SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 お久しぶりです。更新が遅れてしまってどうもすみません……

 いつも通り中々進みませんが、楽しんでいただけたら幸いです。


四十七話 S級食材の使い道

 クロト サイド

 

 「ラグーラビットの肉だぁ!!?」

 

 アルゲードのとある雑貨屋。やや手狭な店内に店主の絶叫が響き渡った。その音量にオレは少しばかり顔を顰めたが、いつもどっしりと構えている筈の彼が震える指でウィンドウを指している姿が中々面白かったので気にしない事にした。

 

 「おれも現物を見るのは初めてだぜ……っていうか、一度に二匹もポップするなんて聞いた事ねぇぞ?」

 

 「違う違う。俺が見つけて仕留めようとしたら―――」

 

 「―――同時にオレも攻撃したってワケ」

 

 ニヤリとしながら言うと、店主であるエギルは納得したような、それでいて呆れたような表情をした。

 

 「DLA、だったか?ボスモンスターでもねぇってのによくもまぁ試そうとしたな」

 

 「ひでぇ言い方だな。これでもお前に売ったレアアイテムの大半はそうやって稼いだんだぜ?」

 

 「マジかよ……どうりでお前等はレアアイテムの取引が多かったのか。だがなぁ……」

 

 腕を組み、難しい表情で唸るエギル。そんな彼を見て、キリトは訝しげに問いかける。

 

 「何か問題があるのか?」

 

 「あぁ。こんなレアアイテム、一つならともかく二つとなると……おれの持ち合わせが足りねぇんだよなぁ……」

 

 「ああ、そういう事か」

 

 この世界でも最高クラスの美味に設定された食材であるラグーラビットの肉は、プレイヤー間での市場価格が十万コル以上になる。いくら故買屋のエギルといえど、現在の所持金では流石にそんな超高額アイテムを纏めて買い取るのが不可能だとの事だった。

 

 「ていうかお前等、金には困ってねぇだろ。自分達で食っちまおうって思わなかったのか?」

 

 「思ったさ。けど熟練度が九百を超えたハルの料理スキルでも成功率が半分以下なんだぜ?」

 

 キリトが諦めたようにそう言うと、エギルは納得したように腕を組んだ。

 

 「確かに失敗して焦がしちまうくらいなら、売却して利益を得た方が賢明だな」

 

 「そういうこった。とりあえず二つ目買い取ってくれそうなヤツ紹介してくれよ」

 

 ちょっと待ってろ、とエギルはメニューを操作し始めた。恐らくフレンドリストからアテを探しているのだろう。オレは特に何をするでもなく、ぼんやりとしながら待つ事にした。

 元々複数のプレイヤー達が協力して攻略すべき最前線にたった二人で挑んでいる為、日帰りの攻略であってもオレ達に蓄積する疲労は半端なものでは無い。そのためこうして戦いから離れると度々気が抜ける事があるのだ。帰る直前には鈍い頭痛を僅かに感じるようにもなってしまったし。

 

 (そろそろギルドの件も考えねぇとな……)

 

 コンビでの攻略も七十層を越えた辺りからきつくなってきた。恐らく次のクォーターポイントである七十五層以降は現状のままではいられなくなるだろう。

 

 (つっても、何処のギルドにしたもんかなぁ……)

 

 ギルド間のパワーバランスや、所属する者達との人間関係が問題にならないかどうか。様々な事があってそう簡単には決められない。

 考え事に集中していたためにオレ達は、新たにこの店に入ってきた者達に気づけなかった。

 

 「クロト」

 

 数日の間聞く事ができなかった、澄んだ声。突然聞こえた事に驚きと期待を覚えながら振り向くと―――

 

 「サクラ」

 

 ―――最愛の少女が、満面の笑みを浮かべていた。サクラに会えたというだけで、心が温かな気持ちで満たされていく。特に今回は数日間会えなかったので、普段以上に彼女が愛おしく感じた。

 

 (って、ここエギル達いるんだっけ……)

 

 本当は今すぐにでもサクラを抱きしめたかったが、今自分達がいる場所を思い出して何とか堪えた。何故彼女がここに来たのかなど、聞きたい事が―――

 

 「―――珍しいなアスナ、こんなごみ溜めに顔を出すなんて」

 

 「そろそろ次のボス戦が近いから、ちゃんと生きてるか確認しに来たんじゃない」

 

 「……フレンドリスト見れば分かるだろ」

 

 ……うん、サクラが来た理由が分かった。彼女は一人ではなくアスナと一緒に来ていて、わざわざオレ達に会いに来たのだ。アスナがサクラに同行したのは多分キリトに会う口実を作る為だろう。

 つーか……あんな分かりやすいアプローチすら気づかねぇのか、キリトは……

 

 「アスナの応援すんのも大変だな」

 

 「ううん、わたしもクロトに会いたかったから」

 

 「……サンキュ」

 

 頬を染めながら会いに来たと言われ、鼓動が速くなるのが分かった。決して狙っている訳では無いのに、サクラはよくオレをドキッとさせる事が多い。もうオレはどうしようもないくらい彼女に惚れているんだろうな、と何となく思った。

 

 「―――ちょ、ちょっと待って!これS級食材じゃない!?」

 

 突然アスナの叫び声が聞こえ、オレは思わずそちらに目を向けた。二人はそれぞれウィンドウを開いているようだが、一体何があったのだろうか?

 

 「キリト、お前何やったんだ?」

 

 「ん?この間の礼を兼ねて、アスナにラグーラビットの肉やろうとしただけさ」

 

 コイツ料理スキルコンプリートしたって言うし、とキリトはしれっとした顔でとんでもない事を言った。オレはその事に驚くよりも彼の行動に呆れてしまった。

 確かにオレ達じゃ処理できなかったとはいえ、ラグーラビットの肉は超がつく程のレアアイテム。それを突然タダでやると言われれば誰だって驚く。何より、自分にとっては無用の長物となったとみるとこうも簡単にレアアイテムを手放してしまうキリトの割り切りの良さは、時には考え物だ。

 

 「……お前なぁ、二つあるからっていっても少しは―――」

 

 「―――二つ!?」

 

 あ、やべ。余計な事を言ってしまった。サクラもアスナもかなり食いつてしまったので、仕方なくウィンドウを可視化してみせた。

 

 「ほ、本当だ……」

 

 サクラは驚いた様子だったが、アスナは黙って何かを考え込んでいるようだった。いったいどうしたのだろうか?

 

 「おいアスナ、急に黙ってどうしたんだよ?」

 

 「アスナさん?」

 

 サクラが肩に触れようとした時、いきなり彼女は手を打ち合わせた。

 

 「決めた!」

 

 「……は?」

 

 いきなり何を言い出したんだ?とサクラを含めた全員が同じ表情でアスナを見つめていると、彼女は不適な笑みを浮かべた。

 

 「二つとも私が料理するから、一緒に食べましょう」

 

 「ほ、本当か!」

 

 アスナの言葉にキリトが最初に食いついた。確かに彼は、オレより少々……いや、かなり食い意地が張っている。だが、普段の彼ならここまで反応はしない。

 多分キリトはアスナに大分心を開いている……よりもS級食材に未練があったんだろうな。まぁオレだって旨い物が食えるのは嬉しいし、別に金欠でもないから断る理由も無いんだけどさ。

 

 「……あ~エギル、ワリィけど取引はキャンセルだ」

 

 「そ、それは構わねぇけど…………な、おれ達ダチだろ?味見くらい―――」

 

 「俺達がいない時に、ハルにいっつもメシ作ってもらってるから充分だろ」

 

 そりゃねぇだろ!と断末魔の叫びを上げるエギルを放置して、キリトは店の外へと出て行った。アスナもそれに続くが、オレとしてはエギルに少しばかり悪い事をした気がしないでもない。

 

 「今回は諦めてくれ。次何か旨いモン手に入れたら、食わしてやるからさ」

 

 「ほ、本当だな!?」

 

 「ちょ、近い近い!」

 

 こちらの両肩をがっちりと掴み、カウンターから身を乗り出してきたエギルをどうにか抑えてると、サクラが彼の腕に触れた。

 

 「エギルさん、落ち着いてくださいね?」

 

 「……お、おう」

 

 するとどうだろう。オレやキリトの時とは違い、すんなりとエギルは離れてくれたのだ。オレはその事に驚きつつもサクラに感謝し、キリト達の後を追うべく店を出た。

 

 「アスナ、そういえば何処で料理するんだ?俺達の家じゃ五人で食事はできないぞ?」

 

 確かに、オレ達の家にあるテーブルは正方形の奴だから多くても四人までしか食事ができない。それに工房と店舗が全体の半分くらいあって、居住スペースがそこまで大きくない。、寝泊りするのには問題ないが、三人で生活するには少々狭く感じる事もあるのだ。

 

 「あら、それならこっちの家で料理しましょうか」

 

 「んな!?」

 

 ……おおう、かなり大胆に踏み込んだなアスナ。キリトだってギョッとしてるし、オレだって一瞬耳を疑った。

 

 「私達の家なら充分広いし……何より、料理するなら使い慣れた道具でやりたいわ」

 

 「そりゃごもっとも……」

 

 キリト……アスナの言ってる事は建前も入ってるんだぞ?ここまであからさまなのに全く意識している様子が無いってどんだけ鈍感なんだよ。

 

 「今日はこのまま帰るので、護衛はもういいです。お疲れ様」

 

 アスナは後ろで控えていた護衛に対して、凛とした声でそう言った。つーか、マジで護衛とかいたんだな……噂で聞いてはいたが、オレはサクラ達しか見ていなかったので全く気づかなかった。

 護衛の男はアスナの指示に納得がいかなかったのか、眉間に皺を寄せた。

 

 「お待ちくださいアスナ様。こんなスラム街に足を運ぶだけにとどまらず、素性の知れない者達をご自宅に伴うなどとんでもない事です……!」

 

 落ち窪んだ三白眼でオレとキリトを睨みながら、怒気を押し殺した声で護衛の男は言った。視線に殺気が籠っているのは気のせいではないだろう。

 

 「素性が知れないって……彼らは攻略組の重要なダメージディーラー、≪黒の剣士≫と≪遊撃手≫よ。それにクロト君はサクラの恋人。レベルにしたって、甘く見積もってもあなたより十は上になるわ、クラディール」

 

 うんざりした表情と呆れを滲ませた声で、アスナはあしらうように護衛の男―――クラディールにそう言い放った。

 認めたくないが、オレのアインクラッドにおける知名度はかなりのもので、顔だって割れている。そんなオレの事を’素性の知れない者’と言うのは自ら無知である事を公言しているようで滑稽だ。隣ではサクラが呆れと憤りを混ぜ合わせたような表情をしていて、今にもクラディールに食って掛かりそうだった。……いや、エギルの店を出る時に手を繋いでいなかったら確実にそうしていたはずだ。

 

 「≪黒の剣士≫に≪遊撃手≫?……そうか、貴様らビーターだろ!」

 

 「……ああ、そうだ」

 

 漸く合点のいったクラディールに対し、キリトが無表情に、だがその眼に痛みと悲しみを滲ませて答えた。それを聞い途端たヤツは勢いづいて声を荒げた。

 

 「アスナ様、こいつら自分さえ良ければいい連中ですよ!こんな奴らと関わるとろくな事がないんだ!サクラ様も、早々に別れるべきです!!」

 

 「ともかく、今日はここで帰りなさい!副団長として命じます!!」

 

 ぴしゃりとそう言い放ったアスナは、間髪入れずにキリトとサクラの腕を掴んでやや強引に歩き出す。ああいう手合いは無視するに限るため、オレもアスナに合わせる形で歩き出す。あのまま言い合いになったら野次馬がかなりの数になり、後々面倒だ。サクラもそれを分かっているようで、クラディールに何も言わずオレの手を強く握り大人しくしていた。

 

 ―――クラディールという男からの、刺すような視線をしばらく背中に感じたのが少しだけ気になった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 「おー、久々に来たけど絶景だな」

 

 「いつもなら家とダンジョンを往復してばっかだからな」

 

 およそ半年前に最前線だった六十一層、’セルムブルグ’に転移した頃には日没間際となっており、夕日とその光を反射する湖がとても綺麗だった。

 

 「アルゲードみたいな賑わいもいいけど、この街もいいでしょ?」

 

 アスナが少し得意げに言うが、オレは苦笑で返すだけだった。この街は人気こそトップクラスだが、物件が比較的安いアルゲードの三倍近くする。必然的に、この街を拠点にできるのはかなりのコルを稼ぐことができるプレイヤー達に限られてくるのだ。

 戦闘に特にプラス効果が無いのだから、オレ個人としては家にかなりの大金をつぎ込むのには少々首を傾げてしまう所がある。とはいえ、こうしてセルムブルグの街を歩いていると、高いコルを払ってでもこの街に住みたいと思う気持ちも分かるので何とも言えなくなる。

 

 「ハルも来たし、行こうぜ」

 

 買い物袋を抱えたハルが転移門に現れたので、オレはアスナ達にそう言った。ハルの事だから、きっと食材を買い足してきたのだろう。キリトがハルから袋を預かり、手を繋ぐ様子を見てアスナが少し不満そうな表情をしていたが、当の本人は全く気付いていなかった。その事に再び苦笑しそうになるが、顔に出すことなく歩き出す。

 

 「そういや……よかったのか、あの護衛?」

 

 珍しく黙ったままのサクラが気になり、適当な話題で話かけた。すると彼女は突然、オレの右腕に抱き着いてきた。

 いきなりの事で驚いたが、サクラが俯いたままであるのに気づき、それどころではなくなった。

 

 「サクラ?」

 

 「……ごめんね、クロトは何も悪くないのに……」

 

 おそらくさっきのクラディールとかいうヤツの事だろう。サクラに対して、オレと別れるべきだって言っていたし。

 

 「オレなら大丈夫だ。サクラもあんなヤツの言う事なんか気にすんなよ」

 

 「…………うん」

 

 左手で頭を撫でると、サクラは少ししてから頷いてくれた。オレとサクラの仲がアインクラッド中で知られているとはいっても、その事を認めようとしない者だって結構いるのだ。その為今回のようにこっちが悪く言われても別段気にせずに無視するのには慣れている。

 

 「さ、行こうぜ。オレさっきから腹減ってさ……」

 

 「……もう、キリトもだけどクロトも食い意地張ってない?」

 

 「いや、だってさ……初めてのS級食材なんだぜ?期待するなっていう方が無理だって」

 

 キリト同様に食い意地が張っていると言われ、多少言葉に詰まりながら返すと、サクラは漸く笑ってくれた。

 

 「現実世界(むこう)だったら、わたしもご飯作れるんだけどね……」

 

 「お、クリアする励みが増えたな」

 

 少しおどけてみせると、サクラは呆れたような表情をした。だがそのすぐ後にクスクスと笑い、オレの肩に頭を預けてきた。

 前を見ると、キリト達と幾らか距離が空いてしまっていた。しかし彼らは彼らで話をしているようで、オレ達の様子には気づいていなかった。

 

 (……少しくらいなら、いいよな)

 

 見失ってしまうような距離でもないので、特に急ぐ事も無く歩き続ける。サクラの温もりを感じられる時間が何にも代えがたく、少しでも長く続いてほしいと思えた。




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