SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 やっと……やっとアニメが見れた……!(ニコニコで一週間遅れだけど)


九十九話 呪いの引き金

 サクラ サイド

 

 狩りを終えたわたし達は、イグドラシル・シティにあるアスナさんとキリトが共同で借りている一室に集まっていた。

 

 「―――あんな狭いトコで跳ぶわ転がるわ……クロの字で間違いねぇな」

 

 「はい、身のこなしや動きのクセが、クロトさんとほぼ一致しています!」

 

 クロトとキリトが現在GGOで参加中のPvPイベント、バレット・オブ・バレッツ(BoB)の中継映像を眺めていると、確信した様子でクラインさんとユイちゃんが声を上げる。ALOと違いカタカナで記された’クロト’が画面に映った時、彼はどういう訳か立て続けに複数のプレイヤーから攻撃されていた。大小様々なオブジェクトが転がる市街地廃墟を、彼はとてもよく見慣れた変則的な三次元機動を駆使して逃げ、態勢を整えて反撃し返り討ちにしていた。その流れるような手際が少しだけ、普段の彼よりも機械的で冷酷な感じがしたけれど、無事に切り抜けてホッとする。

 

 「よかったぁ……やられなくて」

 

 「でも、どうしてクロトさんは狙われたんでしょうか?」

 

 戦闘を終えて移動するクロトが画面から消えた時、安堵からわたしが声を漏らすと、シリカちゃんが耳を揺らしながら疑問を口にした。

 

 「アイツ前回は準優勝だったんでしょ?なら優勝候補を先に潰そうって結託してたんじゃない?」

 

 「……それにしちゃあの連中、泣いていたように見えたぞ」

 

 「んー、気のせいでしょ」

 

 フィリア、クラインさん、リズさんの順に声が聞こえ、先程クロトに倒されたプレイヤー達を思い返す。確かに彼らがクロトへ向けていた表情は、まるで親の仇を見るかのような形相だったけれど……流石に泣いてはいなかった……と、思う。もしかしてクロト、知らず知らずのうちにあの人達を怒らせる事をやらかしたのかな?口が悪い所はずっと変わってないから、割とありそう。

 

 「クロトさんに引き換え、お兄ちゃんは全然映らないなー」

 

 「きっと兄さんなりに考えがあると思うよ、姉さん」

 

 「そうそう、キリの字はああ見えて計算高い所があっからな。参加者がテキトーに減るまではどっかで隠れてるかもしれねぇぞ」

 

 「いくらキリト君でも、そこまでしないと思うなぁ。そういうちょっとあくどい考えって、クロト君の役目だし」

 

 「アースーナーさーん?それクロトの事貶してませんか?」

 

 本気で言っている訳ではないと分かっているけど、わたしは唇を尖らせてしまう。自分でも子供っぽいと自覚しながらも、ついやってしまった。

 

 「ごめんごめん、怒らせるつもりはなかったの」

 

 「誤解しやすい言い方でしたが、ママもパパも、クロトさんの機転の良さを頼りにしていますよ。今だってきっとパパなら、クロトさんを見習って速攻で不意打ちしまくりですよ!」

 

 「あー、確かに。先月くらいにやった潜入系のクエストの時、クロト君って邪魔な敵全部やっつけてたわね……それも不意打ちで。今思い出すと、よくバレなかったわね」

 

 「兄さんなら絶対に真似しますよソレ。クロトさん相手にはホント遠慮せず対抗意識燃やしますから」

 

 ハル君の言葉に、誰もがクスクスと笑い声を漏らす。だって今彼が言った通りの様子のキリトとクロトがありありと想像できてしまうもの。

 その後も何故キリトが予告も無しにGGOへコンバートしたのかや、そこに偶然クロトがアカウントを持っていた事について二人の腐れ縁も何処まで続いていくんだろうかなんて談笑しながら、わたし達は中継映像を眺めていた。しばらくすると、十六分割されたスクリーンの内の一つに映る戦闘が、佳境を迎えた。

 

 「うっひゃぁ……クロトの他にも三次元機動で戦おうって強者がいたのね」

 

 「しかも動きに迷いが無かった……今のスタイルで相当やり込んでなかったらできないわ」

 

 「もしクロトさんと戦ったら、どっちが勝つんでしょうか」

 

 フィリア、アスナさん、シリカちゃんが呟くと、みんな一様に考え出す。クロトが勝つって信じたいけど、相手の銃は当たったらかなりの硬直を課せられるし、まとめて何発も撃ち出されていたみたいだった。それを全部躱して、あのライダースーツ姿の人を倒すのは……流石にクロトでも難しいかもしれない。

 

 「まぁやってみなきゃ分からないでしょ。とりあえずは厄介な強敵になりそうって所で―――あ!?」

 

 「撃たれちゃいましたね。しかも不意打ちです」

 

 「ははっ、見えねぇ所からズドン!ってのは銃ゲーじゃよくあるこった。やっこさんもツイて無かったな」

 

 件の人―――名をペイルライダーというプレイヤーが画面外から飛来した弾丸を受けて仰向けに倒れると、リズさんが思わず声を上げる。ハル君とクラインさんが苦笑すると、リズさんは顔を顰めて画面を操作しペイルライダーを拡大する。

 

 「う、撃たれたって言ってもまだHP残ってるじゃない。ゲームなんだし、すぐ起き上がって……あれ?」

 

 「あ、リズさん。右肩に弾が残って、何かエフェクトが出続けてます」

 

 「まるで風魔法のサンダーウェブみたい……スタン効果でもあるのかな?」

 

 シリカちゃんの指摘に、リーファちゃんはポニーテールを揺らしながら疑問を零したその時だった。

 

 ―――横たわるペイルライダーの傍に、突如人影が現れる。

 

 「……誰?」

 

 わたし達の誰かが呟くと、それに呼応するかのように、ゆらりとその人は顔を上げた。全身をボロボロな意匠が目立つマントで覆い、目深に被ったフードからは、髑髏の仮面が覗く。一瞬幽霊の類じゃないかと思ったけど、マントの端から伸びる脚はしっかりと地面を踏みしめていて、大きなライフルを抱えた両腕も包帯を隙間なく巻いてこそいるけれど……キチンとその場に存在している。

 

 (でも、何なの……?)

 

 言葉にできない威圧を放つぼろマントからは、根拠を言い表せないイヤな感じがして目を離せない。

 

 ―――何故か武器をライフルから一転して貧弱そうなピストルへと持ち替えても。

 

 ―――十字を切るジェスチャーの後、銃を構えても。

 

 心の奥底で、何かが引っ掛かる。それを思い出そうとする自分と、呼び起こしてはいけないと警告する自分。その葛藤がわたし以外にもあったのか、誰もが声を発する事を忘れて固まっていた。

 

 ―――画面外からの銃撃を躱したぼろマントが再び銃を構え、引き金を引いた。

 

 表情の読めない髑髏の仮面が一瞬、笑うように歪んだ姿を幻視した時……何か取返しのつかない事が起きてしまったと、背筋に悪寒が走った。

 でも、何も起きない。胸を撃たれたペイルライダーはHPが幾何か減少こそしたけど健在で、丁度身動きを封じていたスタン効果を示すライトエフェクトが消失した。戒めから解かれた相手に銃を向けられても、ぼろマントの方は動じない。距離を取ったり、向けられた銃を避けようとするどころか身じろぎ一つしないぼろマントの目の前で、ペイルライダーは引き金に指をかける。

 誰の目にもペイルライダーの勝利は明らかで、あの不気味なぼろマントはここで敗北する。その筈、だったのに。

 

 「―――え?」

 

 地に伏したのは、ペイルライダーの方だった。ピストルを撃った後から、あのぼろマントは何もしていない(・・・・・・・)。それなのに。

 困惑するわたし達を置いて、時は進む。再び横たわる事になったペイルライダーは、震える左手で自分の胸元を掴み、反対の手を虚空へと伸ばす。その手が何かを掴むより先に、アバターが消失してしまった。

 

 「回線……切断……?」

 

 さっきまでペイルライダーがいた場所に表示された無機質な文字列を、わたしは思わず読み上げていた。あの瞬間、ペイルライダーを操るプレイヤーの脳とGGOサーバーとの電気信号が何らかのトラブルで途絶えたという理屈はすぐに分かったけど、何故今起こったのかが全く分からない。

 ペイルライダーの回線落ちを示す文字列を踏み荒らし、ぼろマントが画面いっぱいに映り込む。髑髏の仮面の中で不気味に揺らめく赤い眼が、再び心の奥底にある何かを起こそうとしてくる。

 

 「おれと、この銃の、真の名は……死銃(デス・ガン)

 

 画面にピストルを突き付け、切れ切れに発せられた声。それに込められたドス黒い感情が、過去の記憶を……記憶、を……。

 

 「おれは、いつか、貴様らの前に、現れる。そして、この銃で、本物の死をもたらす。おれには、その、力がある」

 

 今引き金を引かれたら、画面を越えて撃たれる。そんなあり得ない事象を想像させる程に、聞こえる声は冷たく、悪意に満ちていた。

 

 「忘れるな。まだ(・・)終わっていない(・・・・・・・)何も(・・)終わっていない(・・・・・・・)

 

 これ以上聞いてはいけない。思い出してはいけない。耳を塞げと、ぼろマントを見るなと警鐘が鳴り響くけど、体は凍り付いたように言う事を聞いてくれない。

 

 「―――イッツ・ショウ・タイム」

 

 「っ!」

 

 ぼろマントが赤い眼を怪しく光らせて告げた、呪いの言葉。それが呼び水となって、忌まわしい記憶が一気に溢れ出す。途端に吐き気を催し、咄嗟に両手で口を抑える。

 

 「あ、ああ……っ!」

 

 「いけねぇ!ハルっ!!」

 

 ハル君とクラインさんの手からグラスが落ちて砕け、さらにクラインさんは座っていたスツールを蹴倒す勢いでハル君の元へ跳んできた。

 

 「やだ……やだよ……兄さん、どこなの……助けてよぉ……!」

 

 「ハル!?どうしたの!?ねえ!」

 

 尋常じゃない程に震える手足を引き寄せ蹲ったハル君。頭を抱える手の隙間から見える彼の表情は病的なまでに青ざめて、わたしよりもずっと大きな恐怖に吞まれていた。弟の急変に理解が追いついていないものの懸命に呼びかけるリーファちゃんの声が届いているのかも怪しいほどに、怯えきっていた。

 

 「リーファちゃん、ハルを力いっぱい抱きしめるんだ!自動切断して一人にしちまう方がマズい!」

 

 「は、はいっ!」

 

 どうしていいか分からず慌てていたリーファちゃんは、ほぼ反射的にクラインさんの言葉に従っていた。縮こまっていたハル君を強引に引き寄せ、胸に抱き込むと、その温もりに縋りつくように彼の両手が彼女に回される。

 

 「あいつ……う、ああ……また、殺され……あああぁぁぁ!!やだっ!死にたくない!」

 

 「ハル、大丈夫だ!ここに奴らはいねぇ!お前は一人じゃねぇんだっ!!」

 

 「ハル、あたしがいるよ!大丈夫!お姉ちゃんがついてるから!!」

 

 SAOから引き継いだ彼のアバターは十二歳当時の体格で、リーファちゃんに抱きしめられている姿は怯えた幼子そのもの。姉の腕の中で怯えきった叫びを上げ続け泣きじゃくるハル君の様子に皆が驚き、やがて悲鳴が嗚咽に変わった頃に、躊躇いがちにリズさんが口を開いた。

 

 「い、一体どうしちゃったのよ?っていうかクラインは心当たりがあるの?」

 

 「……ああ。あいつは……あの髑髏仮面の野郎は、元ラフコフだ……!」

 

 「っ!?」

 

 ラフコフ―――SAOで恐怖の象徴とされた史上最悪の殺人(レッド)ギルド笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の略称を耳にし、リーファちゃん以外の皆が一斉に息を呑む。

 

 「まさか、あのぼろマントは……リーダーだった包丁使い……?」

 

 「いや、Poh(プー)のヤツじゃねぇ……アイツはもっとマシンガンみてぇに流暢に喋るヤツだった」

 

 抑えきれない恐怖を滲ませながらアスナさんが尋ねると、クラインさんは首を振る。わたしも這い上がってくる恐怖を堪えて、捕捉するべく口を開く。

 

 「あの人はもっと扇動的で、見世物を盛り上げるように大仰に語っていました……あの時も……そうやってクロトを煽って……わたし、を……!」

 

 殺せと部下に命じた、とは言い切れなかった。わたしの命を断ち切ろうと、狂気に満ちた刃が迫ったあの瞬間の記憶に、体が竦む。

 

 「サクラ、貴女まで無理して……!」

 

 「大丈夫、です。ハル君に比べれば、わたしなんて」

 

 「アスナの言う通り、無理しないの。いいからこっち来なさい!」

 

 リズさんに半ば強引に手を引かれ、わたしは彼女の隣に腰かける。

 

 「ほら、アンタも顔色悪いわよ。意地張らないでちゃんと頼りなさいって」

 

 「はい……すみません」

 

 やや大雑把な手つきで、リズさんが頭を撫でてくれた。でもその手は僅かに震えていて、彼女だってラフコフの存在に恐怖を感じていない訳じゃないんだって気づいた。その上でわたしの事を気遣ってくれるリズさんには、感謝しかない。

 

 「あの、そのラフコフって、何ですか?ハルに、一体何があったんですか……?」

 

 「あのね―――」

 

 腕の中で未だにガタガタと震え続ける弟を宥めながら、躊躇いがちにリーファちゃんはわたし達に尋ねる。それを皆で補足したり、恐ろしさから一時喋れなくなれば誰かが引き継いだりしながらも何とかあの凶悪な殺人集団の誕生から壊滅するまでを説明した。

 

 「―――あのぼろマントが最後に言ったイッツ・ショウ・タイムってのは、リーダーだった男の決め台詞だったんだ。けどそれを知ってんのはヤツに近かった幹部クラスの連中や、アイツと遭遇したり、本気で警戒して調べてた一部のプレイヤーだけなんだ」

 

 「ちょ、ちょっと待ってください。それじゃまるで……まるでハルが、そいつと出会ってるみたいに……」

 

 「そんな生易しい事じゃないわリーファ。私もあの二人から結果だけ聞いたんだけど……殺されかけたの」

 

 「え……?」

 

 クラインさんとフィリアが告げた事実に、リーファちゃんは目を見開いた。告げられた言葉を理解する事を拒むように、ポニーテールを揺らしながら頭を小刻みに震わせる。

 

 「元々Pohとキリト達は何度か会った事があってな。結果的とはいえ、あの二人は野郎の撒いた悪意の種を幾らか摘み取って邪魔してたんだよ。けどその所為で目ぇ付けられて……キリトを絶望させる為の人質として、ハルが攫われた」

 

 「お兄ちゃんを……絶望させる……?そんな理由で、ハルが……?」

 

 「勿論キリトは必死に戦ったさ。居合わせたおれ達も一緒に戦って、どうにかハルは取り戻せたんだが……本当に取返しがつかなくなる寸前だった」

 

 クラインさんの話から、当時のキリトの様子がフラッシュバックした。彼の憎悪に満ちたあの叫び声や、クロトにまで殺意の剣を向けた姿、そして―――何も映らない空虚な闇色の瞳。どれもが今のキリトからは想像できないくらいかけ離れている。

 

 「そんな事が……ハルに……お兄ちゃんに……!」

 

 くしゃりと表情を歪めて、リーファちゃんはより一層ハル君を強く抱きしめた。少しの間俯いて頬を弟の頭に寄せると、何かを思い出したのか顔を上げる。

 

 「……きっとお兄ちゃん、昨日の予選で気づいてたんだと思います。さっきの人が、GGOにいる事」

 

 「ど、どういう事なの、リーファちゃん!?」

 

 「今思い出すと、夕べのお兄ちゃん、ちょっと様子がおかしかったんです。どこかぎこちなかった感じがして……何より、いつも以上にハルの事を目で追っていました」

 

 「なら……クロトも……?」

 

 連絡が全く無かったのは、上手く隠せない事が気づかれないようにする為だった……?うん、きっとそうする。自分の大切な人を守る為なら、他のどんなものが犠牲になる事を厭わない……自分自身を含めて。それがクロトだから。

 

 「何よそれ……バイトじゃ無かったの?一番重要な事をあたし達に隠して、キリト達はGGOに行ったっていうの……?」

 

 リズさんがあげた疑問はわたし達全員が思った事であり、当然誰も答えられる筈も無い。誰もが沈黙した中で、アスナさんが立ち上がった。

 

 「―――私、一度落ちて連絡とってみる」

 

 「アスナ?連絡とるって、一体誰に?」

 

 「キリト君の依頼主―――クリスハイトを、ここに呼んでくるわ」

 

 静かに燃える炎のような強い意志を宿した眼差しと共に、一時の静寂を破った彼女はそう宣言した。




 十三話のラストのクライン……恰好良すぎ!
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