SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 サブタイトルが全然浮かばない……


四十八話 二年過ごした世界

 クロト サイド

 

 「ああ……今まで頑張って生き残ってきてよかったぁ……」

 

 「同感。言葉が出ねぇよ」

 

 普段食べているハルの料理だって充分美味しいのだが、先ほど平らげたラグーラビットの肉を使ったシチューは別格だった。現実世界にいた頃ですら口にした事の無い上等な肉の味に、キリトやハル、サクラですら何も言えずにいた。

 

 「不思議ね……この世界で生まれて、ずっと暮らしてきたみたいな……そんな気がする」

 

 食後に出された、不思議な香りのするお茶を啜っていると、アスナはポツリとそんな事を呟いた。

 

 「そうだな……オレだって、現実世界の事を全く思い出さない日がある」

 

 「うん。最近は……クリアとか脱出とか言って血眼になってる人、ほとんど見かけないもんね」

 

 「お客さんもそうですけど……僕たちも、この世界での生活に馴染んでいるんでしょうね。きっと」

 

 最前線で命懸けの戦いをした後、ハルが待っている家にキリトと共に戻った時、’帰ってきた’と思った事だって数えきれない程ある。それだけこの世界に慣れ、それが悪くないと思うようになっていた事に、オレは今更ながら気づいた。

 

 (こんな日々が続いたらって、オレはそう願っているのか……?)

 

 現実世界にいたままならば果たせなかっただろうサクラとの再会や、初めての友達ともいえるキリト達との出会い。長い間抱き続けてきた想いが通じ、サクラと恋人になる事だってできた。オレがこの世界で得られたものはどれも大切で、現実世界ではまず得られなかったものばかりだ。だからこそオレは―――

 

 (オレは……現状に満足している……?)

 

 ―――この世界に満たされ、永住しても構わないとさえ感じているのかもしれない。昔は確かに帰るために戦っていた筈だが、今も同じ思いで戦場に立っているのかと聞かれても答えられそうになかった。

 

 「それでも……」

 

 俯いていた視線をキリトに向けると、彼はカップを見つめていた。その眼には強い意志の光が宿っており、かつて自棄を起こしていた時の暗さはほとんど無かった。

 

 「それでも俺は……現実世界にハルを帰したい」

 

 「兄さん……」

 

 迷い無く言い切るキリトの姿に、オレは息を飲んだ。同時にさっきまでの自分が情けなく思えて、顔を俯けてしまう。

 

 「キリト君ったら、本当にハル君が大事なんだね」

 

 「当たり前だろ?元々俺がベータの頃からSAOにどっぷりハマったからハルもやってみたいって言いだしたんだし……それに、二年前のあの日誓ったんだ。絶対に弟を帰してみせるって」

 

 コイツは叶えたい夢があるからな、と穏やかな声でキリトは言いながらハルの頭を優しく撫でる。いつだって彼の原動力は守りたい人への想いであり、それが彼の強さなのだ。

 

 「そういうキリト君だって、向こうでやり残した事とか無いの?」

 

 「え……?」

 

 だがキリトが言葉に詰まる様子を見て、彼がどれだけ自分を蔑ろにし続けてきたのかを思い出した。他人の為に戦えるのは間違いではないのだが、それも度が過ぎれば身を滅ぼしかねない危うさとなるのだ。

 

 「兄さんはもっと我儘とかいってもいいと思うよ」

 

 「そうそう。わたしとクロトの為に色々してくれたのは感謝してるけど……キリト自身はやりたい事とか全然言わないから、お礼したくてもできないんだよね」

 

 「そ、そう言われてもな……」

 

 珍しく目を泳がせるキリトは、普段の落ち着いた様子よりもずっと幼く見えた。ハルがオレより二つ下である事と、外見的に彼とキリトがあまり年の離れていない様子である事を考えれば、オレとそう変わらない年だろうと予想する事は容易だった。

 

 「そんくらいにしといてやれよ。オレだってこんな日が続けばいいなんて思ってる所があってさ…………そりゃ今まで面倒見てくれたじいちゃん達に恩返ししなきゃならねぇし、お袋の墓参りとかだって―――」

 

 「―――クロト!」

 

 向かいに座っていたサクラが、身を乗り出してオレの手を握った。ふと顔を上げると、ハルとアスナが驚いた表情を浮かべており、キリトとサクラは心配そうな顔をしていた。

 

 「クロト君のお母さんって……」

 

 「十年くらい前……ガキの頃に呆気なく死んだよ。急に心臓が止まったらしくってさ……」

 

 「急性の病……でしょうか?その話だけですと、詳しい事は分からないので何とも言えませんけど」

 

 「クロト……」

 

 不安げにオレを見つめるサクラに大丈夫だと告げ、皆に笑いかける。いつまでも引きずっている訳では無いので、今では十分に母の死を受け止めて折り合いをつけているのだと全員に伝えると、場の空気が静かなものになった。

 

 「と、とにかくさ、まだ二十層以上残ってるんだぜ?現実に帰ったらって話をするのはまだ早いだろ」

 

 「そうだな……俺達が頑張らなきゃ、ハルやリズ……サポートしてくれる職人クラス達に申し訳ないもんな」

 

 キリトの言葉に心の中で同意しながら、オレはお茶を飲み干した。それからぼんやりと天井を眺めていると、アスナの声が聞こえた。

 

 「それはそうと……サクラとクロト君は結婚とか考えてないの?」

 

 「んな!?」

 

 「あ、アスナさん!?」

 

 完全な不意打ちだった。確かにサクラと付き合い始めてから既に半年が経過しているが、そこまで考えてはいなかった。

 

 「ヘタレなコイツがそんな事考えてるワケ無いだろ。デートだって碌にできてないんだし」

 

 「ッ、テメェ―――」

 

 「―――その反応、図星ですよね?」

 

 心を読んだかのようなキリトとハルの連携に、オレはぐうの音も出なかった。その様子を見て、アスナはしてやったりと言った表情で笑い、サクラは顔を真っ赤にして俯いてしまっていた。

 アスナにはめられたのが何となく気に入らなくて、オレは視線を誰もいない方へと向けて口を閉ざした。とはいえさっきから顔の熱が引かないので、オレもサクラとそう変わらないくらいに赤面しているのかもしれない。

 

 「ま、そういう訳だから……明日久しぶりにパーティー組みましょう」

 

 「そりゃ構わないけど……ギルドや護衛はどうするんだよ?」

 

 「ウチはレベル上げのノルマとか無いし、護衛は置いていけばいいわ。そもそも明日は活動日じゃ無いから平気よ」

 

 「ちょ、アスナさん!」

 

 サクラの抗議の声をスルーして、アスナ達は勝手に明日の段取りを進めてしまう。流石にオレも無視できなくて、キリト達を止めようと試みようとして―――

 

 「最近は二人共ご無沙汰だったでしょ?久しぶりにデートしたくないの?」

 

 ―――アスナによって、サクラと共に図星を突かれてしまった。非常に呆気なく断る理由を失い、何も言えなくなる。

 

 「あの……明日、僕もついて行っていいですか?急な依頼で、デモニッシュ・サーバントの素材が必要になってしまいまして……」

 

 「え?私は別にいいけど、キリト君はOKなの?」

 

 「まぁ……二カ月くらい前から、圏外に連れ出す事はしてきたから……」

 

 「……四人いれば十分守れるだろ。念の為、ハルはいつも通りガチガチに固めとけよ」

 

 完全にキリトに抵抗が無くなった訳では無い。その為、ハルはシュミットもかくやという位に防御力の高い鎧や盾で守りを固めた状態でしか圏外にはいかない。しかも数少ない知り合いに協力してもらい、不測の事態に陥っても絶対に守れるようにする程に徹底していた。

 

 「じゃあ、明日の朝九時、’カームデット’の転移門前に集合な」

 

 キリトの言葉に、アスナは満足そうに笑みを浮かべながら頷いた。

 

 「あ~、そろそろ行くか」

 

 オレとサクラのデートは確定事項になっているので、開き直る事にする。だが、女の子の家にダラダラと長居するのもどうかと思ったので、今回はこれでお暇させてもらう事にした。

 玄関前まで見送ってくれたサクラ達に、ハルが感謝の言葉を口にした。

 

 「今日は本当にありがとうございました」

 

 「ううん、こっちこそご馳走様」

 

 「機会があったらまた頼む……って言いたいけど、もうあんなレア食材なんて二度と手に入らないだろうな」

 

 確かにラグーラビットにもう一度エンカウントするなんて事は無いだろう。S級食材は他にも幾つかあるらしいが、戦闘に直接関係しないのでその手の情報はほとんどスルーしていた。なのでオレもキリト同様、多分次の機会とかは無いだろうと思っている。

 だがアスナは強気な笑みを浮かべた。

 

 「ふふっ、普通の食材だって工夫次第よ?」

 

 「ハル君の料理もそうなんでしょ?」

 

 「そう、だな……いつも食べてると、つい忘れちゃうな」

 

 「兄さん達はいつも攻略で忙しいんだから、仕方ないよ」

 

 サクラ達の声を聴きながら、オレは一人で空を見上げていた。空、とは言っても実際に見えるのは上層の底であって、星なんて一つも見えないのだが。

 

 「なぁ、皆はどう思うんだ?」

 

 「クロト?」

 

 見上げたまま、オレは後ろにいるキリト達に問いかけた。

 

 「今のこの状況を、茅場の野郎はどう思ってんだろうなって」

 

 答えは、無かった。誰も答えてくれないだろうとは予想していたが、どことなくスッキリしなかった。

 

 (オレは……茅場をどう思ってるんだ……?)

 

 ヤツがこの世界を作ったから、最愛の少女に、大切な仲間に出会えた。だがそれと同時に、彼女達を傷つけ、苦しめ続けているのもこの世界なのだ。

 皆に会えた事を感謝するべきなのか、傷つけた事を恨むべきなのか……いつの間にか、自分の心が分からなくなっていた。

 

 ―――ただ、黙って手を握ってくれるサクラの温もりが、心を落ち着かせてくれた。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 「……来ない」

 

 「寝坊……は無いよな、あの二人なら」

 

 翌日。待ち合わせ時間の十分前から転移門広場でサクラ達を待っているオレ達なのだが……時間を過ぎても、二人はやってこなかった。それどころか、遅れるという旨の連絡すら無い。普段からしっかり者であるサクラ達には珍しい事だった。

 

 「念の為、フレンドリストから追跡してみますか?」

 

 「だな……つっても圏外にはいってないとは思うが」

 

 圏内でも、システムの穴をついた悪質な嫌がらせは可能だ。もしかしたら二人共それで遅れているのかもしれない。少々急いで、サクラ達の居場所を探そうとして―――

 

 「きゃああぁぁぁ!」

 

 「避けてええぇぇぇ!」

 

 「うぶっ!?」

 

 「うおわああ!?」

 

 ―――転移門が瞬き、そこから’飛び出してきた’人達が、オレとキリトに衝突してきた。転移門に背を向けていたキリトは顔面を、向き合っていたオレは後頭部をそれぞれ地面に強かに打ち付ける。

 

 「いて……て……!?」

 

 衝撃に顔を顰めながら目を開けると、サクラの顔が至近距離にあった。多分転移門にジャンプしながらここにやってきたんだろうが……

 

 (もう一人はまさか……?)

 

 ちょっと嫌な予感がして、キリトの方を見た。

 

 「っつ~……何だっていうんだよ……」

 

 「や、ちょっま……!」

 

 うつ伏せの状態のキリトの上にアスナが覆い被さる様に乗っていて、彼女は非常に狼狽している。何故ならアスナの胸が、キリトの後頭部に当たっているからだ。しかも彼女は、普段装備している筈のアーマーを付けていない。

 加えて言うなら、キリトはそんな状況を把握できていない。衝撃で混濁しているであろう意識を何とかしようと頭を振りながら起き上がろうとしているので、結果的にアスナの胸に頭をこすりつけているようなものである。

 

 「に、兄さんストップ!動いちゃダメ!」

 

 おおハル、ナイスフォ―――

 

 「ならサッサとどかしてくれ……重いんだよ……!」

 

 ―――バカヤロオオォォォ!!女の子に重いって禁句だろおおぉぉぉ!

 

 「お、お……重くなんかないわよバカァァァ!!」

 

 さっきまでの狼狽は何処へやら。顔を真っ赤にしたアスナの体術スキル『閃打』が炸裂し、キリトはさっきよりも強く顔面を地面に打ち付ける羽目になった。

 ま、まぁ向こうはハルもいるし、何とかなる……よな。

 

 「お、おーい……サクラ?」

 

 つー訳で、こっちはこっちでサクラから事情を訊こう。軽く肩を叩き、サクラの意識を覚醒させる。

 

 「うぅん…………く、クロト!?」

 

 「お、おう」

 

 漸く目を覚ましてくれたサクラは、赤面しながらもオレの上からどいてくれた。いつの間にか空中に避難していたヤタが、その頭に乗っかる。

 

 「あ~、恥ずかしいってのはオレもだったけど……何があったんだ?」

 

 起き上がりながらサクラに問うと、彼女はハッとしたように俯いていた顔を上げた。

 

 「アスナさん!早くしないとあの人が!!」

 

 「!?」

 

 その一言で、茹蛸みたいに真っ赤になりながら得物に手を伸ばしかけていたアスナもハッとしたようだった。次いでキリトとハルの腕を掴み、引きずるようにオレ達の方にやってくる。

 

 「サクラ、一体何が―――」

 

 状況がつかめないオレ達にも分かるように説明を求めようとした時、再び転移門に光が灯った。ほとんど条件反射でそちらを見ると―――

 

 「……アスナ様、サクラ様。勝手な事をされては困ります」

 

 ―――昨日二人の護衛をしていた、クラディールという男が現れたのだった。




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