SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 お久しぶりです……い、生きてますよ。

 仕事に追われ、日々の暑さに打ちのめされ……気づけば一カ月以上放置状態でした。そして相変わらずサブタイトルが浮かばないというか、微妙な感じです……


六十話 繋いだ想い

 クロト サイド

 

 あの後、オレ達はKOB本部に戻り事の顛末を話した。加えて一時退団を申請すると、ヒースクリフのおっさんは暫く黙考した後に了承してくれた。

 ……まぁ、意味深な笑みを浮かべて「だが君達はすぐに戦場に戻ってくるだろう」なんて言ってきたが。

 

 「……」

 

 KOB本部から転移門広場まで、誰も口を開かなかった。オレはサクラと、キリトはアスナと手を繋いだまま、ゆっくりと歩き続けていた。夕日に照らされ、地面に長い影を落とす鉄塔群をぼんやりと眺めながら、ただただ歩き続ける。

 

 「……」

 

 ラフィン・コフィン討伐戦以来久しく向けられなかった’他人からの明確な殺意’の所為か、何か言わなくてはと思っても言葉にならず、口を開きかけては閉ざしてを繰り返す。だがそれも長くは続かず、気づけば転移門前にたどり着いていた。住んでいる家は別の層にある為、普段ならここで彼女達と分かれるのだが……

 

 「……」

 

 「サクラ……?」

 

 繋いだ手がより一層強く握られ、思わず彼女の方へと振り向く。俯いているため表情は窺えないが、彼女が何か大事な事を伝えようとしているのは解った。だからこそ彼女を安心させるように手を優しく握り返し、待ち続ける。

 

 「今日……今夜だけは……ずっと一緒に、クロトの傍に……いさせて……」

 

 「っ!?」

 

 思わず息をのんだ。彼女がこんなに踏み込んだ事を言うのが初めてだったから、すごく驚いた。だが繋いでいるサクラの手が震えているのに気づき、漸く彼女が怯えている事を思い知らされた。

 

 ―――倫理コード解除設定ってのでデキるんだぜぇ

 

 ヤツの言葉が脳裏に蘇る。それがサクラをどれ程怖がらせたのか、男のオレには解らない。強いて言うなら、すごく怖い思いをしたのだと何となく感じる程度でしかない。

 だがこんなオレを頼ってくれるのなら、せめてサクラの恐怖を和らげたい。

 

 「……解った」

 

 縋る様に握る彼女の手を両手で包み、なるべく優しくそう告げると、サクラは無言のまま頷いた。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 「―――お帰りなさいクロトさん。そしてサクラさん、いらっしゃい」

 

 家に入ると、ハルが暖かな笑みで出迎えてくれた。

 

 「兄さんから、今日は帰らないって事と、サクラさんが泊まるって事は聞いてます。もうすぐ夕飯ができますので、少し待っててください」

 

 「あぁ、いつもありがとな」

 

 労うように、ハルの頭に軽くポンと手を乗せる。相変わらず撫でるのはキリトに敵わないが、このぐらいならハルも微妙な表情はしないで嬉しそうにしてくれる。

 ものの数分で卓上に三人分の料理が並び、オレ達は昼間の事を忘れる様に温かな食事を楽しんだ。ハルも事情を察してか今日何があったのかを聞こうとはせず、かといって話題が尽きないようにとニコニコしながら最近自分の周りで起こった事を話してくれた。最前線ではそれほど貴重とはいえず、持ち切れなかった場合は時々捨てていた素材が実は中層ではかなりの需要があった事。その為エギルに買い取ってもらった時は予想外の金額に驚き代金の入力ミスではないかと慌ててしまい、偶然居合わせたリズに大笑いされてしまったとか。他にも客から教えてもらったがまだ兄に教えていない穴場のレストランがどの層にあるのかなど、どれも日頃最前線に籠りっぱなしのオレ達ではまず経験しない為とても楽しかった。

 

 「―――宝箱からレアインゴットねぇ……フィリアがそれをエギルに売りつけてボロ儲けして、エギルはエギルでお前に斧打ってもらったのか」

 

 「はい。しかもアレ、両手斧の中じゃ文句なしの最高傑作でしたよ」

 

 「リ、リズさんが最近悔しがってたのって、それだったんだね……」

 

 「アイツ普段ぼったくってんだから、仕方無いんじゃね?」

 

 「もう、そんな事言わないの!」

 

 食後のお茶を飲みながら他愛無い雑談を続けていく内に、やっとサクラにも笑えるだけの余裕が出てきてくれた。それが何よりも嬉しかった。

 

 「その様子なら大丈夫そうですね」

 

 「んぁ?」

 

 不意に会話が途切れてから少しして。ヤタと戯れているサクラをぼんやりと見つめていると、いつの間にか傍にやって来たハルが耳打ちしてきた。警戒ほぼを解いている状態であった為、オレは半ば上の空でいた。

 

 「僕、今日はエギルさんに泊めてもらいますから。後はお二人でごゆっくりお楽しみください」

 

 「おーう………………って、は!?」

 

 無防備な所に放り込まれた爆弾は情け容赦無くオレに直撃し、見事に大爆発を起こした。しかも放り込んだ張本人はしょーもない悪戯が成功した時のキリトそっくりな、ニヤリとした笑みと共に去ってしまった。

 

 (あいつ……いきなり二人っきりにしやがって~~!後で拳骨でもくらわせて……ってメッセージ?)

 

 不意に届いたメッセージ通知。ほぼ反射でそれを開くと―――

 

 ―――ここまでお膳立てしたんですから、ヘタレて何もしませんでしたーとかは無しですよ?

 

 ハルからの第二撃だった。

 

 「余計なお世話じゃああぁぁ!!」

 

 「ちょ、クロトどうしたの!?」

 

 たまらず天井を仰いで怒鳴り、サクラに心配されるくらいにピンポイントな爆撃だった。

 

 「……あの野郎……余計なトコだけ……兄貴そっくりになりやがって…………!」

 

 「?ハル君がどうかしたの?」

 

 小首をかしげるサクラが普段以上に可愛らしく見え、気恥ずかしさから目を逸らしてしまう。ハルの所為で余計に意識してしまい、まともに彼女を見れない。

 急に挙動不審となったオレに、サクラはただただ疑問府を浮かべるだけで、瞬く間に部屋が沈黙に包まれる。

 

 「あ、えっと…………そう言えばハル君いないね!?」

 

 「あ、あぁ………アイツ……今日はエギルんトコに泊まるってさ」

 

 ちょっとでも場の雰囲気を変えようとしてか、彼女は空元気で言葉を発する。だがオレはオレで自分の鼓動を静めるのに精一杯で、気づけば馬鹿正直に口を開いていた。

 

 「ふぇ……?それって、つまり…………」

 

 「二人きり、だな……」

 

 二人きり、そう言った瞬間に揃って赤面した。夜、それも自分の家に泊まりに来た恋人と二人きりという、今まで経験した事の無いこの状況。これで普段通りのままでいられるヤツがいるのなら、是非ともこう問いたい。

 

 ―――コレ……どうすりゃいいの、と

 

 そんな現実逃避気味な事を考えながら、我関せずとばかりに止まり木に逃げたヤタを眺めてみるが相変わらず胸の鼓動は痛いくらいに激しいままだ。

 

 「えっと……あの……その……」

 

 赤い顔のまま、彼女は何かを言おうと口を開き、言葉にならず口を閉ざす事を繰り返していた。だがその一方でサクラの手は……震えていた。

 

 ―――今夜だけは……ずっと一緒に、クロトの傍に……いさせて……

 

 夕方のあの言葉を聞いた時、彼女の恐怖を和らげたいと思った筈なのに……またオレはヘタレて彼女から来るのを待っている。改めてそれを思い知らされると同時に、欲望にまみれたクラディールの顔が脳裏に蘇ってきた。

 もしあそこで、サクラが穢されていたら…………そんな事が頭をよぎり、何とも言えない不快感が沸き上がってきた。

 

 「……サクラ」

 

 「はひっ!?な、何かな?」

 

 ゆっくりと彼女に歩み寄ると、頬に左手を添え、俯きがちだった顔を上げさせる。緊張からか少し表情は硬いが、紅く染めた顔はやはり誰よりも美しかった。

 

 「……」

 

 「クロト?どうし―――」

 

 しばしの間見つめ続けた後、オレは躊躇う事無くサクラの唇に自分のそれを重ねる。突然の事に驚いたのか、彼女は固まっていて特に抵抗は無かった。

 

 (あぁ、そっか…………オレは………………)

 

 添えていた左手を後頭部に、右手を背中に回して抱きしめながら、やっと自分の感情に気づいた。オレが抱いているのは……独占欲なのだと。

 

 ―――サクラの笑顔を、心を……その全てを…………誰にも穢されたくない、ずっと傍にいてほしい。

 

 形になった心は抑えが効かず、唇が離れても再び重ねる。貪るように、何度も、何度も。

 

 「ん…………ふぁ………………」

 

 キスを繰り返す合間に零れる彼女の声を聞きながらも、気が済むまでオレはやめなかった。

 

 「サクラ……」

 

 自分の中のどす黒い心に気付きながらも、止められない。これでは余計に彼女を怖がらせるだけだというのに……

 

 「オレ……自分が抑えられないんだ……」

 

 だからこそ、せめて一言先に言っておかなくてはと思い、彼女の耳元で囁いた。顔を見てしまえば、また口づけてしまいそうだったから。

 

 「……お前が、欲しい」

 

 「っ!」

 

 溢れだす想いをそのまま口にすると、抱きしめたままの彼女の体が一瞬強張るのが分かった。だけどゆっくりと回されたサクラの両手からは、オレを拒む意志は感じられなかった。

 

 「いい、よ……」

 

 長い沈黙の後、消え入りそうな声と共に、回された腕に力が籠る。少し……いや、かなり恥ずかしいのだろう、触れ合っている頬は温かいどころか熱い位なのだから。

 

 「今だけ……今だけは…………全部、忘れさせて……」

 

 「あぁ」

 

 サクラが受け入れてくれた。その事がオレに歯止めをかけるものを消し去る。抱きしめる力を僅かに緩めて顔を離すと、彼女と目が合った。少しだけ見つめ合った後、オレとサクラはどちらともなく唇を重ねた。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 翌日、オレ達はエギルの店を訪れた。ここ最近避難先として入り浸っていたため、何となくキリト達も来るんじゃないかと思って足を運んだのだ。

 

 「うーっすエギル、邪魔するぜ」

 

 「おう。噂をすれば、だな」

 

 そう言ってエギルはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ、傍らにいるハルと頷きあう。なんか嫌な予感がしてとっさに逃げようとした瞬間―――

 

 「昨夜はお楽しみでしたか?」

 

 「ブフォ!?」

 

 昨日に続き、第三の爆撃を喰らった。隣ではサクラが顔を真っ赤にして俯いているが、握った手を放す事は無かった。

 ……………まぁ、その……はい、夕べはあのまま……最後まで致してしまいましたよ。後悔はしてないけど……思い出すと滅茶苦茶恥ずかしい。「お前が欲しい」とか言ってしまった瞬間は、間違いなくオレの黒歴史の一つとなった。いや、それだけじゃ無い。その後も恥ずかしい事を色々、言ってしまったのだ。その最たるものが

 

 ―――現実世界(むこう)に帰ったら……ちゃんと付き合って、いつか…………結婚しよう。

 

 である。紛れも無い本心なのは事実だが、普段ならこんな恥ずかしいセリフ絶対に言わない。思い出すだけで、顔から火が出そうになる。……………けど、その時サクラが見せてくれた最高の笑顔を、決して忘れる事は無いだろう。

 オレも男だし、言った以上は実現させるべく最大限の努力をするつもりだ。だが今は、目の前でニヤニヤしているマセガキとハゲ店主をブッ飛ばす―――!

 

 「―――テメェら覚悟はできてんだろうなああぁぁぁ!!」

 

 「はっはっは、嬢ちゃんと手繋いだままじゃ締まらないぜ?」

 

 「うっせぇハゲ!コイツを喰らえやぁ!!」

 

 今までで最高クラスの速度でウィンドウを操作し、オブジェクト化したチャクラムを容赦なくブン投げる。当然スキルは発動させてな。

 

 「がふ!?」

 

 重量のある両手斧を振るう禿頭の巨漢はSTR優先のビルドであり、こんな近距離で投げられたチャクラムを躱すだけの素早さは無い。いくら圏内とはいえ全力投球した為かノックバックはかなりのもので、顔面にクリーンヒットしたエギルはそのままひっくり返った。

 

 「ケッ、ザマぁねぇなぁハゲ木偶よぉ……!」

 

 「ちょ、く、クロトさん!?もうただのヤンキーですよ!?」

 

 見てくれは完全に悪役レスラーなエギルを倒した事に気分を良くしたオレは、引きつった表情を浮かべるマセガキをどうしてやろうかと考える。威嚇するように右手の指を怪しく動かすと、漸く自分が獲物となった事に気づいたのか少年鍛冶屋は冷や汗をかき始める。

 

 「さ、サクラさん!クロトさんがヤバイですって!!」

 

 「……自業自得。ハル君、調子乗り過ぎ」

 

 「そーいう事だ。覚悟しろよぉマセガキィ……!」

 

 「ヒィ!」

 

 サクラに手を放してもらったオレは、ハルにゆっくりと歩み寄る。両手の指をボキボキと鳴らしながら。

 

 「昨日といい今日といい……年上からかってんじゃねぇぞ……!」

 

 ハルの守護神たるキリトは今ここにはいないのだ。普段からちょこちょことからかわれてきた分もここで纏めて清算してやる――――――!

 

 「ままま待ってください!メッセ!メッセ入りましたからぁ!!」

 

 「……チッ、こっちもかよ」

 

 とりあえずアイアンクローで宙づりにしてやろうと掴みかかった瞬間、都合よくオレとハルに同時にメッセージが来た。ったく、何処のどいつだよ畜生。

 

 「あ、アスナさんから?何だろ……」

 

 「あ?サクラにも来てたのか……って、キリトからかよ」

 

 「ぼ、僕も兄さんからです……」

 

 「おれも、来てるな」

 

 いつの間にか起き上がったエギルにも来ているとは珍しい。多分纏めて送信したんだろうが、何故アスナと同じタイミングなのだろうか?訝しみながらも内容を確認する。

 

 「…………は?」

 

 ついそんな、間抜けな声を出してしまったのも仕方ないだろう。エギルも、ほぼ同じ内容のメッセージを貰ったであろうサクラも硬直しているのだから。

 キリトからのメッセージの内容はこうだ。

 

 ―――突然こんなメッセ送ってごめん。でもどうしても、皆に伝えておかなくちゃって思って……

   実は俺、昨日アスナと結婚したんだ。しばらくは下の層で、彼女とゆっくり過ごそうと思ってる。詳しい事はその内説明するから、それまで待っていてほしい。

 

 ……オレとサクラのように付き合うというのならまだ解る。だが、途中の過程をすっ飛ばしていきなり結婚するなどと、一体誰が予想できたというのだろうか。完全に予想外であり、度肝を抜かれた。

 

 「アスナさんも、やっと報われたみたい……」

 

 「全くだ。どっから見てもお似合いだってのに、見てるこっちをヤキモキさせてばっかだったしな」

 

 心底嬉しそうに微笑むサクラと、満足げに頷くエギル。そんな二人と同じく、オレも相棒が漸く幸福を得られた事が嬉しくて胸が温かくなる。

 

 「……うっ……ぁ」

 

 「ハル?」

 

 すぐ傍で聞こえた嗚咽。怪訝に思って目を向けると……他ならぬハルが、ボロボロと泣き崩れていた。

 

 「おい!どうしたんだよ!?」

 

 慌てて彼の背をさすり、何とか落ち着けようと試みる。その間に二人もハルの様子に気づいて駆け寄ってきた。

 

 「だって……っ!にい、さんが……笑って…………!」

 

 そう言われて初めて、メッセージにスクリーンショットが添付されているのに気づいた。震える指で何とかウィンドウを可視化し、画像を表示させる。そしてオレは、サクラは、エギルはそれに目を奪われた。

 

 「……キリト、だよな……?」

 

 思わず、そんな言葉が零れた。アスナの家の一室で撮っただろうその写真には、キリトとアスナが寄り添いあって映っていた。アスナはこの上なく幸せそうな笑顔を惜しげも無く浮かべていて、彼女の今までの努力が実を結んだ事がよく伝わってくる。だが……何よりもオレ達が驚いたのは、キリトだった。

 照れくさそうに頬を掻きながら目を逸らしているが、笑っていたのだ。それも今まで見せてきたような、影のある泣きそうなものではなくて……陰りの無い、心の底からの笑みを浮かべていたのだから。




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