SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 今回のタイトル……原作まんまです。すいません。


五十二話 青眼の悪魔

 クロト サイド

 

 安全地帯を出発してからおよそ三十分、最上階の回廊にてオレ達はリザートマンロードの群れとぶつかり合っていた。広さはそれなりにあったので、何人かで分担して各個撃破で問題無く全滅できた。だがここに来るまでの道中で、軍の連中に追いつく事は無かった。

 

 「こっから先はボス部屋だけなんだろ?もう転移結晶で帰っちまったんじゃねぇか?」

 

 「だといいけど……」

 

 おどけた様にクラインが口を開き、キリトが不安そうに答えたその時、回廊の奥から悲鳴が聞こえた。クラインの言う通り、この先にはボス部屋しかない。

 つまりコーバッツは、ぶっつけ本番でボスに挑んだのだ。間に合わなかった、としか言えない。

 

 「兄さん行って!」

 

 「クライン、ハルを頼む!」

 

 「おう、任せろ!」

 

 だがそれでも、キリト達は駆け出した。オレも遅れる事無くそれに続く。敏捷値の関係でハルやクライン達を置いていく形になってしまうが、彼らならここのモンスターに後れを取る事も無い。

 ステータスが許す限りの速度で走り続けたオレ達は、悲鳴が聞こえてから一分と経たずにボス部屋までたどり着いた。

 

 「おい!大丈夫か!!」

 

 到着と同時に、声を張り上げるキリト。だが中の様子を見たオレ達は、揃って息を飲んだ。

 はっきり言って、地獄絵図ともいえる状況だったのだ。部屋の中心でこちらに背を向けるボスと、それに対峙する軍の一団。だが確認できる人数は十人で、その内二人のHP残量が一割程度、残る八人が五割から六割といった所だった。一方でボスのHPバーは最初の一本こそ大分減っているが、残りの三本は満タン。全体でみれば二割程度しか減っていない。

 

 「は、速く転移結晶で逃げてください!」

 

 「だ、ダメだ!結晶が……使えない!」

 

 (ウソだろ……?最悪じゃねぇか……!)

 

 サクラの叫びと、軍のメンバーからの返事。予想していなかった内容に、オレ達は絶句するしかなかった。

 危険な状況から瞬時に安全な街へ離脱や、瞬時にHP回復や状態異常の治療。これら全てを可能としてくれるのが各種結晶アイテムであり、オレ達プレイヤー達にとって生命線ともいえる。だが、目の前の部屋に入った瞬間にそれら全てを封じられてしまうのだ。命を落とす危険が今までのボスとは段違いに―――いや、既に軍からは二人の死者が出ている。

 オレ達の思考がそこまでめぐる間もボスの攻撃は止まず、その度に悲鳴が上がり軍のメンバーのHPが大きく減っていく。あと数十分もすれば、全滅するだろう事は容易に予想できてしまった。

 

 「……戻るぞ」

 

 「え……?」

 

 何とか絞り出した声は、ひどく掠れていた。だがそれでもキリト達には聞こえたらしく、全員が信じられないとオレを見ていた。

 

 「オレ達は間に合わなかったんだよ。アイツ等はもう……助からない」

 

 「見捨てるって言うの!?クラインさん達が来れば、あの人達を助ける事くらい―――」

 

 アスナが怒りと共に声を荒げ、オレに詰め寄ってきた。いつものオレならば、もっと落ち着いて説き伏せる事ができたかもしれない。だが今のオレは、目の前の一方的な戦いに冷静さを欠いていた。 

 

 「―――それが無理だって言ってんだろ!」

 

 「く、クロト……?」

 

 抑えていたものをぶちまける様に、オレは叫んでしまった。気づいた時にはもう遅く、言葉を止められなかった。

 

 「もう二人死んでるんだぞ!フラフラになってもここで戦えるだけのレベルがあった奴らが!そっからボスの攻撃力がオレ達ディーラーにとって致命傷だって事ぐらい解れ!それに―――」

 

 レイドの指揮を執る彼女に、脅しと言える言葉で追い打ちをかけてしまう。

 

 「―――アイツ等を助ける為に、オレ達の誰かが死ぬんだぞ!お前はそれでいいのか!!」

 

 「っ!?そ、それは……」

 

 アスナは俯き、黙り込んでしまう。彼女だけじゃない。サクラもキリトも同じ様に俯いている。皆分かってしまったのだ……オレが軍の連中を見捨てる事を選んだ理由が。

 アイツ等はあくまで他人だ。その他人を助ける為に自分の命を懸けれる人間は少ないが確かに居る。けれども……自分の大切な人の命は懸けれるだろうか?誰とも分からないヤツを助ける為に友人を、仲間を、恋人を犠牲にするなんて事ができる人間などいる筈がない。

 

 「アイツ等を助ける為にお前等を死なせるくらいなら……オレは、お前等を選ぶ……!」

 

 これも、選択だ。見ず知らずの他人の命と、仲間の命の。薄情者、人でなしと言われようが構わない。それでオレの大切な人達が死なずにすむのなら……!

 

 「おい!どうなってんだ!?」

 

 遅れながらにやって来たクライン達にも、オレは同様の説明をした。

 

 「―――ギルマスやってっからオメェの言ってる事は分かる……分かってるけどよぉ……どうにかなんねぇのかよ……」

 

 「本当に……見捨てるしかないんですか……?」

 

 己の葛藤に震えるクラインと、涙声で訴えるハル。自分がどれだけ利己的な判断を下したのかを思い知らされているようで、苦しかった。

 

 「全員……突撃!」

 

 「よせ……やめろ!」

 

 そんな時、コーバッツの無謀な指示が聞こえた。キリトが堪らず叫んだが、もう遅い。前方から一斉に接近してきたプレイヤー達に対して、ボスはなんとブレスを放った。紫色に怪しい光を放つ瘴気のブレスは射程が短くダメージも大きくは無かった。だがその分横に広く、重装備である筈の軍のメンバー全員を纏めて吹き飛ばす程の衝撃があった。しかもボスの技後硬直がほぼゼロで、総崩れとなった軍に容赦なく大型剣のソードスキルが叩き込まれる。

 もう、蹂躙としか言いようがなかった。今の攻撃で軍は完全に統制を失い、逃げ惑う事しかできなかった。オレ達が声を上げる間もなく一人が掬いあげるようなボスの一撃を食らい、目の前に落ちてきた。コーバッツだ。

 

 「だ、大丈夫ですか!」

 

 「おい、しっかりしろ!」

 

 すぐさまハルとキリトが声をかけたが、既に彼のHPバーは消滅していた。コーバッツの口の動きがやけにゆっくりに見え、あり得ない、と言う彼の最後の言葉を読み取れてしまった。直後、彼はその体を爆散させポリゴン片へと変わり果てた。つまり……死んだのだ。

 

 「そんな……」

 

 「あ、あぁ……」

 

 サクラとハルの悲痛な声。特にハルは人の死を直接見た経験が無く、傍にいたキリトに縋りついた。キリトもそんなハルをなだめようと抱きしめており、クラインは悔しそうに唇を噛み締めていた。

 

 「う、うわあぁぁぁ!」

 

 「っ!」

 

 そしてまた一人、ボスの凶刃によってその命を散らそうとしていた。恐怖に飲まれ、ボスの目の前で尻餅をついた彼は、逃げる事すらできないでいた。

 

 「グウゥゥ……」

 

 獲物を前にして、舌なめずりするかの様にボスはゆっくりと剣を振り上げる。あと数秒もすれば剣は振り下ろされ、今なお怯えている彼にとって命を刈り取るギロチンと化すだろう。

 

 「ダメ……ダメよ……もう」

 

 絞り出すようなアスナの声が聞こえたオレは、嫌な予感がした。優しい彼女は、このまま軍が全滅するのに耐えられないだろう。だとすれば……!

 

 「アス―――」

 

 「―――ダメェェェ!!」

 

 振り返ったその時、アスナは悲痛な叫びを上げながら一筋の閃光と化してボスへと突撃した。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 キリト サイド

 

 「ハル……!」

 

 コーバッツの死を見てしまったハルは、震えていた。人の死に慣れていない弟にとって、目の前で誰かが死ぬ瞬間を見るのはショックが大きすぎる。

 

 「……けて……」

 

 ほとんど聞こえない程小さく、か細いハルの声。それを聞き取ろうと俺は耳を寄せた。

 

 「あの人達を……助けて……!」

 

 「っ!それは……」

 

 俺だって、できる事なら助けたい。だがしかし、そのせいでクロト達を死なせるのは耐えられない。その為俺は何も答えてやれない。

 

 ―――どうすれば……!

 

 どうしようもない葛藤に、奥歯を噛み締める。だがそんな事をしたって最善策が何も浮かんではこなかった。彼らを助けるには、まず人手が足りなさ過ぎる。結晶無効化エリアでなければ、全員が転移結晶で脱出するまでの時間稼ぎならどうにかなっただろうが……

 

 「―――ダメェェェ!!」

 

 「っ!?アスナ!!」

 

 ボスへ向けて、一筋の閃光が駆け抜ける。アスナが単身で突っ込んだのだ。そしてこのままでは確実に彼女は死ぬ。そう分かった瞬間、背筋に悪寒が走った。

 

 ―――また……いなくなる?

 

 父さん、母さん、黒猫団のみんなが死んだ時の喪失感が胸を貫くのと同時に、額の傷跡が疼く。

 

 (……あんな思いを味わうのは……もう嫌だ!)

 

 一瞬だけハルを強く抱きしめた後、俺は身を離した。物分かりの良い弟はそれだけで察してくれたようで、俺の背中を押す様に頷いてくれた。

 

 「アスナアアァァァ!!」

 

 「き、キリト!?」

 

 「バカ野郎……!」

 

 「クソッ、どうとでもなりやがれ!」

 

 全速力で駆け出すと同時に、剣を抜き放つ。後ろでサクラ達が何か言っているようだが、今の俺は気にしている余裕なんて無かった。

 アスナはボスの反撃によって大きく吹き飛ばされており、そんな彼女を切り裂かんと悪魔は斬馬刀を振り上げていた。

 

 「させるかああぁぁぁ!!」

 

 アスナへと振り下ろされる斬馬刀の腹に、横合いから渾身の『ヴォーパル・ストライク』をねじ込む。それによって斬馬刀の軌道がずれ、彼女の横数センチの位置に突き刺さった。

 

 「下がれ!」

 

 アスナにそれだけ言うと、俺はすぐさま目の前の悪魔へと意識を集中させる。どんな軌道であの斬馬刀を振るうのか、どのソードスキルを使用する傾向があるのか、さっきのブレスはどんな状況で使用するのか、尻尾の蛇にも隠された能力があるのか……搭載されているAIの攻撃パターンやアルゴリズムが全く分かっていないのだ。少しでも気を逸らせば、それが致命的な隙となり……俺の死に直結する。

 

 (このままじゃまずい……!)

 

 ボスの剣技は基本的に両手剣の物だが、微妙にカスタマイズされているのか挙動がやや異なる。その為先読みができず、攻撃を捨ててパリィとステップで凌いでいてなお剣が体を掠めていく。しかも予想通り攻撃力が高く、バトルヒーリングの回復が追いつかないうえ剣越しに伝わる衝撃も凄まじい。

 時間と共に少しずつ、だが確実に俺のHPは減っていく。視界の端ではクライン達が軍のメンバーを運び出そうとしているが、俺が部屋の中央でボスと戦っている為遅々として進まない。それどころか、ボスは時折後ろにいる彼らへ攻撃しようと振り返る事があり、その度に俺はダメージ覚悟で重攻撃で無理やりタゲを取っていく。クロト達は多分、俺が粘っている間にボスの攻撃パターンを見極めようとしているのだろう。だがジリ貧なのは変わらない。ボスの攻撃を凌ぎつつ救助する時間を稼げる程の硬さも、この人数でボスを倒せるだけの火力も今の俺達には―――

 

 (……アレなら、もしかしたら……!)

 

 二刀流なら、打開できるかもしれない。グリームアイズの防御力は決して高くはないので、俺の全火力を集中させれば……!

 

 (けど……本当にいいのか……?また、拒絶されるんじゃ……)

 

 二刀流を知らないアスナ、サクラ、クライン。もしここを切り抜けても、彼女達との間に埋まらない溝ができてしまったら?ハルやクロト達にも、また迷惑をかけてしまうのではないか?そんな不安が際限なく溢れ、躊躇う。自然と息が上がり、手が震える。そして―――

 

 「がふっ!!」

 

 「キリト君!!」

 

 捌ききれなかったボスの剣が俺を捉えた。咄嗟に身を捻って直撃は免れたものの、七割ほど残っていたHPは四割まで減少した。僅かな浮遊の後、背中から地面へと叩き付けられた俺は、ボスを睨む事しかできなかった。

 

 「グオオォォォ!?」

 

 「オレがタゲ取る!クライン、入り口から見て左側に寄せろ!」

 

 突如、ボスの頭上から矢の雨が降った。ボスがひるみ、一本目のHPバーが空になった。怒り狂った悪魔は、迷う事無くクロトへと向き直り、その顔面に『ストライクノヴァ』の一撃を貰う。

 相棒は入り口から見て右側……クライン達が移動しているのとは逆サイドにいる自分にタゲが向き続けるよう、矢を射かけ続けていた。

 

 「キリト君!」

 

 「あ、あぁ……」

 

 アスナに助け起こされた俺は、腰のポーチからハイポーションを取り出して一息に煽った。クロトの狙い通りボスは彼の元へと一直線に走り出しており、軍のメンバーの安全はひとまず確保できたようだ。

 

 「クロト……!」

 

 「アイツなら……大丈夫。大丈夫だ……」

 

 自分に言い聞かせながらも、不安げなサクラを励ます。彼はギリギリまでボスを引き付けると武器を持ち替え、一気にインファイトへと持ち込んだ。

 コンプリート済みの軽業(アクロバット)スキルと鍛え上げてきたステータスを駆使して、クロトはボスの脚や背、肩等を駆け巡る。ボスはその場で腕や足を振り回すが、彼がそれに捕らえられる事は無かった。如何に動きがカスタマイズされていても、元々は取り回しにくい両手剣。加えてボス特有の巨体が災いして、懐に入られた時の対処がほとんどできていなかった。

 俺はジリジリと回復していくHPバーを見ながら、いまだに二刀流を使うかどうかの踏ん切りがつかないでいた。ボスの脅威が無くなったお陰で、クライン達の救助活動はスムーズに進んでいる。このままなら後数分で終わるだろうし、クロトだって攻撃はタゲ取りの為に最低限行っているのみで、ほぼ回避に徹しているから充分耐えてくれる。俺がする事といったら、クロトが離脱するときのサポートくらいだろう。彼に任せるのが最善だと分かっていても、何もできないでいる自分が不甲斐なかった。

 

 「おい!こっちは終わったぞ!」

 

 「分かった……」

 

 やがてクラインが俺達の元へと駆け寄ってきた。入り口ではハルが軍にポーションを配っており、風林火山のメンバー全員がこちらへと向かってきていた。俺のHPも既に全快しているので、迷う事無くクロトの支援に向かう。

 

 「クロト!」

 

 サクラが名を呼ぶと、彼は一瞬だけこちらを見た。僅かな時間とはいえ、一歩間違えれば即死に至る状況を一人で凌いでいたのだ。今のクロトには返事をするだけの余裕が無いのだと予想する事は容易だった。

 

 「グオオォォォ!」

 

 「チッ!」

 

 焦れたかのように暴れまわるボス相手に、彼は中々離脱するチャンスを掴めないでいた。中途半端に距離を開ければ間違いなく斬馬刀の餌食になるし、俺達だって同じ理由で接近できないまま。かといってこのままではクロトが消耗する一方だ。

 そして―――起こるべくして、それは起こった。

 

 「フッ!」

 

 「ゴアァァ!?」

 

 クロトが投げたピックがボスの目に突き刺さって、一瞬怯んだ。その隙に彼はバックステップで距離を開けるが、そこはボスの間合いの中。しかも俺達がとは逆サイド……部屋の奥だった。これでは助けられない。

 

 「グルアアァァァ!」

 

 怒りの雄たけびと共に、ボスがクロトへと斬馬刀を振り下ろし―――悲鳴を上げた。ボスの右腕には、一筋のダメージエフェクトが刻まれていて、クロト自身はボスの肩に乗っていた。

 彼が今握っているのは双剣。確か最近になってカウンター系のソードスキルが出たと言っていたから、それで乗り切ったのだろう。タイミングがかなりシビアな筈だが、クロトは土壇場で成功させたのだ。

 技後硬直が解けるや否や、彼はこちらへと跳躍した。ボスはまだ立ち直っていないので、俺達が防御重視で後退していけば何とか離脱できるだろう。

 

 「キシャアァァァ!」

 

 「なっ!?ぐ!」

 

 だからこそ、疲労したクロトは勿論、俺達自身にも隙があったのだ。今までほとんど何もしてこなかった為に、いつの間にか警戒を解いていた尻尾の蛇。それが突然クロトへと延び、彼の右足に食い付いたのだ。そしてクロトはその瞬間に麻痺状態となり、一切の抵抗ができなくなったのだ。

 慌てて俺達は駆け出すが、体制を立て直したボスのブレスによって防御を強いられて、近づけない。

 

 「グウウゥゥ!」

 

 「ぐ……ぁ……!」

 

 「やめろ!」

 

 悪魔は右の斬馬刀で俺達をあしらいながら、空いている左手でクロトを掴んだ。しかも彼の右脚は蛇が咥えたままで、それぞれが反対方向へと引っ張り始める。視界の端に表示されている相棒のHPバーがジリジリと減っていき―――

 

 「ガアアァァァ!!」

 

 「クロトッ!!」

 

 ―――イエローゾーンに入った瞬間にクロトの脚が千切れ、ボスは無造作に彼を投げ捨てた。




 次は……二刀流解禁&反撃開始です!
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