PCと勝手が違ってやりづらいです……
クロト サイド
「オラァ!」
「チッ!」
ラフィン・コフィン幹部の一人、ジョニー・ブラック。その戦い方ははっきり言って面倒だった。使用する武器全ての刃が不気味な色の液体で覆われており、それは十中八九毒だと予想きた。直接振るわれるナイフを躱し、距離をとった時に投げてくるスローイングダガーを弾くだけでかなり神経がすり減らされる。まぁ、PoHが手を出してこないだけまだマシではあるが。
「チョロチョロしてんじゃねーぞ!」
「だったら当ててみろよ、ヘタクソ!」
以前会った時の子供っぽい言動からもしやと思っていたが、かなり短気のようだ。あからさまな挑発にもキッチリ乗ってくれるので、扱いやすい。表情を取り繕い、ニヤリとするだけで、頭陀袋の上からでも分かるくらいに癇癪を起している。
(……ここだ!)
剣を交えながらジョニーのパターンを見切り、一瞬の隙をついて左手でピックを投げる。それと同時にヤタが飛び立ち、まっすぐにジョニーへと向かう。
「うが!?ンのやろ―――」
「ワンダウン、だな」
決着はあっけなくついた。ピックをとっさに避けたジョニーは続くヤタの嘴を右目にくらい、そちらへ意識が向いたところでオレが投げた麻痺ナイフが腹に刺さった。
「Wow……その使い魔も攻撃できるんだな」
「ただの目くらましだけどな……当たりゃ確実に片目は貰ってくぜ?」
相変わらず攻撃力と増加するヘイトは微々たるものではあるが。そのため対人用の意味合いが強いので少々複雑だ。
「思ったより早くジョニーが負けたな……」
「畜生、面目ねぇ……ヘッド」
(まさか……コイツ等は時間稼ぎ!?だったら何のために……?)
PoH達が何を考えているのかが分からない。言い知れぬ不安を拭い去ろうとPoHへと構えて―――
「もうやめて!」
「それ以上は本当に死ぬぞ!?」
―――彼の後ろから聞こえた悲鳴に、まるで雷に打たれた様な感覚を覚えた。反射的にそちらを見て
「サクラ!!」
危惧していた事が起きてしまったのを悟った。同時にPoHが見せた歪んだ笑みが、ジョニーが時間稼ぎだったのはこの状態を作り出すまでオレを抑えておくためだったのだと理解できた。
「貴様等の索敵スキルは厄介だったからな……全員に
「
アレは非金属防具専用のスキル……つまりラフコフ全員がオレやキリト以上に紙装甲になるという事だ。
「That's right!察しが良くて何よりだ」
パチン、と指を鳴らしたPoHは上機嫌で続ける。
「こっちの防御力が低けりゃ低い程、削りあいになれば真っ先にHPが尽きる。だがそれがどうした?俺達は別に何ともないんだぜ……PKするのも、されるのもな」
「そこまで堕としたのかよ……!どこまで壊せば気が済むんだよテメェは!!」
ラフコフの連中は自分の死を何とも思わない……例えHPがレッドゾーンになろうが、回復もしなければ後退も投降もしない。しかも攻略組とはレベル差がある上に紙装甲であるためソードスキルを食らえばすぐに瀕死になる。
この状況は、殺しに忌避感を抱いている攻略組にとっては最悪だ。どれだけ追い込んでも相手は戦いをやめないし、こっちが全力で攻撃すれば……殺してしまう。相手を麻痺させたり武器を持った腕を斬り落としたりすれば無力化できるが、そこで相手の防御力の低さが問題になる。
相手のHPは二、三発攻撃をあてればイエローゾーンに落ちるのだ。乱戦状態の今、全くHPが減少していないのはPoHくらいのもので、他の奴らは殆どが六割以下になってるのだろう。
「どこまで、か……決まってるだろう?どこまでもさ!」
両腕を広げ、PoHは高らかに声を上げる。聞くものを引き付けてやまないその魔性の声は、じっくりとこちらの精神を蝕む毒の様だった。
「長かったぜぇ……このPartyを最高の物にするための仕込みを完成させるのはよ……特に貴様等には色々と邪魔をされたが、今となっちゃどうでもいい。こんな何十人規模の殺し合いだぜ?ここで貴様の大事なPrincessを殺し、そして貴様を殺す!こんなに素晴らしいshow timeはねぇ!!」
「グッ!」
右手に持った肉切り包丁めいた大型ダガー―――メイトチョッパーを振りかざしてくるPoHは歪んだ笑みをしたままで、その速さは予想以上だった。とっさに防御したのだが、つばぜり合いになってなお押し込まれる。
(重い!?クソッ、早くこいつを倒さねぇと―――)
「どうだぁ……今すぐPrincessを助けてぇのにできねぇってのは?」
一瞬息が詰まる。心を読まれたのもそうだが、気づいた時には体が宙を浮いていた。PoHに蹴り飛ばされたのだと遅ればせに理解し、何とか足から着地して転倒を免れる。
「や、やめてくれぇ!」
「ヒャハハハ!」
PoHの後ろから聞こえてきた断末魔の声と、破砕音。サクラと共に戦っていたKOB団員の一人が死んだのだ。
「早くしないと本当にPrincessがkillされちまうぜぇ、遊撃手?」
「うるせぇ!」
この時のオレは、明らかに焦っていた。PoHに正面から挑みかかるという、普段ならば絶対にしない行動を選んでしまったのだから。
「いいぜぇ…普段のcoolな仮面の下にある、その焦った顔が見たかったんだ!!」
「黙れぇぇ!!」
更にPoHの煽りに引っ掛かり、単純な力押しをしてしまうなど愚の骨頂だというのに。
「らああぁぁ!」
後先考えずに発動した短剣の上位ソードスキル『アクセル・レイド』。だが怒濤の九連撃はPoHの体に掠る事無く、全てメイトチョッパーに捌かれしまった。技後硬直で動けないオレを、PoHの斬撃が襲う―――筈だった
「なっ!?テメェ……!」
「簡単には殺さねぇよ」
だが、ヤツはオレの手からソードブレイカーを弾きとばすのみで、それ以上攻めてこなかった……まるでオレを、弄ぶかの様に。
舌打ちしつつも後退し、クイックチェンジで双剣を装備する。対するPoHは、その場から動く事無く悠然と待っていた。手を抜いてやっているんだ、と言われている気がして、焦りに拍車がかかる。
「舐めんなぁ!」
「No no…楽しんでんだよ」
武器を持ちかえても、PoHにオレの剣が届く事は無かった。全てかわされ、受け流されて、カウンターとして蹴り飛ばされる。完全に、万事休すだった。
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キリト サイド
「シッ!」
迫って来る狂気の刃を受け流し、『バーチカル』を受け流した敵の剣の腹に叩き込む。その結果敵の剣は半ばでへし折れ、無数のポリゴン片へとその姿を変えた。
システム外スキル
「オラ、大人しくお縄になってろ!」
武器を潰してしまえば、体術スキル以外に戦う術は無い。つまり大した抵抗もさせずに捕らえる事ができる。俺はクロトと別れた後クライン達風林火山と合流し、俺が武器を潰した敵を風林火山が縛り上げるという戦い方をしていた。本来なら武器破壊を起こすにはかなりの集中力が必要だが、敵の武器のレアリティが低い事とエリュシデータの性能が最前線でぶっちぎりのトップである事が重なり、そこまで労力をかけずとも成功。殺しあう事無くラフコフ鎮圧を進められている。これもエリュシデータを打ち上げてくれたハルのおかげだ。
(ハル……)
ハルと連絡を取れない事が、唯一の気掛かりだった。常連客と材料を取りに出かける、というメッセージが昼頃に送られてから、何も無いのだ。この戦いの前に位置情報を確認したが、追跡不可能と表示されるだけだった。ハルが何処に居るかわからない。その事が、無性に俺を不安にさせる。ハルは大丈夫だと、ダンジョンで足止めをくらっているだけだと何度も己に言い聞かせても、この胸の焦燥感は拭えない。そんな俺の様子を察してか、クラインは近くにいるものの何も聞いてこない。その気遣いが、今はただありがたかった。
「―――これで八人、と……お前ら、ロープは後どれくらい残ってる?」
「大体半分ッスよ、リーダー」
「なら早いとこクロトと合流しないとな……っ!?」
索敵スキルに反応。咄嗟に振り向いて構えると、複数のラフコフプレイヤーが立ちはだかっていた。
「見つけた、ぞ……黒の、剣士」
「赤目の、ザザ……!」
その中に髑髏マスクを被ったエストック使い―――ラフコフトップスリーの一人、赤目のザザの姿もあった。
(PoHとジョニー・ブラックはいない……なら、今のうちにコイツは捕縛する!)
あの二人がいないのは好都合。そう思って一歩踏み出そうとした瞬間、ザザは無造作に背後から布でくるまれた何かを引っ張り出した。
「キリト……お前を、絶望へ落とす、最高の、ショウ・タイム、だ」
言い終わると同時に、ザザはくるんでいた布を引き剥がした。その中身を見た途端、俺達は絶句した。なぜなら、そこに居たのは―――
「嘘……だろ?」
「ハ…ル……?」
連絡が取れず、ずっと心配していた最愛の弟だったのだから。
「…!ッ!!」
簡素な衣服しか身に付けておらず、手足は縛られていて動けない。加えて口に布が巻かれており、まともに喋る事すらできない。
「ハル、待ってろ!今助けるからな!!」
全力で駆け出し、突き進む。ただ弟を守る為に。他の事などどうでもいい。俺にとって
「ヒャッハア!!」
「行かせねぇよバ~カ!!」
だがラフコフの二人が邪魔をする。俺を殺そうとはせず、足止めをするだけだ。クライン達も他のラフコフを相手にしているので援護は無いに等しい。
「邪魔だ…どけよっ!」
見えるのに、すぐそこにいるのにこの手は届かない。そんな状況がサチ達の最期と重なり、俺から冷静な判断を奪い去っていく。
「命の、カウントダウン、だ……お前の、弟の、な」
ハルを地面に転がし、ザザは悠然とエストックを取り出す。そして何の躊躇いも無く―――
「やめろおおぉぉ!!」
―――その背にエストックを突き刺した。刺さった瞬間にハルのHPが二割失われた。そして貫通継続ダメージによりジリジリと、だが確実にHPは失われていく。
「ハルっ!!」
強引に突破しようにも、邪魔してくる敵のHPは既にレッドゾーン。下手に攻撃すれば……殺してしまう。
(ハルの命が掛かっているんだぞ!躊躇っている場合じゃないんだ!!)
そう思っても、どうしても手が止まってしまう。人を殺す覚悟が俺には無いのだと、こんな形で思い知らされたくはなかった。片方の剣をいなして突破しようとしてはもう片方に阻まれてを繰り返しながら、目の前の二人を殺すこと無くハルを助ける方法があるはずだと信じて必死に思考を巡らせる。だが―――
「残り、一割、だな」
「っ!?」
―――無情にも、今の俺に残された時間はあと僅かだった。
あと少しで、ハルが死ぬ。その絶望的な事実が、俺の心を黒く塗り潰していく。俺には何も守れないのだと、ただ大切なものを失っていくだけなのだと、世界から言われているようで―――
「いや……気が、変わった」
突然、ザザはエストックを引き抜いた。そしてハルを掴み上げると―――
「受け取れ」
無造作に投げつけてきた。投げられたハルを受け止めようと両手を広げて
「―――絶望を」
その直前に、ズブリとハルの胸をエストックが貫いた。
「……え?」
目の前の光景が、信じられない。ハルのHPは尽き、その体が透けていく。腕の中のハルはとても軽く、温もりも感じられない。
―――助けて…
その瞳がそう言っている気がして―――俺の腕の中でハルの体が砕け散った。
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