放課後、植物園にエース達は集合する。大きな建物で中は広くて色とりどりの植物や
薬草・毒草だけでなく、フルーツが実る植物も沢山植えられている。初めて見たエース達は圧倒された。手で拾うのは危ないので大きなカゴとトングを持って、エースとデュース、美月とグリムは二手に分かれて栗集めを始める。
グリム「なあなあ、コッチ来てみろよ。なんかフルーツがたくさんなってる!良い匂い
なんだゾ~!」
「グリム、勝手に取るのはだめ。栗を集めないと、出来立てのタルト食べられないよ。」
「うぅ……分かったんだゾ。」グリムは悔しそうに呟いてトングを持ち、美月は杖を使って軽く
振いながら栗は浮かんでカゴの中に入れる。
しばらく作業をしていると「さっきから、うるせぇな。」草むらの奥の方から気怠げで低い声がして、長身にチョコレートブラウンの髪色、左右の横髪は三つ編みにしており、サマーグリーンの
切れ長の目を持ち獅子みたいな耳を生えている青年、サバナクロー寮寮長3年、レオナ・キングスカラーが突如現れた。
「(黄色のベストにライオンの紋章…。サバナクローの人だ。確か獣人族がいるとトレイさんが言っていたね…。)」
レオナ「こちとら気分よく昼寝してたとこだってのに…。最悪だ。」
「……お昼寝していたのですね。煩くして申し訳ありません。」
栗集めに集中していて近くに人が寝ていたとは思っていなかった事に驚く。謝罪すると、レオナは気怠そうにしながら美月達に近づいてくる。
レオナ「お前……あァ、クロウリーが言ってた東洋の草食動物と奇妙な狸か…。 ふぅん……。」
獣人族にはライオン、ハイエナ、狼などがいて、運動能力や五感(聴覚や嗅覚など)は特に優れている。ライオンの獣人であるレオナは美月の目の前に立つと、目を細めながら上から下へと視線を動かして匂いを嗅いできた。彼の圧倒的なオーラに美月は思わず息を呑み、グリムはびくびくして背後に隠れる。
レオナ「……はっ。本当にちっとも魔力の匂いがしねぇ……が、草木の匂いはするな……。お前、本当に東洋から来たのか?」
「そ、そうですけど……。(私、変な匂いとかついているのかな……。)」
美月は不安そうに答えた。レオナが所属するサバナクロー寮はいつも汗と獣、男臭い匂いで満ちているが、東洋から来たという彼女には魔力の感じがしないのは疑問だが、不思議と変わった匂いがして「(悪い気はしない。)」彼はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
そこに「レオナさーん!」サバナクロー寮、小柄でビスケットブラウンの髪色、大きい耳と短めの尻尾を持つハイエナの獣人、ラギー・ブッチが歩み寄ってくる。
ラギー「やっぱりココにいた。今日は補習の日ッスよ。もー、ただでさえダブってんスから。
これ以上留年したら、来年はオレと同級生ッスよ!」
レオナ「あー、うるせえな。キャンキャン言うんじゃねぇよ、ラギー。」
「オレだって言いたかないッス! ほら、行くッスよ!」ラギーは焦りながら言っており、
レオナを植物園から無理やり連れ出した。2人が立ち去った瞬間、美月とグリムは緊張が
ほどけて、再び栗集めを始めた。
栗はたくさん集まり、エース、デュースと厨房に集合して、トレイと共にマロンタルト
作りを始める。エースとデュースは栗の皮を剥くのに慣れない包丁を使って苦戦したり、グリムは栗を煮詰めるのにひたすら混ぜて「疲れたんだゾ。」とため息をついている。
トレイ「ミツキは手際が良いな。普段、料理はしてるのか?」
「ありがとうございます。私の母親が料理教室の先生をしていて、実家にいる時はご飯づくりをよく手伝っています。「マホウトコロ」でも、時間があった時には厨房を借りて簡単なものを作っていまして、作りすぎて仲の良い友人におすそ分けしたりしてます。たまに失敗したりしますけどね(;^_^」
トレイ「そうなのか。良い母親だな。確か、君が通っている学校には和菓子と和食があると聞いたのだが。」
「そうです。よくご存知ですね。」美月は微笑みながら返事をする。トレイの実家は小さなケーキ屋を営んでいて彼自身お菓子作りが好きとのことで、2人は故郷の料理話に盛り上がる。
マロンタルトは完成した。『なんでもない日のパーティ』のためにたくさん作ったのは大変だったが、エースとデュースとグリムは疲れ切っており、美月は久しぶりに料理が出来て嬉しさとタルトは初めて作ったので勉強になった。
そこに、ケイトがひょっこり現れてタルトをスマホで写真撮影しており、「ケイト先輩、完成見計らって食いにきたんでしょ!?」エースは文句を言う。そのうち、1ホールをトレイが人数分に切り分けて皿に乗せる。
トレイ「出来たてマロンタルトを召し上がれ。」
「いただきまーす。」皆で声を揃えてタルトを口に運んだ。サクサクしたタルト生地、しっとりとした濃厚なマロンクリームは美味しくて皆喜んでいる。トレイは美味しそうに食べている皆を見て微笑んでおり、小さい頃のリドルがタルトを食べて笑顔になっている姿を思い出していた。
ケイト「そうだ。トレイくん。あれ、やってよ!」
トレイ「アレ? …ああ、アレか。お前ら、好きな食べ物はなんだ?」
エース「オレは、チェリーパイとハンバーガー。」
グリム「オレ様はツナ缶なんだゾ。あとは、チーズオムレツと焼いた肉とプリンと~」
デュース「強いて言えばオムライス、ですかね。」
ケイト「オレはラム肉のグリル・ディアボロソースかけ。」
「私は……、いちご大福です。」美月が答えるとトレイは少し困った顔をする。こちらの世界では、和菓子と和食の存在は知っているが食べたことがないとのことで生チョコに変更した。
トレイ「分かった。それじゃあ、行くぞ! 白を赤に、赤を白に・薔薇を塗ろう(ドゥードゥル・
スート)」
マジカルペンを振ると、タルト自体は何も変わらないがもう一度口に運ぶと味と匂いが変わっていて美月とエースらは驚いており、感動している。
ケイト「これがトレイ君のユニーク魔法。女の子とお茶する時に鉄板でウケると思わない?」
デュース「スゴいですね。味を変える魔法がクローバー先輩のユニーク魔法なんですか?」
トレイ「正確には、『要素を上書きする魔法』だな。味だけじゃなく、色や匂いなんかも上書きできる。効力は短時間しか持たないから落書き、ドゥードゥルみたいなものだ。俺はこの魔法をそう呼んでいる。」
グリム「ツナ缶食べ放題も夢じゃねぇってことかぁ。意地悪なリドルの魔法なんかより全然スゴイんだゾ!」
「グリム、失礼なこと言わないの。(ツナ缶、控えた方が良いかもね……。)」
トレイはグリムの発言に苦笑いしていたがどこか浮かない表情をしており「(リドルさんのこと、気にかけているのかな……。)」美月は静かに感じていた
明日は『なんでもない日のパーティ』が開催される。エースはまだ自分の寮に戻りたくなのでしばらくオンボロ寮にいるとのこと、デュースはお目付け役として一緒に泊まることになる。初めて参加する行事にはとても緊張するが、トレイとケイトと別れてオンボロ寮に戻った。
翌日、ケイトの案内で美月達はハーツラビュル寮にあるパーティ会場にやって来た。白いテーブルクロスの上に料理とデザート、ティーポットなどが並べていて、さらには赤いバラが飾っている。周囲の庭園にはハートの形をしたバラの木が植えており豪華絢爛な会場にエース達は驚いている。ちなみに、寮生達は赤・黒・白を基調としており袖は左右非対称でトランプやハートなどの飾りを付けていてお洒落な服装を着ている。
グリム「その服、かっけーんだゾ!」
ケイト「ふふーん。かっこいいっしょ、ハーツラビュルの寮服! 流行も押さえつつ、マジカメ映えもバッチリ☆ パーティの日は正装ってハートの女王の法律でも決まってるからね。 グリちゃんとミツキちゃんも、それっ!!」
彼がマジカルペンを振ると、グリムは魔法石が付いている首輪の後ろ、美月は左腕に赤と黒のチェック柄リボンが付いた。
「わぁ、可愛い!! 私にも宜しいのでしょうか!?」
ケイト「いいーのいいーの。けーくんからのサービス~。」
グリム「にゃっはー! かっけーんだゾ!」
「ありがとうございます!」
美月はケイトにお礼を言って、普段身に着けない可愛らしいリボンに笑みがこぼれて、グリムは嬉しさのあまり飛び跳ねており、リボンを大事そうに撫でている。
「我等がリーダー!赤き支配者!リドル寮長のおなーりー!」
『なんでもない日のパーティ』が始まった。一人のハーツラビュル寮生が開始宣言して、ラッパが吹き、寮生達が左右に分かれて道を作り、小さな王冠を被り左肩にマントを羽織っていて、ハートをモチーフとした杖を所持したリドルが現れた。美月とグリムは邪魔にならないよう、端の方にいる。
リドル「うん。庭の薔薇は赤く、テーブルクロスは白。完璧な『なんでもない日』だ。
ちゃんとティーポットの中に眠りネズミは入ってるんだろうね?」
トレイ「もちろん。もしもの時の鼻に塗るジャムも万全です。」
リドル「宜しい。」
ティーカップに入った紅茶を美月とグリムや寮生達に行き渡り、リドルの掛け声を合図に全員「乾杯!」と声を揃えた。寮生達は料理を食べたり、親しい人らと話しているが、よく見るとエースと同じ首輪を付けている人がたくさんいて落ち込んでいる人がいる。どこか緊張状態があり不穏な気配を感じたが、美月はリドルの所に向かった。
「リドルさん、こんにちわ。『なんでもない日のパーティー』に初めて参加させていただきます。お招きいただきありがとうございます。」
リドル「ミツキか。来てくれて嬉しいよ。今日は、楽しんでいっておくれ。」
挨拶と会話を少しして、その場を離れてエースと交代する。彼はかなり緊張しているが
「(絶対、この首輪を取ってもらうからな!)」心の中で強く思っており、ケイトに背中を押されて、美月とグリムとデュースは静かに見守っており、リドルの前に来た。
そして、タルトを見せた瞬間、大きな怒りの声が響いた。
ハートの女王の法律・第562条『なんでもない日』のティーパーティーにマロンタルトを持ち込むべからず。トレイとケイトはどうやら知らなかった事、さらに810条の法律があると聞いて周りにいる皆は衝撃を受ける。
エース「ちょっと待てよ! そんな無茶苦茶なルールあるか!」
一生懸命作ったマロンタルトをリドルが投げ飛ばした。トレイとケイトはなだめているが彼の怒りは収まらない。
リドル「いいかい。小さなルール違反が、大きな問題に繋がるんだ。ボクだって、やりたくて首をはねてるわけじゃない。お前たちがルールを破るからいけないんじゃないか。」
彼の言うことは分かるが、なぜそこまで執着しているのか美月は疑問に感じた。
エース、デュース、グリムは訳の分からない法律やタルトを粗末にしたことなどを反論したが、
リドルはさらに激しく怒り3人に首輪の魔法を付ける。美月は3人の所にすぐ駆け付けた。
リドル「こいつらをつまみ出せ!」
トレイとケイトに指示を出して、2人はエース達に近づいてきたがどこか辛そうな表情をしている。「私はこれで失礼します!」リドルの機嫌やパーティの雰囲気は最悪で、本当なら意見を言おうとしたが首輪を付けられる可能性はあると思い「(エース達は私が見ておきます。)」トレイに小声で耳打ちをして美月達は会場から出ていった。
ハーツラビュルの庭園に美月達はいる。エースはイライラしていて、デュースは落ち込んでおり、グリムは苦しそうに首輪を触っている。
エース「つーかミツキ、お前の魔法でこの首輪何とかならねえの!?」
「首輪を外したい気持ちはあるけど、もし、外したことをリドルさんにバレたら私も首輪を付けられて魔法を使えなくなる。申し訳ないけど、そのままでいてほしい……。」
エース「くそっ!! 役立たず!」
「(ごめんね……。)」
エース達はリドルに意見を言っていたのに自分は何も出来なかった事に後悔しているが、どうしたらいいのか考えていると「その首輪の重ねづけ、イカしとるにゃぁ~。」笑い声がしたので見上げると、ソフトラベンダーの髪色と毛並みの耳にフサフサの尻尾、身体だけ消えている姿をした青年が目の前に現れてエース達は驚く。
アルチェーミ・アルチェーミエヴィチ・ピンカー。仲間からチャーニャと呼ばれているらしく、猫みたいな不思議な人間でどうやら魔力はあるらしい。
「(この人、服装から見てここの生徒じゃない。他の魔法学校に通っているのかな…。)」
美月は静かに考えていると、身体を出したチャーニャは「君ら、リドルについて知りたぁの?」飄々と声をかける。
「あの~、チェーニャさんでしたよね!? リドルさんとはお知り合いでしょうか?」
チェーニャ「まあにゃあ~、詳しいことはあの眼鏡に聞いてみにゃあ。」
デュース「眼鏡って……クローバー先輩のことか? 」
チャーニャ「あいつはリドルがちっちゃい頃からよう知っとるよ。リドルについて知りたいなら俺ならまずあの眼鏡に聞くにゃあ。 ほいじゃあ。」
彼は鼻歌をしながらすぐに姿を消した。2人が幼馴染だと分かり、リドルはなぜあんなに厳しいのかよく知る必要がある、トレイなら何か知っているかもしれない、彼なら図書館にいると思い4人は向かった。
図書館にトレイはいる。並べてある本を眺めながら、どこか暗そうな表情をしている。
そこに「トレイさん」と声が聞こえたので振り返ると美月達が立っていた。
トレイ「お前たちか……。何で俺が図書館にいるって分かったんだ!?」
「マロンタルトのレシピ本、借りていましたよね。返しに来るかなと思いましてここに来ました。」
トレイ「そうか……。俺に何か聞きたいことでもあるのか?」
普段は穏やかな彼だが、声が強張っており、少し空気が重くなる。チャーニャからリドルの事を聞いて空いているテーブルに腰を下して、トレイは語り始めた。
リドルの両親は地元で有名な魔法医術士。特に母親は優秀な人で、リドルにも優秀であることを求めた。学習プログラムは分刻み、食べ物と着るもの、友達も何もかも全部ルールによって決められていた。両親の期待に応えるために全部こなしていたとのこと。
トレイ「リドルは、厳しいルールで守ることが相手のためになる。厳しいルールで縛られて恐れで支配してこそ成長できると信じてるんだ。ルールを破るのは絶対的に悪だと思ってる。」
彼から話を聞いた美月、グリム、デュースは絶句していた。何もかも決められて自由がなかった、母親のために言いつけを守っているリドルの姿が想像する。幼少期は相当過酷だったかもしれないが、彼は本当に幸せだったのだろうか、ルールや規則にも正しいことなんてない、完璧な人なんてこの世にはいないのだから。
エース「…………。今の話を聞いて、よーくわかった。リドル寮長があんななのは、アンタのせいだわ。」
彼の発言にトレイは眉をひそめる。
エース「リドル寮長が親を選べなかったのはしょうがない。でも、アンタは少なくとも寮長の親が寮長にやってたことは間違ってるって昔から思ってたんでしょ?今の寮長が親と同じ間違いをしてるって思ってるならちゃんと言えよ。直してやれよ。可哀想な奴だからって同情して甘やかして、どうすんの?アイツがみんなに嫌われて孤立してくの見てるだけ?」
上級生相手にはっきり言うエース、口は悪いが彼らしくて言っていることが確かにその通りだ。
2人のやり取りを見て美月は考えていた。
「……トレイさん、本当はリドルさんが間違っている事を止めたかったのですよね?
もし、止めたらリドルさんはルールを守ってきたことを否定されてショック受けるかもしれない…そうですよね?」
トレイ「……。」
エース「はぁっ、アンタも首をはねられるのが怖くて黙ってるって? ダッセえな!!」
トレイは黙っていて俯いているが、「(……そうかもしれないな。)」と思っていた。トレイはリドルの事をよく知っており、何より大切にしている。ルールを他人に押し付けるのは良くない、寮生達は苦しんでいるに違いない、もう一度話し合うことは出来ないだろうか、美月は思っていた。
すると「君たち、静かにしてもらえませんか? 図書室は静かに勉学や読書に勤しむところですよ。」声がしたので振り返るとクロウリーが立っていた。
デュース「が、学園長!? どうしてここに!?」
クロウリー「ヒガシノさんが元の世界に戻る方法について調べに来たんですよ。ちゃんと忘れていませんとも。私、優しいので。やはり調べ物といえば図書室ですからね。別に新しく入った小説の続きが気になって誰よりも早く借りにきたわけではありませんから」
「お忙しいところ私のためにありがとうございます。(本当に探してくれているのかな…。)」
クロウリー「いえいえ、ところでみなさんお揃いで険しい顔をしてどうしたんです?」
デュースがハーツラビュルで起きている経緯について話すと、クロウリーが突然提案を言ってきて美月達は驚く。
「決闘」ナイトレイブンカレッジでは伝統的であり、魔法を使った無許可の喧嘩は校則違反だが、クロウリーの許可と立会いのもとで行う。前寮長に指名されたり、現寮長に決闘で勝利したりなど、他にもいくつか方法もあるとのこと。
ただし、事前にハンデを課すこと、魔法以外の攻撃(物理的な暴力など)は禁止である。
ちなみに、リドルは入学して1週間で寮長になったのである。クロウリーの発言にエースとデュースは、リドルに決闘することに挑む。グリムもやる気満々だが寮に所属していないので挑むことが出来ないと言われてショックを受けている。
トレイ「お前たち本気なのか!? リドルは手加減しないぞ!?」
エース「俺、寮長のやられる姿見てみたいんすよね~。」
デュース「僕、やって見せます!! 男なら、一度はテッペンとってみたいじゃないっすか。」
2人は、リドルとはこれ以上話し合うことは出来ない、「決闘」でやるしかないと思い覚悟を決めている。ただ、エースとデュースの魔法は未熟でリドルとは圧倒的な差があり勝ち目がない可能性がある、トレイと美月は心配しているが、決闘は明日行うことになった。