SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 前回から早くも一カ月……最近気づいたら結構時間が経ってしまっている事がよくあります。

 今回は短めです。


六十三話 依頼

 クロト サイド

 

 「ミナ、パンとって!」

 

 「ほら、よそ見してると零すよ」

 

 「あー!ジンが目玉焼き取ったー!」

 

 「代わりに人参やったろー!」

 

 眼前で繰り広げられる、子供達による戦場さながらの朝食風景。今まで見た事の無いこの状況に、オレ達は呆然としていた。

 

 「なんつーか……」

 

 「あぁ……すごいな……」

 

 思わず零れた呟きも、瞬く間に子供達の声にかき消されていく。

 

 「ジン、目玉焼きは返す!好き嫌いしないで人参も食べる!!」

 

 「はぁ?何でぽっと出のお前に―――いだだだだ!わかった、わかったからアイアンクローは止めてくれ!!」

 

 昨日軍の大人共を蹴散らしたハルは子供達からすればヒーローに見えたらしく、あっという間に打ち解けていた。……というより学級委員みたいになっている。それでも他の子供達に受け入れられているのは、偏にハルの人柄の良さだろう。彼自身、これだけ大勢の同年代といるのはSAOでは初めてだし、その分幾らか活発になっている気がしなくもないが。

 

 「ったく……こっちじゃ栄養とか関係ないじゃん……」

 

 「そ・れ・で・も!」

 

 「そーそー。好き嫌いとかカッコ悪いよね~?」

 

 「うんうん!ハルってしっかりしててジンよりカッコいいかも」

 

 「うぐっ!?ミナ、覚えとけよー!」

 

 ジンと呼ばれた少年はそう言うと、一心不乱に自分の皿の朝食をかき込む。こちらから見れば軽い口喧嘩に見えなくもないが、特に険悪な空気になってはおらず、放置してもよさそうだった。

 

 「……いっつもこうなんですよ。何度静かに言っても聞いてくれなくて」

 

 「でも、とっても楽しそうです」

 

 サーシャさんは微笑みながら頷くと、再び子供達を眺める。彼等を見守る彼女の目は心の底から愛おしげに細められており、優しさに溢れていた。

 

 「子供、好きなんですね」

 

 「はい。現実世界(むこう)では大学で、教職課程取ってたんです。ほら、学級崩壊とか長い事問題になってたじゃないですか。それを何とかするんだ、私が子供達を導くんだーって、燃えていたんですよ」

 

 恥ずかしげに頬を染めながらも、サーシャさんは笑みを絶やさず教えてくれた。

 

 「でもここへ来て、あの子達と出会って、一緒に暮らし始めたら、何もかもが見るも聞くも大違いでして……頼られるどころか、私の方があの子達に頼って、支えられてる部分の方が大きいと思います。でも、それでいいっていうか……それが自然な事なんだって思えるんです」

 

 誇らしげに語る彼女はとても眩しくて、子供達に好かれているのも納得できた。

 

 「なんとなくですけど、解る気がします」

 

 ユイの頭を撫でながら、アスナも微笑む。

 

 「この子がくれる温もりには、私達もビックリしてるんです」

 

 「えへへ……」

 

 嬉しそうに表情を崩すユイは、くすぐったそうにしながらもねだるようにアスナへと身を寄せる。母親に甘える子供と何ら遜色のない彼女の様子にホッとしながらも、同時に蘇ってきた昨日の記憶に疑問を抑える事ができなかった。

 

 ―――昨日軍の大人達がハルに完膚なきまで叩きのめされ、みっともなく尻尾巻いて逃げ去った後。それまでキリトの背で眠っていたユイが、子供達の笑顔に反応したのかいつの間にか起きており、徐に空へと手を伸ばしたのだ。それがきっかけだったのかはよく解らないが、ユイの記憶が戻りかけた……らしい。何故なら、その直後に彼女は悲鳴をあげて意識を失ってしまったからだ。SAOに来て初めてともいえるノイズじみた悲鳴をあげ、アバターが崩壊するのではと思える程に激しく振動するユイはどう見ても普通ではなかった。

 幸い彼女の意識はほんの数分で戻ったが、それでもアスナは長距離の移動や転移ゲートを使用する気にはなれなかったし、サーシャさんの熱心な誘いもあってオレ達はこの教会の空き部屋にお邪魔させてもらったのだ。その時ユイについて聞いてみたのだが……残念な事に、サーシャさんは彼女の事を知らなかった。もし’始まりの街’に彼女がいたのならば、ずっと見回りを続けていたのだから見逃す筈が無い、とも。つまりユイが’始まりの街’で生活していた可能性はほとんど無く、悲鳴をあげる直前にアスナが聞いた言葉からすると保護者と一緒にいた事すら無いらしい。

 

 「―――サーシャさん、軍はいつからあんな犯罪者まがいな下衆な集団になったんです?俺の知る限りじゃ、あいつらは専横が過ぎる事があっても治安維持には熱心だった筈でした」

 

 キリトの問い掛けに、サーシャさんは口許を引き締めて答えてくれた。

 

 「方針が変更された感じがしたのは……半年ほど前ですね。徴税と称して恐喝紛いの事を始める人達もいれば、逆にそれを取り締まる人達も出てきて……軍のメンバー同士で対立している所だって何度も見ました。噂では、上の方で権力争いか何かがあったみたいです」

 

 「権力争いねぇ……組織がデカくなりゃ、一枚岩じゃなくなるのは当然だろうし、腐敗や綻びが出てくるのはまだ理解できるが……」

 

 「昨日みたいな事が日常的に行われているんだったら、放置はできないよな……アスナ、サクラ。奴はこの状況を知っているのか?」

 

 キリトが嫌そうに奴、と呼ぶのは今の所一人しかいない。それが分かっている二人は、苦笑を噛み殺しながら口を開いた。

 

 「うん……知ってると思うわ。団長、軍の動向に詳しいから」

 

 「でも、攻略に関係無い事にはとことん興味が無いっていうか……元々攻略第一のギルドだからってのもあると思うけど、他の事は全部わたし達に丸投げだったもん……」

 

 「おいおい……仮にも大人だろ、せめてアドバイスとか何かしなかったのかよ……」

 

 「よせよクロト。奴のそういう所は俺達だってよく知ってるだろ?」

 

 キリトの指摘に何ら反論できず、オレは口を閉ざすしかなかった。たった数人でできる事などたかが知れているし、人を集めようにも攻略組からの助力は見込めそうに無いとなると、今のオレの頭では何の対策も浮かんでこない。

 

 「カァ!」

 

 「一人、誰か来るな……」

 

 ヤタが教会に近づくプレイヤーの存在を知らせるのと同時に、キリトもアスナ達にその事を伝える。とは言えドア越しに近づいてくるグリーンのカーソル一つ以外の事は一切分からない為、オレ達にできるのは最低限の警戒をする事だけだった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 「―――あのキバオウがねぇ……そこまで歪んじまったか」

 

 「……そうだね。昔を知っている分、ショックかな」

 

 訪ねてきたのは銀髪長身の女性、ユリエールという軍所属のプレイヤーだった。彼女が言うには、今の軍はギルマスのシンカーとサブのキバオウ二つの派閥に割れており、争っているらしい。先日のコーバッツ達はキバオウ一派で、その悲惨な結果からキバオウを追い出す一歩手前まで追い詰める事ができたそうだ。……だがそこでキバオウはシンカーを嵌めるという博打にでてきた。

 何でも、「丸腰で話し合おう」という言葉で彼を誘い出し、ダンジョンの奥深くに置き去りにしたとか。キバオウがやったのはMPKと何ら変わりのない非道な行為だが、相手の言葉を鵜呑みにして、無警戒にも自分から罠に掛かったシンカーの善良過ぎる人格に呆れ半分、感心半分というのがオレの感想だ。……騙される側が悪いとは言わないが、転移結晶をストレージに忍ばせておく等、身の安全を確保するための備えを怠ったのは、この世界では致命的だと言わざるを得ない。まぁ、こんな事を思ってしまう時点で、他人を疑うのが当たり前となったこの世界にオレは相当毒されているのだろうが。

 

 「とにかく今は、シンカーさんを助け出しましょう。もう三日も経ってるんだし、安全地帯にいるのは確実だと思うけど……精神的に大分参ってるんじゃないかな」

 

 ユリエールさんの依頼は、シンカーの救出。これ自体がオレ達を嵌める罠かもしれなかったが、オレ達は話を聞いたその場で請け負った。普通なら取れるだけの裏を取ってから受けるかどうかを決めるのだが……

 

 ―――この人、うそついてないよ

 

 屈託の無い笑顔でユイが放ったその一言が、オレ達―――特にキリトとアスナ―――の心を動かした。昨日から見ていて思ったが、ユイは周囲の心の機微に敏感だ。そんな彼女が言うのだから、きっとユリエールさんの話は嘘ではない……そう思わせるだけの何かを感じさせたのだ。

 一応装備とアイテムは普段通り持ってきていたのもあり、オレ達はユリエールさんの案内のもと件のダンジョンへと向かう事にした。

 

 「疑って後悔するより、信じて後悔しよう……か」

 

 「まさか兄さんが……笑ってそう言える日が来るなんて、僕……」

 

 「おいおい……最近のお前涙脆いぜ?」

 

 ユリエールさんにダンジョンの詳細をアスナと共に聞くキリトを見つめて、ハルは涙ぐむ。今のキリトは後ろにいるオレ達に気付いていないが、何かの拍子に振り返りでもしたら大変だ。急に湿っぽくなったハルを元気づけようと、オレは彼の頭をわしゃわしゃと掻きまわした。

 

 「…………やっぱりヘタクソです、クロトさん」

 

 「うるせーぞ、ブラコン」

 

 「ヘタレに言われたくないです」

 

 クッソ~。人が折角世話焼いてるってのに、このマセガキは……

 

 「……とにかく、アイツが前向きになってるってのはいい事じゃねぇか」

 

 「それが何より嬉しいから泣いちゃうんです~」

 

 頬を膨らませてそっぽを向いたハルは、それっきり口を閉ざす。普段は辟易するブラコンっぷりだが、今はそれが何処か憎めず苦笑するだけに留まる。なんだかんだ言っても、コイツはこういう時が一番子供っぽい……いや、年相応で好ましく見えるのだ。忘れがちだが、ハルはログイン当時僅か十二歳の子供であり、二年経った今やっとこの世界に降り立ったばかりのオレと同じくらいになった。本当はもっと我儘を言いたかった筈だし、家族にたっぷり甘えたかった筈だ。

 

 (コイツだってキリトと同じくらい、無理してんだよな……)

 

 今は、そっと感傷に浸らせておこう。どんな時でも兄に迷惑をかけまいと自分をコントロールできるのだから、キリトの目が届かない時くらいは好きにさせてやるのが一番いいのかもしれない。

 

 「―――クロト~、行くよ?」

 

 「おう、今行く!んじゃハル、留守番よろしくな」

 

 「……はい!兄さんの事、お願いします」

 

 ハルに向けて親指を立てた手を突き出して了承の意を示したオレは、数日ぶりに戦闘用の装備に身を包みサクラ達の許へと歩く。

 

 「それで?ダンジョンはドコにあるんだ?」

 

 「黒鉄宮の地下。六十層レベルだって」

 

 「は?んなモン、ベータ時代にゃ見た事も聞いた事も無かったぞ……」

 

 「ふふっ……キリトと同じ反応だよ?やっぱり二人って似てるね」

 

 「ま、だから二年間つるんでいられたと思うけどな」

 

 できる事なら、キリトにとって一番の友達……親友になりたいと願っている。ずっと彼の心の壁の前に座り込んで待ち続けていたからか、アスナによって心を開き始めたキリトの反応が真新しくて、眩しくて…………掛け替えの無いものに見えるのだ。

 難易度が六十層レベルなら、オレ達が遅れを取る事はまず無い筈……この時は、そう思っていた。




 ユイのお話……結構端折ってしまっています。あとプログレッシブ読んでから思うんですが、この時のキバオウ……一体何がどうなってこうなったんでしょうね……?

 五層でキリトをボコってギルドフラッグ奪おうって言いだした仲間に「ドアホ!」って一喝してた男気はドコいった……


 後、新しく評価してくださった方々、本当にありがとうございます!
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