SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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九話 ビーター誕生

 クロト サイド

 

 ディアベルが死んだ。だが、今のオレ達に立ち止まっている暇は無い。ロードは今なお暴れているのだ。その一方でリーダーを失ったレイドはあっけなく崩壊していて、誰かが立て直さなければならない。

 

 「キリト」

 

 「ああ。俺にも聞こえたよ。ディアベルの声」

 

 「なら、やるぞ相棒!」

 

 「おう!」

 

 オレとキリトで時間を稼ぐ。その間に誰かが立て直してくれると信じるしかない。今必要なのは、’ボスに立ち向かえる人がいる’という事だ。

 

 「グルアアァァァ!」

 

 『兜割り』でタンク一人を吹き飛ばしたロードが、オレ達の接近に気づきスキルを立ち上げるべく構える。左腰に剣を構え、左手を添える……アレは居合い系の『辻風』か!

 

 「キリト!」

 

 「任せろ!」

 

 キリトが走りながらも『レイジスパイク』を発動し、『辻風』を相殺。がら空きになったロードの腹に、オレは『サイド・バイト』の二連撃を叩き込む。

 

 「グルウゥ!?」

 

 「チッ、減ってねぇ……」

 

 やはりセンチネルとは桁違いのHPだ。クリティカルだったが、ヤツのHPバーは数ドットしか減っていない。このままではジリ貧だ。

 

 (クソッ!誰でもいいから早く立て直せよ……!)

 

 「グオアァァ!」

 

 「はああぁぁぁ!!」

 

 ロードの『浮舟』を、キリトが『スラント』でキャンセルさせる。オレが踏み込もうとしたとき―――

 

 「スイッチ!」

 

 アスナが走りこんできて、『リニアー』のモーションをとろうとした。だが、ロードの目が妖しく光る。

 

 「アスナッ!」

 

 「ッ!?」

 

 キリトの叫びでロードの攻撃に辛うじて気づき、間一髪で回避する。その時野太刀がフーデットケープを掠め、ボロボロだったケープがポリゴン片になる。

 

 「せやあぁぁ!」

 

 だが彼女はケープが壊れた事を気にせず、ロードに『リニアー』を打ちこんだ。ノックバックでロードが二、三歩後ずさるが、レイド全員が彼女の素顔に見とれていた。

 サラサラとした長い栗色の髪、整った顔立ちにはしばみ色の瞳。ケープだったポリゴン片はそれらを飾るように輝いている。

 ―――要は”美少女”だったのだ。それも信じられないくらいの。

 こういうのを「戦場に咲いた一輪の花」とでも言うのだろうか?

 

 「グルルッ!」

 

 「っ!次、くるぞ!」

 

 ロードの唸り声を聞いていち早く我に返ったキリトが、警戒を促す。それによってオレも意識をロードに向ける。

 

 「わたしも!」

 

 いつの間にかサクラもきたようだ。ロードの右側から、アスナと交互にソードスキルで攻撃している(オレは左側から攻撃している)。

 キリトは一人で何合、何十合とロードと打ち合い、ヤツのスキルを全てキャンセルさせている。アイツの反応速度だからこそできる荒業だ。だが

 

 「グルアァァ!!」

 

 「っ!?しまっ―――!」

 

 上段・下段のどちらかランダムで斬りつける『幻月』。キリトは上段から来ると判断し『ホリゾンタル』を発動したが、実際は下段からだった。そのためキリトは空振りし、がら空きの胴を斬りつけられて吹き飛んだ。マズい!

 

 「チッ!こっち向け!」

 

 とっさにオレは左手でピックを抜き、『シングルシュート』を放つ。

 

 「グオオ!?」

 

 ヘイトを稼ぐため、大まかに頭部を狙ったが、ピックはロードの鼻に刺さった。これによりタゲがオレに移り、ロードはオレを正面に見据える。

 

 「さあ来いよ、犬面野郎!!」

 

 意味は特に無いが、ロードを挑発する。すると意外な事に、ヤツが怒ったように雄たけびを上げながら『浮舟』を発動してきた。

 

「グルアアァァァ!」

 

 「ふっ!」

 

 オレはバク転でそれを回避する。普通なら野太刀のリーチから抜けられないが、軽業スキルにより、辛うじて回避できた。

 

 (デスゲームなのにすれすれで回避とか……心臓に悪りぃ……)

 

 背筋に悪寒が走るが、休んでいる暇は無い。キリトほどの力の無いオレでは、かわし続けて時間を稼ぐしかない。ちらりとパーティーメンバーのHPバーを見ると、キリトのバーが延び始めていた。

 ロードの攻撃をかわし、ピックを投げてタゲをとり続ける。ベータ時代にカタナスキルを覚えていたからこそできる芸当だった。実際には一分か二分ぐらいだが、体感時間では数十分に感じられた。そしてオレの集中はアッサリと切れる

 

 (っ!?ヤベェ!!)

 

 ピックを使い果たしたのだ。その事に一瞬気をとられ、ロードの攻撃の回避タイミングを逃してしまった。このまま喰らうよりはマシだと咄嗟に武器で防御しようとして―――

 

 「うおおらああぁぁぁ!!」

 

 オレの前に誰かが現れ、両手斧スキル『ワール・ウィンド』で野太刀を弾いた。

 

 「アンタは……」

 

 「お前も休め!時間稼ぎは任せろ!!」

 

 「……サンキュ」

 

 黒人の偉丈夫、エギルだった。ロードの方には、彼のパーティーメンバーと思われるプレイヤー達が集まりタゲを取っていた。

 

 「「「うおおおぉぉ!!」」」

 

 エギル達が各々のソードスキルでロードを絶え間なく攻撃しているが、全て野太刀で防がれている。甲高い金属音が鳴り響くが、ロードのHPはほとんど減っていない。

 

 「グルアアァァァ!!」

 

 ロードがエギル達をなぎ払い、飛び上がる。いつの間にかロードを囲んでいたらしい。この状況で使われるカタナスキルは一つ。

 範囲技『旋車』。高い攻撃力と広い攻撃範囲、スタン効果を兼ね備えた凶悪なスキルだ。HPが八割以上残っているエギル達でも、アレを喰らったらマズい。オレはすぐに駆け出したが、短剣スキルでは、空中にいるロードを攻撃する手段が無い。

 

 「届けええぇぇぇ!!」

 

 HPが回復しきっていないキリトが、『ソニック・リープ』を発動し跳び上がった。確かあれは空中に攻撃可能なスキルだった筈。キリトの位置からロードに届くか微妙だが、今は届く事を祈るしかない。

 

 「ガアアァァ!?」

 

 そして、キリトの一撃はロードを捉えた。それにより『旋車』はキャンセルされ、ロードは地面に不時着する。

 

 「おらあっ!!」

 

 不時着し、転倒状態になったロードの右目に『アーマー・ピアース』を打ち込む。だがヤツはすぐに起き上がり、追撃できなくなった。けれど、そのHPはあと僅か。

 

 「クロト!アスナ!サクラ!最後の攻撃、一緒に頼む!!」

 

 「おう!」

 

 「了解!」

 

 「分かった!」

 

 キリト達が来てくれた。ならここで、トドメを刺す!!

 

 「グルアアァァァッ!!!」

 

 ロードも最後の抵抗とばかりに野太刀を振るう。しかしそれはキリトの『スラント』で弾かれる。

 

 「せやあぁっ!!」

 

 「やああぁっ!!」

 

 アスナの『リニアー』とサクラの『レイジスパイク』がロードの腹に突き刺さる。

 二人に続いて、オレとキリトはそれぞれ『クロス・エッジ』と『バーチカル・アーク』を発動。

 

 「これで―――」

 

 「終われええぇぇぇ!!!」

 

 オレはロードの右わき腹を十字に、キリトは左わき腹をV字に切り裂いた。オレ達の攻撃を受けたロードは体を硬直させ、次の瞬間には破砕音を響かせながら大量のポリゴン片に変わった。

 

 ―――本当に終わったのか?

 

 誰もがその疑問を抱いた。だがそれは、各自の前に表示されたリザルト画面と空中に大きく浮かび上がった<Congratulation!!>の文字により解消された。

 

 「……やった……やったぞぉー!」

 

 「ボスを倒したんだぁー!」

 

 「おれ達が勝ったんだ!」

 

 「ざまあみろ茅場ぁー!」

 

 皆が仲間と肩を叩き合ったり、抱き合ったりして、喜びを分かち合っていた。

 

 「終わった……かぁ……」

 

 彼らを見て、オレもようやく実感がわいてきた。その場に腰を下ろし、キリトに声をかける。

 

 「お疲れ、相棒」

 

 「そう……だな……」

 

 キリトもようやく、ボス戦が終わった事が実感できたのだろう。表情が戦闘中の硬いものから、普段どおりのものに変わった。

 

 「LAは取ったぞ」

 

 オレに近づき、ニヤリと笑いながらキリトが小声でそう言った。だが甘いな、キリト。

 

 「オレも頂いたぜ?」

 

 「げっ……またDLAかよ……」

 

 DLA―――ダブルラストアタックは、オレがベータ時代に得意としたシステム外スキルだ。やる事は単純で、他人のLAに便乗して同時に攻撃するだけだ。タイミングがシビアだが、成功すると両方にLABが手に入る。しかも入手アイテムは全くの別物だ。

 キリトはLAを取るのが上手かったので、それに合わせて攻撃すれば、オレもLAが取れると思い、始めたのがきっかけだ。

 

 「お疲れ様」

 

 「おめでとう」

 

 いつの間にかアスナとサクラが来ていたようで、労いの言葉をかけてくれた。後ろにはエギルもいる。

 

 「見事な活躍だったぞ、Congratulation!この勝利はあんたらのモンだ」

 

 「いや、そんな……」

 

 「オレらも、アンタ達がいなきゃやられてたさ」

 

 自分の力だけで勝てたわけでは無い。それが分かっているからこそ、オレもキリトもエギルの賞賛を素直に受け取れないのだ。自分たちよりも先に賞賛されるべき人がいる、と言おうとして―――

 

 「何でやっ!!」

 

 キバオウが、涙交じりの声で叫んだ。それによりレイド全体が水を打ったように静まり返る。

 

 「何で……何でディアベルはんを見殺しにしたんや!?」

 

 「見殺し……?」

 

 意味が分からず、キリトは聞き返す。するとキバオウは顔を上げ、ディアベルのパーティーメンバー等の一部の者達と共にこちらを睨む。

 

 「そうやろが!ジブンはボスの使う技、知っとったやないか!あの情報を伝えとったら、ディアベルはんは死なずにすんだんや!!」

 

 キバオウの叫びでレイド全体が、会議の時のように疑心暗鬼になり始めていた。お互いに「そう言われれば……」や、「攻略本に載ってなかったのに……」といった疑問をぶつけ合っていた。

 だが、じきに気づくだろう。オレ達が元ベータテスターだという事に。

 

 「おいおいあんた等―――」

 

 エギルと彼のパーティーメンバー達が窘めるが、全員を止めることはできなかった。

 

 「きっとあいつ等、元ベータテスターだ!ボスの使う武器や技、知ってて隠してたんだ!他にもいるんだろ!?元ベータテスターども、出て来いよ!!」

 

 オレ達を睨んでいた内の一人が、そう叫んだ。マズい!このままじゃ元テスターとビギナーに埋まらない溝ができる!!

 

 (これじゃ攻略どころじゃなくなっちまう……!)

 

 何か手は無いかと必死に考えるが、そう都合よくは浮かんでこなかった。その時

 

 「クロト……」

 

 「何だよ?」

 

 「ハルを……頼む」

 

 そう言ってキリトは、高笑いしながらゆっくりと立ち上がった。オレはようやくキリトが何をするのかを理解した。

 

 「元ベータテスター、だって?」

 

 ふてぶてしい表情を作り、キリトはキバオウ達のところへ歩き出す。

 

 「俺をあんな’素人連中’と一緒にしないでくれないか?」

 

 キバオウ達を―――いや、ここにいる全員を見下すような目をして、抑揚の無い声でキリトは言い放った。

 

 「な、何やとぉ!」

 

 キバオウは思わずといった感じで怒鳴り返す。

 

 「よく思い出せよ、SAOのベータテストはとんでもない倍率の抽選だったんだぜ。その中に本物のMMOゲーマーが何人いたと思う?」

 

 キリトは、反ベータテスター思想の矛先を全て自分に向けるつもりだ。自分への負担を省みずに。だからこそオレは、キリトを……仲間を一人にしたくなかった。

 

 「おいおいキリト、そんな遠回しな言い方じゃここの連中は分かんねーよ」

 

 オレもまた、キリトと同じふてぶてしい表情をして、同じようにバカにした口調でキバオウ達の方へ歩き出した。

 

 「オレがハッキリ言ってやるよ。オレ達以外は全員’ザコ’だったってな!!」

 

 「ざ、ザコ……やと……?」

 

 キリトは一瞬驚いた表情だったが、すぐにふてぶてしいものに戻した。そしてキバオウのつぶやきに答えるように言った。

 

 「そうさ!皆レベリングのやり方を知らないどころか満足に戦う事すらできなかったんだからな!今のあんた等の方が’まだマシ’さ」

 

 この場にいる全員すらバカにするような発言に、誰かが言い返す前にオレが続ける。

 

 「けどな、オレ達は違う!オレ達二人はベータテスト中、誰も到達できない層まで登り、そこのボスを倒した!!」

 

 「俺達がボスのカタナスキルを知っていたのは、上の層でカタナを使うmobとさんざん戦ったからだ!……他にも色々知ってるぜ?情報屋なんて、問題にならないくらいにな!!」

 

 キリトがそう締めくくった。誰も彼もが唖然としていたが、キバオウがかすれた声で

 

 「な……何やそれ………そんなんもうベータどころや無いやん……もうチートや!チーターやんそんなん!!」

 

 そう叫んだ。それを皮切りに、全員が

 

 「チーターだ!」

 

 「そうだそうだ!」

 

 「ベータのチーターだ!」

 

 などとオレ達を非難する。その中で、ベータとチーターが重なって’ビーター’と聞こえた。

 

 「ビーター、か」

 

 「いい呼び名じゃねぇか、キリト。貰ってこうぜ」

 

 「ああ。これから俺達はビーターだ」

 

 そう言ってキリトはLABであろう漆黒のロングコートを装備した。それは今まで彼が装備していた灰色のハーフコートよりもずっと、悪役らしくて似合っていた。

 

 「次からは元テスター如きのザコ共とは一緒にしないでくれよな!」

 

 オレもまた、LABの’ミッドナイトマフラー’を装備し、そう言い放った。今まで着ていたフードが消え、キリトのコートと同色のマフラーが現れる。顔の上半分が露になるが、気にせずオレ達は、第二層へと続く階段へ向かった。そして階段の手前でキリトが振り返り

 

 「転移門のアクティベートは俺達がしておいてやる。主街区まで少し歩くから、ついてくるなら初見のmobに殺される覚悟をしとくんだな!」

 

 と、全員に言い放つ。だがオレは一切振り返る事無く、階段を上る。

 

 (これで……ほとんどのプレイヤーが敵になったな……)

 

 ひょっとしたら、もうボス攻略のパーティーには入れないかもしれない。最悪闇討ちなどに遭ってPKされるかもしれない。だが、そんな事はどうでもよかった。仲間が一人にならずに済むのなら、という考えでオレは動いたのだから。

 キリトと同じビーターになった事を、オレは後悔なんてしていない。




 ミッドナイトマフラーは、作者のオリジナル装備です。イメージは、GGOでシノンが着けていたマフラーを黒くした感じです。

 ちなみに、戦闘描写はアニメの方を参考にしました。

 誤字、脱字、アドバイス等ありましたら、感想にてお願いします。
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