皆さんは夏バテ大丈夫ですか?食中毒とあわせて気をつけてください。特に手洗い・うがいはバカになりませんよー。
あと執筆してると肘とか膝裏にすぐ汗かいて痒くなります……
大和 サイド
サクラ達を仮想世界から解放した翌日、オレとキリト―――和人は面会開始時間より僅かに早く病院に集合した。報道スタッフはまだ何組か残っているが、目覚めた三百人の親族への取材に意識が向いていた為、一見ただのガキにしか見えないオレ達はスルーだった。尤も、向こうのターゲットになりやすい大人達を挟むように立ちまわったのも理由の一つではあっただろうが。
「―――結城さんの親族の子ね?隣の彼は、お友達かしら?」
「ええ、まぁ」
今まで頻繁に通っていたのが功を奏した、とでもいうべきなのだろうか……今はツッコんだらよくない誤解を和人が受けており、ゲスト用のパスカードが昨日と同様にすんなりと手に入った。そこからは昨日通ったばかりの道順で、大切な人がいる筈の病室の前へと立つ。
―――天野 桜様
ドアの横にあるネームプレートに記された名前を確認し、カードをスリットに通す。和人は既に明日奈の病室に向かった為、ここから先はオレ一人だ。
滑らかにスライドしたドアをくぐり、病室へと踏み込む。供えられた花の仄かな甘い香りが鼻孔をくすぐり、昨日同様に引かれたカーテンに手をかける。
―――もしも彼女の意識が戻っていなかったら……?
一抹の不安を抱くが、それを振り払うように一息にカーテンを開く。
「っ……」
窓から差し込む光に照らされた室内の眩しさに、僅かな時間目を逸らす。二度、三度と瞬きを繰り返して眩しさに目を慣らし、もう一度ベッドの方を見た。
「あぁ……」
記憶に焼き付いたものよりもやせ細り、儚い姿ではあったけれど。上体を起こし、静かに窓の外を見つめる少女は、まごう事無き最愛の人。その姿を目にした瞬間、今まで抱えていた不安は霧散し、この上ない歓喜が沸き上がる。
「桜……」
万感の思いで、絞り出すように彼女の名を口にする。その声が届いたのか、彼女の顔がゆっくりとこちらへ向けられた。
「クロ、ト……」
花が咲くように、白い頬に淡い朱が差す。真っ直ぐに向けられた瞳は瞬く間に涙を湛え、宝石のように煌きだす。内側から熱いものがこみ上げるのを感じながら、オレはそっと桜へと歩み寄る。
「やっと……やっと会えた……!」
「うん……!」
どちらともなく伸ばされた手が触れると、一瞬の冷たさの後に確かな温もりが感じられた。けれど同時に今の彼女があまりにも華奢である事も伝わり、触れ合う手に力が籠らぬよう細心の注意を払う。
「あぁ……夢みたい……こうして……会えた、のが……!」
「夢なもんか……!オレも……桜も……ちゃんと、生きて……!」
それ以上は言葉が出なかった。互いの双眸からは熱い雫がとめどなく溢れ、何度目を瞬かせても視界が滲んでいく。
抑えが効かなかった。桜がただただ愛おしくて、少しでも力を籠めれば折れてしまいそうな体をそっと抱きしめる。
「これからは……ずっと一緒に……!オレの、傍に……ずっと……!」
「もちろんだよ、クロト……ううん、大和……!」
細枝のような彼女の両手が回される。最愛の人の温もりに包まれて……オレ達はいつまでも、抱き合っていた。
~~~~~~~~~~
それから四カ月の月日が流れた。オレ達はSAO帰還者の為の臨時支援学校に入学し、約二年半ぶりの学校生活というものを送っていた。とはいえ黒板はELパネルに、ノートはタブレットPCに置き換わっており、遠い記憶と化している中学までの学校生活とは大分様変わりしているのだが。
まぁぶっちゃけた話、SAOにいた頃から鉛筆だの消しゴムだの握る事すらなかったので、学校に通う生徒達の殆どが文字を書こうとしても板書なんてロクにできない程ゆっくりだったり、小学生よりも雑な文字しか書けなかったりと悲惨な状態だけどな。仮想世界じゃメッセージ書いたりメモを取ったりするにしたって、テキスト用のファイルを開いてホロキーボードでタイピングするのが普通だから、仕方なかったんだよ。
「―――課題は……うげぇ。面倒くさそうなヤツよこすなぁ、あの先生」
昼休み中、多くの生徒達で賑わうカフェテリアの窓際の席にて。オレは午前中の授業で出された課題に目を通して辟易した。長ったらしい問題文というのは、いつ見てもやる気をゴッソリと削いでいく物だ。昼飯を食べ終えた満足感が無ければ、机に突っ伏していまう所だった。
「まぁまぁ、そう言わずに頑張ろ?」
「へーい……」
隣に座る桜にそう励まされ、この土日のどっかで片付けるかとぼんやり考える。
「後回しにして、日曜日の夜中にやるとかダメだからね?」
「大丈夫だって」
レベリングや各種アイテム調達にかかる時間を考慮してスケジュール管理していなければ、いつまでも攻略組でもトップレベルを維持するなんて事できなかったんだし。こっちでも課題に掛かる時間を想定して休日の予定を大まかに決める事は普通にできる。心配してくれる彼女に感謝しながらもその肩を軽く叩いて宥めると、以前より肉が付いたのか幾分柔らかな感触がした。
「体の方、順調そうだな」
「え、そうかな?病院の先生にはもっと食べるように、って明日奈さんとそろって言われてるままなんだよね……」
「そこはオレ達も一緒さ。まーだ元の体重よりも少ねぇし」
「コラそこぉ、イチャつくなー」
向かいの席から届いたその声の主に顔を向けると、ジュースの紙パックを握り潰した少女がジト目を向けていた。生来の色に戻った目と髪の所為か
「……和人達覗いていたんじゃなかったんスか、
「
呆れた表情で手にした紙パックをゴミ箱へ放り込む。オレですら’年頃の女子としてはどうなのか?’と首を傾げたくなる行動をとった彼女の名は、
「リズ……里香さん、もうちょっとお淑やかにしましょうよ」
「別にいいじゃない。コイツはサクラ一筋だし、シリカ達にはわざわざ取り繕う必要なんか無いんだし」
「……キリトさんに女の子として見られなくなりますよ?」
「ごはぁっ!?」
里香に乙女らしからぬ悲鳴を上げさせたのは、彼女の隣に座っていた小柄な少女。赤いリボンで縛ったツインテールが特徴的な彼女の名は
「珪子ってさ、そうやって時々遠慮が無いっていうか……容赦ないというか……的確に心抉る一言をサラッと言う辺り、黒い一面あるよね」
「く、黒い!?酷いよハル君!!」
黒い一面があると言われ、たちまち涙目になった珪子。彼女にそんな言葉を告げたのは、対面に座る少年。その名を
「ごめんごめん、ちょっと言い過ぎた」
「むぅ~……」
謝る仕草がどことなく和人に似ており、文句を言えなくなった珪子は、残りの昼食を口に詰め込みはじめる。
「アンタねぇ……そういうところは兄貴に似なくてもよかったんじゃないの?」
「そうですね。成長が早いっていうか……背、クロトと同じくらいになったんだっけ?」
「……見ねえ間に声変わりまでしやがって……入学式で会った時はマジでキリトが二人に増殖したかと……」
「その話何度目ですか?兄さんは僕より背が伸びているんですから、それで見分けつくじゃないですか」
ふてくされた様にそっぽを向くのだって、
「身長っていえば……クロトさん、
「喧嘩売ってんなら買うぞ珪子。オレだって気にしてんだぞ」
「こーら、シリカちゃんにまでキレないの。わたしは……背が同じくらいな方が好きだよ」
桜に宥められるように頭を撫でられると、さっきまでの苛立ちが嘘のように消え失せ、安らかな気持ちになる。人前である事に羞恥は感じるが、彼女の手を払おうという気は全く起きない。
「こぉおおらあぁぁー、イチャつくなって言ったばっかでしょうがぁぁ……!」
珪子の言葉によって机に突っ伏していた里香が、地獄の怨嗟のような不気味さを纏った声を上げる。そういう所が女子っぽくないんだぞ、と思いつつもぼんやり窓の外を眺めると、気持ちの良い青空が広がっている。
(もう命懸けで戦わなくていいんだよな、和人も、オレも……皆……)
得物を携える必要がない事に対する違和感は拭えないままだけれど。それは今の日々が、あの二年間ずっと渇望していた平穏そのものである証拠だと思う。きっとアイツも同じ気持ちだろうな、と晴天の下で
―――ああ、そういえば言い忘れていたが、あのゲス野郎―――須郷信之とかいう男はアッサリ逮捕された。茅場が言った通り、桜達が解放された夜……オレや和人が真っ先に飛んでくると睨んだヤツは、報復するべく彼女達が入院していた病院にやってきていた。その手にナイフを握って。しかしながらそこには既にマスコミが詰めかけており、病院に入ろうとしたところを詰め寄られ質問攻め。既にマトモな思考ができていなかったヤツはナイフを振り回して暴れだし、傷害罪の現行犯逮捕と相成った。ちなみに被害に遭ったマスコミの人達は全員軽傷で、死者がゼロだったのは不幸中の幸いと言える。
そこからALOを隠れ蓑に行っていた悪行が露見し、最近になって公判が始まった所だ。……まぁ、無罪なんてあり得ないし、あんなヤツがどうなろうと知ったこっちゃねぇけど。
「―――ごめーん、遅れた」
「あ、琴音さん。こっちです」
新たに加わった朗らかな声。晴人が声の主を呼び寄せ、そちらへと目を向けると、トレイを手にした少女が視界に映った。SAOでは見慣れたものだったが、現実世界ではよく目立つ橙色を帯びた髪や碧眼が特徴的な彼女の名は竹宮琴音―――彼の城での名はフィリア。明日奈や里香と同学年だが、敬語に関しては里香と同様の事を言われた。本人曰く、三月生まれなので年はオレや和人と変わらないから、だそうだ。
「明日奈さんの付き添い、お疲れ様です」
「いいのいいの。気にしないで」
晴人に微笑みながらそう告げると、彼女は珪子とは反対側になる里香の隣……桜の向かいの席に腰かける。手早く食べられるようにか、机に置かれたトレイに乗っていたのはサンドイッチがメインの献立だった。
「フィリアさん、それで足りるんですか?」
「ん、まぁ大丈夫。持たなかったらその時また食べればいいし」
「その考えは治した方がいいですって、向こうにいた頃から僕言いましたよね?」
「……ギクっ」
心配した珪子に向けていた笑みが、晴人の言葉で引きつった。元々彼女はソロでダンジョンに籠るトレジャーハンターだったし、食事も空腹になったら食べる、程度の考えで大分不規則になっていた。以前ダンジョン攻略を手伝った時はそのズボラな所に幾らか驚いたもんだ。
「琴音、今回はコレも食っとけよ」
「あ、ありがと……」
制服のポケットに入れていた、携帯食料として有名な某バークッキーを彼女のトレイの隅に置くと、周囲の目が刺すようなものに変わるのが感じられた……何故?
「アンタ、その癖直ってないのね……キリトが心配してたわよ」
「最低限腹が膨れればとりあえず何でもいい……兄さんが言ってた大和さんの悪癖ってコレの事だったんですね」
「……うん、決めた。わたしもお弁当、作ろうっと」
「サクラさん、頑張ってください」
呆れる里香と晴人、弁当を作ると決心した桜、応援する珪子。桜が弁当を作ってくれるのは嬉しいが……素直に喜べる空気じゃないのは一体どういう訳だ?
「何だよ皆して。オレが悪いのか?」
「悪いです。その粗食癖を治してください」
「即答かよ。つか何だよ粗食癖って。腹は膨れるし、栄養価だって充分だろソレ。向こうの携帯食料替わりに持ち歩いてたっていいじゃねえか」
「その考えを治せってハルは言ってんでしょーが」
里香に額を小突かれ、オレは唸る。食に関しては当たりハズレの大きかったSAOでは、比較的マシな味と手ごろな値段で販売していたんだぞ。特にあっちじゃ栄養価とか関係なかったし。とはいえそんな事を言えば晴人達からさらに説教されそうなのは目に見えていたので我慢するしかない。
「と、とにかくさ!皆行くでしょ?今日のオフ会!」
話題転換とばかりに声を上げた琴音の問い掛けに、全員が頷く。それに関してはここにいる誰もが同じ思いだ。
「姉さんも参加しますので、仲良くしてくれると嬉しいです」
「ホントに来れるの?楽しみだなぁ……」
「あー。リーファと仲いいもんね、シリカは。それはそうとクロト、キリト達の誘導ミスったら承知しないわよ?」
「わーってる。晴人だっているんだ、そうそうヘマはしねぇって」
「ならよし」
念押ししてくる里香にそう返し、席を立つ。仲間の談笑を背に聞きながら窓辺へと歩き、中庭を覗き込む。
(あぁ……やっぱりな)
そこには案の定、互いに身を寄せ合う男女の姿があった。暖かく穏やかな日差しに照らされた彼等にはもう’黒の剣士’、’閃光’等と呼ばれた頃の険しさは無く、普通の少年少女でしかない。
―――願わくば、二度と命懸けの闘いが起こりませんように……
空を見上げ、今の幸福を噛み締めながら、そう祈った。
フェアリィ・ダンス編はこれで完結です。(オフ会とかALO内の辺りはどうしたって原作と殆ど変わらなかったので……)
ファントム・バレット編を考えると5・6巻読み直さないとなぁ……あとGGO内のシステムについて掘り下げてあるオルタナティブもかな……?