SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 大変長らくお待たせいたしました。

 前回投稿後に仕事のアップダウンの波が大きくなった事とスランプが重なり、ぜんっぜん筆が進まない日が続きまして(汗)

 あ、でも映画のプログレッシブはどうにか見に行く時間捻りだして見てきました。


百十一話 顔合わせ

 クロト サイド

 

 アルンの街の端、マップに表示されない裏通りを進んだ先にひっそりと存在する開かずの扉。昏睡状態のままだったサクラとアスナを助ける旅の途中で偶然縁を結んだ象水母型邪神―――トンキーが送ってくれた道へと続くその扉は、リーファが持つ鍵でしか開かない。扉の先は非常に長い階段となっていて、オレ達一行はそれをひたすらに駆け下りていた。

 

 「い、いったい何段あるのこれぇ……」

 

 「えーっと確か、アインクラッドの迷宮区タワー丸々一つ分だったかな?」

 

 リズのぼやきに答えたアスナの言葉に、一行の殆どが辟易した表情を見せる。高さ約百メートルもある階段なぞ、高層ビルが溢れる現実世界であってもオレ達には縁のない代物だし、あっても使わずにエレベーターで済ましてしまう。そこを疲れないアバターとはいえ自分の脚で進むというのは結構気が滅入る。

 

 「あのなぁ……普通にヨツンヘイムに行こうとしたら一パーティーでも片道最低二時間のところが、ここを降りれば五分だぞ?俺がリーファなら、一回千ユルドの通行料でここを使わせる商売でも―――」

 

 「あのねえお兄ちゃん、ここを通ってもトンキー達が迎えに来てくれなきゃ中央大空洞(グレートボイド)に落っこちて死に戻りするだけだよ?」

 

 「そしたら、お客さんから詐欺だーってGMに通報されるよ、多分」

 

 商売云々は大方冗談だろうが、(リーファ)(セイ)の容赦ないツッコみにばつの悪い表情を浮かべる兄貴(キリト)

 

 「ま、とにかく文句言ってる暇あったら走れってこった。フラグ立てたリーファに感謝しとけよー」

 

 あのキモカワ系?……いや、ユニークな姿形をした象水母型邪神を最初に彼女が「助けよう」と言わなければ、オレ達がこの階段を知る事は無かったんだし。

 

 「何であんたが偉そうに言うのよ」

 

 シノンがクールな声で一言零す。言われた側のオレとしちゃ、別に何とも思わないが……横目で見た瞬間、彼女の背後を走る相棒の口角が悪戯っぽく吊り上がっていたのは黙っておこう。

 

 「相棒へのツッコみどうも」

 

 「フギャア!?」

 

 案の定、相棒はシノンの尻尾を思いっきり握り、やられた猫妖精(ケットシー)の悲鳴が響く。尻尾及び猫耳には独自の感覚があり、慣れていない奴がそれを急に強く握られると……凄まじく変な感じとしか言語化できない感覚に襲われるのだ。尻尾に関してはオレはもう慣れたが、シノンとシリカはまだまだなので今のように面白おかしいリアクションを見せてくれる。オレはやらねぇけど。

 

 「―――あんた、次やったら鼻の穴に火矢ぶっこむからね!!」

 

 「恐れをしらねぇなオメェ」

 

 顔を真っ赤にして振り返ったシノンの引っ掻きを飄々と躱したキリト。少しして負け惜しみと共に彼女が前を走る事に専念しだすと、クラインのぼやきと同時に皆がやれやれと肩を竦めるのだった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 そんなこんなの果てに長い階段を下り終え、厳しい寒さをアスナの支援魔法(バフ)で緩和したのだが、そこでオレは一つ失念していた事を思い出した。

 

 「そういや、この人数でどーやってあのダンジョンまで行くんだ?トンキーに乗れるのって七人までだったよな」

 

 この場にいるのは十一人。パーティーに関しては六人と五人で分けた二パーティーの状態なので、トンキーには往復してもらって一パーティーずつ移動する解釈でいいのか?

 

 「あ、そっか。クロトは知らないままだったね」

 

 「サクラ?何かあったのか」

 

 苦笑いするサクラの言葉に首を傾げるオレを後目に、いつも通りトンキーを呼ぶためにリーファが指笛を鳴らす。

 

 ―――くおぉぉぉー……ん…………くぅぅぅー……ん

 

 そうそう、彼女が呼ぶとすぐこうやって返事が……ん?

 

 「なぁ、オレの聞き間違いじゃなきゃ……二頭分の鳴き声が聞こえたんだが……?」

 

 「ふっふっふ……実はちょっと前に、トンキーが友達つれてきたのー!」

 

 「……は?」

 

 ものすごい上機嫌で胸を張るリーファの言葉に、オレは自らの耳を疑った。冗談の類じゃないかとシノン以外の皆を見渡すが、苦笑するか目を逸らすかのどちらかだった。

 

 ―――くおぉーん……くぅぅーん

 

 再度あの鳴き声が耳朶に届き、聞こえてきた方向に目を向けると……間違いなく二頭の象水母型邪神の姿があった。

 

 「トンキーさーん!ロッキーさーん!」

 

 アスナの肩から精一杯の声をユイが送ると、二頭の象水母型邪神は揃って鼻を手の代わりに上げオレ達がいる足場へとやってきた。元々トンキーとは何度かここで会ってはいたので、その巨体には慣れていたつもりだったんだが……二頭となると、言語化しづらい圧のような何かを感じずにはいられなかった。

 

 「クロトさんとシノンさんに紹介しますね。こちら、トンキーの友達のロッキーです」

 

 「お、おう……」

 

 薄っすらと青みがかった毛並みの方を示しながら、セイが大まかな説明をしてくれた。曰く第三回BoBの前……キリトが菊岡の依頼を受ける少し前あたりにトンキーと戯れるべく三兄弟でここに来た時、トンキーが連れてきたらしい。その頃のオレはログインの比重がGGOに傾いていたし、その後の死銃(デス・ガン)の調査等もあってオレに知らせるタイミングが今まで無かったとか。

 オレが呆気にとられる一方で、シノンはふーん、と動じることなく目の前の光景を受け入れていた。中々のクソ度胸してんなぁコイツも……。

 

 「は、話にゃ聞いていたが……本当にコイツに乗ってくのかよキリの字?」

 

 「勿論。そんなおっかなびっくりしなくていいって。別に取って食いやしないよ」

 

 「そうそう、どっちもいい子だから大丈夫ですって」

 

 リーファがそう言った時、ロッキーの方が鼻を伸ばしてクラインの頭を撫でた。多分向こうは挨拶のつもりだろうが、された側の彼は中々に情けない奇声を上げる。

 

 「ほらロッキー、他にも初めましての人がいるよ」

 

 セイが鼻の付け根のあたりをくすぐると、ロッキーはクラインと同じようにオレ達の事も一人ずつ撫でてくれた。

 

 「そっちはリーファよりお前に懐いてる感じだな」

 

 「なんかそうみたいです。名付けたから、ですかね」

 

 初対面の相手全員に挨拶をした後、セイが手を伸ばしやすいようにと彼へ身を寄せるロッキー。寄せられたセイも慣れた手つきでくすぐるあたり、会ったら必ずやっているのだろうか。

 

 「ようし、そろそろ行くか。みんな背中に乗ってくれ!」

 

 キリトの号令の下、オレ達はパーティー毎に分かれて邪神の背中へと飛び乗る。トンキーに乗るのはキリト、アスナ、リーファ、リズ、シリカ、シノンの六人で、残り五人がロッキーだ。

 今回セイがキリトやリーファと別パーティーになっていたのは、彼がロッキーに、リーファがトンキーに乗る都合上避けられなかった訳か。相棒側のパーティーの男女比がアレだが、彼の天然ジゴロ……もとい人徳が故に丸く収まっているからヨシとする。だって……なぁ?アスナがいる手前、表立ってのアプローチは少ないが、あっちの女性陣は全員が相棒に惚れているし。下手にこっち側に分けたら無意識に不満が溜まるかもしれないし、オレだってそんな爆弾は抱えたくない。

 

 「かーっ、相変わらずモテモテだよなぁキリの字の奴」

 

 「そのセリフ何度目だよクライン。それぞれに相応の事情があったんだっつの」

 

 リーファ以外についてはオレも当時のキリト達の姿を見てきた訳で、一見すれば他人が羨むような状態だって、相棒はそれを狙って動いていた訳じゃなく「助けたい」って心のままに動いていただけだ。そこらへんの事を知らない輩に相棒があーだこーだと言われる筋合いなんて無い、と繰り返し説明すると刀使いも冗談だとばかりに肩を竦めた。

 

 「―――トンキー、ロッキー。ダンジョンの入り口までお願い!」

 

 そうこうしている内にリーファの号令がかかると、二体の象水母型邪神は揃って一声鳴いた後にゆっくりと羽根を羽ばたかせた。

 プレイヤーには飛行不可能エリアであるヨツンヘイムの上空を進むロッキーの上からゆっくりと流れる景色をぼんやり眺めていると、今年も色々あったよなぁ……なんてガラにも無く思い出に浸る自分がいた。仮想世界に囚われたままのサクラ達の救出に始まり、帰還者用の学校でのあれこれ、GGOでの死銃(デス・ガン)事件……SAOに囚われてからこれまでの約三年間、一般人とはかけ離れた生活送ってねぇか?オレらって。来年こそはいい加減に平穏な一年が欲しいぜ。今日みたくレアアイテム求めて皆でクエスト挑むとかくらいが丁度いい刺激になる程度の。

 

 「えぇ!?ハルってもう宿題終わらせたの!冬休み今日からでしょ!?」

 

 「課題そのものは先週から順次配信されていたじゃないですか。先生に聞いたら、休み前にやっても構わないって事でしたから、やれる所からコツコツと進めただけですよ。量が少なかったのもありますけど」

 

 「わたしも半分くらいはやったよ。多分アスナさんも同じじゃないかな?」

 

 「さ、流石にクロトは何もやってないよね!?宿題やってないの私だけ、じゃ……?」

 

 あぁ、でも……ザザのように、SAOの負の残滓がいかつまたキリトやサクラ達に牙を剥こうとするかもしれない。いざという時には人殺し(バケモノ)としてのオレが必要で、決して鈍らせてはいけない冷徹な刃の役目を担うのだ。オレの大切な人達が、もう忌々しい過去の亡霊と戦わなくていいように。皆に届く前に断ち切る為に……

 

 「クーロート?」

 

 景色を眺めていた視界にひょっこりとサクラが顔を出したところで、オレの思考は中断された。そういえば今は、エクスキャリバー入手の為にダンジョンに向かっているんだっけか。

 

 「あー……悪い。ボーっとしてて、さっきから何も聞いてなかった。何の話だったんだ?」

 

 「冬休みの宿題、ハル君は全部終わっているんだって。それで何にもやってないフィリアがアタフタしちゃったの。クロトは進めた?」

 

 「……やってない」

 

 宿題。目を逸らしていたリアルの事を突きつけられて、思わず顔を背ける。

 

 「ダメだよーちゃんとやらなきゃ。後回しにしたら大変なのはクロトだからね?」

 

 「わ、わかってるって」

 

 「ならよし」

 

 背けた先に回り込み、メッ!とオレの鼻を突っ突いてくるサクラに思わずたじろぐ。だがそれもこちらの返事を聞いてすぐさま柔らかな笑みに変わり、向けられた指先が引っ込められた。

 何てことの無い些細なやり取りを交わしただけで、自然と心が温まる。

 

 (そうだ。オレはサクラが……皆が無事なら、それでいいんだ)

 

 異常なまでに傾いた天秤のような自分の価値観を自覚していながらも矯正しようとしなかった事、そして赤の他人の死を厭わない怪物ともいうべき己の一面を受け入れた事、それらは全てこの優しくて心地よい今を守る為だ。

 もうオレは、何度でも、何処までも……堕ちる事を恐れない。それでこの時を守れるのならば安いもんだ。

 それにザザとの戦いを経て、必要な時にSAO当時(全盛期)の己を取り戻すべきだと判断したのはキリトも同じだった。GGOでの一件以来、オレ達は折を見ては本気の殺し合いのつもりでデュエルをしたり、二人だけでフィールド・クエスト・ダンジョンの種類を問わずボスモンスターに挑戦したり……ザザとの接触で断片的にSAO時代の感覚が戻りかけている今ならばと、傍目からみれば頭のイカレた奴とも思える事を何度か繰り返していた。

 最初の数回は成果らしい成果は無かったが、途中で何か取っ掛かりを掴んだのかキリトの立ち回りや剣技の冴えが急激に上がっていき、とある切り札の成功率も劇的に向上した。そんな相棒に対してオレの方は劇的に何かが変わった感覚は無かったが、不思議と遅れをとる事も無かった。恐らくあの夜に覚悟を決めた時点で土台ができていて、その後は相棒に触発されて精度が上がってきているのだろう。キリトありきな自分を不甲斐無いと思う所もあるが、何だかんだSAOでのオレとキリトは長い間背中を預け合ってきた無二の相棒で、二人揃ってこそのオレ達なのだ。

 

 (―――って違う違う。今は普通のクエストやるだけだろ……)

 

 変な言い方かもしれないが、やるとしても日常の範囲での本気で充分な筈だ。命やそれに準ずる大切なものが懸かっている訳ではないのだから。

 脱線した思考を振り払うべく頭を軽く振って皆の方へ目を向ける。すると誰もがとある一点を見上げており、つられてそちらを見ると―――

 

 「私は、湖の女王ウルズ。我らが眷属と絆を結びし妖精たちよ……そなたらに、私と二人の妹から一つの請願があります」

 

 ―――巨人と呼んで差し支えない大きさをした金髪の女性が、宙に浮いていたのだった。




 スランプ脱却できたーっていう実感が無いので、次がいつになるのか確約はできません。ですが去年の間に評価者が一人増えていたのは嬉しかったです。
 待ってくれている人がいるっていうのが嬉しい限りです。今後ともよろしくお願いいたします。

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