SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 あ、明けましておめでとうございます……
 (去年末の挨拶すらしていない上に既に一月下旬)

 慢性的にモチベが上がりづらいんです……


マザーズ・ロザリオ編
百十八話 哀剣士


 クロト サイド

 

 アインクラッド二十四層主街区、パナレーゼ。その中にある名も無き小島で、オレは死んだ。

 

 

 「―――だあぁぁぁ、負けた……」

 

 

 すぐさま蘇生魔法を行使してくれたギャラリーの水妖精(ウンディーネ)に対価として幾何かのユルドを支払った所で、オレをリメインライトへ変えた(打ち破った)闇妖精(インプ)の少女が満面の笑みで駆け寄ってきた。

 

 「いやー楽しかったー!手品みたいに色んな事してくれるんだもん、ずっとドキドキとワクワクが止まらなかったよ!」

 

 「そりゃどーも……」

 

 対キリト用に考案していたあの手この手の手札……試作段階のモノを含んだそのほぼ全てを使わされ、その上でオレはこの少女とのデュエルに負けたのだ。終盤なんてヤケクソ気味に土壇場の思いつきすら投入したってのに、何で全部引っかかった上で乗り越えてくるんだコイツ……向こうのペースにさせまいとなるべく先手を取ろうと努めたってのに、後出しジャンケンよろしく打ち破ってくるとか誰が予想できるか。

 

 (速かった……それだけならどうにかできるって自信もあった。視線だってバカ正直に分かりやすかったんだが……それだってのに、終始後の先(・・・)を取られてた……)

 

 目の前で心底楽し気に先程のデュエルでオレが見せた手口を一つ一つ振り返る少女に対して悔しい感情が胸中にあるが、一方で冷静な自分が一人で反省会を開く。この少女は殆どの動きが現実世界と遜色無いほど自然で滑らかであり、通常の剣技ですら常時ソードスキル並みの速度と言っても過言ではないだろう。

 だがプレイヤー同士の駆け引きの経験が乏しいのか、或いは分かりやすいくらいに純真で無垢な性格ゆえか視覚外から攻めた手は最初こそ通用した……したんだが、その後の本命の攻撃全てが見てから対処(・・・・・・)されたのだ。

 

 (VR空間への順応レベルが普通のプレイヤーよりも高い……高すぎる……オレらSAO帰還者と同等以上だぞ……?)

 

 十中八九この少女はアインクラッドには居なかった。あのデスゲームを強要された過去があれば、こんな一切の影が無いと思えるような性格はあり得ない。

 

 「―――あ、ごっめーん。ボクばっかり話しちゃってた……」

 

 「いや、気にすんな。次は負けねぇから……首洗って待っとけ」

 

 「うん!またやろうね、おにーさん!」

 

 蘇生した時から腰を下ろした姿勢だったオレは立ち上がり、彼女が差し出してきた手と握手を交わす。その後はギャラリーの中にいる仲間達の許へ大人しく戻っていった。

 

 「お疲れー。噂のOSS(オリジナル・ソードスキル)最初の犠牲者になった感想は?」

 

 「労うのか死体蹴りするかのどっちかにしろやフィリア」

 

 「じゃぁディスるわ。女の子相手にあんな外道な手段、よくも使えたわね?あたしらどころか、ギャラリー一同ドン引きよ」

 

 しかめっ面を隠さないリズが鼻先へ指を突きつけるが、オレは知った事かと肩を竦める。

 

 「ルールの裁量をこっちに丸投げしたのは向こうだし、何でもアリって言質も取った。その上でセルフ縛り(剣だけ)で充分ってぬかしやがっただけだろ?何より当の本人は卑怯だった、なんて一言も言わなかった」

 

 「げ、限度があると思いますよ、クロトさん……」

 

 シリカの控えめな抗議にリズとフィリアはおろか、リーファやサクラまでもが頷いた……だと……?バカな、味方がいない!残る一人たるキリトに目を向けると、彼は件の闇妖精(インプ)にデュエルを挑むべく歩き出していて、背中による沈黙しか返ってこなかった。

 

 「アイツ……覚えてろ」

 

 「そこはリベンジ頼んだ、じゃないの?相棒なんだし」

 

 サクラにポンポンと肩を叩かれ、幾分か気持ちが落ち着く。

 

 「野良猫サンの仇を黒ずくめ(ブラッキー)先生が取るみたいだぜ!」

 

 「さっきより見応えあるバトル間違いナシじゃねーか、ラッキーだな!」

 

 (……ギャラリーの言う事も間違ってねぇな、うん)

 

 先刻のデュエルでオレがやった所業を客観的に列挙してみる。

 ・数合打ち合った直後に煙幕アイテムによる視覚封じ。

 ・空中戦へ移行。相手の上からストレージ内にある毒付きの投擲用ピックやダガーをばら撒く。

 ・大樹へ自作の鉤付きワイヤーを引っ掻ける。そこを軸に一回転する事で追跡してきた彼女を後ろからドロップキック。

 ・地上戦へ戻り、回し蹴りの際に尻尾ビンタで不意打ち。

 

 ……一部だが、これ以上思い出すのはやめよう。我ながらムキになって真っ当な手段をかなぐり捨ててしまい過ぎた気がする。結局あの闇妖精(インプ)の少女のHPを七割近く削ったものの直後にOSSを叩き込まれ、残り半分程度だったオレのHPは消し飛ばされたのだ。

 体感ではキリトと同等以上の反応速度を誇っていたのは間違いないし、そんな相手に正々堂々とした剣技のみで打ち勝てる程の才や技能なぞ、オレには無い。

 

 (バトルに華が無いとか知った事かっつーの……まぁ負けた以上はボロクソに言われんのもしゃーねぇけど)

 

 幾何か負け惜しみ染みた思考に耽っている間に、キリト達のデュエルが開始された。その手に握る剣の数は、一つ。

 

 「あれ?クロトさんが負けたのに、二刀流使わないみたいですね?」

 

 「うーん……手を抜きそうな気配はないんだけどねぇ……なんでだろ?」

 

 二振り目の剣を背負う事すらしていない相棒にシリカが疑問を漏らすと、フィリアも首を傾げる。

 

 「武器の摩耗……は、無いハズ。聖剣ぶんどりに行った後ちゃんと修理したし」

 

 「確かにお兄ちゃん、ハルやリズさんの剣すっごく大切に使ってますけど……必要な時に出し渋った事は一度もなかったですよ」

 

 「なら何で……って、もう。クーロートー、その顔は答え知ってるでしょ」

 

 「まぁな」

 

 肩に乗ったヤタを尻尾でつつきながら、ニヤリと口角を上げてサクラ達へと説明する。

 

 「一番の理由は取り回しやすさ、だろうな。オレが使う双剣や短剣カテゴリって、武器の長さは同等だろ?それに引き換えキリトは片手直剣を二本ブン回すから、両手の剣が干渉しやすくてな……片腕の動きが制限されるんだよ。特に今回の相手は速いから、咄嗟の反応が必要な際に自分の動きに制限が付くのを嫌ったんだ」

 

 「でも、あの時は初見のモンスター相手でも二刀流でしたよ?クロトさんの説明と合わない気がします」

 

 「そりゃ、スリュムヘイム(あの城)は最初から邪神系mob……デカブツだらけだって分かっていたからな。あんな超速の剣技使う、ましてや自分よりも小さいヤツと戦う場面なんざ想定しなかったって話だ」

 

 ……まぁ一番は、SAO時と違って二刀流スキルが存在しない事、なのだが。確かあれ、専用ソードスキル以外にも片手剣スキルのクールタイム短縮とかのパッシブ効果あった筈だったしなぁ……

 

 「対人戦でスキル、なんちゃら……だっけ?お兄ちゃんがそれを狙う事って無いんですか?割と初見殺しな気がするんですけど」

 

 「あれってタイミングが超シビアって言ってなかった?他にも何か制約あったみたいだし」

 

 「そこら辺の検証はクロト相手に散々やってあるんじゃない?」

 

 「ふっ、ご明察……」

 

 リズもフィリアも察しがいい。スキルコネクトは決まればソードスキルによる高火力攻撃を絶え間なく叩き込めるので強そうに見える……が、実験台とされたオレとキリトの間では実用レベルは対mob用がせいぜいの認識である。

 そりゃタイミングさえ合えば相手の反撃をねじ伏せる切り札として機能しなくもない。しかしあの技、各ソードスキルの最後が本人のブーストが乗せられないのでシステムアシスト任せになるし、そもそも繋げられるソードスキルの組み合わせが限られているので、次に出すソードスキルが読まれやすい。極めつけに技を出し切った後は繋げたソードスキル全ての技後硬直がまとめて課される為、五秒近く固まったままになる事もザラだ。対人戦で五秒も無防備な姿を晒せば逆転の一発を貰う事は想像に難くないので、相手に凌ぎきられる恐れがある場面では腐る事の方が多い。何より相棒の精神的な疲労がデカく、「ソードスキルを繋げる瞬間に邪魔されたら絶対に失敗する」ともぼやいていた。一度そのタイミングでヤタに横槍を入れてもらったら見事に失敗していたので、対人戦に慣れたプレイヤーには封印安定、の評価で落ち着いた。

 

 「あたしらが思ったほど便利じゃないってコトね。その顔でだいたい分かったわ」

 

 「むぅ……またキリトと二人だけでやってたって事じゃん……」

 

 「わ、悪かったよ……埋め合わせはすっから、拗ねないでくれ」

 

 ふくれっ面になるサクラに謝罪一択。相棒とは一度熱が入るとお互いにブレーキが利かなくなるのは二人揃って悪癖だと客観的には分かっているつもりなんだが……ついやってしまう。

 

 「うおおお!!」

 

 「すげぇ!どっちも速くてロクに見えねぇぞ!」

 

 ギャラリーの歓声が響き、自然と視線が戦うキリト達へと向けられる。リズ、シリカ、フィリア、リーファ、そしてサクラが声援を送る中で……オレは何も言えなかった。

 

 (なんで……なんでそんな、悲しい眼で戦ってんだよ、キリト!)

 

 少女と剣を交える相棒は、表情こそ真剣なモノであったが、闇色の瞳から僅かに覗く彼の心は……この戦いを楽しめていないと解ってしまったのだ。

 目まぐるしく攻防が入れ替わる。少女の剣が相棒の左腕を掠めれば、次の瞬間には少女の左肩にも同様のダメージエフェクトが走る。互いに相手の行動を見てから有効な一手を……いや、後の先を取り合っていて、双方のHPゲージはほぼ同等の減り具合。

 

 「どっちだ!?どっちが勝っているんだ!?」

 

 「良く分かんねぇ!だが俺ぁブラッキーが負けるとは思えねぇよ!」

 

 「いーや、相方が負けたんだ。あの娘が連勝する方に賭けるぜ!」

 

 ギャラリーの盛り上がりは今日一番と言っても過言ではない。闇妖精の少女も同様だ。ただ一人、キリトだけが心の片隅で悲しんでいる。彼が手を抜いているとか、剣筋が鈍っているとかは全然無くて。真面目に全力で戦っているからこそ、その動きと乖離している相棒の気持ちが気になって仕方がない。

 

 (今、何を―――?)

 

 鍔迫り合いの僅かな時間。相棒達の口許が何らかの言葉を零すように動いた。読唇術なぞ習得している訳が無いオレには彼の呟きを解読する事はできない。

 

 「―――!」

 

 相対する少女が、キリトの言葉に目を見開く。だがそれも一瞬の事で、すぐさま仕切り直しとばかりに距離を取る。

 

 「やぁあああ!」

 

 両足が地に着くや否や、少女が弾丸の如き勢いで相棒へ迫る。彼女が間合いを取る際に体勢を崩されたのか、僅かに反応が遅れたキリトは左手を刀身に添えて防御を試みる。

 

 ―――今までの中で一際甲高い金属音が響く。

 

 持ち主(キリト)の手から弾き飛ばされた剣が、地面に突き刺さる。

 

 「……降参(リザイン)。俺の負けだよ」

 

 渾身の突進突きで駆け抜けた少女が振り返るより先に、相棒は己の敗北を宣言した。




 フリーダム、いってきます。
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