クロト サイド
「ラフィン・コフィン討伐作戦の会議を始める」
DDAの本部にて、オレ達’ラフィン・コフィン討伐隊’は作戦会議を行っていた。つい先日奴らのアジトの場所が判明した為、すぐに倒してしまおうという事で攻略組が集められたのだ。
「―――要注意人物の三人がこれだ……毒ナイフ使いのジョニー・ブラック」
頭陀袋を被った小柄な男の写真を指した司会役のシュミットは、少し顔が強張っていた。僅か一か月前に自身のレジストスキルを打ち破る程の麻痺毒を食らった相手なのだから無理もないが。
「エストックを使う赤目のザザ」
次に赤い目をした髑髏の仮面を着け、ゆがんだ笑みを口元に浮かべた男の写真が指された。さっきのジョニー・ブラックと併せて幹部として覚えておこう。あの時戦っていないため実力は未知数だが、きっとかなり強いと思われる。でなければ幹部が務まる筈がない。何よりエストックは突きしかできないが、それ故に攻撃が点である為防御が困難であり、対人戦特化の武器なのだ。
「そして最後に……リーダーのPoH」
艶消しの黒ポンチョを着込んでいて普段は顔がはっきり見える事が無かったが、写真では素顔が露になっていた。頬にある青紫の刺青を除けば、少々いかつい顔しているもののどこか人を引き付ける魅力のある男といった感じだった。だがヤツの実力はオレ達以上である事は容易に予想できたし、それ以上にヤツが持つ巧みな話術とカリスマ、そして一度聴いたら嫌でも耳に残る声が危険だ。
戦闘中にこちらの意識を乱されてしまえば敗北は必至だ。そのためPoHと戦うには意識を強く保ちながらも高い戦闘力を維持できる者が必要になる。今ここにいるメンバーの中でその条件を満たしている人物がいるかどうかは確証が無いが、それでもやらなければならない。
「―――以上の三人は他の奴らとは別格の強さだ。必ず複数で対処するように」
とはいえレベルは自分達の方が上であり、瀕死状態にまで追い込んでから捕縛するのがメインだ。そのためか皆からはボス戦ほどの緊張は感じられなかった。だが―――
(もしもの時は……やるしかねぇ、か……)
―――だからこそ、オレ達とラフコフとの差に気づいてしまった。このままでは負けるだろう、と。
「それと―――」
「―――ちょっといいか?」
話をさえぎって発言するのは良くないと分かっているものの、どうしても言わずにはいられなかった。オレに視線が集まるのは未だに慣れないが、顔に出ない様にするくらいはできる。
「レッドゾーンまで追い込んでも投降しなかった時……どうするつもりだ?レッド連中はPoHの野郎のお陰で頭がトチ狂ってるんだぜ?」
「……その場合は……HPの全損も…………やむを得ないだろう」
絞り出すように発せられたシュミットの答えに、場の空気が一気に冷えた気がした。オレ自身そういった事になるのは御免だが、予測は悪い方に立てておくのが生き残るための術なのだ。
―――相手を殺さなければ自分が、仲間が殺される。その時オレ達は剣を振れるのか。
敵を殺してでも生き残る覚悟が、オレ達には必要だ。でないと自分が、大切な仲間が殺される。
「今回の討伐戦はあくまで自主参加だ。抜けたい者がいたとしても咎めるつもりは無い」
DDAのギルドマスター、リンドの言葉に異を唱える者は一人もいなかった。なぜなら、攻略組最強と謳われているヒースクリフが討伐戦に参加しなかったからだ。
デスゲームとなってしまったSAOで、プレイヤーに武器を向ける事へ拒絶反応を示す奴は少なからずいる。たとえデュエルであっても、相手を殺してしまう恐れがあるからだ。この世界に囚われたプレイヤーのほとんどが、平和な日本で生活していた廃ゲーマーであり、命のやりとりとは無縁の暮らしをしていたのだから仕方のないことではあるが。
「―――作戦の決行時間は明日の午前二時、集合場所はアジトのあるダンジョンの入り口だ。では、解散!」
やがて会議が終わり、集まった皆がそれぞれに散っていく中で、オレは一人の少女を探す。忙しい彼女と話せる時間はほとんど無いため、今を逃せばこのまま何も言えないまま討伐戦が始まってしまうかもしれない。
「カァ!」
「あ、おい!」
程なく人混みの中から探していた少女―――サクラを見つけたが、まだ声をかけるには距離があった。間にはまだ多くの人がいたのでどうしたものかと思っていたいその時、左肩にとまっていたヤタが飛び立ち、サクラへと向かっていったのだ。
「わぷ!?や、ヤタ?」
そのまま彼女の頭に乗っかったのにはオレも驚いたが、そのお陰でこちらを向いてくれたのでヤタには何も言えなくなった。
目が合った時に顔を綻ばせてくれたのが、とても嬉しい。同時にPoHの言葉が頭をよぎるが、だからこそ今話さなくてはならない。
「悪いな、ヤタが迷惑かけて」
「ううん、ちょっとびっくりしただけだよ」
「そっか……少しいいか?」
オレの声が真剣なものだったためか、彼女も真顔になって頷いてくれた。そこまで長く話すつもりは無いが、立ち話は嫌だったので街中の適当なベンチまで移動する。
「それで、どうしたの?」
「実はな……」
移動したのはいいものの肝心な所で中々言葉が出せず、何度も口を開きかけては閉じる事を繰り返してしまう。それでも気長に待ってくれるサクラをいつまでも引き留めるわけにもいかないので、一度深呼吸をして落ち着かせる。
「サクラ……討伐戦、参加しないでくれないか?」
「……どうして?」
彼女の瞳に浮かんでいるのは動揺、だろうか?自分でもひどい事を言っているのは分かっているつもりだが、オレはどうしてもサクラを失いたくない。
「オレはお前に……戦ってほしくないんだ……!」
「……無理だよ。わたしだってラフィン・コフィンが許せないの。彼らのせいで多くの人たちが苦しめられたんだよ?」
彼女が言いたい事は分かるが、それでもPoHから守るには討伐戦の間は安全な圏内にいてもらうのが一番なのだ。
「これはボス線とは違う!きっとただのころ―――」
「―――サクラさん!」
突然割り込むように発せられた声がした方を向くと、数人のKOB団員がいた。その中にレイがいた事がとても気に入らない。
「副団長が呼んでいます。こちらへ」
「あ、はい。クロト、また後で」
自然な流れでレイがサクラの手を取り、立ち上がらせる。それを見た瞬間に何かが刺さったような痛みを感じ、止まってしまった。
「っ!サク―――」
気づいた時には彼女はレイと共に歩きだしており、オレの前にはKOBの団員達が立ちふさがった。
「いい加減気づけよ」
「何だと?」
今すぐにサクラを追いかけたいのに、それができない。気持ちが焦り、彼らを睨んでしまうが、向こうはさして気にした様子もなく口を開いた。
「サクラ様は貴様が関わっていい人ではない!」
「ビーターのお前があの人に近づく資格は無いんだ!」
「うるせぇ……!」
こいつ等に構っている時間は無い。飛び越えていこうと両足に力を籠め―――
「おいおい、寄ってたかって罵るなんざヤンキーのする事だろ。KOBはいつからそんな集団になっちまったんだ?アスナさんの名に泥を塗るつもりかよ?」
彼らの後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。KOBの連中が振り返り、オレもそちらを見ると、クライン達風林火山がいた。
「お前達、このビーターの肩を持つつもりか?」
「別にそうじゃねぇよ。今あんたらがやってんのは、おたくの副団長さんが大っ嫌いなコトだって忠告してんだよ」
「くっ!」
確かにアスナの名を出せばたいていの場合強くは出られなくなる。だが相手を怒らせずに止められるのは、ひとえにクラインの人徳あってこそだ。
「失礼する!」
「おう、今回は黙っといてやるからもうやるんじゃねぇぞ?」
苦々しい表情で去っていくKOB団員達を見送ったクラインはため息をついてから、オレに向き直った。
「おめぇ、大丈夫か?」
「……あぁ、慣れてる」
自然にこちらを気遣ってくれるのは有難いのだが、今のオレは素直に礼が言えなかった。
「クロト……お前、サクラさんとなんかあったのか?話の途中であいつらが割り込んだみてぇだけど」
「っ!……何でもねぇ……」
クラインに悪気は無い。それは分かっているが、さっきの事を思い返すと苛立ちが再燃してきた。どうにか顔に出ない様に抑え、ぶっきらぼうに返すのが精いっぱいだった。
「けどよ―――」
「―――オレよりギルメンの心配しとけよ。レベルはそっちの方が低いんだし」
やや強引に話を切り上げ、キリトと合流するべく歩き出す。棘が刺さった様な胸の痛みは、消える事無く残り続けた。
~~~~~~~~~~
「全員用意はいいな?では進むぞ」
DDAリーダーのリンドの号令と共に、オレ達ラフィン・コフィン討伐隊はアジトがあるであろうダンジョンへと入った。討伐隊に参加しているKOBの中にはアスナがいて、その近くにはやはりサクラもいた。
あの後メッセージでも参加しない様に呼びかけたが、何の返信もなかった。ギリギリまで多忙を極めたのだろう、メッセージを読んでいないようだった。
あと、キリトが珍しく別の事を考えているようで、落ち着かない様子でソワソワしている。
「……頭、切り替えとけよ」
「分かってる……!」
こんな作戦の間際で、彼が何を考えているのかを聞く時間は無い。一応キリトに釘を刺しつつ、ヤタの索敵を最大限に発揮しながら奥へと歩みを進める。
「―――皆、油断は禁物だが、過度に緊張する必要も無い……なぁに、レベルは我々が圧倒的に上なんだ。すぐに鎮圧できる」
中ほどまで進んだあたりで、小休止を兼ねて一旦止まった。神経を張り詰めたままでは先に気疲れして肝心な時に戦えない。そのためシュミットは緊張をほぐそうとしたようだが―――
「カァ!」
「なっ!?」
「囲まれてるぞ!」
―――結論から言えば、最大の悪手だった。討伐隊の気が緩んだその瞬間にヤタが警告をとばし、索敵スキルをコンプリートしたキリトが叫びながら剣を抜く。それと同時に全方位に禍々しいオレンジカーソルが表示された。それもかなり近くで。
「ヒャッハァ!」
「死ねやオラァ!」
口々に奇声を上げながらオレンジプレイヤー―――ラフコフが襲い掛かってきた。
「狼狽えるな!奴らのレベルは高くない!!」
「犯罪者共に遅れをとるな!」
とはいえ、イレギュラーな事が頻発する最前線を生き抜いてきた攻略組が隙を見せたのはほんのわずかな時間であり、すぐに立ち直って見せた。
「キリト、無事か!」
「俺よりサクラを守れ!」
襲い掛かって来た相手の剣を短剣―――ソードブレイカーの背で受け止めて捻り、凹凸に挟んで動けなくさせる。間髪入れずに左手のナイフで切り付け、刃に塗られた麻痺毒で自由を奪う。相手が麻痺したのを確認した瞬間、ナイフを鞘へ戻してイレギュラー装備状態を解いてサクラを探す。キリトの強さなら、一人でも大丈夫だろう。
ナイフの麻痺毒は一発当てると消滅するが、鞘に戻せば復活する。収めた武器に麻痺毒を付与するこの鞘は、麻痺毒を使ってくるネームドmobのレアドロップ品で、今回の為に用意した。誰とも殺しあわなくて済むように……
「逝っちまいなぁ!」
「ふっ!」
乱戦状態になっているが、程なくサクラを見つける事ができた。彼女は襲い掛かって来る刃を盾で受け流し、体制を崩させてから『ホリゾンタル・スクエア』を発動。相手の右腕と両足を斬り飛ばし、号令をかける。
「今よ、抑えて!」
「すぐに拘束します!」
傍にいたKOB団員がロープ系のアイテムで手早く拘束しているのを見て、ひとまずは安心できた。
(このままなら……)
危惧していた事にはならなくて済む、などと思ったその時、背筋に悪寒が走った。
「くっ!」
ほとんど反射的に短剣を一閃し、飛来したスローイングダガーを弾く。こんな乱戦状態ではヤタがいても不意打ちを感知するのは難しいので、今動けたのは単に運がよかったのだろう。
「ちぇ~、外しちまったよヘッドォ~」
「想定通りさ。この位避けて当然だぜ、ジョニー」
「ここでテメェ等かよ……!」
PoHとジョニー・ブラック。ラフコフトップスリーの内の二人が現れたのは、はっきり言って最悪だ。乱戦状態でありながらオレとPoH達の周りだけ空間があいており、状況的にオレ一人で二人の相手をしなくてはならない。
(ザザはどこだ……クソッ、キリトがいれば何とかできそうだってのに……!)
あと一人がいないのが気がかりだが、それ以上にキリトと別行動をとったのを後悔した。
「さぁて……It's show time!」
「それを待ってたぜヘッドォ!!」
PoHは自身の得物である肉切り包丁型の短剣―――メイトチョッパーを取り出して叫ぶと、ジョニー・ブラックが奇声を上げながら飛び掛かってくる。さっきの様に麻痺ナイフを使うにはPoHが邪魔であり、普通に剣を打ち払うくらいしかできない。
(なめやがって……!)
ギリ、と奥歯を噛み締める。あろうことかPoHは動かず、高みの見物を決め込んでいる。かといってジョニー・ブラックだけに意識を向けていてはPoHに後ろから斬られる恐れがあるので、オレは常に二人へ意識を向けなくてはならない。
「本当のshow timeはこれからだぜぇ……」
不気味に呟くPoHの声が、言い知れぬ恐怖を煽った。
リアルが忙しい時とそうでない時によって更新ペースはまちまちですが、ふと思った事が一つ
多分今年中にアインクラッド編が終わらない!
今年の初めにスタートしたのにこのザマって……この位の話数でフェアリィ・ダンス編まで進んでるのもあるっていうのに……