、マジで何でコイツ誘った……?」

 

 「こ、ここからが本題なんだよ」

 

 不機嫌さを隠そうとしないシノンに睨まれ、彼女を誘った張本人である相棒に目を向ける。すると彼は若干どもりながら宥めるようにシノンに両手を突き出す。尤も、彼女は鼻を鳴らすだけで表情の険しさは変わらなかったが。

 

 「そ、その……今大会の名簿で、二人が知らない名前はいくつあるんだ?」

 

 「はぁ……?」

 

 「キリトを除いて、聞き覚えの無いのは……四つか?」

 

 「ふん、チェック甘いんじゃない?初出場はムカつく光剣使いを抜いて三人―――ペイルライダー、銃士X……あとこれはSterben(スティーブン)、って読むのかしら」

 

 中々トゲのある声色だったが、シノンの指摘にキリトは悪戯が成功した子供みたいにクスリと笑みを浮かべる。

 

 「何よ?」

 

 「いや、シノンを誘って正解だったなぁって。クロトのメインは別ゲーだし、GGOのログイン時間って実際はライトユーザーぐらいだったから、ベテランの目で見て欲しかったんだ。ありがとう」

 

 「アンタに感謝されるとか……調子狂うわね」

 

 「酷いなあ、お礼なら昨日も言ったじゃないか……コレとかさ」

 

 朗らかな笑みを浮かべながら、先日彼女に束ねてもらった濡れ羽色の長髪を摘まむキリト。だがそれはシノンがキリトの性別を知る前にした事であって、彼女にとっては半ば黒歴史になっているのでは……?

 

 「な、アンタねぇ……!」

 

 案の定、シノンは頬を赤くし、テーブルに手を叩きつける。だが彼女も人目のある公共(パブリック)スペースで騒ぐのを堪えるだけの分別は残っていたようで、一つ舌打ちすると腕を組んで席に体を沈めた。

 

 「で?私が知らない奴の名前を聞いて、どうするつもり。それともこの話が全部私を惑わす為の芝居か何かなの?」

 

 「違う、違うんだ。誓って、君を陥れるのが目的なんじゃない……断言する」

 

 疑いの眼差しを向けるシノンに、キリトは長い髪を揺らしてきっぱりと告げる。だがその先が続かない。何せオレ達の目的である死銃(デス・ガン)が、かつてSAOで殺人ギルドの元一員で、今も何らかの方法で人殺しをしている等と言った所で、この狙撃手が信じてくれるとは思えないからだ。だからこそオレもどう捕捉説明すればいいのか分からず、二人揃ってだんまりになってしまった。

 

 「……ごめん。君に示せるものなんてないから、ただの口約束で信じてもらえないと思う。だから、もし君が負けたら、気が済むまで恨んでくれて構わない」

 

 「アンタ……」

 

 頭を下げた相棒に、シノンは目を見張った。やがて口許の険しさを少しばかり緩め、やや躊躇いがちに言葉を紡いだ。

 

 「……もしかして、昨日アンタの様子がおかしくなった事と……何か関係あるの?」

 

 こいつ……何か察しているのか?咄嗟に相棒に視線を向けると、彼も予想外だったのか目を見開いていた。

 

 「あ、ああ……昔、同じVRMMOをやっていたヤツに、会ったんだ」

 

 「おいキリト」

 

 死銃(デス・ガン)―――ラフィン・コフィンの残党との因縁はオレ達だけの事情で、単なる知り合いに過ぎないこの狙撃手にわざわざ説明する事じゃない。そう言おうとして、当のキリトに手で制される。

 

 「軽々しく他人に聞かせていい話じゃないのは分かってる。でもシノンには昨日から世話になっているんだし、俺達の事情を言わないのは不誠実だからさ」

 

 申し訳なさそうに、それでも真っ直ぐにこちらを見据えてそう言われると、オレはどうにも強く言い返せない。仲間に大分甘いのはオレも同じかと内心自嘲しながらも、ため息と共に肩を竦めて折れた事を示す。

 

 「サンキュー相棒……話を戻すけど、さっき言ったヤツとは因縁があってな。初出場の三人の内のどれかが、そいつなんだ」

 

 「因縁……?友達、じゃないの?」

 

 「敵だ。互いに本気で、殺し合った程の……」

 

 「殺し合った……それはプレイスタイルが合わなかったとか、パーティー中に何かトラブルになって仲違いしたとか……そういう事なの?」

 

 キリトの表現を、シノンは大げさだと一蹴する事無く受け止めようとする。だが確認する彼女の言葉にこれ以上答えれば、自ずとオレ達の経歴―――SAO生還者(サバイバー)である事が露見する。

 

 「ごめん、その問いには答えられない……今言えるのは、ヤツと俺達には因縁があって、どうしても決着をつけなければならないって事だ」

 

 「因縁……決着……殺し合い……」

 

 水色の髪を揺らし、キリトの言葉を反芻するシノン。突飛な事を言った筈だが、それを真剣に考えようとするのは相棒の人徳が為せる業だろうか。それとも彼女の勘の鋭さ故だろうか。

 

 「―――それでも君は選べるのか?」

 

 「っ!?」

 

 低く囁かれた言葉に、キリトの華奢な肩が震えた。何故そんな言葉がシノンの口から零れたのかは不明だが、身に覚えがあるらしい相棒は目に見えて驚いていた。

 

 「キリト、貴方は……貴方達は、もしかして―――」

 

 「―――そろそろ時間だ。待機ドームに行くぞ」

 

 マズい。そう感じたオレは、やや強引に話を切り上げて立ち上がる。時刻はいつの間にか午後七時に差し掛かっており、ギャラリーと共に騒いで英気を養っていた参加者達の数も幾分か減っていた。

 

 「そうね……ごめんなさい、必要以上な事聞いて」

 

 「いいさ。こっちも色々と迷惑かけた」

 

 気にしていないと手を軽く振り、やや足早にエレベーターへと向かう。幸い同時に待機ドームへ向かう者がいなかったので、到着したエレベーターに乗り込んだのはオレ達三人だけだった。とはいえ先程の影響もあって、誰もが無言を貫いていた。地下三十階まで下降していく時間がやたらと長く感じられ、通過していく階数をぼんやりと眺めていたところで、背中に何か小さなものが押し当てられた。

 

 「貴方達に事情があるのは分かったわ。でも、私が昨日の……そして前回の借りを返すのは別の話よ。他の誰かに撃たれたら、許さない」

 

 銃口―――ではなくそれに見立てた指先だろうか。一方的な宣告ではあったが、言葉に込められた闘志や熱量は本物だ。

 

 「善処するが、確約はできねぇぞ?」

 

 死銃(デス・ガン)を最優先する以上、安請け合いはできない。それ故に口をついて出てきた答えは曖昧なものだった。

 

 「弱気だなクロト。大丈夫、俺達なら何とかなるさ―――だろ、相棒?」

 

 「言ってくれるぜ。ま、そう言われちゃ応えてみせるさ―――相棒」

 

 互いに背後からシノンに指を突き付けられたまま、軽く拳をぶつける。

 

 「約束するよ、シノン。俺もクロトも、君との決着をつけるまで生き残る」

 

 「……ありがとう」

 

 それは何に向けての感謝なのか。問いかけるよりも先に、エレベーターが停止し扉が開いた。ただ先程キリトと拳を合わせた時に視界の隅に映った、何かを羨むような彼女の眼差しが、心の端に引っ掛かった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 BoB開始から、およそ三十分後―――二度目のサテライト・スキャンが間近に迫る中、オレは都市廃墟の北東にあるRC(鉄筋コンクリート)造のオフィスビルの三階で身を潜めていた。耳を澄ませばこちらの姿を求めて駆け回る敵の足音が微かに聞こえ、一層周囲の気配に気を配る。

 

 (まさか……結託する輩がいたとはな……!)

 

 そう心の内で愚痴を呟いてから、自分達もその輩と同類だったかと気づいて自嘲する。

 スタート地点が荒野エリアと草原エリアを区切る川の傍で、最初のスキャンで確認したキリトの位置がほぼ反対側の森林エリアだった。しかも同エリアには死銃(デス・ガン)候補の一人であるペイルライダーの表示もあり、相棒ならば合流よりもペイルライダーへの対処を優先すると考えて急いで都市エリアを突っ切ろうとした。そこでスキャンを見てオレを狙ってきたらしいプレイヤーと、都市廃墟エリアの北西部で遭遇したのだが―――

 

 (―――初手に信号弾打ち上げるとか……何でこんな時だけ即興の連携ができてんだよ……!?)

 

 相手はオレへのファースト・アタックを放棄し、事前に結託していたであろう他プレイヤーを呼び寄せたのだ。オレは大慌てでその男を倒したが、不運にも第二、第三の結託者が近くにいたらしく立て続けに襲撃され、合計四人のプレイヤーに追い回された。

 一応信号弾の上がった位置からは距離を取れたと思うが、結託した連中以外に信号弾に惹かれてどれだけのプレイヤーが寄ってきているのか……確認したいが、とても二回目のサテライト・スキャンを確認する余裕は無い。それに足音もさっきよりは確実に大きくなっている。

 

 (だが、まだ下の階か……なら)

 

 ポーチから空になったマガジンを一つ、ストレージから火薬式のグレネードを二つ取り出すと、足音を殺して階段へ向かう。

 このビルの階段室はシンプルな長方形の部屋が最下階から最上階までずっと続いており、階段の内側には高さ一メートル程度のコンクリート製の手摺壁がある。その手摺壁に身を顰め、空のマガジンを踊り場に向けて放り投げる。マガジンは決して小さくはない物音を立てながら転がり、直後足音が接近する速度が上がった。

 

 (まだ……もう少し……今!)

 

 音を頼りにタイミングを計り、グレネードから安全ピンを抜いて放り投げる。直後、引っ掛かった相手の悪態と爆音が耳朶を叩き、衝撃が仮想の体を揺らす。

 

 (もう一丁!)

 

 足場の崩壊を恐れてプラズマグレネードを使わなかった為、仮に相手がガチガチに防御を固めていた場合グレネード一つでは殺しきれない恐れがある。ダメ押しの二つ目を同様に放り投げ、オレは階段室を離れて道路側に窓のついた部屋へと転がり込む。背後で二度目の爆音が轟くなか、ストレージから鉤付きのワイヤーロープを取り出して鉤を窓枠に引っ掛ける。幸いサッシは強度のあるスチール製、それも原型を残している事からすぐ崩れる心配も無さそうだ。これが軟らかいアルミサッシだったらヤバかったが、今回は結果オーライっと。

 

 「ふっ!」

 

 外に敵がいない事を素早く確認し、迷わず外へと身を躍らせる。手にしたワイヤーを命綱替わりに壁伝いに道路へと降り、地に足を付けた所でワイヤーをストレージにしまう。

 

 (早くトンズラしねぇと……まだ三人は残ってる筈―――!?)

 

 夕日が差し込まず、薄暗くなっているエントランスホールの奥で、うごめく何かを視認した瞬間にオレは横っ飛びに身を投げ出した。半秒前まで立っていた位置を無数の弾丸が通過していき、急いでオレは体勢を立て直す。

 

 「いたぞっ!下だああぁぁ!!」

 

 「だあぁぁしつけえぇぇぇ!!」

 

 堪らず怒鳴り返すが、彼我の距離は二十メートル程度、こちらにとっても射程内だ。向こうは先の掃射で弾切れらしくマガジンを交換しており、オレは素早くP90を構えて照準、発砲する。しかし冷静さを欠いたオレもたちまち一マガジン分を撃ち切ってしまった。辛うじて相対していたプレイヤーを討ち取る事こそできたが、倒れた相手のさらに奥から現れた二人からの射撃を浴びせられ、回避に専念せざるを得なかった。

 

 「リア充死すべしぃぃぃ!」

 

 「キリトちゃんがいながらシノっちにまで手を出しやがってええぇぇぇ!!」

 

 銃声に混じって、独身の廃人ゲーマー(リアルソロプレイヤー)の怨嗟の声が聞こえた。銃声に負けない声量を発揮した原因が何ともしょうもないと思うのは、オレが奴等の言うリア充だからだろうか。

 大きく開かれたエントランスホール内のコンクリート柱に何とか身を隠し、やっとの思いでマガジンを交換する。ここに来るまでに手足に数発被弾し、残存HPが六割近くにまで減ってしまった。

 

 (敵は一方向とはいえ二人……まともに撃ち合ったら先に削り切られる……!)

 

 特にオレはSTR(筋力)AGI(素早さ)を優先し、耐久力に関しては決して高くない。そして向こうの得物は一人が大型の機関銃、もう一人が取り回しに秀でていそうな、サブマシンガンらしき小型の銃器だった。

 

 「出てこい卑怯者ォッ!!」

 

 「自分の女見せびらかしやがって、大人しくハチの巣になれやゴラァ!!」

 

 (死銃(デス・ガン)でも、シノンでも……ましてや闇風でもねぇヤツに―――負けられるかっ!)

 

 二回目のスキャンはとうに過ぎており、早くあの二人を倒してこの場から離れなくては、漁夫の利を狙ってやってくるかもしれない第三者に襲撃される恐れがある。

 

 (キリト……無事でいろよ……!)

 

 恐らく一人でペイルライダー……死銃(デス・ガン)に仕掛けているであろう相棒の為にも、こんな所で死ぬ訳にはいかない。一つ深呼吸をして、呟く。

 

 「―――邪魔だ」

 

 カチリと意識が一段、殺戮者(バケモノ)側へとシフトした。

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