SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 今回から、シリカ編です。

 そしてクロトの出番が無いww


十七話 友を失いし少女

 キリト サイド

 

 二月下旬 三十五層フィールドダンジョン”迷いの森”

 

 「あたしを、独りにしないでよ……ピナ……」

 

 三体のドランクエイプに襲われていた少女を助けたのだが、彼女はその胸に光る何かを抱いて泣いていた。もしかしたら彼女は目の前で仲間を殺され、その人が遺した物に縋っているのかもしれない。

 

 (サチ……)

 

 彼女達の死は、未だに俺の胸を締め付ける。だが、今は目の前の少女を何とかしなければ。

 

 「えぇっと、それは?」

 

 「……ピナです。あたしの大事な……」

 

 そう言って彼女は、抱いていた物―――小さな一枚の羽根を見せてくれた。

 

 (これはプレイヤーの遺品じゃないな……とすると……)

 

 プレイヤー以外で、少女が縋っている存在……程なく一つの予測が立ち、確認するべく口を開く。

 

 「君はもしかして、ビーストテイマーだったのか?」

 

 「……はい」

 

 使い魔は主人を裏切らない。疑心暗鬼になりがちなSAOにおいて、無条件に信頼できるパートナーの存在が与えてくれる安らぎはとても大きい。そしてそれを失った時の悲しみも……

 大切な存在を失った悲しみを知っている以上、放置はできない。頭の中にある知識を総動員して、彼女を助けようと思った。

 

 「その羽根、もしかして心アイテムか?」

 

 「え?」

 

 俺に聞かれて、彼女はおもむろに羽根の名前を確認した。そこには―――

 

 《ピナの心》

 

 確定だ。これは使い魔が死んだとき、一定確立でドロップされる心アイテムだ。これがあるならまだ助かる。

 

 「……ピナぁ」

 

 同時に彼女がまた泣き出しそうになった。慌てて俺は慰める。

 

 「あぁ、泣かないで。心アイテムさえあれば蘇生の余地があるから!」

 

 「ほ、本当ですか!?」

 

 蘇生の余地がある。その言葉に彼女は反応し、こちらを見上げる。その表情はさっきまでの悲嘆にくれたものではなく、藁にも縋りたいという思いからくるものであった。

 

 「四十七層の南に、思い出の丘っていうフィールドダンジョンがあるんだ。その最奥部に咲く花が、使い魔蘇生用のアイテムだって聞いたことがある」

 

 これはクロトから聞いた情報だ。アイツは一度そこに挑んだっていうから、後で情報を貰っておきたいな。

 

 「四十七層……」

 

 今いる層よりも十二も上のダンジョンと聞き、彼女の表情はまた暗くなってしまった。彼女がこの層で活動するプレイヤーだとすれば、安全マージンを十分に取っていたとしてもレベルはせいぜい四十半ばぐらいだろう。

 四十台の層で活動するなら、最低でもレベル五十は必要だ。

 

 「……実費だけ貰えれば、俺が取ってきてもいいんだけど……主人が行かなきゃ花が咲かないんだよなぁ」

 

 正確には、使い魔を失った主人が、である。そのため需要と供給がぴったり一致してしてしまい、ストックできないのだ。そのことでクロトが愚痴をこぼしていたのも記憶に新しい。

 

 「いえ、情報だけでもありがたいです。頑張ってレベルを上げれば、いつかは―――」

 

 「蘇生できるのは、死んでから三日以内だ」

 

 使い魔が残した心アイテムは、三日―――七十二時間が経過すると、形見アイテムに変化してしまう。形見アイテムは、所持するだけで様々な支援効果(バフ)を与えてくれるが、蘇生する事が不可能になるのだ。

 タイムリミットを告げた途端、彼女は俯き、泣き出しそうになる。だが

 

 「大丈夫、三日もある」

 

 俺が一緒に行けば、問題無い。使い魔蘇生アイテムはプレイヤー間でかなり高額で取引されるレアアイテムなので、シルバーフラグスからの依頼もこなせる。

 

 (ハルに彼女の武器を見繕ってもらうか……)

 

 そう思い、ハルにメッセージを飛ばしつつ、自分のストレージにたまっていた防具の中から彼女のレベルで装備可能な物をトレードウィンドウで彼女に贈る。

 

 「この装備なら、五、六レベル分は底上げできると思う。俺も行くから、きっと大丈夫だ」

 

 「……何で、そこまでしてくれるんですか……?」

 

 明らかに警戒している彼女を見て、彼女とは初対面だった事を思い出す。それと同時に、なぜ俺は彼女を助けたいのかと改めて自分に問いかける。

 

 (……なんとなく、スグににてるんだよなぁ)

 

 現実世界で俺とハルの帰りを待っているだろう妹の姿が思い浮かぶ。見た目こそ似ていないが、目の前の少女と妹はどこか似ているものを感じさせた。

 

 (けどマンガじゃあるまいしなぁ……)

 

 だがここでその事を言うのはとても恥ずかしい。かといって適当に濁せば、警戒されたままだろう。ここにハルやクロトがいれば、恥ずかしくないちゃんとした理由を言ってくれるだろうが、コミュ障の俺には無理だった。

 

 「……笑わないって約束するなら……言う」

 

 「笑いません」

 

 恥ずかしくて目を逸らして聞けば、彼女は真剣な表情で即答した。そんな彼女を見て

 

 「……君が、妹に……似てるから……」

 

 正直に言ってしまった。……物凄く恥ずかしい。

 

 「ぷっ、ふふっ……ふふふ」

 

 しかも彼女は笑い出してしまった。これもまた恥ずかしさを増幅してくる。

 

 「……笑わないって言ったのに」

 

 「ふふっ……すみません」

 

 ささやかな抵抗として拗ねた口調で文句を言うと、彼女は目尻に浮かんだ涙を拭いながら謝罪してきた。その表情は明るく、年相応なものだった。

 

 (とりあえず、信用はしてくれたかな)

 

 彼女が警戒を解いてくれたのは嬉しいが、代償が大きかった。やはり俺はコミュ障なのだと改めて実感してしまう。

 

 「あの、こんなんじゃ全然足りないと思いますけど……」

 

 そういえばトレードウィンドウを開きっぱなしだった。正直使わない物を譲るだけなので、タダでいい。最前線じゃ大したコルにならないし、金に困っている訳でもない。

 

 「いや、お代はいいよ。俺がここに来た理由と、被らないでもないから」

 

 彼女が代金として手持ちにコルをウィンドウに入力する前にそれをやめさせ、一方的にトレードを成立させる。

 彼女はその事にどこか納得できない表情で考えていたが、何かを思いついたようにこちらを向いた。

 

 「あ、あたし、シリカって言います」

 

 ……そういえばまだ名乗っていなかった。すごく今更な感じがするが、俺も名乗る。

 

 「俺はキリト。よろしくな」

 

 彼女―――シリカは、はい、と答えて俺と握手をしてくれた。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 三十五層主街区”ミーシェ”

 

 「あ、お帰り兄さん」

 

 無事に森を抜けて主街区に着くと、入り口でハルが迎えてくれた。

 

 「ただいま、ハル。頼んでたのは?」

 

 「うん、ちゃんとあるよ」

 

 そう答えてから、ハルはシリカに向き直る。

 

 「初めまして、ハルっていいます。よろしくお願いします」

 

 「こ、こちらこそ初めまして。シリカっていいます」

 

 接客時のクセでハルが丁寧な言葉遣いで挨拶したせいだろう、同年代らしからぬ会話になってしまった。ハルはいいとしても、シリカが少し硬くなっている気がする。

 

 「二人とも同じぐらいなんだし、敬語はやめたらどうだ?」

 

 「ごめん、ついうっかり。改めてよろしく、シリカ」

 

 「ううん。こっちこそよろしくね、ハル君」

 

 うん、二人ともさっきよりリラックスした表情だ。久しぶりに同年代と話すハルを見ていると、とても和む。

 

 「―――そうだよ。僕らは兄弟なんだ」

 

 「い、言われてみれば……似てるかも」

 

 ……おっと、いけない。和んでる間に二人で話が弾んでいたようだ。シリカが俺とハルの顔を見比べているが、何の話をしていたのだろうか?

 少し気になったが、いつまでも入り口にとどまる訳にはいかない。

 

 「同年代で話が弾むのは分かるけど、そろそろ行かないか?」

 

 俺がそう言って歩き出すと、二人とも、あっ、と声を上げてからついてきた。

 二人を見ていると、事故に遭う前の日常の中で、俺を追いかけてくるハルとスグ―――いや、ハルと同年代の女の子だから木綿季か―――を連想させた。

 ……その時藍子は俺に遅れる事無く歩き、追いかけてくる二人を微笑みながら見ていたっけ。

 

 (もう、あの日常は戻ってこないんだよな……)

 

 ズキリ、と一瞬胸が痛んだ。このSAOでは痛覚は全面カットされているので、今のは心の痛みだろう。それをハルに気取られないように、顔を上げて空を見る。

 

 「お!シリカちゃんはっけ~ん!」

 

 珍しいビーストテイマーだったから、多少の知名度はあると思っていたが……まさか街を歩いてるだけで声をかけられる程とは。

 同じビーストテイマーのクロトといる時とは大分違うな……あ、アイツはサクラとしょっちゅうイチャついてるから睨まれてるんだったな。特にKOBから。あとアイツが男だってやっと浸透してきたし……攻略組限定で。

 

 「―――お気持ちはありがたいんですけど……しばらくこの人達とパーティー組む事になったので、ごめんなさい」

 

 思考が別の方にいってる間に、シリカは話かけてきた二人―――太り気味の男性と痩せ気味の男性からの誘いを断っていた。何故か俺とハルの腕を掴んで。

 すると二人はまずハルを見て、次に不満そうに唸りながら俺を睨んできた。

 

 (ハルは彼女の友達くらいで、俺はお邪魔虫って思ってるんだろうな……)

 

 俺とハルの扱いの違いの理由を考えていると

 

 「ねぇあれ、ハル君じゃない?」

 

 「ホントだぁ、かわいい~」

 

 「シリカちゃんと一緒……ロリショタ……ジュルリ……」

 

 ハルのファン……いや、危険思想(ショタコン)なお姉さま方まで出てきた。

 ……というか最後のヤツ!絶対ハルに近づかせないからな!!

 

 「と、とにかく行こう」

 

 シリカが俺とハルの腕を掴んでいるので、俺がやや強引に歩き出せば二人とも芋づる式に付いてくる。幸い彼らは追いかけてはこなかったので、そのまま人ごみに紛れて宿を目指す。

 

 「悪い、二人が有名だって事忘れてた」

 

 「僕は大丈夫だから、気にしないで」

 

 「あたしの方こそすみません。キリトさん達にご迷惑を……」

 

 申し訳なさそうにしているシリカに大丈夫だと告げ

 

 「俺の知り合いにもビーストテイマーがいるけど、ここまで人気者じゃなかったから驚いただけだよ」

 

 (クロトといた時の経験は役に立ちそうに無いな……)

 

 言葉を返すと同時にそう思った。と―――

 

 「マスコット代わりにされてるだけです。’竜使い’なんて呼ばれるようになって……いい気になって……それで、あんな……」

 

 帰ってきたのは、そんな後悔の声だった。

 

 「シリカ……」

 

 ハルも何と言っていいか分からず、戸惑っていた。そして助けを求めるように、俺を見てきてた。

 

 「大丈夫、君の友達はちゃんと生き返るから。だから、あまり暗くならないでくれ」

 

 だから俺はそう言いながら、彼女の頭を撫でた。弟妹をあやすように、優しく、ゆっくりと。

 

 「……はい!」

 

 シリカは目尻に浮かんだ涙を拭うと、笑みを浮かべてくれた。その横ではハルが声に出さずにありがとう、と言っていた。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 「そういえば、お二人のホームって……」

 

 宿屋の前で、シリカが思い出したように俺達に聞いてきた。特に隠す事でもないので、正直に答える。

 

 「一応五十層にあるけど……」

 

 「面倒だしここに泊まろ、兄さん」

 

 「そうだな、そうしようか」

 

 たまにはねぐらとは別の場所に泊まるのも悪くない。それに明日の事を考えれば、シリカと同じ宿にいた方が何かと便利だ。

 

 「そうなんですか!ここ、チーズケーキが美味しいんですよ!」

 

 シリカも、俺達がここに泊まるのを喜んでいるようだ。そのまま宿屋に入ろうとして―――

 

 「あらぁ?シリカじゃない」

 

 十字槍を携えた、赤髪の女性プレイヤーに話しかけられた。

 

 「どーも……」

 

 当のシリカは気まずそうに俯き、おざなりに返事をした。何かトラブルでもあったのだろうか?

 

 「どうしたの?」

 

 ハルが心配そうに、小声でシリカに話しかけると、彼女は小さく

 

 「パーティー組んでただけだよ」

 

 と答えてくれた。

 

 「ホントに一人で森から脱出できたのねぇ。でももうアイテム分配は終わったわよ」

 

 「いらないって言った筈です!急いでますから」

 

 もう話したくないといわんばかりにシリカは話を切り上げ、宿に入ろうとする。だがしかし

 

 「あらぁ?あのトカゲどーしちゃったのぉ?」

 

 「っ!」

 

 彼女はシリカの傍に使い魔がいない事にわざとらしく気づき、嫌みったらしい声でねちっこく問いかけてきた。

 

 (……グリーンのクセにこの腐った性根……コイツがオレンジギルドのリーダーだな)

 

 全く反吐が出る。こんなヤツ等に罪の無い人が襲われたり、殺されたりしていると思うと、改めて人の醜さを実感してしまう。

 

 「あららぁ、もしかしてぇ~?」

 

 傷を抉られ、シリカの手は小刻みに震えている。俺よりも幼い筈の彼女は、相手に弱さを見せまいと懸命に涙を堪えていた。俺はシリカがこれ以上赤髪の女性と話さなくて済むよう、さっさと宿に入れようと思ったが―――

 

 「おばさんは黙ってください。おばさんの無駄口に付き合ってる暇は無いので」

 

 ハルがシリカの前に立ち、会話に割り込んだ。

 

 (ハル……お前は、ちゃんと怒れるんだな)

 

 人の醜さを知りどこか諦めている俺と違って、ハルはそれを怒れるまっとうな心を持っている。俺にとってそれは眩しいものだ。

 だがそれ以上に―――

 

 「おばっ!?失礼なガキね!」

 

 「小さい女の子をいじめて楽しんでる貴女よりは、礼儀を弁えてるつもりですよ?これでも商人の端くれですので」

 

 怒ったハルは、非常に怖い。両親でさえ、手がつけられない程に。

 

 「使い魔が主人の傍にいない理由なんて一つしかないでしょう?それも分からないくらい、貴女はバカですか?そんなザルな頭でよく生きてられましたね」

 

 ハルは同年代の子と違って、怒りに我を忘れるなんて事はあまり無い。むしろ顔は笑っているのだ……目は笑っていないが。

 

 「っ!この、言わせておけば!」

 

 「図星を突かれて声を荒げる、三流の悪役そのままですね。あぁ失敬、おばさんは子供をいじめて楽しむ悪女でしたね。僕らは明日四十七層に行かなければならないので、退いてくれませんか?」

 

 加えて相手にほとんどしゃべらせない、淡々とした口調でのマシンガントーク。今回はシリカを女性プレイヤーから引き離すために退くように言ったが、本来はこんなもんじゃない。相手のメンタルをボコボコにするまで延々と、徹底的にやる。

 だが、今回はもう十分だ。

 

 「ハッ!四十七層?思い出の丘にでも行く気?そんな上の層、あんた等で攻略できる筈が―――」

 

 「できるさ。そこまで難易度が高いダンジョンじゃないんでね」

 

 後は、俺がやる。今度は俺がシリカ達の前に立ち、女性の言葉を遮る。すると彼女は俺にターゲットを切り替えてきた。

 

 「ふ~ん、あんたが同行者?見たトコ強そうには見えないけど……体でたらしこまれでもした?」

 

 「っ!」

 

 シリカが小さく息を呑むのが聞こえた。全く、子供相手に何を言ってるんだこの醜女は。

 

 「行こう、二人とも」

 

 こういう相手は無視するに限る。ハルが何か言おうとしていたが、それを遮るように二人の手をとり、強引に宿屋に入っていった。




 クロトは、本作において最初のビーストテイマーとしてアインクラッド中に顔が知られているので、どーしてもここでは表立って出せないのです……

 そのためキリトがメインで動くので、原作とあんまり変わらない気がします……

 原作は大事ですが、ちゃんとオリジナルの展開を入れる……つもりです。


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