SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 お、お久しぶりです……

 今回も結構な難産でした……


百六話 凶刃、憎悪、覚悟

 キリト サイド

 

 死銃(デス・ガン)に左肩を貫かれた瞬間、仮想世界では感じる事の無いはずの感覚―――痛みが全身を駆け抜けた。

 

 「あぐっ…!」

 

 渾身の『ヴォーパル・ストライク』を躱されたうえに反撃をもらってしまった事に驚愕しながらも、体は反射的に後ろに跳んで距離を取っていた。

 

 「ク、ク、ク……」

 

 髑髏仮面の眼が怪しく発光する。死銃(デス・ガン)の喜色を隠しきれていない声が、俺の神経を逆撫でする。

 いや違う。目の前に佇むぼろマントの一挙手一投足が、ラフィン・コフィンについての記憶を引っ掻いてまわるのだ。まるで……まだ思い出していないのかと嘲笑うかのように。正体の見えない相手故か、封じ込めていた討伐戦の記憶が脳裏に映る故か、気を抜けばすぐさま死銃(デス・ガン)の放つプレッシャーに膝が屈してしまいそうになる。それを隠そうと、思い切って声を上げる。

 

 「珍しい武器だな……その剣がお前の奥の手か?」

 

 少し前にシノンによって銃を破壊されたぼろマントが握る、針のようにも見えるモノは剣だ。刺突に特化し、切先のみ刃を持つソレはカテゴリー的には刺剣(エストック)。SAOでは使用できるソードスキルの一部が細剣と同じだったと記憶している。

 

 「そうだ……だが、この剣を見て、まだ、分からない、のか」

 

 「どういう意味だ?ただの刺剣(エストック)モドキだろう」

 

 「そうか、そうか……なら、もう一度、思い出させて、やろう」

 

 もう一度、思い出させる。その言葉が見えない手となって俺の心臓を鷲掴む。

 

 ―――やめろ。その言葉に耳を貸すな。その声を聞くな。手にした剣で今すぐに断ち切れ。

 

 目の前にいるぼろマントはただの犯罪者だ。元ラフィン・コフィンだろうが、俺との間に何があろうが、今は関係無い筈だ。頭ではそう分かっているのに、四肢は凍り付いたように言う事を聞いてくれない。

 

 「あの、戦い」

 

 吸う息が酷く冷たい

 

 「この、剣で」

 

 体が震える

 

 「おれは、お前の―――」

 

 足元がおぼつかない

 

 「―――弟を、殺した(・・・)

 

 「あ……あぁ……!」

 

 記憶の蓋がこじ開けられ、溢れ出す。剣で貫かれて存在を砕かれた弟の姿が、助けを求めた瞳が、腕の中から消え去った感覚が、次々と蘇っていく。

 

 「ああああ!」

 

 赤い目。刺剣(エストック)。ハルを殺した存在。心が、どす黒いもので塗り潰されていく。

 

 「ザァァザァァアア!!」

 

 燃え上がる憎悪のままに叫び、駆ける。自分の中で、何かがひび割れていく感覚が、ひどく煩わしい。

 

 (殺す殺す殺すコロス―――!)

 

 色を無くし、歪んでいく視界の中で、ザザだけが鮮明に映る。

 

 「そうだ……!怒れ!狂え!そのお前を、殺してこそ―――おれは、真のレッドに戻れる!!」

 

 血のような色をしたヤツの眼が、唯一の色彩だった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 桜 サイド

 

 「結城さんと天野さんですね?お話うかがって―――桐ケ谷君!?」

 

 わたし達がクロト達の所にやってきた直後、キリトの様子が急変した。警告の意を持った電子音が病室に響き、それに混じって彼の荒い呼吸音が耳朶に届く。

 

 「キリト君……まさか……ユイちゃん、GGOの中継映せる!?」

 

 「はい!壁のパネルPC回線をMMOストリームのライブ中継と接続します!」

 

 壁に設けられた大型のモニターにGGOのロゴが表示された後、ついにBoBの中継映像が映し出される。

 

 「キリト君!!」

 

 明日奈さんが悲鳴を上げる横で、わたしは息を吞まずにはいられなかった。画面の中、長い黒髪を振り乱して剣を振るうキリトの姿は、普段の彼とはかけ離れた、野獣のように荒々しくて。憎悪に塗り潰された表情や闇色の瞳は、見ているだけで胸が苦しくなる。

 

 (間に合わなかったの……?)

 

 キリトがあんなにも激情に駆られる理由。それは死銃(デス・ガン)の正体がザザ―――ハル君を一度殺した仇だと思い出した以外に考えられない。どういう訳か、今のキリトの隣にクロトはいなくて、彼の暴走を止められる人があの場所にはいない。

 

 「まだ命にかかわる訳じゃないけれど、まずいわね……急に心拍が上がったのもそうだけど、さっきからかなり汗をかいているから……脱水の危険があるわ」

 

 「脱水症状になる前には、アミュスフィアが自動カットしてくれます……」

 

 「そう……なら、もう少し様子を見るわ」

 

 「はい。明日奈さん、気を確かに持ってください」

 

 掠れる声で何とか看護師さん……安岐さんと言葉を交わしたわたしは、青白い顔で肩を震わせる明日奈さんの手を握る。その際にベッドに横たわるキリトの傍にあるモニターに目を向けると、激しく乱れた軌道を刻むグラフが見えた。

 

 (わたしが、しっかりしなきゃ……でも、今ここで何ができるの……?)

 

 クロトとキリト、二人の傍で少しでもその背中を押したい。その一心で、明日奈さんと一緒にここまで来た筈なのに。考えても考えても、何をすればいいのかが分からない。

 

 (弱気になっちゃダメ……!今は、二人を信じるのよ……!)

 

 GGOにはクロトがいて、キリトは独りじゃない。だからきっと、何とかなる。

 

 「―――キリト君!?」

 

 「明日奈さん!落ち着いてください!」

 

 自らを省みない憎悪に満ちたキリトの攻撃の中、左腕を犠牲に掻い潜ったザザの凶刃が、とうとう彼を捉えてしまった。大きな針のようなエストックが、下からすくい上げるようにキリトの頭部―――左目から額にかけて、一筋の傷を刻み込んだ。

 病室内に鳴っていた電子音が、途端に激しくなる。ベッドに横たわるキリトに飛びつかんばかりの勢いで振り返る明日奈さんを何とか宥めるけど、視界の端に映った彼のモニターでは自動カットされるギリギリまで心拍が跳ね上がっていた。

 額はキリトにとっては弱点だ。ALOで須郷さんに刺された時には意識を失いかけていたし、その後もゲームの最中にそこへ被弾して動きが鈍ったり、強攻撃を受けて動けなくなったりした事もある。

 そこを今、トラウマを刻んできた相手(赤目のザザ)に抉られた。光る剣を取り落とし、崩れるように蹲ったキリトを訝しんだ様子のザザが一度は手を止めるけど、徐に一歩、また一歩と近づいていく。

 

 「ダメ……やめて……」

 

 「桐ケ谷君に何が起きてるの!?どうして、立ち上がらないの……?」

 

 「彼、額に古傷があって……そこが弱いんです」

 

 「古傷……そういう事ね」

 

 充分とは言えない筈のわたしの言葉に、安岐さんは何かを悟った様子で眉根を寄せた。

 

 「このままだと、いつ桐ケ谷君の方が自動カットされるか……それに(くろがね)君もあの敵と対峙して、同じようにならないか心配だわ……」

 

 (そうだ、クロトだって……あの時の事が消えない傷になっている筈よ……)

 

 キリトのように、ザザとの因縁やトラウマがあるとは聞いていないけれど……何も起きない、なんて有り得ない。

 

 「クロト……!」

 

 キリトの隣で、同じように横たわる大切な人。彼がザザと対峙し、その正体に気づいた時……キリトみたいに苦しむ姿を想像してしまう。

 

 「キリト君……!」

 

 握ったままだった明日奈さんの手に痛いくらい力が入る。強く唇を噛む彼女の視線の先、パネルPCでは蹲っていたキリトが蹴り飛ばされ、砂地の上を転がっていた。そうして数メートル程の距離が開いた所で、突如ザザがバックステップを踏んだ。

 何故、と首を傾げるよりも先に画面外からザザへと無数の弾丸が襲いかかり、銃撃がやんだ頃には彼とキリトの間に第三のプレイヤーが現れた。

 

 「クロトぉ……!」

 

 恐れが胸中に広がる一方で、安堵の灯が宿る。相反する二つの感情を抱きながら、画面から目を離さない。

 

 「あれが、鉄君……何か喋っているみたいだけど……すごく落ち着いているわね」

 

 画面越しであっても、込められた悪意を感じ取れる程に怪しく発光するザザの眼。声が聞こえなくても、彼がクロトにも自分の正体を明かしたであろう事が何となく分かった。

 

 「……え?」

 

 そう声を漏らしたのは、わたしと明日奈さんのどちらだったか。ザザの言葉をどこ吹く風とばかりに聞き流しながら、銃を足元に放棄したクロトは次の瞬間、ザザに斬りかかっていた。

 

 「クロト、君……?」

 

 明らかに話途中に見えたザザの左胸付近に一条のダメージ跡が刻まれた。遅れて剣を振るい始めたぼろマントに対して、クロトは二振りのナイフと体術でもって攻め立てる。その軌道は先程のキリトのように感情に任せたものじゃなくて……愚直なまでに相手を追い詰め、その果てに倒す……ううん、殺す(・・)という、冷たく静かな意志しか感じられなかった。

 

 (でも何か、あの時と違う……?)

 

 自分にとって優先度の低い人の死を厭わない冷酷な一面を、クロトは化け物として恐れていた筈なのに。画面の中でザザと戦う彼の瞳には、確かな光が宿っていた。

 震える体を叱咤して、ベッドに横たわるクロト本人を見る。静かに胸を上下させる彼の心拍は、先程見た時より幾らか上昇しているけれど。

 

 (安定……してる!?)

 

 隣で横たわるキリトと違い、危うさは感じられない。

 

 「どうして……平気なの……?」

 

 クロトだって、ザザが……元ラフィン・コフィンが相手で、あの討伐戦の時の記憶を思い出してしまったら、絶対に普通じゃいられない。そう思っていた。

 だけど実際の彼は今、ザザ相手に取り乱す事なく戦えている。そのことに疑問が湧き上がる。

 

 「本当、だったのね。桐ケ谷君と同じ悩みなんてないっていうのは」

 

 「え?」

 

 安岐さんの呟きに、わたし達は弾かれたようにそちらへ視線を向ける。すると彼女はキリトとクロトの二人を気遣うように見つめながら、教えてくれた。

 

 「桐ケ谷君は……ソードアート・オンラインで、人を殺したって言ってた。その苦しみは、私には分からないけど……自分の事を許せないって思い詰めていたの」

 

 「キリト君が……」

 

 「でも鉄君は、平気だって言い切ってたわ。自分が助けたい……守りたい人達が無事なら、それでいいんだって」

 

 「あ……」

 

 安岐さんの言葉が、胸の内にすとんと落ちる。今クロトの後ろには親友(キリト)がいて、目の前には大切な人を害する敵(ザザ)がいる。

 なら、クロトは迷わず敵を討つ事を―――化物に堕ちる(斬り捨てる)事を選ぶ。彼にとってはただそれだけの簡単な選択でしかない。

 

 (わたし……バカだ……)

 

 クロトは何も変わっていない。ただ目的の為に、今まで恐れていた自分の一面と向き合っているだけだったのに……今まで全然気づけなかったなんて。

 

 「本当は……普通の高校生が抱えていい事じゃないのよ……桐ケ谷君達の悩みは」

 

 「……大丈夫です。わたし達が、彼らを独りにはしません」

 

 「桜……」

 

 明日奈さんと繋いでいた手を離し、そっとクロトの手に触れる。ひやりと伝わる低めな体温を温めるように、両手で彼の手を包み込む。

 例えどんな事があっても、わたしが同じように堕ちて隣に立つ事を、クロトは絶対に望まない。ずっと綺麗な場所にいてほしいって願うだろう。今回のように。

 

 (でもね……ただ守られるだけなのは、嫌だよ……クロト)

 

 やっと分かったキリトの葛藤やクロトの覚悟。それなら、わたしは―――彼を照らす灯りになろう。わたしやキリト達、大切な人の為なら、どこまでも暗く、冷酷な化物に堕ちていくクロトが、最後にちゃんと帰ってこれるように。光の当たる世界が、彼の居場所であり続けられるように。

 

 (貴方の帰る場所は、ここだよ……)

 

 祈るように、瞼を閉じた。

 

 ―――今の貴方に、わたしの声が届かないのだとしても。貴方を想い、焦がれるこの心は届くと信じて。




 転スラや無職転生と、面白いアニメがあるのはいいですねぇ……

 無職転生の方は続きが気になり過ぎてWeb版の方を読破してしまいました。
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