SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 お久しぶりです……何とか、9月中にできました。


六十一話 訪問

 クロト サイド

 

 キリトとアスナが結婚してから三日。そろそろ向こうも落ち着いただろうと思い、オレとサクラは二十二層にある二人の新居を訪ねた。

 

 「そーいや、この層って三日くらいで攻略しちまったよなぁ……」

 

 「うん……フィールドにmobがいなかったし、迷宮区もボスも大したこと無かったもんね」

 

 「ああ。今攻略組でこの層の事覚えてるヤツなんて、そうそういないだろ。きっとアイツもそう考えてココを選んだんだろうな」

 

 オレ自身も主街区の名前はすぐに思い出せたが、そこまでだった。こうやってフィールドを歩きながら、少しずつ記憶の隅に追いやっていた事を思い出しているのだ。

 効率の良い狩場や、実入りの良いクエストが皆無な為、攻略組や日々の生活の糧を得るために狩りをする中層プレイヤー達がこの層に来る理由は無い。その上四十七層の様にデートスポット等がある訳でもない為、カップルが訪れる事だってほぼゼロだ。次第に人の出入りが少なくなり、この層もまた過疎層の一つとなったのは解放されてからさほど時間はかからなかった。

 

 「ここなら……アスナさんもキリトも、ゆっくり休めるかな?」

 

 「そうだな。こうして堂々と歩いていたって、話しかけてきたのは釣り竿担いだ陽気なおっさんだけだったしな」

 

 「後はみんなNPCだったけどね……でも、わたしやクロトの事を知らない人がいたのには、ちょっとびっくりしたよ」

 

 「だよなぁ……どこ行っても知らない誰かが自分の事知ってるってのがオレ達のデフォだったしな……」

 

 見知らぬ誰かに声をかけられたり、絡まれたり。今まで何処に行こうがそれは変わらなかった。だからこそ、何事も無くのんびりと歩けるのが嬉しい筈なのに……何だか違和感があって落ち着かない。

 

 (確かに慣れってのは、結構厄介だなぁ……)

 

 そう、慣れだ。アインクラッドの中でとはいえ、有名人となってしまってから既に二年近くの月日が流れた。アインクラッド初のビーストテイマー、ビーター、遊撃手……気づけば色々な呼び名が付けられ、名前が独り歩きしていた。大多数の人間からは嫉妬や侮蔑、憎悪を向けられ、いつの間にかそれが当たり前だと受け流すようになっていた。

 

 「―――ねえ、あれじゃない?」

 

 「ん、そうだな。もう着いたのか」

 

 サクラが指さす先には、一軒の小さなログハウスが建っていた。いつの間にか森に入っていたらしく、さっきまで見えていた湖は見当たらなくなっていた。考え事しながら歩くもんじゃないな、と内心苦笑してから、一旦止めた足を再び動かす。

 程なく玄関に着くと、備え付けてある呼び鈴を鳴らす。

 

 「はい、どちら様で……」

 

 「よぉ、来たぜ」

 

 「結婚おめでとう、キリト。お祝いに来ちゃった」

 

 サクラと揃って笑顔でそう言うと、数日ぶりに再会する相棒はパチパチと何度も瞬きをするのみだった。

 

 「あっははは!……今のその顔見れただけで、アポ無しで来た甲斐あったぜ」

 

 「な……おま……」

 

 口を半開きにして、ポカーンとしたキリトは普段の彼を知っている分何ともアホっぽくて……うん、笑わずにはいられない。

 

 「もう、クロトったら……ごめんねキリト、都合悪かった?」

 

 「あ、いや……今日は家でのんびりしてるだけだったから、大丈夫だよ…………コイツに笑われるとは思わなかったけどな」

 

 そう言って一瞥してくるキリトの事はとりあえずスルーする。…………何か無性にからかいたくなったんだ。だからオレは反省も後悔もしちゃいない。

 

 「キリト君、お客様?……ってサクラ達じゃない!?」

 

 「お邪魔しますアスナさん」

 

 「もう、連絡してくれればお茶菓子とか用意したのに……」

 

 若干拗ねた様子のアスナに軽く謝ってから、オレ達はキリトとアスナ、二人の新居に上げさせてもらった。リビングにはアスナのお陰か、センスよく家具が配置されており、ゆったりとできる広さを残したまま居心地のよさを際立たせていた。アルゲードの家では必要最低限の物しか置かなかったから、そっちとは偉い違いである。

 

 「……いい家だな」

 

 「そうだね」

 

 自然とそう言ってしまうほど、この家から温もりと安らぎを感じた。この家なら、ずっと無理して戦い続けてきた二人を休める事ができるだろう。

 

 「何も無いけど、ゆっくりしてってね」

 

 テーブルを挟んでキリトと向かい合うように座ったオレ達に、アスナはそう言って紅茶を淹れてくれた。程なく全員分の用意が済むと、彼女はキリトに寄り添うように隣へと座った。

 

 「それじゃ改めて……結婚おめでとう」

 

 「おめでとうございます」

 

 数日前にメッセージでは祝福の言葉を送っていたが、やはりこういった事は直接自分の口から伝えるべきだと思う。この二年間のキリトを知っているオレとしては、彼の幸福がただただ嬉しかった。いや、彼だけじゃない。その傍らにいるアスナだって、傷つき、涙を流しながらも進み続けてきたのだとサクラから聞いた。だから、休むことなく戦い続けてきた二人が漸く結ばれた事が、オレ達にとっては自分の事のように嬉しいんだ。

 

 「ふふっ、二人共ありがとう」

 

 「なんか……照れるな」

 

 メッセージに添付されていたスクリーンショットとほぼ同じ。アスナは満面の笑みを、キリトは照れくさそうな笑みを浮かべる。二人共本当に幸せそうで、見ているだけで心が温かくなる。

 

 「でもまさか……途中の過程をすっとばして結婚ってのには、ビックリしたんだぜ?」

 

 「あ、いや……それはだな…………」

 

 メッセージを見た時から抱いていた疑問を口にすると、キリトは妙に歯切れが悪くなった。赤くなっている事から恥ずかしがっているのは解るんだが……

 

 「キリトもキリトで、前からアスナさんに惚れてたんだよ。きっと」

 

 「ちょ、おい!?」

 

 ポロッと言ったサクラの言葉に、彼は目に見えて赤面して慌てだした。一方のアスナは気恥ずかしいのか、俯きがちに目を逸らしだす。だがサクラの言葉のお陰で、オレは記憶している今までのキリトについて振り返ってみる事を思いついた。

 

 「惚れてた……か、どうかってのはよく分かんねぇけど、お前結構昔からアスナの事見てたんだよな。圏内事件よりちょい前にデュエルした時に―――」

 

 「―――わああぁぁぁ!それ以上言うなぁぁぁ!!」

 

 普段からは想像もできない位な慌てっぷりを披露しつつ、彼は両手を振り回しながら大声を出して、オレの声を遮った。しかし、既にサクラが興味津々とばかりに目を輝かせており、アスナも恥ずかしそうにしているが、続きを期待しているのが丸わかりだった。

 

 ―――その結果、どの時期のキリトがアスナの事をどう考えていたのかについて、洗いざらい話す事になった。キリトにとって公開処刑同然の暴露大会が、ここに開催されたのだった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 途中からキリトは羞恥に耐え切れずふて寝し、歯止めをかける人がいなくなったため気づけば夕方になっていた。その事に驚きつつも、話し終えたオレはカップに残っていたお茶を飲み干す。

 

 「とりあえず、オレが見てきた中では今話した通りだ。コイツに自覚があったかどうかってのは分かんねぇけどさ……」

 

 「でも、アスナさんをずっと見てたって事は本当だったんだねぇ」

 

 「うぅ……はっきり言われると恥ずかしいよ……」

 

 そんなニヤけた顔で言っても全然恥ずかしそうに見えねーぞアスナ。……なんて声に出して言える筈も無く、ノーコメントで苦笑するしかなかった。

 

 「でも良かった……キリト君、こういう事全然話してくれなかったから」

 

 はにかむアスナから視線をずらすと、ふて寝からいつの間にか熟睡に切り替わっているキリトの姿があった。彼女の肩にもたれ掛かっている彼の表情は穏やかなもので、ふて寝しだした時にはへの字に曲がっていた口元も元通りになっている。

 

 「確かにキリトは、自分から話したがるヤツじゃないからなぁ……でも、全く何も言わないって事は無いだろ?」

 

 「そうですよ。流石にプロポーズはキリトがしたんですよね?」

 

 「うん……それは、そうだったけど…………」

 

 ―――結婚しよう

 

 ’好きだ’とか’愛してる’などの愛の言葉は一切無く、ただその一言と共に彼はプロポーズしたのだとアスナは語ってくれた。それだけキリトの中でアスナが大きな、掛け替えのない大切な存在になっていたのは解ったが、途中の過程をすっ飛ばして夫婦になった要因がほとんど彼にあったのだと理解するには幾何か時間がかかった。

 

 「……」

 

 無防備な寝顔を晒している相棒にそんな度胸があったとは……にわかには信じがたいが、アスナも嘘を言う理由なんか無いし本当の事なのだろう。

 

 (やっぱ、お前には敵わないな…………)

 

 似ているけれど、オレには無いものをちゃんと持っていて。それが羨ましいのか悔しいのか、よくわからなくなる。だが何故だろうか、彼に嫉妬してはいないとハッキリと言えるのは。

 

 「クロト」

 

 「サクラ?」

 

 不意に手を握られて思わずそちらを向くと、彼女が微笑んでいた。

 

 「クロトも、キリトにはないものをちゃんと持ってるよ」

 

 「そうね。キリト君もクロト君も……似てるけど、お互いに持っていないものをもっているから……対等な関係でいたんだと思うわ」

 

 「……そう、なのか……?」

 

 二人に肯定されても、中々実感が湧いてこない。彼とは対等でいたいとは思っているが、実際それができているのかどうかなんてよく分からないのだ。

 

 「もう……もっと自分に自信もってよ」

 

 「いいじゃないサクラ。その分貴女がクロト君の事を肯定してあげれば」

 

 「いや、だってさ……オレにできる事なんか、たかが知れてるし……」

 

 今までオレがしてきた事なんて、そんな大したもんじゃない。一番守りたいものがあって、それさえ守れれば良くて……それ以外は手が届かないからと諦めてきたのだから。

 

 「そうやって驕らない所も、そっくりだね」

 

 「そういうヤツほど、ゲームじゃロクな目に遭わないんだぜ。オレもコイツも、そんなアホらしいフラグは立てねぇっつの」

 

 「そうなの?」

 

 キョトンと首を傾げるサクラが可愛らしく、とりあえず軽く頭を撫でる。

 

 「そういや二人共……二年経っても、ゲーム関係のお約束に疎いのはそのままだったっけな」

 

 「仕方無いでしょう?私もサクラも、ゲームなんてコレが初めてなんだから」

 

 揃って拗ねる二人に苦笑しながら、オレは続ける。

 

 「ほら、クエストとかでNPCと話した時とか思いだしてみ?高飛車っつーか、こっちを見下した態度とったヤツとか、自分の方が上だって態度とったヤツとか……大抵ボスキャラにサクっとやられたり、すげぇ痛い目に遭って改心したりとかってパターンだっただろ?」

 

 「あー……」

 

 「今まで気にしなかったけど……うん、確かにその通りだね」

 

 「な?オレ達はそんな風にはなりたくなかったんだよ。てかそんな事したらマジで孤立して、ギブ&テイクの関係すら組んでくれなくなるからな」

 

 誰からも相手にされ無くなれば、それは即ち詰み。幾ら戦闘スキルに優れていても、職人プレイヤーの支援が無ければ装備を整える事はほぼ不可能だし、身の安全を確保するための情報を手に入れる事だってできなくなるのだから。

 

 「でも……だからって自分を卑下する事を当たり前にしないで。傍にいる人達にとって……それが一番辛いの」

 

 「ええ……キリト君みたいに、自分の事を蔑ろにするのはダメよ」

 

 「……わかった。気を付ける」

 

 過去に軽率な行動でサクラに要らぬ心配をさせてしまった事があるので、今の言葉は重く感じられた。これから先、不用意にサクラを傷つけないように改善しなければと思った時―――

 

 「……ぅ…………ぁ……」

 

 ―――キリトが目を開けた。だがまどろみの中にいるのか、完全に意識が覚醒している訳ではなさそうだった。ホントにコイツはよく寝るなぁ、なんて半ば呆れの混じった感想が浮かんだところで……

 

 「大丈夫だよ。私は、ここにいる……君の傍にいるよ」

 

 「う……ん…………」

 

 アスナがそっと、キリトの頬に触れる。それだけで安心したのか、彼は再び瞼を下ろした。

 

 「あの……今のは?」

 

 「ただ寝ぼけてた……ワケじゃなさそうに見えたぞ」

 

 オレ達が聞いてもアスナはすぐには答えず、暫くキリトの事を見つめていた。不意に頬に添えられていた手が動き―――

 

 「んっ……」

 

 彼の髪をかき分け、額の傷痕に口付けた。

 突然の事でオレもサクラもただ驚く事しかできなかった。

 

 「……本当はね」

 

 顔を伏せたアスナから発せられたのは、ひどく悲しげな声だった。

 

 「本当は……キリト君の心は癒えていないの。確かに笑顔を見せてくれるようにはなったし、私の事を頼ってくれるようになったわ…………でもキリト君は、今の状態……私との暮らしが、全部自分にとって都合のいい夢なんじゃないかって……疑ってしまうの」

 

 「そ、そんな……!」

 

 「キリト……」

 

 ずっと自分が望んでいたものが手に入っても、それを素直に信じる事ができない。もし全て自分が作り出した幻想だったなら…………そんな不安に苛まれる程、彼の傷は大きくて深いのだと改めて思い知らされた。

 

 「昨日お昼寝してた時だって…………サチさん達の事でうなされて、泣いてた」

 

 「え……?」

 

 泣いていた?思わずキリトを見ると、僅かにだが、目尻に涙が浮かんでいた。

 この二年間で彼の涙を見たのはたった一度だけ。エギルの店の二階で初めて傷痕を晒したあの日だけだった。それ以外でキリトが泣いている姿を見る事はおろか、聞いたことすらなかった。

 

 ―――オレはずっと……何があっても泣かないでいられる程、キリトは心の強い奴なのだと思っていた。だがそれは彼が兄として、一人の剣士としての仮面の下に弱さを隠していただけに過ぎなかったのだ。

 

 「泣く事すら……できなかったのか……?」

 

 「うん……泣いちゃダメだって、ずっと自分に言い聞かせていたみたい。本当のキリト君は、優しくて強いけど……寂しがり屋で泣き虫で、甘えん坊なんだって思うの」

 

 他人に迷惑をかけまいと、誰かの前では強がって平気だと言い切る。もう完全にオレとキリトの共通の悪癖なのだろう。だからこそ誰にも本音を、弱音を吐く事ができなくなり、内側……心が先に壊れてしまう。

 この世界で二年間強がり続けたオレだってボロが出ているのだ。リアルにいた頃から……オレよりも幼い時からそうだったキリトは、いったいどれほどの年月を耐え続けてきたのだろうか?

 

 「だから私ね、現実世界に帰ったら……絶対にキリト君ともう一度会って、傍で支え続けるんだって決めたの。勿論、ここでもそうだけどね」

 

 強い意志を宿した彼女の瞳は、眩しい位に輝いていた。

 

 「強いな……お前」

 

 「アスナさん、カッコいいです」

 

 彼女がキリトに抱く想いはきっと、何があっても変わらないだろう。そう思える程今のアスナは頼もしくて、男前だった。

 

 「ちょ、ちょっと二人して何言ってるのよ……もう」

 

 「いや、だって……本当の事ですし」

 

 「あぁ……オレにできたのは、キリトの命を守る事だけ。心を救う事はできなかった……」

 

 ここまでが、オレの役目だったのだろう。キリトを深く愛し、支える人が現れるまで……彼が死ぬ事が無いように守るのが。

 

 「ふふっ、クロトったら……まだ終わりじゃないんだよ?」

 

 「どういう事だ?」

 

 「これからは、わたし達で二人の幸せを守ろう。それがわたし達を繋いでくれた恩返しにもなると思うから」

 

 あぁ……そうか。まだあった。相棒の為に、オレができる事が。キリトは一人で背負いこみ過ぎるから、皆で守っていく必要があるのだ。

 

 「そう、だったな……ありがとう、サクラ」

 

 「どういたしまして」

 

 柔らかく微笑むサクラに背中を押され、オレはアスナへと向き直る。

 

 「アスナ。お前はキリトを守る事に専念して―――」

 

 「―――嫌よ」

 

 出鼻をくじかれた。

 

 「四人で。四人でお互いのカップルを守り合いましょう。一方的に守られるだけの立場に甘んじる事を良しとしないのは、私達四人の共通点なんだから」

 

 「ああ、そうだな」

 

 アスナの言う事は的を射ていて、オレは一も二もなく頷いた。四人いれば、きっと全員生き残る事ができると信じて。




 原作に無いトコって難しい……

 よくアスナはヤンデレとか言われますけど……キリトの愛も彼女と同じくらい重いんですから、彼の方にもヤンデレ要素があるのでは?と原作読んでて時々思います。(アスナの方が行動起こしてるのが多いですけど……)
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