そして今回も中々進まないスロー展開……自分の発想力の乏しさを痛感します……
クロト サイド
第一層が攻略されてから、攻略のペースは驚くほど速くなった。最初は一ヶ月かかったのに比べ、現在は数日から一週間で一つの階層が攻略されている。
普通に考えれば驚くほどのハイペース攻略だが、それでも第百層に到達するには年単位の時間がかかるだろう、というオレ達の考えは変わらない。
現在の最前線は第八層。
「キリト、そろそろ帰ろうぜ」
「ん、もうこんな時間か」
今オレ達がいるのは第八層のフィールドダンジョン、”宵闇の森”だ。ここは背の高い木で覆われているので、昼間でも薄暗く、夜になるともう何も見えなくなるくらいだ。
とは言っても、ここを攻略しないと迷宮区に行けない、なんて事は無いので、誰もここには来ない。また、
「ここの情報は売らなくて正解だったな、キリト」
「ああ、索敵スキルが二百を超えてないとここのmobの隠蔽を看破できないからな」
デスゲームとなっている状況で、隠れた敵が見つけられないダンジョンに入る事はあまりにも危険だ。「いつの間にかmobに囲まれてフルボッコされて死んだ」と言うことがベータ時代に頻発していた事もあり、その二の舞を防ぐためにアルゴも攻略本で注意を促していた。
しかしオレ達はまだアルゴに、ここがレベリングスポットであると言う情報を売っていない。注目されたのはベータテスト終了間際だったし、アルゴはその頃他の階層の情報収集をしていたので彼女も知らなかったのだ。
ここのmobは発見するのに高い索敵スキルが必要だが、一体あたりのステータスが低い。そのくせ貰える経験値が多めでリポップも早いので、パーティーに一人索敵スキル持ちがいるとレベリングスポットに早変わりする。
ビーター宣言をしてから、攻略組の多く(下っ端や新参者)はやたらとオレ達を敵視してくる。
その一方で、エギルやアスナのように一部の人は友好的に接してきてくれる。オレとしては、キリトが孤立しがちなので気にしてくれる人が多いのは嬉しい。
また、リンドがドラゴンナイツブリゲード(通称DKB)、キバオウがアインクラッド解放隊(通称軍)を立ち上げ、攻略組の二大ギルドになっていた。
この二人は、ディアベルほどでは無いがリーダーとしてそれなりに人をまとめているが、勢力争いが耐えないのが玉にキズだ。……まあ、必要以上にオレ達を排斥して、相手のギルドに入られるのを気にしているから、ギブ&テイクで取引ができて楽っちゃあ楽なんだが。
「所でクロト、それ美味いのか?」
「おう。スルメイカの味がする」
この階層の主街区の屋台で売っていた、焼いたベーコンの見た目をした何か。ベータ時代に見かけなかったので試しに買ったのだが、どういう訳か現実世界のスルメイカの味と食感だった。
この世界では外見と味や食感が一致しないものが多いが、現実の味はほとんど無かった。そのためオレは意外にもそのベーコン?を気に入り、気が向いたときに齧っていた。ちなみにキリトとハルはオレのようにはならなかった……解せぬ。懐かしくて美味いのに。
「キリト、今何時だっけ?」
「午後四時半ってところ」
キリトの、自分で確認しろよ的な視線を無視しつつ二つ目のベーコン?をストレージから出す。
だが次の瞬間、黒い何かが猛スピードで目の前を通り、オレの左手からベーコン?が消えた。慌てて黒い何かが通った方を見て
「……は?」
オレは間抜けな声を出した。そしてそれを聞いたキリトが振り返り、
「どうし」
オレが見ているものを見て、固まった。オレ達の目の前には、こちらに背を向けてオレから奪ったベーコン?を一心不乱に食っているカラスがいたのだ。
ヤツのカーソルはピンク。つまりオレ達よりも弱い。だが、ここに出現するmobはサルとかキノコをベースにしたものだけだった筈だ。
「キリト、こいつってもしかして」
「いや、ベータ時代からいたシャドー・クロウじゃないか?結構レアなmobだよ」
二層のフロアボスみたいな新規追加のmobか?と言うオレの問いかけに、言い切らないうちに返すキリト。コイツ、オレよりもSAOに詳しいな~。
再び視線をカラスに向けると、ヤツは丁度ベーコン?を食べ終わった所だった。それと同時にオレの前に、一つのウィンドウが現れる。
「キリト……これ何?」
「テイムイベントだよ。分かってて攻撃しなかったんじゃないのか?」
「いや、まさかオレがそうなるとは思ってなかったし」
あきれるキリトから、ウィンドウに視線を戻すと―――
〔 ヤタガラス をテイムしました。名前を決めてください〕
……ヤタガラス?シャドー・クロウじゃないの?
「なあ、ベータ時代にヤタガラスっていたか?」
「いなかったよ。何だってそんなことを……」
「ヤタガラスをテイムしたって……」
オレがウィンドウを指差しながらそう言うと、キリトは数秒固まり
「なんじゃそりゃあぁ!?」
と驚いた。叫んで他のmobを引き寄せる事がなかったのが幸いだ。
「こりゃ、アルゴに情報売って調査してもらうか」
「……ああ。けど、名前どうするんだ?」
そうだった。オレが名づけないといけないのか……ネーミングセンスに自信が無い。
「何か案無い?」
「俺に振らないでくれ……mobの名前から取ったらどうだ?」
元の名前からねぇ……ヤタガラス……お、そうだ
「ヤタでいいや」
「安直過ぎないか?それにヤタってヤタノカガミだろ」
「いーだろ別に。他に浮かばないんだし」
そう言いながらオレはウィンドウを操作し、’Yata’と打ち込む。するとウィンドウが消え、ヤタがオレの前でゆっくり羽ばたいてホバリングする。その時オレはある事に気がついた。
「三本脚?」
「神話とかじゃ三つ脚の烏で有名だからな、ヤタガラスは」
つまりそれになぞらえてデザインされたのか……
「まあ、詳しい事は帰ってからだ。ここじゃいつ襲われるか分かんねぇし」
「そうだな」
そうしてオレ達はヤタを新たに連れて、主街区に帰った。
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翌日がフロアボス攻略会議だったので、そこでヤタが大いに目立ってしまった。そのためオレは、攻略組で初のビーストテイマーとして知られてしまった。
テイムしたmobは使い魔となり、カーソルが黄色になる。また、圏内も普通に入れてしまう。そして使い魔は他人に預けたり、ストレージにしまったりできず、常に主人の傍にいる。
そのうえ女顔(認めたくない!)のせいでビーターのビーストテイマーとして多くのプレイヤーに顔が割れた。どんだけ女や娯楽に飢えてるんだよ、SAOプレイヤーは……
「大変だね、クロト」
「全くだ……」
宿屋の屋根で、オレとサクラは夜風に当たっていた。あの日から、サクラとはちょくちょく会って話をするようになった。とはいえ、ビーターのオレといる所を見られるとサクラが風評被害を受けるので、人目に付かない場所・時間で話している。
「そっちはどうだ?」
「この世界にはもう大分慣れたよ」
「そっか」
お互いに近状報告をしたり、他愛無い事を話したりと会話自体は成立しているのだが、あの日以来、オレはサクラの顔をなかなか見れなかった。
フードを被っている時は平気なのに、それを下ろして二人きりでいる時は妙に緊張してしまうのだ。
それに比べてサクラは変わらず自然体で、会話の内容ごとに一喜一憂して表情を変える。不意に笑った時や、心配そうな顔をした時、いつもオレはドキッとしてしまい、しばらく顔が赤くなる。
それがなんとなく恥ずかしくて顔を背けるが、小さくクスクスと笑われるとさらに恥ずかしくて仕方がない。
(好き……なんだよな……サクラが……)
彼女への想いを自覚したのは大分前だが、それが日に日に大きくなっていく。けれどオレはキリトと共に多くのプレイヤーから妬まれ、敵視されるビーター。そしてサクラはアスナと共にニュービー上がりのトッププレイヤーとして認知され始め、攻略組の希望になるべき存在。一緒にいる事を望んでいい訳が無い。それに
(サクラは、現実世界に彼氏とか……いるのかな……)
それを聞く勇気が、オレには無い。現実で別れてから何年も経っているし、その間に性格がかなり明るいものになっているし、ずっと綺麗になってるし…………
「カァ!」
「いてっ」
ヤタに軽く額をつつかれ、思考が中断される。つか地味に痛い。圏内なのに……
「だ、大丈夫?」
ヤタがオレをつついた事に驚きながら心配そうに声をかけてくれるサクラ。やはりその顔を直視できないまま大丈夫だと返してしまう。
会話が途切れ、何か話題が無いかと必死に考える。だがそれも僅か数秒後に届いたメッセージで中断される。
「悪い、メッセ入った」
「誰から?」
確認してみると、ハルからだった。内容は、武器の強化が成功した事だった。強化後の武器は、強化前に比べると使い心地が変わる事がよくあるので、早く慣らしに来てほしいと言うハルの本音が伝わってきた。
時間を確認すれば、午後九時過ぎだった。ハルも今じゃ有名なスミスになり、多くのプレイヤーから依頼を受けている(キリトの弟であることはまだバレていない)。忙しい合間を縫ってオレ達の装備の面倒を見てくれるので、頭が上がらない。
「ハルが武器取りに来いってさ」
「そっかぁ……じゃあそろそろお開きだね」
立ち上がり、屋根の端まで歩いた時、サクラに呼び止められた。振り返ると
「また明日」
彼女が、月明かりに照らされながら満面の笑みを浮かべていた。
「ま、またな」
一拍遅れてオレは返事をし、照れ隠しにマフラーを引き上げながら他の屋根へと跳躍する。
軽業スキルを上げているオレにとって、主街区の民家の屋根を跳ぶのはそこまで難しくは無い。むしろ頻繁に跳んでいて慣れてしまった。そのため跳びながら考え事ができてしまう。
先ほどのサクラが何よりも綺麗に見えて、ずっと頭から離れなかった。そのため、道中はずっと赤面しているという自覚があった。
程なくハルの露店に到着する。流石に赤面したまま顔を合わせるわけには行かないので、深呼吸して落ち着いてからハルの前に跳び下りる。
「あ、クロトさん」
「待たせたな」
「いえ、そんなに待ってませんよ。どうぞ」
そう言いながらハルはオレにダガーを渡す。オレは礼をいいながらそれを受け取り、装備してから試しに何度か振ってみる。丈夫さを強化したせいか、前に比べて少し重くなった気がする。だが、そこまで大きな違いは無かったので、明日中にはなれるだろう。フロアボスも、偵察戦が明日であるため攻略するのは明後日以降だから問題無い。
「告れました?」
「ブフォ!?」
丁度ソードスキルを試そうとしたところにハルからそう訊かれ、オレは『アーマー・ピアース』をファンブルさせてしまう。
「またそれか!」
「だって面白いんですもん。いつも口が悪くて強気なクロトさんが実はヘタレだなんて」
ハルは悪びれた様子が全然なかった。
「っテメ!」
「からかわれたくなかったら告白すればいいじゃないですか」
うぐっ!!今のは心にグサッときたが、こっちにだって少しくらいは理由がある。
「サクラに迷惑かけるだけだろ…………向こうに……彼氏、いるかもしんないし……」
「まさか。クロトさん以外眼中にありませんよ、サクラさん」
ハルはしれっとそう言うが、やはり不安が拭えない。それに
「けど……オレ達、ビーターだから迷惑なだけだろ」
「本当にそうなら、貴方に近づいてきませんよ」
確かにハルの言うとおりだ。だが、全部サクラの、他人を気遣う優しさかもしれないのだ。
アスナと違い攻略組に素顔を晒していないが、細かいところに気が回るサクラは、それなりに人気がある。彼女にとって、オレは他の人とあまり変わらないんじゃないかと思ってしまう。
「けどな……自信が無いんだよ。胸張って”好きだ”って言える位の自信が」
「正直言って、見てるこっちがやきもきします。早くくっついて下さい」
……アレ?笑顔なのに、目が笑ってないぞ、ハル。それどころか寒気がしてきたんだが……
「兄さん曰くもう恋人にしか見えないんですよ、特にボス攻略の時とか。それなのに付き合っていないとか言われると、独り身としてはイラッとするって愚痴る攻略組のお客さんが多くて僕もうんざりしてるんです。それから―――」
宿屋に帰るまでの間、オレは延々とハルから客の愚痴とハル本人の愚痴を聞かされた。途中で話を逸らそうとキリトの事を聞いてみたが
「な、なあハル、キリトは」
「もう寝ましたよ。それと愚痴はまだ終わってませんから」
アッサリ戻されてしまった。ヤタもいつの間にかハルの方にとまっていて、オレを助けてくれそうには無い。
もう……誰でもいいから……助けて……
このまま黒猫団まで跳んでしまおうか……
それとももう少しオリジナルの話を続けるか……
迷っています。
誤字、脱字、アドバイス等ありましたら、感想にてよろしくお願いします。