SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 書いていくうちに、人物設定と矛盾が生じたので、人物設定を少し修正しました。


十三話 消えない傷

 クロト サイド

 

 オレ達が黒猫団に協力する様になってから一ヶ月近く経った。攻略組もようやく足並みが揃うようになり、最前線は三十層に達していた。

 サチ達のコーチは、キリトをメインに行っていた。理由は二つ。キリトのコミュ障を改善させようと思ったからと、オレは顔がアインクラッド中に知られているので、下層にいるといらない騒動を引き起こす恐れがあったからだ。

 

 「んで、特訓はどうだ?」

 

 「皆がんばってるから、レベルは順調に上がってるしコルも稼げてる。ただ……」

 

 「サチの転向……か?」

 

 キリトはうなずき、補足するように彼女の様子を教えてくれた。それによると、明らかにmobを怖がり、HPに余裕があってもメンタル的に長時間前衛ができないらしい。

 

 「他のメンバーはどうしてんだ?」

 

 「サチが怖がりなのは昔からだから、時間をかければきっと大丈夫だって言ってる」

 

 つまり誰もサチの恐怖心を重く見ていないって事か……。あと、と言ってキリトが続ける。

 

 「パワーレベリングの弊害として、急上昇したレベルにプレイヤースキルが追いついていない」

 

 それはまずい。

 元々攻略組が強いのは、高いレベルとスキル熟練度、優れたプレイヤースキル、高性能な装備があるからだ。これらの要素の内、一つでも欠けるとそれが弱点となり、自分の足を引っ張ってしまう。

 そして今の黒猫団はプレイヤースキルが未熟だ。経験値効率の良い狩場を回っているからレベルは問題ない。戦闘を繰り返しているから武器のスキル熟練度も十分上がっている。装備はスミスのハルが提供してくれる。

 だが、攻略組では日常茶飯事となっている、緊急事態に陥った場合の咄嗟の判断力をはじめとした対応力が全く養われていないのだとキリトは言う。

 

 「ケイタには悪いけど、攻略組入りはもうしばらく先にしようぜ」

 

 「そうだな。これからはクエストボスみたいなパターンが変化する敵と戦って、その変化に対応できるように鍛えるよ。サチは……」

 

 キリトの考えは、新しいメンバーを迎え入れ、サチを生産職につかせる事で彼女を戦いから遠ざけようというものだった。しかし

 

 「それだと連携を一から組み直さなきゃならないし、何よりサチ一人で留守番とか辛くないか?」

 

 「うっ、それはそうなんだけど……ぶっちゃけると、ハルを手伝ってくれると助かるなって……」

 

 黒猫団が狩りに出ている間はハルと居てもらえば、ハルもサチも一人になる事は無くなる。そのためサチにはハルの手伝いをして欲しいとキリトは言う。だが

 

 「ケイタは今のメンバーで攻略組入りを目指してるし、サチは皆に戦いたくないって言い出せてないんだろ?まずはそこからじゃないか」

 

 「……ごもっともで」

 

 キリトが苦笑する。オレはそこで話を区切り、時間を確認する。

 

 (午後十時か……そろそろだな)

 

 「レベリング行くけど、お前は?」

 

 「俺も行くよ」

 

 ねぐらにしている宿屋から出ると、オレ達は攻略組御用達のレベリングスポットへ向かった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 第二十八層 狼ヶ原

 

 ここにポップする狼型のmobは、素早い上に攻撃力が高めだがソードスキルが当たれば一撃で倒せるほど防御力とHPが低い。さらに倒すと直にリポップし、常に一匹~三匹いてくれるのでずっと戦い続ける事ができる。

 昼間ならば多くのプレイヤーが集まるが、夜中になると誰もいない。……極たまにクライン達’風林火山’やエギルのようなソロプレイヤーがいるけど。

 ビーターのオレ達が誰にも邪魔されずにレベリングするにはこういった’ほとんど人が来ない時間帯’を活用するしかない。……睡眠時間が減るのは意外とキツイけど。

 

 「今夜は誰もいないな」

 

 「だな。さっさとやろう」

 

 キリトが剣を抜き、近くにいた狼に『ソニック・リープ』を発動し斬りかかる。

 

 「ガウッ!?」

 

 不意打ちを喰らい、狼は爆散。オレもキリトが狙ったのとは別の狼に接近し、短剣を抜く。相手がこちらに気づくが、威嚇の咆哮を上げる前に『クロス・エッジ』を発動し斬り裂く。狼はHPを全損し、ポリゴン片に変わる。

 それ以降は―――ハッキリ言って作業ゲーだ。慣れてしまえば他の方に意識を向ける事もできてしまう。デスゲーム内で、戦闘中に他の事に意識を向けるのはバカな行いだが、レベルが五十に届きそうなオレ達がここのmobに殺される危険は皆無だ。

 いつも雑談や競争、賭け事など色々している。そして今回は狼を多く狩った方に食事を奢るというルールで競っていた。

 

 (コイツは……やべえな)

 

 キリトに撃破数で負けている。その差はたった一匹だが、競い始めてからずっとこのままだ。制限時間は午前零時で、現在は午後十一時半。あと三十分しかない。

 

 (仕方ない……’アレ’で揺さぶるか)

 

 「なあキリト……ふっ!」

 

 「何だ?……はっ!」

 

 狼を倒しながら、キリトと話し始める。

 

 「サチばっか気にしてるみたいだけど……っと、惚れてんのか?」

 

 「なっ!?バカ言え、俺は―――ゴフッ!」

 

 動きが止まったキリトが狼のタックルをもろに喰らう。

 

 (作戦成功。今の内に稼がせてもらうぜ)

 

 一度狼のラッシュが始まるとしばらくは回避しかない。その間にオレは二匹倒してリードを奪い、さらに揺さぶる。

 

 「最近三日に一回はっ、向こうの宿に泊まってるじゃん。ふっ、ハルがぼやいてたぞ」

 

 「そ、それはただっ、特訓してたら遅くまでかかって……」

 

 何か言っていたが、キリトはもごもごとしか言わないので聞こえない。よって

 

 「な~に~?もしかして言えない様な事~?」

 

 ひたすら煽る。キリトはバカみたいに引っかかり

 

 「だから!特訓してたら遅くなっただけだっての!」

 

 ムキになって叫ぶ。その間彼の剣は目に見えて鈍っていて、今までの倍ぐらいの時間をかけて狼を倒している。……うん、いかにも何か隠してますって感じだな。

 

 「それにしちゃあ定期的すぎませんかぁ~?」

 

 「うぐっ!」

 

 キリトが言葉に詰まっている。……これはまさか?

 

 「何だよ~、今度こそ言えない様な事かぁ~?」

 

 「そんな事よりレベリングだ!」

 

 キリトが強引に切り上げたのでこれ以上追求できなくなったが……既に五匹は差がついているのでオレの勝ちは確定である。そしてキリトはそれを知らない。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 制限時間になり、競争はオレが勝った。とはいえ差を五匹から二匹に縮められたのはヒヤッとしたが。

 

 「くっそぉ、アレは無しだろ……」

 

 「お前が隙だらけなんだよ」

 

 キリトの抗議を聞き流し、今度こそ隠し事を暴く。

 

 「で、実際はどうなんだ?」

 

 「結局それかよ……」

 

 キリトは諦めたようにため息をつくと、ようやく教えてくれた。

 

 「サチがな……一人じゃあまり眠れないんだ」

 

 「不眠症か?」

 

 確かにデスゲームを強要されたSAOプレイヤーの中には、何かしらのストレス等を抱えて不眠症を患っている人が少なからずいる。……と言うか実際攻略組にも数人くらいいた気がする。

 

 「そんなもんかな……サチは、ずっと怯えてたんだ。’死ぬのが怖い’って」

 

 「ケイタ達は気づいてんのか?」

 

 キリトは頭を振る。それで大丈夫なのだろうか?

 

 「サチも、皆に迷惑掛けたくないって黙ってたんだ。それで俺に初めて教えてくれた」

 

 「それでお前が寝かしつけに行ってんのか」

 

 「ハッキリ言うなぁ……まあ、ざっくり言うならそうなんだけど」

 

 苦笑しながら答えるキリト。ここでオレは今疑問に思った事を聞いてみる。

 

 「どうやって寝かしつけてんだ?」

 

 「あのなぁ……」

 

 キリトは呆れた声を出す。いや、表情も同じだ。まあ、立場が逆ならオレだってキリトと同じ反応をしていただろう。

 だがしかし、気になる事は気になるのが人の性。

 

 「どうなんだよ?」

 

 「……’君は死なない’って言葉をかけながら、傍にいてあげるだけだよ」

 

 重ねて訊くオレに観念して教えてくれた。が、その表情は暗い。

 

 「笑っちまうだろ……根拠も理屈も無い薄っぺらな言葉を吐いてるだけだぜ?」

 

 これじゃただのペテン師だよな、と自虐的な笑みを浮かべながらキリトは歩き出す。その背に、声をかけずにはいられなかった。

 

 「別にいいんじゃないか?」

 

 キリトは立ち止まって振り返る。驚いた顔をしていた。それに構わず、続ける。

 

 「根拠や理屈がなくても……いや、だからこそ、かな」

 

 「何が言いたいんだ、クロト?」

 

 よく分からないと言わんばかりに首をかしげるキリトには悪いが、オレも自分が言いたい事が上手く纏まらない。そのため、数分ぐらい間が空いてしまった。

 

 「死なないって言葉をかけたなら……死なせなければ良いんじゃないか?一層でハルに'俺が守る'って言って、守りきってみせたみたいにさ」

 

 ようやく言えたのがこれだった。もっと良い言い方があるかもしれないが、オレにはこれが限界だった。けど―――

 

 「……そうだな。サチも黒猫団も、守ってみせる」

 

 キリトには、届いたようだ。オレの前で誓うように、握り締めた右手を見つめる。

 

 「ま、オレだってできる範囲で手伝うし、一人でやろうとすんなよ?」

 

 「守れって言い出したのはお前だろ」

 

 そのままオレ達は、ねぐらの宿屋へと帰る。最低限度の警戒をしつつ、軽口を叩きあいながら。いつかこのやり取りにケイタ達が加わるのを夢見ながら。

 

 ―――だが数日後、この願いは叶わぬものとなった。

 

   何故なら、ギルド’月夜の黒猫団’は……全滅したからだ―――

 

 

 

 

 その日オレはいつもどおり最前線で迷宮区の攻略に励んでいた。朝早くから夕方までずっと。

 彼らに使えそうな装備やアイテムがドロップや宝箱で幾つも手に入ったので、ホクホクした思いで彼らの拠点へ行ったが……誰もいなかった。

 フレンドリストを確認すると、黒猫団全員が追跡不可能なグレー表示だった。幸いキリトは追跡できたので探すと、主街区の端―――アインクラッド外周部に接するテラス―――にいた。

 喧嘩でもしたのだろうと思い、仲直りの方法を考えながらキリトの所へ向かって……

 

 そこにいたキリトの様子に絶句した。

 

 そしてこの時オレはキリトに、ケイタ達が死んだ事を教えられた。

 

 一滴の涙を流す事も無く、無表情で、抑揚の無い声で、淡々と。

 

 

 

 ―――以来キリトは、死に場所を求めるようにわが身を省みずに戦うようになった―――




 まず、黒猫団生存ルートを期待していた方々に一言


 すみませんでしたああぁぁぁ!!!!!! (ひたすら土下座)


 作者では、生存した後の活躍がまるっきり書けないし、生存してもほったらかしになるのは嫌だったので……こうなっちゃいました。本当にごめんなさい。


 でも……この傷があったからこそ、キリアスができたり、グリームアイズ戦で二刀流を使ったりしたのだと思うので、原作寄りにしました。
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