SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 また時間が空いてしまいました……

 今回は長めです。


三十七話 憎悪の刃、命の選択

 キリト サイド

 

 ハルが死んだ。消えた。いなくなった。

 

 あぁ、俺は―――また守れなかった。また失ったんだ。父さんも、母さんも、サチ達も……たった一人残った弟でさえも、俺の目の前で消えてしまった。

 俺の守りたいものは……もう存在しない。俺は―――独りになってしまったんだ。

 

 (ハル……)

 

 木綿季。

 会わせてやりたかった。

 夢。

 叶えさせてやりたかった。

 けど死んだ。

 何故死んだ?

 殺された。

 誰に?

 ―――赤目のザザに。

 

 「―――ぁ」

 

 ハルの欠片越しに見えた奴は、笑っていた。愉悦に満ちたその表情を認識した瞬間―――俺の中で、大事な何かが壊れる音がした。

 

 (殺す……!)

 

 ザザを殺す。今ここで殺す。逃げたのならどこまでも追い掛けて殺す。なにがなんでも、アイツを殺す―――!

 

 「―――ふっ」

 

 ハルの体が砕け散ってから二秒足らず。俺は仇を討つため動き出した。

 

 「死ねぇ!」

 

 「オラァ!」

 

 先ほどの二人が左右から襲い掛かってくるが、飛び上がって回避。そのまま空中で重範囲技ソードスキル『ライトニングフォール』を発動し、二人纏めて処理する。

 技後硬直が解けるや否や、再びザザを殺すために駆け出す。

 

 「そうだ…怒り、狂った貴様を―――」

 

 「―――うるせぇよ」

 

 何をほざこうが関係無い。お前は俺が殺すのだから。殺した後は……もうどうでもいい。最前線で戦い続けて、野垂れ死んでも構わない。もう生きている意味が無いんだ。

 ザザが繰り出す刺突をエリュシデータで弾き、反らして、踏み込む。

 

 「ぐっ!」

 

 体術スキル『閃打』をみぞおちにねじ込む。それにより奴は吹き飛ぶが、すぐに距離を詰めて追撃する。俺が攻め、吹き飛ばし、一方的に蹂躙する。防戦一方なザザに対し、何度も何度も。

 

 (弱い……!)

 

 こんな奴にハルは殺されたのか。俺はこんな奴からハルを守れなかったのか。そんな考えしか浮かんでこない。

 奴の動きの鋭さも、速度も、何もかもが彼女に数段劣る。

 

 (……彼女?彼女って誰だ?)

 

 チクリと頭が痛んだが、今は知ったことではない。目の前にいるザザを殺せれば、それでいい。周りがどうなろうと関係無い。邪魔する奴も纏めて殺すだけだ。

 

 「あああぁぁぁ!!」

 

 先ほどの頭痛を振り払う様に、体中に駆け巡る憎しみに身を任せ、剣を振るう。

 

 ―――胸の内に、ひどく虚しく、空っぽな心を抱えたまま……孤独と後悔に苛まれ続けながら。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 クロト サイド

 

 「Hey!」

 

 「くそがっ!」

 

 『サイド・バイト』のニ連撃によって、両手の双剣が破壊された。またしてもオレは丸腰になり、PoHに蹴り飛ばされる。

 ヤツの武器、メイトチョッパーの最たる能力は凶悪な切れ味だ。ただ打ち合うだけでこちらの武器の耐久値は激減していく上に、元々摩耗の激しい双剣ではこうなるのは時間の問題だった。

 

 (ピックも使いきっちまった……あとは―――)

 

 「そろそろ足掻くのは終いだぜ!」

 

 今度は武器を持ち替える暇を与える気はないらしく、絶え間無く刃が迫ってくる。何とか避けるが、一つ、また一つと掠めていき、HPゲージがジリジリと削られていく。

 

 「ほぉれ、頑張れ頑張れ」

 

 「この野郎……!」

 

 愉悦に歪んだ表情でいる事から、PoHがオレを弄んでいるのは間違いない。それだけでハラワタが煮えくりかえる程に怒りがこみ上げてくる。だがそれ以上にサクラの事が気になって仕方ない。優しい彼女はPKなんてできないし、何より―――させたくない。

 

 「ヒャァッ!」

 

 「ッ!」

 

 上段からの斬撃を避けた次の瞬間、手首を返して放たれた斬り上げ。上半身を目一杯反らしながらのバックステップで回避を試みるが、顎に掠ってしまった。着地と同時に体勢を整えると、PoHがソードスキルのモーションを起こしているのが見えた。

 

 (避けられ―――!?)

 

 回避できる距離ではなく、防御するための武器も無い。これで死ぬ事は無いだろうが、腕の一本を斬り飛ばされるかもしれない。そう思いながらも咄嗟に防御の姿勢をとった。だが―――

 

 「ウォォ!」

 

 「チッ!?」

 

 誰かが上からオレ達の間に飛び降りてきた。PoHが放った『ファッド・エッジ』はそいつが掲げたタワーシールドに阻まれ、オレに届く事は無かった。そのままそいつは技後硬直で動けないPoHにランスを突きこみ、そのHPを削る。

 全身を覆う頑丈そうな鎧と、左右の手に握られたガードランスとタワーシールド。アインクラッド最高クラスの防御力を誇るシュミットが、オレを庇ったのだ。

 このダンジョンは浮遊する足場がいくつもあり、そういった所でも討伐隊とラフコフメンバーが戦っていたのは分かっていた。だが、いくらタンクだからといってもあんなギリギリの状況に割り込んでくる理由が分からなかった。特にPoHの攻撃を受けようとする理由が。

 

 「何で……?」

 

 「借りは返したぞ」

 

 思わず口にした疑問に彼は素っ気なく返してきたが、その目をPoHから放す事はしなかった。オレもシュミットが言う借りには心当たりがあったので、特に聞き返す事はしなかった。

 

「……助かる」

 

 PoHが後退したので、オレは幾分か冷静になる余裕ができた。いつまでも丸腰でいる訳にはいかないので、残された武器を装備しようとして―――止まった。

 

 (この状況で、弓が使えるのか……?)

 

 射撃スキル専用武器、弓。その性能は、SAO内に於いて最長距離の射程を誇る反面、接近された場合はほぼ無用の長物と化すというピーキーなものだ。あちこちで乱戦が繰り広げられている今、そんなものが役に立つのかどうか……

 

 「早くしろ!どれだけ持つか分からん!!」

 

 顔を上げると、シュミットがPoHの猛攻に晒されていた。既に大分消耗していたのだろう、HPバーがイエローゾーンにまで落ちていた。加えて、ガードしきれずに直撃したらしいダメージエフェクトが至るところに刻まれている。

 

 (悠長に考えている時間も無ぇ……!)

 

 使えるかではない。使うしかないのだ。それに、今ならばPoHの不意をつける。如何にPoHとはいえ、この状況で初見スキルに対応するのは不可能だろう。上手くいけば、シュミットと協力してヤツを捕らえる事もできる。

 

 (タイミングを間違えたら負けだ……焦るな!)

 

 クイックチェンジで装備する直前の状態で待機。オブジェクト化のタイムラグを計算に入れ、最良の瞬間を歯を食いしばって待ち続けた。

 

 「―――スイッチ!」

 

 シュミットのHPがレッドゾーンに落ちた時が、待ち続けた最良の瞬間だった。弓を装備し、スキルを立ち上げる。彼が下がり、オレとPoHを遮るものはない。本来ならオレが飛び込むはずだった空間を『ヘイル·バレット』の三連射が駆け抜け―――

 

 「ガッ!?」

 

 二本の矢が、ヤツの右足と左肩に突き刺さった。PoHもシュミットも、矢が飛んでくるとは露程にも思っていなかったようで、矢を見て少しの間固まっていた。だが今のオレには、それよりも―――

 

 (サクラ!)

 

 彼女の事が気がかりだった。やっとサクラをこの目で見れた事には一瞬安堵したが、それもすぐに消え去った。彼女は瀕死のラフコフに防戦一方だったのだ。不幸中の幸いか一人ではなかったが、それでもHPバーは既に半分を割っていた。

 

 「クロト、お前―――」

 

 「ンな事は後だ!」

 

 シュミットが何か言おうとしていたが、そんなものはどうでもいい。今はサクラを守るのが最優先なのだから。

 繰り返すが、弓は接近されてしまえば為す術が無い。PoHはそれを即座に理解し、猛然とオレへ向かって来た。だがそれはシュミットも同様で、HPを回復結晶で瞬時にフル回復させながら再び盾役に徹してくれた。

 

 「チィッ!」

 

 シュミットを越えなければオレに剣を届かせる事はできず、かといって不用意にオレに体を晒せばそこに鋭く矢が放たれる。人目のつかない所でのみ練習してきたとはいえ、二刀流状態のキリト相手に散々デュエルしてきたのだ。彼の反応速度と両手の剣による迎撃を上回る数の矢を放てる様になるために、努力を重ねて来た。その為、矢をつがえて照準し、射るという一連の動作を極限まで切り詰める事ができた。

 その結果、オレはシュミットへ誤射する事無くPoHを攻撃できている。今まで積み重ねて来た事がPoHに通用しており、それが自信をくれた。

 

 (もう少し……あともう少しで……!)

 

 PoHを捕縛できる、と希望が見えてきたその時だった。

 

 「ゲイル!Go!!」

 

 「ッ!?」

 

 PoHが突然叫び、その直後にサクラの悲鳴が聞こえた。オレは攻撃の手が止まるのも構わずにそちらを見て、息をのんだ。

 

 「ヒャハハハ!!」

 

 瀕死状態のラフコフメンバーの一人が、サクラを吹き飛ばしたのだから。振り切っているモーションから、恐らく両手剣範囲技である『ブラスト』を発動したのだろう。共に戦っていたレイも、いつの間にかHPがレッドゾーンとなっているうえに右腕を切り落とされていた。

 

 「残念だが時間切れだ!殺す覚悟の無ぇ甘ちゃんな貴様らにはなぁ!!」

 

 PoHの勝ち誇った声が聞こえ、敵―――ゲイルと呼ばれた男が、両手剣を構えなおす。モーションから『アバランシュ』を発動させようとしているのが分かった。その瞬間オレの視界がコマ送りのようにゆっくりとしたものとなった。

 

 ―――サクラが、死ぬ……?

 

 手が、震える。

 

 ―――また、見ているだけなのか……大切な人が失われる瞬間を?

 

 手足の感覚が無くなる。かつて母親が倒れた時のように、この体は凍り付いたように動かなくなる。

 

 ―――やっぱりオレには……

 

 全身の熱が消え去っていく。心が、絶望に支配され―――

 

 ―――前にお前言ったよな?根拠なんか無くても、守ると決めたなら守りきれって

 

 ふいに、キリトがオレへと返した言葉が頭をよぎる。

 

 「助けて!!」

 

 「ッ!!」

 

 サクラの声が、オレの意識を引き戻す。体が、熱の無いまま動き出した。心も、先ほどとは打って変わって静まっていた。

 

 ―――簡単な選択だ。サクラの命と敵の命、どちらを切り捨てるのか、という。

 

 PoHの妨害が届くよりも先にシュミットを踏み台にして跳躍し、空中で矢を番えてスキルを立ち上げる。ゲイルの剣は既にライトエフェクトを纏い始めていた。

 

 (オレは……守る!)

 

 ソードスキルが発動し、ゲイルがサクラへと突進する。彼女のHPはその一撃で消し飛ぶ程度しか残っていないが、彼の剣が届くよりも先に―――

 

 「ゴフッ!?」

 

 「……え?」

 

 ―――オレが放った矢が、ゲイルの胸に突き刺さった。それによりスキルはキャンセルされ、HPを失った彼は、理解できないといった顔のまま爆散した。だがオレはそんな事は気にも留めず、サクラが無事なのを確認して安堵した。次いで、乱戦状態の真っただ中に着地する。誰も彼もが、オレの武器を見て固まっていた。この世界に存在しなかった筈の物を握っているのだから、それは無理からぬ事だ。

 

 「止まるな!!」

 

 とはいえ、わざわざその隙を逃すつもりは無い。叫ぶなりオレは再び跳躍し、矢を射る。誰の剣も届かないように跳びながら、照準し射撃する。その結果ラフコフのメンバーが何人ポリゴン片に変わろうが、関係なかった。

 

 ―――早くこの戦いを終わらせて、サクラを守る。その為ならば、敵の命なんて切り捨てる。

 

 オレの心にあったのは、ただそれだけだった。状況が好転した事を感じ取った討伐隊は、オレの矢を受けてひるんだ敵をすぐさま無力化し、拘束しはじめた。

 

 「……貴様も’こっち側’か」

 

 ただ、PoHがいつの間にか消えていた事にはオレを含めた全員が気づけなかった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 「……終わった、か……?」

 

 実際には、それほど長い時間ではなかっただろう。だがオレには、何時間も続いたような気がしていた。

 見渡す限りでは、ラフコフメンバーは討伐隊によって拘束されているし、サクラも無事だった。

 

 ―――オレは……守れたんだ。

 

 そんな思いと共に、体の感覚が戻ってきた。のろのろとした動作で弓を背負うと、無意識にシャットアウトしていた多くの声が、オレの耳にも聞こえ始めて―――

 

 「ザザアアァァァ!!!」

 

 「っ!?」

 

 一人でいてもきっと無事だろうと思っていたキリトの叫び声を聞いた。その直後、上に浮かんでいる足場の一つから一人のプレイヤーが落ちてきた。

 

 「馬鹿な……ありえ、ない……」

 

 髑髏マスクにエストック。間違いない、赤目のザザだ。ラフコフトップスリーの内の一人であり、ブリーフィングでもPoHやジョニー・ブラック同様に要注意人物として挙げられていたのは記憶に新しい。

 

 (何が……あった?)

 

 HPこそ大して減っていないもののふらついており、エストックはボロボロ。加えて奴の手は―――震えていた。彼の視線をたどると、丁度キリトが降りてきていた。

 俯いた顔を上げてゆらりと剣を構え、ザザへと一歩ずつ近づいていく。だが、彼を見ていた全員が動けずにいた。

 何故なら……彼の眼は、信じられないくらいに何も映していなかったのだから。全身からは憎悪と殺気を隠すことなく放っているというのに、その闇色の瞳はひどく空虚だった。今まで見たことがないキリトに、誰もが驚きを隠せなかったが、それ以上に得体の知れない物を恐れるような顔をしていた。

 

 「シッ!」

 

 己の震えを押し殺すように、ザザが『リニアー』を立ち上げキリトへと迫る。だというのに彼は―――

 

 (……マジかよ……?)

 

 左手一つで、それを止めてしまった。いくら先端にしかダメージ判定が存在しないエストックとはいえ、システムアシストによって加速された剣を、自分に刺さる前に握るという芸当は危険すぎる。

 普段ならば絶対にしない事を無造作にやってのけたというのに、キリトは憎悪に表情を歪めてソードスキルを放つ。

 

 「アアアァァァァ!!」

 

 獣のような叫びと共に、高速の五連突きを浴びせる。

 

 「地獄に―――」

 

 キリトの剣はそれで止まらず、上段斬り、斬り上げでザザの両腕を斬り飛ばし―――

 

 「―――堕ちろおおぉぉぉ!!」

 

 全力の大上段斬りが、仮面ごと彼の顔の左側と胴体を切り裂いた。ノックバックによって吹き飛んだザザのHPは急速に減少していき、僅か数ドット残して止まった。

 

 (完全に、殺す気だったろ……)

 

 今のは『ハウリング・オクターブ』……上位スキルの中でもかなりの大技だ。紙装甲のプレイヤーに使った理由など、殺す以外にありえない。

 常に自分よりも先に他人を気遣う優しい彼が、殺すつもりで剣を振るった。オレはその事に動揺を隠せなかった。

 

 「次こそ、殺す……!」

 

 もう戦う事はおろか、碌に動けなくなったザザにトドメを刺そうと、キリトは彼に近づいて剣を振り上げた。それを見た瞬間、このままではダメだという思いが、オレを突き動かした。

 

 「死ねぇぇ!」

 

 「バカヤロオオォォォ!!」

 

 彼が剣を振り下ろすよりも先に、体術スキル『閃打』で殴り飛ばす。キリトのカーソルはグリーンだったので、きっと今のでオレのカーソルはオレンジに変わっただろう。

 

 「もうやめろ!お前がこんな―――」

 

 「どけええぇぇぇ!!」

 

 胸を何かが貫いた衝撃と、ジェットエンジンじみた轟音のサウンドエフェクト。吹き飛ばされながら見たキリトは剣を突き出した状態で硬直しており、その剣は血色のライトエフェクトを纏っていた。

 片手剣重単発技『ヴォーパル・ストライク』は彼の十八番であり、オレもまた彼に本気で攻撃されたのだと気づいた。

 

 「……殺したんだぞ……!」

 

 無様に転がった後、オレがふらつきながらも立ちあがると、キリトは殺意の籠った声を発した。

 

 「そいつがハルを殺したんだぞ!!」

 

 「え……?」

 

 信じられない。いや、信じたくなかった。いつもキリトを慕い、笑顔を絶やさず、幼いながらも精いっぱいこの世界で生きていたあいつが……殺された?

 

 「だから俺は殺す!ハルを殺したそいつを!邪魔する奴らも全て!!」

 

 全身から容赦なく放たれる憎悪と殺意。それを受けてオレの背に冷たいものが走る。だが、オレを睨むその闇色の瞳の奥には―――何も無い。

 

 「……ダメだ」

 

 彼の目を見た瞬間、何としても彼を止めるのだと決意した。あんな目をさせたままでいい筈が無い。このままではキリトはキリトでなくなってしまう。だから―――!

 

 「アイツを殺してもハルは帰ってこねぇ!何より、ハルはお前の幸せを願ってただろ!!」

 

 「ハルはもういない!……もう、何もかもどうでもいいんだ。そいつを殺した後、どうなろうが構うものか!!」

 

 だからキリトを止める。もう、クリスマスの時のような事は繰り返させない!

 

 「邪魔をするなら……お前も殺す!」

 

 オレが弓を構えたのを見て、キリトは憎悪の刃を躊躇う事なく向けてきた。オレのHPはレッドゾーン直前だ。最悪の場合、オレも死ぬかもしれない。だが、それでも……僅かでも止められる可能性があるのなら、オレはそれに賭ける!キリトを、相棒を見捨てるなんざ御免だ!!

 オレが弓を引き絞り、キリトが一歩踏み出して―――

 

 「キリト君もうやめて!」

 

 ―――アスナがその背に抱き着いた。余りに突然過ぎたため、オレは一瞬呆気にとられてしまう。

 

 「放せ!邪魔なんだよ!!」

 

 キリトが振り払おうとするが、アスナは抱き着いたまま声を張り上げる。

 

 「ハル君は生きてる!ちゃんと生きてるから!!」

 

 「適当な事を言うな!そんな嘘、誰が信じるものか!!」

 

 ハルが生きている。その言葉に揺らぎつつも、キリトはアスナを振り払おうともがく。一方オレは、どうするべきか迷い動けなかった。オレが下手に動いてキリトを刺激すれば、アスナまで危険になる。

 想い人に憎しみの刃を向けられるなど、考えただけで恐ろしい。そんな経験をアスナにさせたくない。だがそうならない為の最良の方法が、オレには思いつかなかった。

 

 「嘘じゃないわ!あれを見て!!」

 

 アスナが促した先は、キリトが降りてきた足場。そこに、クライン達風林火山がいた。

 

 「っ!?」

 

 クラインは腕に誰かを抱えていて、そのままこちらへと飛び降りてきた。それにより、彼が抱えている人の特徴がよく分かるようになった。

 小柄な体、キリトと同色の髪と色白の肌、そして何よりも、あの幼い顔立ちをした少年は―――

 

 「ハ……ル?」

 

 死んだと思っていた、ハルだった。きっとキリトはハルが殺される瞬間を見ていただろうし、だからこそザザを本気で殺そうとしていた。だが、今クラインに抱えられたまま意識を失っているハルもまた、そこに存在しているのだ。

 

 (死んだ筈なのに生きてる……?一体どういう事だ?)

 

 ハルが生きていたのは純粋に嬉しい。きっとキリトもそう思っている筈だ。

 

 「キリト君!?」

 

 「おい、しっかりしろ!」

 

 当の彼は、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。ハルが生きていた事が分かり、張り詰めていた心が一気に緩んだのだろう。

 

 「さっさと街に運ぶぞ!ここじゃ禄に休めねぇ……」

 

 「けどクロト、オメェどうすんだよ?今オレンジだぞ」

 

 ……完全に忘れてた。今のオレじゃ圏内に入れない。そうなると誰かに頼まなくてはならないが……

 

 「キリの字達の面倒はおれ達が見とく。だからオメェはさっさとカルマ回復クエやってこい」

 

 「あぁ……頼む」

 

 部位欠損が未だ治らないザザをはじめ、生き残ったラフコフメンバーがDDAやKOBのメンバーに連行されていくのを見て、オレはやっとこの戦い―――殺し合いが終わったのだと実感した。

 

 もう何度目になるかも分からない、キリトの傷。今回も彼が傷つくのを止められなかったのが悔しかった。




 ようやくPCを新調しました。慣れているPCの方が書きやすくて楽です。
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