SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 お久しぶりです……上手く書き起こす事ができずにウダウダしてたらかなり時間が空いてしまいました(汗)


百十四話 巨人

 クロト サイド

 

 後衛組の支援をかけ直して万全な態勢を整えてからスリュムがいるであろう部屋へと進んだオレ達。すぐさまボス戦かと思っていたのだが、第四層の大半を占める大部屋に巨人の姿は無く、代わりに無限の富に届くかと思う程の黄金の財宝の山が広がっていた。

 

 「……総額、何ユルドだろ……?」

 

 「お宝……お宝が……いっぱい……」

 

 リズとフィリアの様子に釘を刺すべきかとも思ったが、他の面子も大なり小なり目の前の財宝の誘惑を受けているので今回ばかりは仕方ないかと切り替える。相棒ですら反射的にストレージの空き容量を確認していたくらいだし、フィリアに至っては途中の脇道にあったかもしれないお宝は諦めてもらっていたしな。

 

 「兄さん、フレイヤさんの探し物を探すついでに幾らか持っていけないかな?仮にそれができたら今回の収支は結構な黒字になりそうだけど……」

 

 「それが出来たらそうしたいけど……こういう時ってボス倒すまではストレージに入れられないって事が多いんだよなぁ」

 

 商人プレイをしてきたからか、こんな状況でも収支計算が頭から離れていないセイの言葉に苦笑するキリト。そんな彼がぼやいた通り、試しにとオレが手近な金貨をストレージに入れようとしてみても、コマンドを受け付けずオブジェクトとして手に残ったままだった。

 

 「確かに、今の所はただのハリボテだなこりゃ」

 

 「うへぇ、マジかよ……」

 

 隣でそれを見ていたクラインが表情を歪めるのも無理はない。皆が誘惑されかけていたから踏ん張れたが、一人の時にこの財宝の山と出会っていたらきっと似たような状態になっただろうし、さらにソレが見せかけだけだったと解った時の落胆は大きい。

 

 「―――羽虫が飛んでおる」

 

 低く、野太い声が響いた。

 

 「ぶんぶん煩わしい羽音が聞えるぞ。どぉれ、悪さをする前に、ひとつ潰してくれようか」

 

 ズシン、ズシンと床が震える。もしかしたら床を踏み抜き、壁や天井を崩落させかねないと思える程に重量を感じさせる音を響かせながら、広大な部屋の奥の暗闇より何者かがゆっくりと姿を現した。

 

 (デケェ……!)

 

 今まで倒してきた巨人型邪神を裕に超える程の巨体は、足元から見上げるオレ達の視界では首から上が遠近エフェクトによって輪郭しか分からない。手足に分厚そうな毛皮を巻きつけ、腰回りを巨人サイズの板金鎧で包んでこそいるが、上半身―――首から腹にかけては簡素な布一枚を身に着けているだけで殆ど裸に近い。とはいえ鉛のように鈍い青色の肌は見るからに硬そうで、幾らか前に倒した金と黒のミノタウロス型邪神達なんて目じゃない程に鍛え上げられた筋肉はそれそのものが鎧だといわんばかりだ。

 

 「ふっふっ……アルヴヘイムの小さき羽虫どもが、ウルズに唆されてこんな所まで潜り込んできたか。どうだ、いと小さき者どもよ。あの女の居場所を教えれば、この部屋の黄金を持てるだけくれてやるぞ、ンン?」

 

 巨人がこちらを見下ろす顔を少しばかり近づけた為か、僅かな時間だが顔がはっきりと見えた。豪華な冠が煌く下で冷たく光る双眸と、明らかな侮蔑を含んだ笑み。そして今の言い回しやセリフから、オレ達全員がコイツこそが霜の巨人の王スリュムであると確信した。

 

 「―――へっ、武士は食わねど高笑いってなぁ!おれ様がンな安っぽい誘いにホイホイ引っかかって堪るかよォ!!」

 

 威勢の良い啖呵を切ったクラインに異を唱える者はおらず、全員が一斉にスリュムに向けて己が得物を構える。ウルズに頼まれたとはいえ、元々オレ達の目的はこの先にある聖剣エクスキャリバーだ。それを手に入れる障害たる霜の巨人の王の甘言を聞くつもりなど毛頭無い。

 伝説級武具(レジェンダリーウェポン)こそ無いが、オレ達の装備はいずれもハルとリズ渾身の傑作や固有名称付きの古代級武具(エンシェントウェポン)で固められている。この氷の城が高難易度ダンジョンであり、その主であろうスリュムの強さが如何ほどであったとしても……オレ達の武器が通用しない事は無い筈だ。もっとも、そのスリュムからすれば羽虫に過ぎないオレ達の剣など、どうあっても脅威と感じていないからこそ、不敵な笑みを浮かべているのだろうが。

 霜の巨人の王の目がぐるりとオレ達を見回して、とある一点で止まった。

 

 「ほう、そこにいるのはフレイヤ殿ではないか。檻から出てきたという事は、儂の花嫁となる決心がついたと見てよいのかな、ンン?」

 

 「は、花嫁だぁ!?」

 

 「本当ですかフレイヤさん!?」

 

 素っ頓狂な声を上げるクラインとセイを嘲笑うように、スリュムが身を震わせる。

 

 「ふっふっ……その娘は我が花嫁としてこの城に輿入れしたのよ。だが宴の前の晩に儂の宝物庫を嗅ぎまわろうとしたのでな、仕置きとしてあの檻に入れておいたのだ」

 

 「……ねぇクロト、この感じだとフレイヤさんが裏切るって事無いんじゃない?」

 

 「特別な支援(バフ)くれたし、そうかもな」

 

 隣にいたフィリアの囁きに答えると、結果的にはフレイヤを助けるルートを選んだセイの判断は正しかったかもしれないという所で彼女についての思考を打ち切った。

 

 「誰がお前の妻になど!かくなる上は妖精の皆さまと共にお前を倒し、奪われたものを取り戻すまで!!」

 

 「流石はその美貌と武勇を九界の果てまで轟かすフレイヤ殿。だが気高き花ほど手折る時は興深いというもの、羽虫どもを潰した後に―――念入りに、愛でてくれようぞ」

 

 ALOの対象年齢的に少々アウトな気がしそうなセリフと共に、高笑いするスリュムのHPゲージが表示される。その数、三段。つまりここからが、この氷城最後のバトルという訳だ。

 

 「来るぞ!序盤はユイの指示をよく聞いて、ひたすら回避だ!」

 

 相棒が叫んだ直後、霜の巨人の王が右の拳をオレ達目掛けて振り下ろすのだった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 二連続で迫るスリュムの拳。タゲられた相棒はステップのみで危なげなく回避。クラインとリーファが反撃として足を斬りつけるが、ダメージは微々たるものでヤツは全く怯まない。

 

 (ダメージソースはセイとフレイヤの魔法……時間はギリギリか?)

 

 ウルズのタイムリミット的に、スリュム戦にかけられる時間は三十分程度。戦い始めてもうすぐ十分というところで、オレの火矢が一段目のHPゲージを空にした。

 

 「パターン変わるぞ!注意しろ!!」

 

 相棒の叫びに全員が頷く。さあ、次はどう来るのか?と身構えていると、リーファが切迫した表情でキリトに声を掛けるのが見えた。恐らく……いや、間違いなくタイムリミットについてだろう。それも悪い方向で。ならば防御よりも攻撃を優先するべきかと問われれば、即答はできない。スリュムの攻撃はどれも直撃すれば良くて瀕死、そうでなければ即死になる程の高火力を誇っていて、防御や回避を重視した現状でも綱渡りなのだ。安易に攻撃重視に切り替えて前衛が崩壊、なんて事になる危険は大きい。

 そういったオレ達の迷いをあざ笑うかのように、スリュムは突如体を大きく息を吸い込みながら仰け反らせ、分厚い胸板を膨らませる。しかも吸い込む勢いが尋常ではなく、前衛どころか中衛まで引き寄せられていく。

 

 「全員防御姿勢!」

 

 「サクラ、アスナ、全体回復の準備しとけ!前線が崩壊するぞ!」

 

 ギリギリ吸い込みの影響を受けていない後衛―――オレ、シノン、アスナ、サクラ、セイに、NPCのフレイヤだけで、ブレス後に相棒達が立て直すまでの時間を稼ぐ必要がある。音楽妖精(プーカ)の固有スキルである歌にはステータスアップのものだけでなくHP回復を早める効果の歌がある。今までは一通り支援(バフ)を維持していたが、今はキリト達のHP回復を早める事が優先だ。それが分かっている二人は返事の代わりに魔法と歌の準備をする。

 

 「セイも攻撃は少し控えろ!タゲはオレが取っておく。その間に立て直せ!!」

 

 「は、はい!」

 

 セイが返事をした直後、たっぷり息を吸い込んだスリュムから特大のブレスが放たれる。視界を遮る程に巨大なソレが相棒達を瞬く間に飲み込み、彼らが受けていた支援(バフ)をかき消して氷のオブジェへと強制的に変えさせた。

 

 「―――ぬううぅぅんん!!」

 

 ブレスを吐き出しきった後もスリュムの攻撃は止まらず、自らの巨躯を支える脚を大きく振り上げ、一際大きな地響きを起こす。その振動がブレスによって地面と無理矢理一体化させられていた相棒達の氷を砕き、彼らのHPゲージが一気に赤一色に染まった。

 

 「死亡ゼロです!!」

 

 セイの叫び呼応するようにサクラとアスナによる回復が始まる。だがHPがほぼ空に近い状態になった前衛・中衛を回復させるには数十秒が必要であり、スリュムにはそれを待つ義理も理由も無い。故に―――

 

 (ここだ!)

 

 発動直前で留めておいた『エクスプロード・アロー』をヤツの顔面に放つ。オーソドックスに弱点と設定されてあったのか思いの外HPが減り、霜の巨人の王と目が合った。

 

 「後、頼んだ」

 

 技の硬直が解けるや否や、仲間に一言残して駆け出す。その最中クイックチェンジで武器を弓から短剣に変更する。デカブツとのインファイトならば、片手は開けておきたいからな。

 中衛、前衛の横を通り過ぎる際に左手の親指を立てる。それだけで相棒は分かってくれる。

 

 「全員焦らずHPを全快にしろ!クロトなら三十秒は堅い!シノンは援護を!もう二十秒は伸ばしてくれ!アスナ、サクラ、さっきのブレスで支援(バフ)が剝がされた、張り直し頼む!」

 

 「「「了解!!」」」

 

 背中に聞こえるキリトの指示に、皆がそろって応える。それにしても、パターンが変わったばかりのボスのタゲを三十秒……シノンの援護込みで五十秒か。

 

 (いいぜ、その信頼に応えんのが相棒だろ!)

 

 論理的な根拠?そんな物は無い。だが相棒がオレならできると信じてくれた。彼が信じたものを、オレも信じる。可能だって言える自信はそれだけで充分だ。

 接近するオレを叩き潰すべく、スリュムが拳を振り下ろす。先程までは二連撃だったパンチ攻撃だが、今はどう来る?何が変わった?ヤツの目は何処を見ている?

 

 (二撃目のタイミングか!)

 

 HPゲージが一段目の時と比べて、二撃目の発生が一拍だけ遅い。キリト達と同じタイミングで躱そうとしていれば、丁度回避した先に二撃目がモロに入る。幸い二撃目の拳が顔の近くで待機していたので、視線を追うべく注視していた視界に映ってくれていた。巨大な拳の二連撃を躱した所でオレはすぐさまスリュムの左腕に取り付き、短剣を突き立てる。ヤツにとっては微々たるダメージだが、タゲを維持するには充分だ。

 

 「羽虫めぇ!」

 

 すぐさま巨人が右手で摘まみ上げようとしてくるが、それを避けながら上腕、肩へと駆け上がる。腕ごとぶっ叩いてきたらヤバかったが、スリュムも自分で自分を攻撃するのは躊躇ったようだ。肩から首の後ろ、背中へと短剣で時々斬りつけながら移動し、翻弄する。霜の巨人の王が身に纏う衣服は簡素で布地が少ないが、隆々とした筋肉が充分な凹凸を生み出しているので足場や掴む場所には困らない。

 

 「あら、よっとぉ!」

 

 スリュムの視界に映らぬように注意を払い、取り付いた状態を維持する。ゼロ距離であれば、相手は巨体が災いして殆どの攻撃手段が封じられるのだ。中途半端に距離を取った方がずっと危うい。とはいえスリュムがこの場で床をのたうち回る等の行動に移った場合は、離れなければ巨体に押しつぶされてHP全損のがオチだ。

 

 「ええい、小賢しい羽虫がぁぁ!」

 

 そろそろか、と思った矢先に巨人の両脚が力むのが分かった。オレを排除する為に体を大きく動かす兆候だ。

 

 「離れなさい!―――跳ぶわ(・・・)!!」

 

 立ったまま体を振り回す程度ならしがみついて堪えるつもりだったが、シノンの警告を聞いた瞬間に巌のように硬いスリュムの背中から飛び退いた。次いでヤツはダメージ覚悟で背中から床に激突し、部屋どころか城全体を揺らしたと錯覚する規模の地響きを引き起こす。

 

 (しまった!?これじゃ全員動けねぇ……!)

 

 詠唱途中の魔法が失敗(ファンブル)したような様子は聞こえ無いが、恐らく立っていたキリト達は軒並み体勢を崩して身動きが取れないだろう。オレも激しく揺れる床ではまともに着地する事が叶わず、ダメージを受けつつ転がるハメになった。急いで身を起こす頃にはスリュムは立ち上がっており、オレを踏み潰すべく悠々と足を振り上げていた。

 振り下ろされる直前、ヤツの後頭部で爆発が起こりスリュムがよろける。

 

 「立ちなさい!早く!」

 

 「分かってらぁ!!」

 

 恐らくはスリュムの特大地響きに対して何かしら対策をとったらしいシノンの叱咤に叫び返すと、今度は彼女を狙い始めたスリュムの脚にソードスキルを放つ。無論その程度ではタゲを取る事は叶わず、巨人は水色髪の弓使いに向けてその剛腕を振るう。一手、いや二手ならばシノンでも捌けるだろうが、それ以上は無理だ。というか、キリト達はどうなっているんだ?

 

 「おい、そっちどうなってんだ!まだ掛かるのか!?」

 

 視線をスリュムから外さずに叫ぶも、返答が無い。もう一分以上は経った筈だ。先程の地震があったとはいえ、立て直しには充分な時間を稼げたんじゃないのか?現に視界の端に表示されているHPゲージは全快し、消えた支援(バフ)も丁寧に張り直してあるっていうのに……あるいはステータス以外の所で何かトラブルが―――

 

 「―――(みなぎ)るぅぅぅうううう!!!」

 

 ……は?今、明らかにオッサンと呼べる人のものであろう野太い声が轟いたのだが。咄嗟にその発生源へと目を向け……呆然としてしまった。

 視界に映ったのは眩い雷を放ちながら、屈めた体が巨大化していく誰かの後ろ姿。元々は華奢で丸みを帯びていた筈の四肢が瞬く間に膨張し、見るからに硬そうな筋肉の凹凸が明確になっていく。最後に一際眩い光を放った後、そこにはスリュムと同等の筋骨隆々とした巨躯を誇り、ひっじょーに豊かなオヒゲをした……ナイスミドルが。

 

 「ぬぅぅん……卑劣な巨人め!我が宝ミョルニルを盗んだ報い、今こそ贖ってもらおうぞ!!」

 

 「ミョル(・・・)……ニル(・・)……?」

 

 聞き覚えのある固有名称に、思わず視線をHPゲージを見る。北欧神話に登場し、多くのゲームで最強クラスのハンマーに与えられるミョルニルの持ち主と言えば。

 

 ―――ゲストとして追加されていたHPゲージの名称はFreyja(フレイヤ)ではなくThor(トール)

 

 オレ達がフレイヤと判断していた者の正体はかの雷神トールだったのだ。




 気づいたら去年はたった三話しか書いてなかった……今年はちゃんと書けるようにしたいなぁ(願望)

 去年の話ですが、スケルツォに蒼穹のファンファーレ、めっちゃよかったです。ファンファーレはyoutubeで何度も聞いています。
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