SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 本当にお久しぶりです(汗)

 なーんかスランプから抜け出せていません……


百十三話 しょうがない

 クロト サイド

 

 黒色のミノタウロスをポリゴン片へと変えたすぐ後。トドメのソードスキルを放った硬直が解けるや否や、クラインがその野武士面の口許を歪めてキリトへと詰め寄った。

 

 「おらキリト!オメェ何だよさっきのは!?」

 

 「……言わなきゃダメか?」

 

 「ったりめぇだ!見た事ねぇぞあんなの!」

 

 ずかずかと顔を近づけてきた刀使いに対して相棒は面倒くさそうな表情を隠さなかったが、オレ以外の面子はクラインと同様に興味津々といった視線を注がれると、観念したように溜息を一つついた。

 

 「システム外スキルだよ。スキルコネクト」

 

 フィリアやシリカ達が歓声を上げる中、簡潔にメリットとデメリットをキリトが告げると、我らがヒーラーが急にこめかみを抑えて唸る。

 

 「何だろう、今すっごいデジャヴったよ……」

 

 「気のせいだろ。それよりほら、次に備えようぜ」

 

 旧SAOの七十四層でほぼ同じやり取りがあった事は……言わぬが花、ってヤツだろうか。誤魔化すキリトを見て同じ事を思ったサクラと苦笑しあうと、消耗したHP・MPの回復やミノタウロス達のドロップアイテムの確認を進めた。

 

 「―――あ、今ので弓スキルの熟練度が大分上がってる」

 

 「へぇ、ちょいと失敬……もう『エクスプロード・アロー』が使えるようになったのか……早いな」

 

 「ふふん、いつまでも貴方の後塵を拝するつもりは無いわよ?」

 

 すまし顔で胸を張るシノンだが、尻尾や耳がピコピコと小刻みに動いているあたり喜色を隠しきれていない。その事を告げてやろうかと一瞬だけ悪戯心が芽生えるが、その視線が黒衣の背中を追っているのに気付いた所で言うのをやめた。何であれ決めた目標へとストイックに進む彼女に茶々を入れるのは野暮ってモンだ。

 

 (まぁ、譲ってやるつもりは無いけどな……)

 

 わざわざ現状に胡坐をかいて、彼女が追い抜くのを待ってやる義理はない。

 

 「よーし、全員回復したか?したよな!キリト!」

 

 全員の様子を見回しながら声で確認をとると、問題なかったので相棒に目を向ける。すると彼は頷き、妹に声をかけた。

 

 「リーファ、残り時間はどれくらいだ?」

 

 「えーっと……今のペースだと、一時間はあっても二時間は無さそう」

 

 彼女の答えにそうか、と返したキリトは次いで頭に鎮座する愛娘へ問いかける。

 

 「ユイ、このダンジョンは全四層構造だったよな?」

 

 「はい、三層の面積は二層の七割程度で、四層は殆どボス部屋だけです」

 

 「ありがとう」

 

 右手の指先で小妖精の頭を撫でるキリトだが、その表情は芳しくない。ヨツンヘイムで人型邪神と共闘して女王ウルズの眷属を狩り続けているプレイヤー達の勢いが緩む事はまず無いだろうし、そうすればこちらのタイムリミットは一時間前後と考えるべきか。

 ダンジョンのラスボスとの戦闘に半分の三十分が割かれるとすれば、四層のボス部屋以外の範囲と三層をもう三十分で踏破する必要がある。それも今しがた倒したばかりのミノタウロス達と遜色ない強さと厄介さが予想されるフロアボス込みで、だ。瞬時にそこまで思考がたどり着いた元SAO攻略組はオレを含めて一様に表情を歪めていると、知った事かとばかりにリズが相棒の背を叩く。

 

 「なんて顔してんのよ。こうなったら、邪神の王様だか何だか知らないけど、どーんと当たって砕くだけよ!」

 

 「……そうですね。兄さん達が、皆さんがいれば……不可能なんて無い。僕はそう信じています」

 

 SAOでは生産職として攻略組であったオレ達を支え、その背中を見守り続けてきたが故の二人の信頼。それがマイナスに傾きかけていた空気を払拭し、良い意味で弛緩させていく。

 

 「セイ達の期待は裏切れないな。それじゃ、三層はサクッと片付けよう!」

 

 キリトの音頭に全員で威勢よく応え、オレ達は次の階層へと進みだした。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 時間が無いので奥の手―――もとい禁じ手たるユイの地図データへのアクセスを今回ばかりは解禁。それにより三層をボス戦含めて三十分足らずで踏破する事に成功した。トレジャーハンターを自称するフィリアが自身のポリシーとの葛藤や様々なギミックに挑戦する楽しみが無くなってしまった事で道中に百面相していたのはご愛敬、といったところか。まぁ、いかにも罠やらお宝がありそうって感じの脇道を見つけても目で追うだけで我慢してくれたので、後で何かしらの埋め合わせを皆でやろうかと頭の片隅に留めておいた。

 そして三層のボス部屋の奥の通路に進んだオレ達の眼前に、少々判断に迷う光景が飛び込んできた。

 

 「お願い……私を……」

 

 壁際に作られた、細長いツララの檻。そこには閉じ込められ、横たわった一人の女性の姿があったのだ。背丈は恐らくアスナと同じで、長く流れるような髪はブラウンゴールドに煌いている。顔立ちも仮にプレイヤーが同じレベルのものを求めたらランダム生成されるキャラクタークリエイトを相当課金して何度も挑戦しなけりゃ引き当てられないって感じまで整っていて、街で見かけたらほぼ全ての人が目を奪われるであろう美人だ。

 

 「ここから……出して……」

 

 そんなキャラが今、伏し目がちに、それもか細い声で助けを求めているもんだから、普通なら世の男共はホイホイと釣られるだろう。丁度今、相棒にバンダナの尻尾を掴まれたクラインみたいに。

 

 「罠だ」

 

 「罠よ」

 

 相棒夫婦の断言に刀使いは反論できず、しかしここで素直に引き下がれずに視線が右往左往する。するとキリトは判断材料を増やすべく頭上に鎮座する愛娘に尋ねる。

 

 「パパ、彼女もウルズさんと同じく言語エンジンモジュールに接続しています……ですが、一点だけ違いが。HPが有効(イネーブル)です」

 

 大抵のクエストNPCはHPが設定されていない。それはそのNPCが戦闘行動を行わない、あるいは圏内から一歩も外へ出ない為ダメージを受ける機会が無いから省略されているからだ。それがプレイヤー同様にHPがある、という事はそのNPCが護衛対象になったり、共闘したり……最悪の場合は裏切って背後から奇襲してきたり、なんて展開になる事を示しているのだ。

 そんな正体不明なNPCがダンジョンのボス手前の所で囚われている……本当にただの捕虜か、それともスリュムとやらがこちらの人情につけ込む為に用意した罠なのか。とても悠長に考えていられない。

 

 「絶対に罠、とまでは言えねぇけどなぁ……今はリスク背負えねぇだろ」

 

 「だよねー。わたしも似た感じ」

 

 ウルズの眷属達が狩り尽くされるまで、なんてタイムリミットさえ無ければクラインの行動も別にいいや、って言えるんだが。同意見を示してくれたサクラに頷くと、手を鳴らして先を促す。

 

 「迷ったって時間の無駄だ無駄。今のオレ達にはやり直してる余裕はねぇんだ。さっさと行くぞ」

 

 「ぐえぇ」

 

 やや強引に切り上げ、クラインの首根っこを引っ掴んで走り出す。彼の恨みがましい視線を感じながらも進むと、程なく全員が付いてきたであろう足音が聞こえ―――

 

 「お願い……誰か……」

 

 ―――ひとつ乱れ、止まった。

 

 (リスク背負えないってわかってんだろ!いったい誰が……!?)

 

 勢いが付いた足にブレーキを掛けながら振り返ると、そこには立ち止まった紅の背中があった。

 

 「ごめんなさい……僕、どうしても見捨てられません!」

 

 誰かが制止の声をかけるよりも先に、そう叫んだセイが初級魔法を唱えながら囚われた女性の許へと引き返す。次いで小さな破砕音を響かせて氷の檻が消失した。

 

 「……全く、キリト(兄貴)以上に筋金入りのお人好しだよなぁ」

 

 「でも、その方がセイ君……ハル君らしいよね」

 

 苦笑しながら零れた呟きに、サクラが微笑む。元々SAOではNPCだって生きている、という考えでいた程に人情に厚いキリトと同様、セイもNPCであっても困った人を見過ごせない善意に満ちた人なのだ。あの浮遊城の日々でもその心は悪意に染まらず、だからこそ相棒は是が非でもクリアを……弟を現実世界に返す為にと身を削って戦っていた。

 

 「立てますか?」

 

 「……はい、ありがとうございます」

 

 虜囚となっていた女性に手を貸して立ち上がらせるセイ。その後ろ姿を見るオレ達の中に、彼を責める者はいなかった。

 

 ―――まぁ、セイ(ハル)ならしょうがないか

 

 なんて感じの思いが、程度の差こそあれど全員の胸中にあったのだと思う。皆苦笑したり、やれやれと肩を竦めたりしているし。彼以外の誰かがあのNPCを助けていたら、多分こうはならなかっただろう。それだけ彼の善人っぷりが周知の事実となっている証左だった。

 

 「助けて頂いた身で厚かましいのですが……どうか私を、一緒にスリュムの部屋まで連れて行ってくれませんか?盗まれた一族の秘宝を取り戻すために、私はこの城に来たのです」

 

 「え?えーっと、それは……」

 

 流石にパーティーへの同行を個人の一存で決める訳にはいかないと思ったのか、セイはリーダー役であるキリトに困った顔を向ける。

 

 「そんな顔するなって。こうなった以上はこのルートで行くしかないけど、まだ百パー罠だって決まった訳じゃないんだ。何とかなるって」

 

 「……うん、ありがとう兄さん。貴女の頼み、引き受けます」

 

 「ありがとうございます、妖精の魔法使い様」

 

 相棒の後押しを受けたセイが女性に答えると、彼女は笑顔で感謝の意を示した。そしてキリトが表示されたウィンドウを操作し、オレ達のレイドパーティーに新たに一人が加入するのだった。

 

 「確かに絶対罠だって確証は無いけど……今のフォローの仕方見ると、やっぱり弟にはダダ甘よねー?」

 

 「ですです。そういう所がキリトさんらしいですけど」

 

 悪戯っぽい笑みを向けるリズと、やや不満げな内心を示すように尻尾を揺らすシリカの二人に、キリトが少々情けない笑みを零す。

 

 「だ、だってさぁ、あいつ普段は全然我儘言わないんだぜ?こういう時に聞いてやらなきゃいつ聞いてやるってんだよ」

 

 「だよねー。お兄ちゃんみたいに休みでもだらけた生活しないし、勉強だって頑張っているし。甘やかしたくなっちゃうって」

 

 相変わらず兄と姉との仲がよろしいようだ。サクラやアスナは静かに見守るに留まり、シノンは平静を装っているが興味津々なのが目線で分かる。クラインについては自分がやろうとした事を先にやられたのもあってか複雑な胸中に沿った何とも言えない表情をしていて、フィリアはその様子と女性にくっつかれて赤面するセイを見比べて面白そうに小さく笑っている。そんな皆の声を聞きながら、オレは新たに表示された女性のHP・MPゲージに視線を向けた。

 

 (Freyja……フレイヤ、か?なーんかどっかで聞いた事あるような……無いような……)

 

 記憶のどこかに引っかかるような感じがしたが、そこまでだった。何にせよこのダンジョンのボス、スリュムとの戦闘になれば彼女について何らかの手掛かりないし正体が解るだろう。せいぜい彼女の存在がスリュムの罠では無いと祈っておく事にして、気持ちを切り替えよう。

 

 「だーもー!とっととスリュムの野郎をブッ飛ばそうぜ!そうすりゃ万事解決だろキリの字ィ!!」

 

 セイへの嫉妬……もとい羨望を振り切るように、サラマンダーの野武士が意図的に語気を強める。次いで頷いた相棒がリーダー役として大まかな方針を伝えるべく口を開いた。

 

 「だな。序盤はパターンを掴めるまで防御重視、反撃のタイミングは指示する。ボスのHPゲージが黄色と赤色になったらパターン変化が起こるだろうから注意してくれ―――ラストバトル、全力でいくぞ!!」

 

 

 「「おー!」」

 

 気合充分、と言わんばかりに全員が拳を振り上げるのだった。




 スケルツォ見てきましたー

 ボス戦の迫力が凄かったです。去年のアリアもそうでしたけど面白かったです。
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