SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 前話からもう一カ月も経ったってマジですか……




百十六話 脱出

 クロト サイド

 

 「―――クラインさんの、ばかぁぁぁ!!」

 

 落下する玄室だった残骸に掴まるなか、シリカの本気の罵倒が響き渡る。聖剣エクスキャリバーが引き抜かれ急成長した世界樹の根がオレ達の帰り道たる階段を破壊し、それならばとクラインが根の中でも動きの穏やかな部分へ渾身のジャンプ敢行して……失敗した。その際に彼が不時着した衝撃のせい―――皆は後々までそう信じた―――で辛うじて形を保っていた壁が崩れ、玄室は一足先ににスリュムヘイムから切り離されて自由落下を始めたのだ。

 フルダイブにおける高所落下、それも抗う手段が無い状態というのはかなり肝が冷える。ALOでは日頃多数のプレイヤーが空を駆け回るが、それは頼もしい翅があるからこそであり、このヨツンヘイムではそれも封じられている。

 

 (まぁ、しゃーないか……デスペナは幾らかあるだろうけど、オレ達だけなら死に戻りで済むだろうし……あ)

 

 皆が悲鳴を上げて騒ぐ中、一人だけ冷静になってしまう自分のズレた所を実感しながら、ある事に気づいたオレはリーファに尋ねる。

 

 「おーい!メダリオンは!?スロータークエには間に合ったのか!?」

 

 「あ……ま、間に合った!間に合ったよ!」

 

 胸元にしまい込んでいたメダリオンを確認し安堵した彼女は、そのまま隣にいた兄へと飛びついた。キリトも喜ぶ様子の妹を受け止めるが、その一方で抱えていたエクスキャリバーを手放さないあたりはゲーマーとしての(さが)といったところか。

 周囲にはスリュムヘイムの残骸と思しき氷塊どうしがぶつかり合い、より小さな氷塊となっていくが、トンキー達の仲間が全滅せずに済んだ事で全員が落ち着きを取り戻す。

 

 「じゃあ、私達の犠牲は無駄じゃないって事ね。あの大穴の下がどうなっているのかは気になるけど」

 

 「うーん、ウルズさんの言っていたニブルヘイムに通じているんじゃないかな?私達がその景色を見る事は多分無理だと思うけど」

 

 「だよねー。どうせならどんなお宝があるか見たかったなー」

 

 シノンが呟くと隣にいたアスナが苦笑し、さらにフィリアがぼやく。こんな時でも未知の領域にあるであろうアイテムが気になるのはフィリアらしいといえばらしいな。

 

 「間違いなく寒い……よね?」

 

 「だろーな。なんたって霜巨人の故郷って話だし」

 

 先に落ちていく氷塊たちを眺めながら訪ねてきたサクラの肩を軽く叩くと、だよねーと呟きながらもこちらに身を寄せてくる。そんな彼女を抱きしめたくなるが、皆がいる手前なのでグッと我慢して手を重ねるのに留める。

 

 「―――カァ!カァ!」

 

 「んぁ?何すんだよ?」

 

 このまま落ちるのも悪くないか、等と思っていたら、大人しく左肩に乗っていたヤタが頭をグリグリと押し付けてきた。何かを示すように片方の翼だけバサバサと動かすのでそちらに目を向けると、瓦礫よりも遠い所で何かが動いているのが見えた。

 

 ―――くぅぅぅー……ん…………くおぉぉぉー……ん

 

 特徴的な鳴き声が聞こえた気がした。そして遠くで動く何かはこちらへと接近してきており、水母と象の頭が合わさった、ほんの数時間前に見たばかりの特徴的なシルエットが四対の羽を震わせる様が段々と鮮明に見えてきた。

 

 「ロッキー!」

 

 「トンキーも!」

 

 セイとリーファが歓声をあげると再び鳴き声が聞こえ、オレを含めた全員が「助かった」と安堵する。ヨツンヘイム内で自由に飛行できるロッキー達に乗せてもらえれば、落下死を免れる事ができるのだ。

 周囲を大小様々な氷塊が落下している為、オレ達がいる足場から五メートル程離れた所でロッキー達はホバリングするのが限界だが、こちらのアバターのスペックならば充分に跳躍可能な距離だ。

 

 「それじゃ、おっさきー!」

 

 ロッキーが手前でその奥にトンキーがいる状態なので、行きの際ロッキーに乗っていたグループが先に乗り込む必要があった。その中でフィリアが先陣を切り、危なげなく象水母型邪神の背中に飛び乗った。

 

 「次、い、行きます!」

 

 「気を付けて!」

 

 「フィリア!何かあったら受け止めてやってくれ!」

 

 現在進行形で落下中である事への震えもそのままに、セイが踏み出す。心配する姉と兄が見守る中、彼は跳躍する……のだが、助走の勢いが足りなかったのか、もう一歩といった距離で失速した。

 

 ―――くぅぅぅーん!

 

 「うわあああ!?」

 

 落ちる、と誰もが思った瞬間にロッキーが鼻を伸ばし、セイの体に巻き付けてキャッチする。そのまま背中に半ば放るように下ろすと、待機していたフィリアが何とか受け止めた。

 

 「よ、よかったぁ……」

 

 ホッと胸をなでおろすリーファ達の横で、動こうとしない野武士の姿が目に付いた。

 

 「クライン、次行けよ」

 

 「い、いやぁ……おれはちょっと―――」

 

 「―――ロッキーの鼻キャッチ(セーフティ)あるんだから、はよ行けって」

 

 恐らくは顔合わせの時からある苦手意識の影響だろう。中々飛び移ろうとしない彼の背中を強めにどつくと、少々情けない声を上げながらクラインが跳び、セイと同様に鼻キャッチされた。

 

 「サクラ、先行っててくれ」

 

 「うん、クロトも早く来てね」

 

 微笑むサクラに頷くと、彼女は迷わずロッキーへと跳んでいく。その間にチラリと横に視線を向ければ、先程からずっとエクスキャリバーを抱えたまま動かない相棒と目が合った。

 

 「キリト。確認すっけどお前、そのまま跳べるか?」

 

 「無理、重すぎる」

 

 相棒の告白に、氷塊に残った全員が息を吞む。恐らくこのメンツで最高の筋力を誇るであろう彼の腕はエクスキャリバーを抱えた状態を維持しているだけで僅かに震えており、それだけ聖剣の重量が凄まじいことを物語っていた。とはいえ彼の足元がひび割れている訳ではないので、正式に所有権を得ていないが故にプレイヤー本人にのみ課されるペナルティだろう。

 

 「どーすんのよ!?せっかくゲットしたのに捨てなきゃダメって事?」

 

 リズの叫びに皆同意するように表情を歪めるが、オレは首を横に振った。

 

 「オレが『リトリーブ・アロー』で回収する。狙いやすいように残しといてくれ」

 

 抱えたまま跳べないのなら、抱えなければいいだけだ。意図を理解した相棒が喜色の笑みを浮かべた所で、オレはロッキーへと跳躍。

 

 「ロッキー!トンキーに換わって!!」

 

 セイの呼びかけに応え、ロッキーとトンキーの位置が入れ替わると、アスナ達が順次トンキーの背中に飛び乗っていく。最後に残った相棒が足場の氷塊にエクスキャリバーを軽く突き立ててから飛び移るのを確認して、オレは弓矢を構える。

 

 「クロト?」

 

 「ちょいと手助けってトコ」

 

 訝しむサクラに微笑を返してスペルを詠唱すると、その間にこちらの射線を確保する為かトンキーが横にずれてくれた。

 慌てず確実に狙いを定め、『リトリーブ・アロー』の効果を得た矢を放つ。この魔法は種族共通(コモン)スペルに分類され、使用すると矢に粘着性・伸縮性の高い糸を纏わせる。粘着性は(やじり)まで効果がある為、遠くにあるオブジェクトに矢を当てて手繰り寄せる事が可能なのだ。こうやってエクスキャリバーを回収するみたいにな。

 ほんの十メートル前後の距離を外す訳が無く、矢は黄金の剣に命中する。

 

 「よし。後は引っ張る、だけだ!」

 

 気合一発とばかりに手元の糸を引っ張ると、ずっしりとした手応えが返ってきた。それに負けぬように力いっぱい引けば、氷塊から引き抜かれた聖剣がこちらにやってくる。

 

 ―――最悪のタイミングで降ってきた氷城(スリュムヘイム)の残骸の群れが、容赦なく聖剣を飲み込んだ。

 

 「「あっ……ああぁぁー!!!」」

 

 手元に残ったのは途中で千切れた糸のみで、それもすぐに消えた。その事実を認識した瞬間、オレとトンキーに乗った相棒の双方が揃って悲鳴を上げてしまった。そりゃねぇだろ!!と慌ててロッキーから身を乗り出して見回すと、オレ達よりもかなり下方で黄金色に光る点があった。

 

 「ダメだ、狙えねぇ……!」

 

 目測で百五十メートル前後だが、残骸に当たった影響かエクスキャリバーが落下する速度が速く時間が過ぎる程にオレ達から離れている。『リトリーブ・アロー』を受けた矢はシステムアシストの恩恵が無くなり重力や風等の影響を受ける為、オレでは遠すぎて当てられない。

 

 ―――諦めるしか……ないのか?

 

 手に入ったと思えた物を取りこぼしたのは悔しいが、だからと言って今のオレにできる事はもうない。奥歯を噛み締めていると、落ちていく聖剣へと何かが伸びていくのが見えた。ハッとしてその元をたどっていくと、シノンがトンキーの背からオレと同じ要領で矢を放っていた。

 数秒間その姿を呆然と見ていると、再び相棒と目が合った。

 

 ―――お前できる?

 

 ―――スマン、無理。

 

 一瞬の交差で、オレ達の考えは共有された。もう一度エクスキャリバーの方を見れば、既に距離は二百メートル程にまでなっており、いくらスナイパーたるシノンであっても当たるかどうか―――

 

 ―――当たった。

 

 今度は他の氷塊に邪魔される事無く、聖剣は真っ直ぐに引き寄せられる。黄金色の点だったソレがぐんぐん近づいて剣の形がはっきりと視認できるようになると、そのまま猫妖精(ケットシー)の狙撃手の手に収まった。

 

 「……え、マジ?」

 

 呆然とするしかなかった。いかにGGOで千メートル以上の狙撃を得意とするといっても、それは相応の射程を誇る武器(へカートⅡ)あっての事。だというのにシステムアシスト込みの射程が百メートルにも満たないロングボウで、二百メートル前後の射撃を成功させたのには驚愕するしかない。

 

 「「し……し……シノンさん、マジかっけぇーー!!」」

 

 トンキー側からの絶叫で我に帰ると、キリト達からの賞賛を受けて耳と尻尾を上下に揺らすシノンの後ろ姿が映る。そのまま一言二言ほど相棒と言葉を交わすと、手にした聖剣の重さの所為か彼女がよろめいた。無論目の前でそんな事があれば咄嗟に支えるのがキリトの人柄の良さであり、好意を持たれやすい要因なのだが……ってオイ、シノンの奴ちゃっかりもたれ掛ってやがる。上手い具合にキリトの腕の中に納まるように図ったなアイツ。

 

 「あー……あれ、兄さんに甘えてるんでしょうか」

 

 「クロトの尻拭いした分の役得って感じ?ちゃっかりしてるよねー」

 

 「……」

 

 背中から刺さるフィリアの言葉にぐうの音も出ない。あの剣を一度取りこぼしてしまったのは事実だし、オレにはリカバリーの手段も無かったのだから。

 まぁ、後で彼女には礼を言っておこう。今回の事を借りとして後日スキル上げに付き合うのも吝かではないかと考えていると、キリトにエクスキャリバーを渡し終えた狙撃手が―――

 

 「―――フッ……」

 

 勝ち誇った笑みを浮かべてやがったよコンチクショウ!その上でハッカ草の茎を咥えて悠々と一服する様を見せつけてくるものだから、明らかにオレに対してマウントを取って煽っている。

 

 「ッ!あん……にゃろ……!」

 

 「まあまあ、落ち着いてって」

 

 ぐぬぬ、と歯軋りしていると後ろから抱きしめてきたサクラに宥められる。

 

 「ほーら、ロッキー達の仲間は生きているし、エクスキャリバーだってゲットできたんだから。ね?文句ないでしょ」

 

 「……そう、だな……ふぅ」

 

 深呼吸を一つして、高ぶっていた感情を鎮める。サクラの言う通りオレ達は女王ウルズからの依頼を完遂し、彼女の眷属を……さらには地上のアルンを守った上で、雷槌ミョルニルと聖剣エクスキャリバーまで手に入れたのだ。充分に誇れる戦果だろう。

 ひときわ派手な破砕音が轟く。つられてそちらに目を向けると、ヨツンヘイムの天蓋で原型を保っていたスリュムヘイム城の残りがついに瓦解した。驚いた事に見えていた逆ピラミッド部分と同等の構造物が天蓋の中に埋まっていた。オレ達が冒険するエリアに天井内に埋まっていた部分が含まれていなくて本当に助かった。

 

 「あぁ……お宝がぁ……下の所だけでも、多分三割くらいしか探索してなかったのにぃ~」

 

 「ゼイタクだよなぁ……あんなガッツリ作ってあったダンジョンが一回こっきりで終わりだなんてよぉ」

 

 「こうなるって最初から分かっていれば、もっと早くからチャレンジしていたんでしょうけど……そもそもエクスキャリバーが見つからないだろうってタカをくくってましたから……」

 

 時間が無いから、と探索を諦めた範囲で眠っていたであろうレアアイテムが失われた事をフィリアが嘆くと、クラインとセイがそれに同調する。釣り落した魚は大きい、なんて諺があるくらいだし、あの城の中をくまなく探せば伝説武器(レジェンダリーウェポン)に匹敵する超レアアイテムが手に入ったかもしれない、と考えると後ろ髪を引かれる思いになるのは共感できる。

 

 「しょうがないよ。そうやってわたし達が目先の利益を優先していたら、ウルズさんの依頼が間に合わなかったんだから」

 

 「はぁーい……」

 

 オレから身を離して振り返ったサクラが指摘すると、フィリアは若干拗ねたように唇を尖らせる。彼女がそうしたくなる心理はサクラも分かるので、苦笑して流すに留めていた。

 

 ―――くぅぅぅーん!……くおぉぉぉーん!

 

 「ロッキー?……あっ、わぁ……!」

 

 歓喜の声を上げて天に鼻を伸ばすロッキー達にどうかしたのかと身を乗り出したセイが言葉を失った。彼に続くようにオレ達もヨツンヘイムを見渡すと、上では天蓋近くで留まっていた世界樹の根がグレートボイドに向けてぐんぐん伸びており、下ではそのグレートボイドから湧き出た水が川を作りながらヨツンヘイム全土へと広がっていた。同時にこの地を冷たく閉ざしていた氷や雪が溶け、露わになった土からは凄まじい速度で新芽が芽吹き、青々とした葉を生やした樹木や芝生へと成長していく。

 

 「すげぇ……つか、あったけぇ!」

 

 「ああ。さっきまで極寒だったのが嘘みてぇだ」

 

 緑が広がるのと時を同じくして、天蓋で朧げに光るだけだった水晶が地上の太陽と遜色ないレベルにまで輝き始め、身を切るような寒さを運んでいた木枯らしもあっという間に春のそよ風のような心地よいものに変化した。

 

 ―――くぅぅぅーん!……くおぉぉぉーん!

 

 緑化したヨツンヘイムのそこかしこから、ロッキーとトンキーの同胞たる象水母型邪神が姿を現して同様に歓声を上げる。仮想のものであっても、オレ達は確かに一つの世界を……その住人を救ったのだと実感する。

 

 「僕達、やり遂げたよロッキー」

 

 感極まったセイが座り込んでロッキーの背中をさする。その目に零れそうな程の涙が溜まっている事を指摘するなんて野暮な事をする者は誰もおらず、クラインが黙ってその頭を撫でるのだった。




 十年ぶりのアーマードコア新作……めっちゃ楽しみ!

 楽しみな反面、前作のオンライン対戦ではガチ勢にボコられまくったトラウマががが……(汗)
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