社会人になったばかりでゴタゴタしてたんです…
投げ出すことだけはしないので、これからもどうかよろしくお願いします
追記
今までの話をちょこちょこ修正しました
クロト サイド
ニコラスを倒した後、キリトはクラインに蘇生アイテムを投げ渡した。オレはそんなキリトの腕を、ねぐらの宿屋に着くまで掴んでいた。そうでもしないと、キリトがフラっとどこかに行きそうな気がして不安だった。
まぁ実際のところ、キリトは真っ直ぐにねぐらに戻ったのでオレの心配は杞憂だったが。
「……」
キリトは今、机に突っ伏しており、その背に事の顛末を聞いたハルが抱きついて
「ひどいよ……あんまりだよ………こんなの………」
泣いている。
しかし、キリトはそれに対し無反応だった。縋っていた希望が打ち砕かれたばかりなのだ。その絶望はあまりにも大きく、オレには……キリトにかける言葉が無い。
―――どれぐらい、そのままだっただろうか?
沈黙を破ったのは、キリトのメッセージ着信音だった。差出人を確認したキリトが
「……サチ?」
と呟き、画面をタップする。すると彼の手に記録結晶がオブジェクト化された。きっと時限式で前もって用意されていたのだろう。そしてそれはキリトに向けたものだ。オレが聞く訳にはいかない。
キリトが結晶を起動させる前に、オレはこっそりと部屋を出た。そして隣に借りてある自室に入り、一人になった途端
「あああああああ!!!」
叫びながら、壁を殴る。この半年間、キリトに何もできなかった自分の無力さへの苛立ちや、茅場への憎しみ。そういった醜くてドス黒い感情を全てぶちまけるように、何度も何度も。
「このっ!!クソがあぁ!!」
いつの間にか、蹴りや頭突きまでしていた。それでもオレはとまらず、意識が途切れるまで当り散らした。
~~~~~~~~~~
翌日、オレは床に倒れた状態で目が覚めた。今までハードスケジュールでレベリングをしていたツケだろう。時刻を確認すると、午後一時を回っていた。
「……腹、減ったな……」
空腹を感じたのでなんとなく呟いてみたが、仮想世界なので声が枯れてるなんて事は無い。
……多分キリト達も起きているだろう。そう思い彼らの部屋を訪ねる。
「キリト、ハル、入るぞ」
一応一言告げるが、返事を聞かずに入る。すると、ベッドで眠っているハルと、傍らでその頭を撫でるキリトがいた。
「あぁ、クロトか」
キリトがオレに気づく。オレはストレージに残っていた携帯食料を取り出し、キリトも食べるか聞く。だが彼は首を横に振ったので一人で食べる。
「……ごめん」
「ん?」
ふいに、キリトが謝ってきた。何に対しての謝罪なのか分からなかったので、オレはつい首を傾げてしまう。
「ずっと迷惑かけて……本当にごめん」
「あ~、気にすんな。あんな事ありゃ、誰だってああなっちまうだろ」
おそらくこの半年間の事だろう。確かに散々な目に遭ったが、迷惑だとは思っていない。むしろ何もできなかったこっちが謝りたいぐらいだ。
だからキリトの謝罪で、全てチャラにしたかったが
「やめてくれ……そんな簡単に、俺を……許さないでくれ……!」
そう言って俯いてしまう。
……多分コイツは、何かしらの罰が欲しいのだろう。ならオレはこうする。
「じゃあ、オレがやめるって言うまでコンビ継続な」
「……へ?」
オレの言葉にポカーンとするキリト。オレは意地の悪い笑みを浮かべて続ける。
「確かに何度も死に掛けたからな。その分お前をコキつかってやるよ」
「うへぇ……」
こういう時のオレの人使いの荒さを知っているキリトは、諦めたように苦笑した。だが、その表情は以前よりも暗く、深い影があった。
こればっかりは、時間が解決してくれないだろうかと願わずにはいられなかった。
~~~~~~~~~~
二〇二四年 一月上旬 五十層フロアボスの間
「おらあぁ!」
オレが放った『ファッド・エッジ』が、ボスの首筋を切り裂く。情報どおりウィークポイントらしく、ボスが怯む。
だが所詮は短剣。先ほどから取り付いてひたすら攻撃しているが、残り一本となったHPバーの内の数パーセントしか削れていない。
下ではキリトが、今回のボス―――多腕型の巨大な仏像―――の脚を攻撃している。そして攻撃一辺倒なオレ達にタゲが向かないようにボスの注意を一人で引き付け続ける者がいた。
KOB団長のヒースクリフだ。
ボスの異常な攻撃力のせいで半数以上が転移結晶で離脱し、戦線が崩壊する中で彼は一人でボスの猛攻に耐えていた。
オレとキリトの戦意は失われていなかったが、ほとんどのメンバーが諦め、逃げ出そうとしていた。そのため実質三人で戦っているようなものなのだ。
(おっさんのHPはあと六割……耐えられんのか?)
だが、もうすぐ限界が来るだろう。本来ならヒースクリフは他のタンクとスイッチする必要があるが、今はそれができない。
オレには他のメンバーがどうなっているか確認する余裕が無いので、ヒースクリフが限界を迎えた時どうするか考えなくてはならない。
「ゴアアァァ!?」
突然、ボスが体勢を崩し、転倒した。きっとキリトが攻撃しまくったお陰だろう。
「団長、再編完了しました!」
同時に、サクラがヒースクリフに報告する。
「私は回復に努める。アスナ君、指揮は任せる!!」
「分かりました!A隊、B隊突撃!!」
ヒースクリフが下がり、今まで戦闘に参加しなかったメンバーの内のアタッカーが攻撃を始めた。
「クロト下がって!」
「まだ―――」
まだやれる、とサクラに返そうとしたが
「いいから早く!!」
「は、はい!!」
有無を言わせぬ強い口調に、オレは反射的に従ってしまった。ボスから離れ、後方にいる彼女のもとに向かうと
「これ飲んでしばらく休んでなさい!」
と言ってオレの手にハイポーションを握らせた。その表情は真剣なもので、純粋にオレを心配してくれているのだと感じた。
だが彼女にもやるべき事があるのだ。オレが返事をするのも待たずにボスに向かって走っていった。
「C隊、D隊、ブロック!サクラ、タンク隊の指揮は任せるわ!」
「はいっ!」
彼女の現在の肩書きは’KOB副団長補佐’であり、今のようにアスナからタンク隊の指揮を任される事は少なくないのだ。普通なら指揮官が二人というのは混乱が起こりやすいが、アスナとサクラは受け持つ指揮をキッチリ分けているし、食い違ったときはアスナの指示が優先というルールを徹底しているため、大きな失敗をした事が無い。加えて二人であるがゆえに、片方が危険に晒されてもレイドが滞る事も無い。
「ゴアアァァァ!!」
ボスが、最後の抵抗とばかりに腕を振り回す。そのHPバーは一割を切っている。あと一息で終わると思ったが―――
「アスナさん!攻撃速度が速すぎて近づけません!!」
「タンク隊はもつの!?」
「あと三分でPOTローテが間に合わなくなります!」
「あともう少しなのに……!」
攻撃したくてもできない。そんなジリ貧状態に陥ってしまった。今までボスは、多椀ゆえに鈍重だった。しかし今は行動速度が上がり、攻撃間隔が非常に短い。大体三秒くらいあった間が、一秒くらいにまで縮められているのだ。
加えて再編したレイドは二十人足らず。明らかに人数不足だ。
「団長!」
「すまない、まだ回復しきれていない」
ヒースクリフのHPはまだ八割に満たない。キリトが言うには、彼はさっきの立ち回りの前に自身の回復結晶を全てレイドに分け与えたそうだ。そのためレイドの再編と回復が十分足らずで実現したが、ヒースクリフの手元にはポーションしか残っていない。
(何か無いのか……!?)
このままではマズイ。だが焦る思考では何も思い浮かばない。その時だった
「クロト、もう一度ボスに取り付けるか?」
キリトが無謀な事を言ってきた。
「バカ野郎!首まで行く前に斬られるわ!!」
「首までって事は、腕はいけるんだな?」
オレがキレても意に介さず、ニヤリとシニカルな笑みを浮かべて確認してきた。
まあ、一瞬でもあの腕のどれかが止まってくれればできなくは無いが……
「きっかけさえあれば―――」
「それくらい作ってやる」
「……なら、やってやるぜ相棒!」
ここはキリトを信じて腹をくくろう。彼はもう、死にたがりな訳では無いから。
「取り付いたらすぐにソードスキルを!初級でいい!!」
ボスへ向かって走りながら、キリトはオレに指示をくれる。腹をくくった以上、とことん付き合ってやる。
「ちょっとそこの二人!?」
アスナが驚いているが、この際無視。
「クロト!?ダメ!!」
サクラが悲鳴に近い声を上げ、胸が痛むが我慢する。傍から見れば、暴れ続けるボスに紙装甲のアタッカーが突っ込む―――死にに行く様なものだ。とても褒められたもんじゃない。だがオレは相棒を信じ、ボスへと駆ける。
「はあああぁぁぁ!!」
キリトが『ヴォーパル・ストライク』を発動し、迫るボスの腕に己の剣をぶち当て、強引に動きを止める。ついでにボスの持っていた剣を落とす。
オレは技後硬直で体勢を固定されているキリトの左肩と、ボスが落とした剣を踏み台にしてボスの腕に取り付く。そしてそれと同時に
「喰らえ!!」
『アーマー・ピアース』を発動しその手首を貫いた。すると―――
「ゴアアァ!?」
ボスが大げさなぐらい怯み、何本かの腕が武器を取り落とす。これで流れが変えられたと思ったが―――
「カアァ!!」
オレの左肩にずっととまっていたヤタが鋭く鳴いて警告をとばし、そちらを見ると、オレを掴もうとボスの手が迫っていた。
「うおっ!?」
咄嗟に手近の腕に飛び移り事なきを得たが、休むまもなくまた別の腕が迫る。そのためオレはボスの腕をひたすら飛び移り続けた。
幸い、視界外から迫る腕にはヤタが反応してくれたし、一度にやってくるのはせいぜい二本か三本。加えて下ではキリトが接近しており、ボスはその迎撃までしなければならない。
結果的に、オレがボスの攻撃の半分くらいを引き付けていた。そして半数程度になったボスの攻撃なら、キリトの反応速度を持ってすれば無理やり接近する事は可能だった。
「これで…終わりだ!!」
キリトが左腕を半ばから失いつつも、片手剣奥義スキル『ノヴァ・アセンション』を発動。怒涛の十連撃が、ボスのHPを削りきり、ボスはその体を大量のポリゴン片へと変えた。だが―――
「ちょ、うわああぁぁぁ!?」
避けるのに必死だったオレは、ボスを撃破したあとの事を一切考えていなかった。ボスの腕を足場にしていた状態でボスが爆散したので、落下するしかないのだ。
地面との距離はおよそ七メートル。死ぬことはないだろうが……多少の落下ダメージは免れない。落下の衝撃に備えて目を閉じ体を強張らせて―――空中で横合いから誰かに抱きとめられた。
だが落下の勢いは完全に殺しきれず、その誰かと一緒に床の上を二、三回転がってしまう。オレが下にくる形でようやく止まったところで目を開けると……視界いっぱいにサクラの顔があった。
「サ、サクラ!?何で―――」
「バカ!何やってるのよ!一歩間違えたら死ぬような無茶な事して!!」
「で、でも」
「…………んだから」
弁明しようと口を開いたとき、彼女はオレの胸に額を押し当て、弱々しく何かを呟いた。
「え?」
「心配…したんだから……クロトが…ほんとに死ぬかもしれないって……思って……怖かったよぉ……」
サクラは泣いていた。オレが死ぬ事を恐れ、震えていたのだ。
(オレの所為……だよな)
自分が彼女を泣かせてしまったという事実を突きつけられ、自己嫌悪や罪悪感で胸がいっぱいになる。だがそれ以上に
「ごめん、心配させて」
彼女に謝らなければならないと思った。そして
「オレは、死んでないから……今ここにいるから」
安心させたかった。
「反省してるなら……ぎゅっとして」
「ああ」
腕をサクラの背中と後頭部に回して抱きしめる。やっぱり温かくて柔らかいなと感じて―――
「悪い……先に帰る」
いつの間にか、近くに立っていたキリトがぼそりとそう告げ、こちらの返事を待たずに去っていく。さっきの特攻で欠損した左腕もそのままに、俯き、一人寂しく。
―――キリトはあのクリスマスの後、幾らかマシになった。だが表情は常に影を引きずったかのように暗く、喜びやうれしさから笑うこともほとんど無い。他人との接触を以前よりも避けるようになってしまった。そして額にある’何か’を隠すかのように、頭に黒いバンダナをつけるようになった―――
彼が去り際に見せた、遠いものを羨むような、憧れるような、それでいて諦めているような眼差しが………オレの脳裏に焼きついて離れない。
だが今優先するのはサクラだと、思考を切り替えようと軽く頭を振って―――
「あ~クロト、そろそろいいか?」
「っ!?」
エギルの言葉でようやく周りを確認した。大まかに分けると
一・苦笑いのエギルとヒースクリフ
二・呆れたようにため息をつくアスナ
三・射殺さんばかりに嫉妬の眼で睨むKOBの男達
四・orzの状態で床を殴るクライン達他ギルドの男共
……うん、逃げたい。サクラには悪いが、このままではオレがヤバイ。だから彼女を放そうとして
「離れちゃ、やだ」
できなかった。むしろ彼女の抱擁は強くなり、より密着する。そして嫉妬の視線が死線へと変わり
「クロトてめぇ……マジで爆ぜやがれぇー!!」
クラインの魂の叫びがボス部屋に響き渡った。
~~~~~~~~~~
キリト サイド
ボス攻略後、サクラとクロトのやり取りに居た堪れなくなった俺は足早にボス部屋を去り、五十層主街区’アルゲード’に帰ってきた。
恋愛が嫌いな訳ではないし、興味が無いと言えば嘘になる。ただ
(俺には……無理、だよな……そんな相手、いる筈…無いよな……)
諦めているだけだ。
守ると誓った人達を守れず、大事な弟を悲しませ続け、そのうえ醜い傷跡を持った俺なんかを本当に好きになる―――受け入れてくれる人なんて、いる筈が無い。今まで好きだと言ってくれた女の子達だって、全員俺を受け入れてはくれなかったんだ。
上辺の部分が好みだったから近づいて、中身が気に入らないから掌を返したかのように離れていく……好意を向けていた眼差しが恐怖や哀れみ、嫌悪、侮蔑に変わる瞬間を何度も目の当たりにしてきた。
(きっとこれからも……そういう奴しか居ないんだ)
だがあんな事を目の前でされてしまうと、自分にもいつか……なんて淡い希望を抱いてしまいそうだった。
つまり俺は……あの場から逃げたのだ。
(ハルが居てくれる…クロトが居てくれる…これ以上望むものなんてないじゃないか)
今の状態でも十分に恵まれているのだと言い聞かせ、ハルが待っているプレイヤーホーム(先日購入)へと帰る。
「ただいま」
「兄さん、おかえり!」
家に入るなり、ハルが飛びついてきた。俺はそれをしっかり受け止め、頭を優しく撫でる。左腕は既に再生しているので、問題ない。
「あれ、クロトさんは?」
「ああ、サクラといちゃついてるよ。まったく、いつになったら付き合うんだか」
俺がそう言った時、ハルは一瞬表情が歪むがすぐに笑みを浮かべ
「仕方ないよ。だってクロトさん……ヘタレだから!」
辛辣なことを言った。……ハル、お前はいつからそんな事を言うようになったんだ?もし今のお前を見たら木綿季が何て言うか……
「ねえ兄さん、LAは?」
「ちゃんと取ってきたよ」
「流石兄さん!見せて見せて!」
さっきとは打って変わり、年相応にはしゃぎだすハル。そんな弟がとても可愛らしく、ハルだけは守りたいと改めて思った。
「LAは……エリュシデータ?」
出てきたのは、一抱えほどの黒い塊だった。
「何かの素材っぽいけど……ちょっとメンテのついでに鑑定してみるよ」
「ああ、頼む」
「任せて!」
俺の愛剣とエリュシデータを受け取った後、そう言ってハルは奥の作業場へ入る。ハルやクロトが戻ってくるまで暇なのでなんとなくスキル選択画面を開くと―――
「二刀流……?」
いつの間にか、そんなスキルが存在していた。
久しぶりなのでちゃんとしたものを書こう!と思ってやってたら半日以上かかってました……
エリュシデータの設定は捏造して原作とは変えてあります。
この作品のキリトは……暗いです。