その日の夜、美月達は大部屋にいる。以前、美月が大きくて広い場所はないのか幽霊達に話すと寮の地下にあると聞いて案内してもらった。ここに魔法の練習場を作ろうと思いつき、幽霊達に少し手伝ってもらいながら掃除と修復呪文を使って綺麗にした。初めて見る部屋にエースとデュースはきょろきょろと周りを見ている。
エース「こんなデカイ部屋、お前が作ったの!?」
「少しだけね。他にも部屋があるみたいだけど、まだ何もしていない。また時間があったら掃除する予定で何に使うか考え中だけどね。」
エース「なんなら、俺専用の部屋を作ってくれよ。4人部屋は窮屈であっちの寮は居心地悪くてよ~。オンボロ寮は自由だし転寮するのもありかな~って。」
デュース「エース、ミツキに失礼だ。それにお前が一番やかましいだろうが。」
グリムの世話も大変だが、もしエースが転寮してきた場合、いろいろとやりたい放題するかもしれなと思いやんわりと断った。
なぜ、3人はこの練習場にいるのか。リドルとの決闘のためにエースとデュースには魔法を鍛える必要がある、練習相手は美月自身が行う、もし何かあった場合身を守る力などをつけた方が良いとのこと、彼女が考えた提案である。
デュース「確かに鍛える必要あるな。」
エース「でもよ、この部屋魔法をぶっ放しても良いのか!? それに首輪のままじゃ魔法使えねぇよ。」
「この部屋は結界を張ってあるから大丈夫。首輪は、今だけ外してまた付けておくからね。じゃあ、外すよ。」
美月は、エースとデュースが付いている首輪を魔法で外した。ずっと付けられたままだったので外れた瞬間2人はほっとため息をつく。
エース「これで魔法使いたい放題だな。じゃあ、パパっと始めよーぜ!」
デュース「そうだな。でもミツキ、僕らの相手しても平気なのか? 下手したらお前が怪我するぞ!?」
「お気遣いありがとね。怪我したら治癒薬などは準備してある。それに、2人の力になりたいから…。じゃあ、始めよう。」
自分は何も出来ないけれど、せめて少しでも何か役に立ちたいと思い自分なりに考えた提案。2人は美月がここまで考えてくれた事に密かに感謝していた。
2時間以上が経ち、3人は休憩中。初めはエース、次にデュースと交代しながら1対1で行った。
2人は疲れていて地面に寝そべっており、美月も疲れていたが用意していた麦茶を渡して座り込んでいる。
「2人共、お疲れ様。よく頑張ったね。」
エース「サンキュー。てかミツキ、ドワーフ鉱山でもそうだったけど強すぎねーか!? ひょろひょろしてそうなのに急に目つきは変わるし、まるで戦い慣れてる感じがするんだど、向こうでもいろいろ暴れてるのか!?」
「暴れてはいないけどね。決闘クラブっていう部活に所属していて魔法を使って身を守る術を学んでいる。私なんてまだまだ未熟だよ。」
デュース「そんな部活あるのか。やはりお前は凄いな! 僕なんてまだまだだな…。」
「2人共少しずつだけど、魔法の扱いが良くなっている。練習あるのみだからね。」
3人は会話していると、エースがふとスマホを見たら夜21時になっていて明日に備えて練習は終了する。美月は申し訳なさそうな顔をして再び首輪を付けて、2人は苦しそうだったが「(ぜってーやってやる!)」エースは意気込んでいて各自部屋に戻った。
ついにリドルとの決闘日がやってきた。ハーツラビュルの庭園にクロウリーや寮生達などが集まっている。トレイはエース、デュースを心配しており、ケイトは事前に聞いていていつもは明るい彼だが「(1年は無茶なことするなぁ…。)」と少し呆れているが2人は見守るしかなかった。
エース、デュースは軽くストレッチをしていて準備は整っているのだがかなり緊張している。
美月は2人の所にかけより、御守(おまもり)の文字と星形の記号を描いた長方形の紙を渡す。
エース「何だ、この紙切れ?」
「これは【お札(おふだ)】と言ってね。文字や記号を描いて呪文を唱えたり、結界を作ったりすることなどが出来る。このお札に私の魔法をかけていて、おそらくリドルさんの魔法を防ぐことが出来るかもしれない。身につけていてほしい。」
エース「へぇ~、何か変わってるな~。まぁ、ありがたくいただくぜ。」
デュース「いろいろとありがとな。」
2人はお札を受け取って、ジャケットの外側ポケットに入れる。さらに、美月は「(何を言われても受け流すこと。慎重に落ち着いてね。)」小声でアドバイスを言い2人はうなずく。
グリム「オレ様の分も頑張るんだゾー。」
エース「へい、へい。つーかお前、何もしてねーじゃん。」
グリムに少し嫌味を言いながらクロウリーに呼ばれてデュースと共に向かう。寮生達は、2人はすぐにやられると思っておりリドルを応援しているが、どこか複雑そうな表情をしている。
リドルの方は準備万端でクロウリーに呼ばれて「(1年生は何を考えているんだ…。)」ルールを守らない2人に怒りを感じている。
クロウリー「これよりハーツラビュル寮の寮長の座をかけた決闘を行います。挑戦者はエース・トラッポラ。そしてデュース・スペード。挑戦を受けるのは現寮長であるリドル・ローズハート。では、決闘の掟に従い、挑戦者のハンデである魔法封じの首輪を外してください。」
リドルはエース、デュースが付いている首輪を解いた。だが「2人まとめてかかっておいで。」
彼から強気の発言を聞いて2人は腹立たしい気持ちになったが美月から聞いたアドバイスを思い出して落ち着きを取り戻してマジカルペンを構える。
そして、クロウリーが手に持っている手鏡を地面に落として割れた瞬間決闘が始まった。
リドル「首をはねろ(オフ・ウィズ・ユアヘッド)」
魔法を放つと、2人の周りに透明の盾が張られて防がれた。
リドル「(今のは盾の魔法…。一体どうやって…!?)」
エース「(このお札、すげぇ効果ある…。) よしっ、そらっ!」
デュース「はぁっ!」
同時に攻撃をして、リドルはすぐに防御魔法を放つ。ところが、2人は集中しすぎるあまりにぶつかってしまい倒れる。さらに、倒れた衝撃でお札が飛んでしまい「その紙だね。はっ!」リドルはすぐに気づいてお札を燃やす。そして、エースとデュースは再び首輪を付けられてしまい敗北する。
グリム「ふな゛あぁ……。早すぎて何も見えなかったんだゾ!?」
「そうだね…。」
予想はしていたが、リドルの圧倒的な強さに美月や周りにいる寮生達は驚いている。こちらの魔法ではイマジネーション=想像力を正確に強く描く必要である。エースとデュースは悔しそうな顔をしている。
リドル「その程度の実力で、よくボクに挑もうと思ったものだ。恥ずかしくないの? やっぱりルールを破る奴は、なにをやってもダメ。お母様の言う通りだ。」
デュース「くっ……。たしかに、ルールは守るべきだ。でも無茶苦茶なルールを押しつけるのはただの横暴だ!」
リドル「何を言ってるんだい。ルールを破れば罰がある。そして、この寮ではボクがルールだ。だから、ボクが決めたことに従えない奴は首をはねられたって文句は言えないんだよ!」
反論するデュース、黙って聞いているエースを見てリドルはさらに苛立ちをしている。自分のルールは正しい、彼は信じている。すると「あの…。宜しいのでしょうか?」美月は声を張ってリドルの近くに駆け寄る。トレイとケイト、グリムは心配そうに見つめている。
「リドルさん、デュースの言う通りルールを守るのは必要ですが、正しいことなんて1つもありません。周りにいる寮生達の顔を見てください。皆苦しんでいます。本当は、あなたもこのルールを間違っている、そうお思いになっているのではないでしょうか。」
リドル「ボクが…間違っている…!? そんなはずない! そんな簡単なルールにも従えないなんてキミ達は一体どんな教育を受けてきたの? どうせ大した魔法も使えない親から生まれてこの学園に入るまでろくな教育も受けられなかったんだろう。実に不憫だ。」
彼の発言に美月は言葉も出なかった。自分の母親、ここにいる寮生達の親は人によるが魔法は使えないけれど1人の人間である。その時「ふざっっっっっけんなよ!!!!!」エースが怒りの声を叫びながら右拳でリドルの頬を殴り飛ばす。
リドル「え? ボク、殴られた……?」
彼は衝撃を受けて目を見開いており、右頬は赤くなり手で抑えている。
エース「子どもは親のトロフィーじゃねーし、子どものデキが親の価値を決めるわけでもないでしょ。お前がそんなクソ野郎なのは親のせいでもなんでもねーって、たった今よ~くわかったわ! この学園に来てから1年、お前の横暴さを注意してくれるダチの1人も作れなかった、てめーのせいだ!」
リドル「なに……を、言ってるんだ?」
エース「そりゃお前はガッチガチの教育ママにエグい育て方されたかもしんないけどさ。
ママ、ママってそればっかかよ! 自分ではなにも考えてねーじゃん! なにが赤き支配者だ! お前は魔法が強いだけの、ただの赤ちゃんだ!」
リドル「赤ちゃん……だって? このボクが? なにも知らないくせに……ボクのことなにも知らないくせに!」
ルールを忠実に守っている彼だが、エースや他の寮生達に文句を言われて否定されたことに怒り狂ってしまい、自分の魔法で薔薇の木が突如浮き上がりエースに向かってくる。
「エース!」「早く逃げるんだゾ!」デュースとグリムは声をかけたが、エースは驚きのあまり体が固まっている。「急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう) 祓い給え(はらいたまえ)」美月がお札を使い呪文を放つと薔薇の木は祓われて消滅する。その際、エースは勢い良く走ってデュースの所に避難したがまた襲いかかってくる。
「(数が多すぎる…。)」美月は少し焦っていると、突然薔薇の木がトランプのカードに変わり空中に飛び散り地面に落ちる。
ケイト「皆、大丈夫!?」
デュース「はいっ! 今のって…。」
「トレイさんのユニーク魔法…ですよね!?」
トレイ「そうだ。俺の『ドゥードゥル・スート』は少しの間だけならどんな要素も上書きすることができる。だから……“リドルの魔法”を“俺の魔法”で上書きした。」
ケイト「うっそ………。そんなんあり!? チートじゃん!」
エース、デュース、グリムは首輪がなくなっていることに気づき驚いている。リドルの方を見ると、自分の魔法よりトレイの一時的な魔法が優れていると分かり呆然と立ち尽くしている。
リドル「ずっと厳しいルールを守って頑張ってきたのに! いっぱいいっぱい我慢したのに! ボクは……ボクは……信じないぞ!! ボクは……ボクこそが!! 絶対、絶対、正しいんだーーーーー!!!!!」
大きな声で叫ぶと、赤い魔法石が真っ黒になりリドルの周囲から黒い液体が滲み出て彼を包み込む。すると、肌は白く両手は黒く染まり、赤黒い衣装を纏い右目には赤い炎が付いていて恐ろしい姿に変わり美月やトレイ達は驚いている。さらに、背後にはドワーフ鉱山で遭遇した化け物が現れてリドルと融合する。
クロウリー「ああ、なんてことだ! 私がついていながら生徒をオーバーブロットさせてしまうなんて!」
グリム「アイツ、めちゃくちゃ邪悪な感じに変わっちまった!」
「学園長、何かご存知ですか!?」
クロウリーとケイトが簡単に説明する。『オーバーブロット』魔法の使い過ぎによってリドル自身感情と魔力のコントロールを失って暴走している状態。魔法士にとって一番気を付けなければならなくて、このままでは命を失う可能性があるとのこと。
クロウリー「とにかく生徒の命が最優先事項です。他の寮生は私が避難させましょう。ヒガシノさんとグリム君はオンボロ寮に戻りなさい。」
「学園長、私残ります!」
クロウリー「何をおっしゃっているのですか!! ここにいたら危険です! もし、あなたの身に何かあったら私の責任が…」
「ご心配ありがとうございます。ですが、リドルさんが苦しんでいます。救いたいです。何もしない自分が恥ずかしいです。」
美月の言葉に彼は少し呆れている。その時、エース、デュース、グリムが魔法でリドルが放った黒い物体を退治しており、無謀すぎる姿にトレイとケイト、クロウリーは驚いていた。
グリム「アイツ、あのままじゃ大変なことになっちまうんだゾ!」
デュース「さすがにそこまでいくと寝覚めが悪い。それに……」
エース「まだ『ボクが間違ってました。こめんなさい』って言わせてねーし! それと、勝てる奴にしか挑まないなんて、ダサすぎんでしょ!」
3人の言葉にトレイは、リドルを止めることが出来なかった自分にも責任を感じていて「(あいつを失うわけにはいかない。俺は……あいつに伝えなきゃいけないことがあるから。)」自分の魔法でリドルの攻撃を上書きしている。美月も杖を使って黒い物体や薔薇の木を防いでいる。
ケイト「ちょっと!! トレイ君にミツキちゃんまで!? リドルくんに勝てるわけないじゃん!」
「ケイトさんの不安な気持ち分かりますよ! ここには、トレイさん、エース、デュース、グリムと心強い人がいますしリドルさんを救うことが出来ますよ。」
ケイト「………あ~~、くそっ! わかりましたよ。こういうの柄じゃないんですけどねー、ホント!(俺、ダサい所見られたくないし…。)」
クロウリー「ああもう……生徒を避難させたら私もすぐに戻りますから! それまで耐えてください! ヒガシノさん、くれぐれも気を付けてください。」
「分かりました!」
リドル「どいつもこいつも良い度胸がおありだね……。みんなまとめて、首をはねてやる!」
負の魔力はさらに上昇していき、黒い物体が槍状に変化して美月の所に向かってきて、走り避けながら呪文を放っていたが石につまずいて転んでしまう。追い詰められてしまったが「オレはコイツで、コイツはアイツ 舞い散る手札(スプリット・カード)」ケイトが勢い良く走ってきて彼女を抱きかかえて別の場所に移動して下ろす。さらに、3人のケイトが槍状に襲われて倒れてしまい消えてしまう。
「ケイトさん、申し訳ないです……ってあれ!? 今のって……。」
ケイト「ダイジョーブ!! これは俺のユニーク魔法、分身を作ることが出来るんだ。俺君達、ミツキちゃんを守って~。」
分身ケイト「あいあいさ~。」
「そうなんですね。ということは、私と一緒にいるケイトさんはご本人ですかね!?」
ケイト「あったりー!!」
彼の分身魔法で守られて本物のケイトと美月はトレイがいる場所に向かう。
トレイの所に、美月、ケイト、エース、デュース、グリムは集まる。リドルは完全に理性を失っていて声をかけても聞いてもらえない。どうすればいいのかトレイは静かに考えていてエースとデュースは不安そうな顔をしている。
「皆さん、体力や魔法石などは大丈夫でしょうか!?」
トレイ「あぁ、俺は問題ない。」
エース「俺、まだまだいけるし!!」
デュース「僕もだ!」
グリム「俺様もいけるんだゾ。」
ケイト「けーくんも行けるよ☆」
「分かりました……。それなら、私のお願い聞いてくれますか。」
自分が命令しているみたいで申し訳ないと思いながら美月は話すと、トレイ達は快く理解してくれた。
リドル「全員、ボクの邪魔をするなあああああ!!!!!」
トレイの魔法で槍状は上書きして、ケイトは分身魔法で援護する。エース、デュース、グリムの魔法で薔薇の木は吹き飛ばされたり、燃えたり、押しつぶされて、その隙に美月は走りながらリドルの近くに立つ。
「イモビラス・マキシマ(完全静止)」
リドル「うっぎぃいいいいいい!!!!!」
グリム「アイツの動きが止まったんだゾ。」
エース、デュース「ミツキ、あぶねーぞ!」
2人は声をかけたが、美月は一歩も引かない。杖を構えながら息を整えて集中する。
「―咲き誇る春の花よ、舞い散りなさい―桜梅桃李(おうばいとうり)」
杖先から薄い桃色の桜と濃い桃色の梅に桃、白色の李(すもも)の花びらが無数に混ざり合いながら舞うように背後にある化け物と衝突して消滅したが、黒い液体が漏れ出して美月の所に向かい彼女は咄嗟に防御呪文を放つ。そして、リドルは悲鳴を叫びながら真っ逆さまに倒れた。