今回は自分でも引くぐらい暗い話になりました……
クロト サイド
黒猫団が壊滅してから、半年ほど経った。ケイタ達が死んでから、キリトは荒んでしまった。
どうして彼らが死んだのか、という詳しい経緯をキリトは話してくれない。きっと話したくないのだろう。だからオレは、キリトが話す気になるまで待つつもりだ。
とはいえ、オレだってケイタ達が死んだのはショックだったし、悲しかった。だが、目の前でキリトが見るに耐えないくらい荒みまくって、心を閉ざした姿を見ていると、不思議と表面上は平気な姿を装えた。それに
(辛いのは、オレよりもハルだよな……)
この半年間、キリトはハルとまともに話をしていないのだ。ハルがいくら話しかけても生返事をするくらいで、会話を続けようとしない。加えてキリトが最前線で自殺まがいの攻略をしているとの情報を頻繁に聞いているので、ハルの心労はかなりのものだろう。
だがハルは強い子だ。表面上は上手く取り繕っているので、商売は上手くいっているとの事だ。この間メンテをしてもらった時も、
「僕は……僕にできる事を精一杯やるだけです」
まっすぐにオレを見てそう言っていた。本当は誰かに縋って泣きたいくらい辛いだろうに、健気に仕事に専念しようとしているのだ。全く、弟に負担かけてんじゃねえよキリト。
(つってもオレだって、キリトが死なないようにするくらいしかできないけど……)
今のキリトには、誰の言葉も届かない。それはこの半年間ずっとそうだった。そしてその事が、オレにはどうしようもないくらい悔しい。
サクラともほとんど会わなくなってしまった。いや、サクラだけじゃない。クラインやエギル、その他にもオレ達を気にしてくれるわずかな人達とも会う事が少なくなった。
自分から会わないようにしているのだ。キリトがほっとけないと言い訳をして。もし会ってしまったら、その人にオレの無力さからくる苛立ちや苦しみといった、今まで溜め込んだものを全てぶちまけてしまいそうで怖い。
そして何より一番辛いのはキリトであって、彼がまず救われるべきだ。それよりも先にオレが楽になるのはおかしいとも思う。
そんな時だった。キリトが救われるかもしれない情報が入ったのは―――
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十二月二十四日 四十九層主街区 ミュージェン
街中クリスマス一色となり、どこを見ても若い男女の二人組―――つまりカップル―――が楽しそうに談笑している姿が見える。そんな中、クリスマスツリー近くのベンチで暗い雰囲気なオレ達はクリスマスには場違いだと思えた。
「カァ」
オレの肩にとまっていたヤタが、待ち合わせの相手が来た事を知らせる。
「……何か新しい情報でも入ったか?」
抑揚の無い声で、キリトは後ろに現れた人物―――アルゴに訊ねる。
「金を取れそうなネタは無いナ~」
「……情報屋の名が泣くぜ」
予想はしていたが、アルゴでさえ今夜のアレについては詳しい情報を得られなかったようだ。その事にキリトは皮肉で返す。
「ベータテストでは無かった初のイベントダ。裏づけのしようがねーヨ。不確かな情報を売るのは、オレっちの主義に反すルヨ」
「……そうかよ」
皮肉を言われたせいか、少しムッとした声でアルゴは説明する。だが、キリトはどうでもいいといった風に話を切り上げ立ち上がる。
「……お前、目星ついてんダロ?」
キリトはそれに答えずに転移門へと歩き出して、すぐに人ごみに紛れてしまう。
「キー坊を頼むヨ、クロちゃん」
「……ああ。じゃあな」
一度もアルゴを見る事無く別れを告げ、オレもキリトに続いて転移門へ向かった。
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三十五層フィールドダンジョン 迷いの森
イベント発生場所の目星がついているらしいキリトに黙ってついてきたら、ここに来た。この層が最前線だった頃、この辺りは何かクエストやイベントの舞台になるだろうと予測した情報屋達が調べつくした筈だ。そして今に到るまで何も起こらなかった。そのためオレもここは忘れていたが、イベントの目印である’モミの木’はこの森のどこかにあるのだろうか?
「おいキリ―――」
「急ぐぞ」
不安になって訊こうとしたが、地図を確認し終わったキリトはそれ聞く事無く走り出す。慌ててオレも追いかける様に走り、時刻を確認する。
午後十一時四十六分。確かに余裕は無い。
この森は、小さく区切られた複数のエリアで構成されており、五分毎にエリアの配置がランダムに変化する。エリア同士のつながりを確かめる為には、それなりの値段のする専用の地図をあらかじめ購入しておく必要がある。
だが、今いるエリアがどこにとばされるかは分からないので、地図があっても目的地につくには時間がかかる。
今回は午前零時までに目的地にたどり着いていなければならないので、五分毎に地図をみて進むという悠長な事はしていられない。だからキリトは五分以内に走り抜けてしまおうというのだ。
ここでオレ達がこれから挑もうとするイベントについて説明しておく。十二月二十五日の午前零時に、このアインクラッドの何処かにある’モミの木’に、イベントボスの《背教者ニコラス》が現れる。出現してから二時間以内に討伐できればレアアイテムが多数手に入る、というものだ。そして、その中には蘇生アイテムが含まれているとされているのだ。眉唾物だが、もし情報が本当なら……このデスゲームで、蘇生アイテムの価値は計り知れない。
キリトは間違いなくこの蘇生アイテムを狙っている。少しでも自分がゲットできる可能性を高めるために、キリトは自分が目星をつけた場所を誰にも公開しなかったし、周囲の人間がドン引きするぐらい過酷なレベリングを続けた。特にレベリングに関して言えば、オレもついていけなかった。だがそのお陰でキリトのレベルは七十二で、オレよりも三つも上だ。
とはいえ、オレは蘇生アイテムを信じていない。死んだ人は二度と帰ってこない。それをお袋が死んだときに学んだ。だからボスを倒しても、キリトが絶望するだろうという事は容易に想像できた。だが、それと同時にキリトを止める言葉だって持ち合わせていない。今のオレにできる事は、キリトが死なないように一緒に戦う事だけ―――
「カァ!」
「つけられてたか……」
目的地手前のエリア(目的地とこのエリアは固定)で、ヤタが反応し、キリトが尾行されていた事に気づく。
振り返って身構えると、さっきオレ達が入ってきたワープポイントから、赤銅色の和風甲冑を身に纏った集団―――クライン率いる風林火山が現れる。
「オレ達をつけてたのか?」
「……まぁな。ウチには追跡の達人がいるんでな」
わかりきった事だが、クラインに後をつけていたかを訊いた。そして彼はそうだと答えた。
レベリングの時に何度か話はしていたので、彼らがニコラスを狙っているのは分かっていた。だが、オレ達を追跡してくるのは予想外だった。
「……何の用だ?」
警戒心をむき出しにした冷たい声で、キリトは訊ねる。クラインはそれに一瞬怯んだが、決心したように話し出す。
「おめぇらが強いのは分かってる……けどな、たった二人でボスに挑むなんて自殺行為はやめやがれ!いいから俺らとパーティー組め。蘇生アイテムはドロップしたヤツの物で恨みっこなし!それでいいだろ!?」
オレ達への最大限の譲歩がされた提案だ。普通に考えればここで彼らと協力するべきだ。だが―――
「それじゃあ意味が無いんだよ。俺達が……俺が手に入れなきゃ」
今は普通ではない。特に、キリトにとっては。本当の事をいえば、キリトはオレの事も出し抜いて一人で挑もうとしていたのだ。それを説得できたのが先週で、もう他の誰かの手を借りる気はないと言っていた。だからここでいくらクラインが説得しようとしても時間の無駄にしかならない。それを分かっている筈なのに、クラインは諦めないで食い下がる。
「おめぇが誰を生き返らせたいのかはわからねぇ……けどな!ここでおめぇを死なせる訳にはいかねえんだよ!キリト!」
キリトは無言で剣に手を伸ばす。クラインはなおも続ける。
「いい加減目を覚ませ!ここでおめぇが死んだら、ハルはどうなる!?アイツがどんだけおめぇを心配してんのか分かってんのか!後追ってじさ―――」
「うるさい!!」
クラインの声を遮るように叫びながら、キリトは剣を抜き放った。
「俺は死ねない……ハルを帰すまで、死ぬ事は許されないんだ……!」
ハルを現実世界に帰す、それだけが今キリトを生かしている最後の枷。それがあったからこそ、この半年間キリトは最後の一線で踏みとどまっていた。だが同時にそれはキリトに「死にたいけど、死ねない」という生き地獄を与えている。
クラインには悪いが、ここはさっさと次のエリアに移るべき―――
「カァ!!」
「っ!?後ろだクライン!」
ヤタがさらなる追跡者達を探知した。それをクラインに警告した数秒後に、青と銀の二色がメインカラーの鎧を身に纏った集団―――聖竜連合が現れた。
「クライン達もつけられてたか……」
恐らく攻略組のほとんどのギルドに見張りをつけていたのだろう。オレはDDAの人海戦術には辟易すると同時に慌てた。
(オレが囮になって、キリトだけでも行かせるか?でもそれこそ死なせる様な事だし、何か―――)
「ああくそっ!クソッたれが!」
その時、クラインが悪態をつきながら抜刀し、オレ達とDDAの間に割って入った。しかもDDAに刀を向けて、だ。
「二人とも行け!ぜってー死ぬんじゃねぇぞ!!」
突然の事に戸惑っていたオレはその言葉を聞いて、クラインはこういう奴だったなと改めて気づかされた。だから
「分かった!」
そう返事をして、ワープポイントへ走り出す。キリトは既にワープしていた。
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静かに雪が降り続ける中、中央に巨大なモミの木が生えた、開けた場所に出た。とはいえ、オレには木の種類は分からないけど。
数歩先を歩いていたキリトが上を見たので、釣られるように見上げると、上空から何かが落ちてくるのが見えた。
盛大に雪を巻き上げながら着地したソレは、巨大なサンタだった。といっても世間一般で知られている’ふくよかなおじさん’ではなく、青白く皺だらけの肌をした、ガリガリでグロテスクな老人だった。コイツをサンタたらしめている所と言ったら、ボロボロのサンタ服と、豊かな白ひげぐらいだ。
カーソルを合わせると四段のHPバーと、《背教者ニコラス》の名が英語表記で表示される。ヤツが身じろぎして、イベントボス用のセリフを言おうとして―――
「―――うるせえよ」
キリトがそれを煩わしそうに遮った。それにあわせて、オレは構える。そして
「うおおおおぉぉぉ!!!」
キリトは叫びながら、正面から突撃した。
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断末魔の悲鳴を上げて、ニコラスは爆散した。一拍遅れて、ヤツが担いでいた袋も爆散し、オレ達の前にリザルトウィンドウが表示される。同時にオレの体が光り、ファンファーレが鳴る。レベルが七十になったのだ。だが、今はどうでもいい。
(オレの方に蘇生アイテムは無し……きっとLABだろうな)
LAをきめたのはキリトだ。ならば蘇生アイテムはキリトにドロップした筈。そう思ってキリトの方を見ると―――
「そう、だよな……そんな都合のいい物、ある訳無いよな……ははっ、バカだな俺……」
がっくりと膝をつき、壊れたように乾いた笑みを浮かべていた。目の前に落ちている蘇生アイテムらしき物を見るその目は、何の光も宿っていない。
オレはそれを拾い、タップ。表示されたウィンドウには
〔このアイテムを手に持ち、「蘇生、〇〇(プレイヤー名)」と言えば、HPがゼロになった対象プレイヤー(約十秒以内)を蘇生します〕
とあった。
「ふざ……けんなぁ!!クソ野郎がぁぁ!!!」
それを見たとき、オレは茅場晶彦に対して、明確な殺意と憎しみを抱いた。頭ではこうなる事は予想がついていた。だが、そういっても心は納得できない。
「人を何回絶望させれば満足しやがるんだ茅場ァァァ!!!」
過去の死者を救えないが、目の前の死者を救えるアイテム。キリトにとって一番残酷な結果だった。同時に、この世界で死ねば現実でも死ぬという証明でもあった。
なんだかんだで、バトルシーンを省略してばっかな気がします。
戦闘描写が苦手なせいか、無意識で避けているようです。(自分で読み返して気づきました)
バトル増やした方が面白くなるのでしょうか……?
それにしても、原作キリトってニコラスの情報を得るまで何で死なずにいたんでしょう?本作では、ハルを生存理由にして違和感を消してみたんですが……わかる人がいたらぜひ教えてほしいです。