相変わらず進みが遅いですが……楽しんでいただければ幸いです。
クロト サイド
二〇二四年四月某日 第五十九層
五十層を超えた辺りから、攻略のペースは目に見えて落ちていた。そこに関しては何とかしないとなぁ、とは思うが、今はのんびりとしたかった。
「たまにゃのんびり過ごすのもいいなぁ……」
「今日は最高の気象設定だって言ったろ?」
オレはキリトと言葉を交わしながらも、心地よいまどろみに意識をゆだねていく。
今現在オレ達は、圏内の木陰で昼寝をしているのだ!!
……アスナとかにバレたら絶対に文句言われそうだけどな。
「……うにゅ」
既にハルはキリトの左脚を枕にして熟睡している。最近は忙しくて深夜まで作業場にこもるのも多かったから、いつも眠そうにしていたもんな。
キリトは木に寄りかかりながらも穏やかな表情でハルの頭を撫でているし、オレは少し離れて仰向けで大の字になっている。ヤタはオレの胸やら額やらをあっちこっち移動しているが、気になるほどでは無い。
(使い魔ってこういうとき便利だよなぁ)
いくら圏内とはいえ、誰が来るか分からない公共スペースで熟睡してしまうのは危険だ。寝ている側は無防備な姿を晒すので、ハラスメント行為やPKの対象になってしまうからだ。特に半年ほど前から広がった’睡眠PK’は当時のプレイヤー達を怯えさせた。
だがキリトのように索敵スキルにある接近アラームを設定し、熟睡しないように気をつければ仮眠をとるくらいはできる。また、オレのように索敵能力を持った使い魔を連れていれば、例え熟睡してもプレイヤーの接近を知らせて起こしてくれるのだ。
そのためオレは遠慮なく昼寝を堪能するのだった。
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キリト サイド
セットしておいた接近アラームが鳴ったので、俺は目を開けて近づいてきたプレイヤーを確認した。
「なんだ、あんたらか……」
そこにいたのは思った通りというかやっぱりというか、KOBの副団長さんとその補佐であるサクラの二人だった。サクラの方は苦笑しているが、副団長さんの方は少々キツイ目つきになっていた。
「暢気に何してるのよ?」
「昼寝だけど?」
ハルが起きないよう、向こうも声の大きさには注意しているようだ。とはいえ、何してるかと聞かれれば昼寝としか答えようが無いのは見て分かる筈なのに、この副団長さんはどうして突っかかってくるのだろうか?
「どういう神経してれば堂々と昼寝ができるのよ。他の攻略組の人達が必死になって最前線で戦ってるのよ?」
「いつ攻略するかはそれぞれの自由だろ。俺達はコンビだし、今日はオフにしようって決めたんだよ」
副団長さんは眉間に皺をよせて、苛立ちを隠せないようだ。サクラがフォローを入れているが、こちらの言い分に納得できていない様子。
「今日はアインクラッドで最高の気象設定だからな。最近作業場にこもりっきりで寝不足の弟を、兄貴としてはゆっくり休ませてやりたいんだよ」
「休ませてやりたいっていうのはともかく……天気なんていつも同じでしょう?」
攻略熱心なのはいいが、そのせいで天気の変化に気づけないのはなんとももったいないと思った。
「それなら寝てみればいい」
ついそんな事を言ってしまった。とはいえこれ以上話すつもりは無いし、この二人なら何かしてくる事もないので、再び膝の上で眠るハルの頭を撫でる。すると栗色の髪が視界の端に映った。
「何よ、たいして……変わら……な……」
「あ、アスナさん!?…………もう寝ちゃった」
そんな声が聞こえたのでそちらを見れば……なんとまあ、攻略の鬼と呼ばれる’あの’副団長さんがガチ熟睡していた。
「おいおい、五秒もかかってないぞ?」
「あはは……よっぽど疲れてたみたい」
呆れてしまった俺が思わず口を開けば、苦笑しながらもサクラはフォローを入れる。加えてストレージから毛布を取り出して、眠っている副団長さんにかけた。
(優しいな)
他人を気遣う事が自然とできる様子を見て、改めて彼女が気立ての良い人なのだと思った。
最近こそ俺と副団長さんとで険悪な雰囲気になってばかりだが、以前はサクラが彼女を抑えてくれていた。それ以外にも攻略組内のギルドやプレイヤー間のトラブルの仲裁に入る事も多く、ひたすら先を目指す副団長さんを支えながらも他の者達が協力しやすいように奔走していた……クロトとの時間を削ってまで。
だがその分副団長さんよりも近づきやすいため、よく男性プレイヤーに言い寄られているとアルゴから聞いたことがある。
(俺のせい……なんだよな)
俺がいるから、クロトはサクラと付き合う事ができない。それがとても申し訳なくて―――
「―――ゴメン」
「え?」
気が付けば、謝罪の言葉を口にしていた。サクラは驚いた顔をしているが、一度開いた俺の口はふさがらなかった。
「俺が、強かったら……あの時、一人でビーターを名乗れるくらい強かったら……君はクロトと一緒にいられた筈なのに……」
つっかえながらも、今まで彼女に感じていた負い目を吐き出しつづける。
「俺は頼ってしまった……弱かったから、クロトを突き放せなかったんだ。そのせいで二人の立場に、決定的な溝を作ってしまった……!」
ハルの頭に置いているのとは反対の手を強く握り込む。どんな時でも俺を一人にしなかった彼に頼るのが、いつの間にか当たり前のようになっていた。そんな自分がとても嫌になる。
「本当にごめ―――」
「―――ストップ。そこまでだよ」
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サクラ サイド
「―――ストップ。そこまでだよ」
キリトの謝罪を遮って、わたしは彼の近くに腰を下ろす。話をする時はちゃんと相手の目を見るのが基本なんだから。
キリトがわたしに負い目を感じてるっていうのはなんとなく分かっていたから、いつか謝ってくるだろうって予感はしていた。だけど、キリトがわたしに謝る必要は無いと思う。
「ビーターって呼ばれるのを選んだのは、クロト自身だよ」
「だけど……!」
キリトは何かを堪えるような表情で、顔を逸らした。相当溜め込んでいたのか、その表情は見ていて痛々しかった。
「確かに、中々会えない事を不満に思っちゃう時だって結構あるよ。でも……」
一拍おいて、自分を落ち着ける。普段なら恥ずかしくて言わないけど、そうじゃないとキリトは納得しないと思うから。
「その分、会ってお話できた時はとっても嬉しくて、また会える日が楽しみなの」
言ってから、自分の顔が熱くなっていくのが感じられた。やっぱり恥ずかしいけど、本心からの言葉だから嘘は無い。
ほんの僅かでも会話できただけで、その日はいい一日だったって思えてしまう。顔を見れただけで、声を聞けただけでホッとする。
「それに、その……りょ、両想いって……教えてくれたでしょ?」
「そう……だったな」
先月の事を思い出しているらしく、キリトは顔を逸らしたまま苦笑して頬をぽりぽりと掻いた。
「だから……ね、もうこっちから、いこうかなぁって思うんだ」
「そうしてくれ。クロトはヘタレだからな」
ストレートな言い方に、わたしはつい小さく噴き出してしまった。せめて奥手だって言ってあげようよ、と突っ込むと
「好きな人との距離を一年以上そのままにしてるんだ。そんなのヘタレとしか言えないだろ」
とキッパリ言ってきた。でも、こういう所があるからキリトはクロトと上手くやれてるのかもしれない。男の子同士だからこその絆だろうか?
わたしにはよく分からないけど、心のどこかで二人が通じているようでとても羨ましく思えた。
「その様子じゃ、レイの事は大丈夫そうだな」
「わ、悪い人じゃないのは分かってるけどね……」
「ハッキリ断っとけよ。でないとクロトが嫉妬で発狂しちまうぞ?」
……へ?嫉妬?クロトが?
ありえないと思いつつそう疑問をぶつけると、キリトは呆れ顔になりながら答えてくれた。
「あのな……背が高い、イケメン、最前線で戦えるくらい強い、その上性格よしな男が好きな人にアプローチしてるんだ。劣等感とか感じて嫉妬するのは当たり前だろ」
「そういうものかなぁ?」
う~ん、よく分からない。と首をかしげていると
「意外とぬけてるんだな」
「ひどっ!?」
心外な事を言われ、ちょっとムッとしてしまった。つい文句を言おうとするとキリトはため息をつき、言葉を発した。
「……例えばの話だ。誰から見ても完璧な美女がいたとして、その人がもしクロトにゾッコンでアタックしてるのを見たら、君はどう思う?」
「それは嫌」
即答。さっきまで解らなかったのが嘘みたいに理解できた。キリトもその事に満足したように口の片端を吊り上げていた。
「やっと解ったみたいだな。まぁ、お互いそれだけ想い合ってるなら大丈夫だと思うけど」
「うぅ……」
指摘されるとやっぱり恥ずかしい。さっき以上に顔が熱くなり、思わず両手で自分の顔を隠してしまう。
「―――羨ましいな」
「え?」
キリトが何か言ったようだったけど、丁度その時風に吹かれた草木の音が重なったからよく聞こえなかった。
「何でもないよ。それより……今ならアイツに添い寝ぐらいできそうだぞ?」
「ふぇっ!?」
キリトが親指で指した方を見ると、クロトが大の字になって寝ていた。……寝てるのは気づいていたから極力見ないようにしていたのに……
(寝顔は気になる……でも恥ずかしい!でも見たい!でも……うぅ~)
一度気が向いてしまえばクロトの事で頭がいっぱいになってしまう。そんなわたしの内心を知っているのかいないのか、キリトはさらに続ける。
「自分から行くって決めたんだろ?ほら有言実行」
「……ぁ……ぅ」
もうわたしの頭はパンク寸前だった。あともう一押しされたら―――
「そういやクロトのヤツ、下層の方だと結構人気があるってアルゴが言ってたぞ」
―――急に頭が冴えた気がした。と言うか吹っ切れた。
(人気があるって事は好意を抱いている人が少なからずいる筈……ならさっきの例え話の展開も十分ありえることだから……!)
行動しなければ誰かに盗られるかもしれない。そう考えた途端、羞恥心とか躊躇いとかが消え失せた。
(リズさんが言ってたように……女は度胸!わたしやってみせます、おばさん!!)
色々吹っ飛びすぎて、クロトのお母さんに誓うように拳を握り締めてわたしはクロトの傍へ。
―――そして躊躇う事無く横になり、無造作に伸ばされている彼の腕を枕にして眠ってしまった。
恋愛描写が難しい……
不自然なところ無いよね……?ガチでアドバイスが欲しいです(涙)
つーかこのペースで行ったら、アインクラッド編だけであとどれくらい時間がかかるのやら……
多少は省略した方がいいのかな……?