Pの悪夢、大物新人アイドルプロデュース(アイマス(初代)+ボンボン坂高校演劇部) 作:立花つかさ
「あ、プロデューサー」
僕が振り向くと菊池真が息を切らせながら駆け寄ってくる。
うっすらと汗をかいているので、トレーニングでもやっていたのだろう。
「真、すまないが二頭身の不思議生物みなかったか?」
「二頭身の不思議生物? やよくりシリーズの新作でも出たんですか?」
僕の質問に首をかしげる真。
徳大寺君の見た目について、端的に表現して伝えたつもりだけど、やっぱり伝わらないよな。
あんなビジュアルの生き物なんて、普通に生活している上で遭遇しようがない。
「こう、説明するのが非常に難しいんだが……鳳理津は知ってるよな?」
「鳳理津っていえば大女優じゃないですか! 知らない方がおかしいですよ」
だよな。
真の反応は業界人だろうと一般人だろうと似たり寄ったりだ。
だから、なおさら混乱するんだよな、徳大寺君の見た目は。
「真、実は鳳理津の――」
「ああー、いい男発見! ヒロミ唾つけたぁ~」
突然廊下に響き渡るオカマ声。
僕は慌てて振り返る。
数メートル離れた位置から跳躍し、唾をダラダラ溢しながら飛んでくる徳大寺君の姿があった。
「っ! せい!」
「あべし!」
常人ではあり得ない跳躍をしてきた徳大寺君の顔に真が正拳突きで打ち込む。
どういう構造をしているのか拳の形に顔を凹ませながら徳大寺君は吹っ飛んでいく。
「……遅かったか」
「ぷ、プロデューサー! なんですかあれ! 生き物なんですか!」
「落ち着け、真。気持ちはよく分かる」
ジタバタと興奮状態で暴れる真を僕はなだめる。
度胸のある真を一瞬で錯乱させた徳大寺君に別の意味で感心してしまう。
「フフフッ、愛のこもったいいパンチだったわよ。正太郎くんのツッコミにひけをとらないわ」
どこか恍惚な表情を浮かべる徳大寺君。
真は小さな悲鳴を上げて僕の後ろに隠れる。
肩越しに真の様子を確認すると、全身総毛立っていた。
うん。なんとなく気持ちは分かる。
「ぷ、プロデューサー、なんなんですか、アレは?」
「非常に遺憾だが本日付けで765プロの新人アイドル候補生となった徳大寺ヒロミくんだ」
僕の言葉に真は絶句する。
「さらにヒロミくんは鳳理津の子供さんだ。高木社長が昔お世話になったことがあるらしく、その関係でヒロミくんをお願いしたらしい」
さすがに僕が短期間で複数のアイドルプロデュースに成功したためとは言えない。
それで皆が申し訳なく思ったりしたら、僕の心が痛む。
「真くん、って言ったわね。素敵な一撃だったわ。こんな衝撃的な出会いは運命よ。さあ、アタシとあばんちゅ〜るな――へぶし!」
僕の後ろに隠れていたはずの真が徳大寺君の顔面をサッカーボールのように蹴り飛ばす。
「ご、ごめんなさい! 体が勝手に! ど、どうしょうプロデューサー! 本気で蹴っ――」
「いいわー、素敵な蹴りよ! ああ、御御足も良い形を――」
「いやー! 離れて!」
「と、徳大寺君! 最近、色々と厳しいんだ! 真から離れてくれ!」
「助けて、プロデューサー!」
真に蹴り飛ばされたはずの徳大寺君が、蛇のように真の足に巻き付く。
必死に引き離そうとするが、物凄い力と執念に全く引き剥がせない。
心は乙女と言っているが、アイドルが異性に触れられている姿なんて、写真に撮られたらスキャンダルになりかねない。
真の将来のためにも、徳大寺君を引き剥がさなくてはいけない。
「うっうー! プロデューサー、真さんと何してるんですか?」
パタパタと足音を響かせながら、やよいが声をかけてきた。
やばい、やよいが前知識なしで徳大寺君に接触したら、一生消えることのないトラウマになるかもしれない。
「や、やよい! 来るんじゃ――」
「プロデューサーさん……」
遅かったか。
後悔の念が僕を襲ってくる。
これからやよいは、徳大寺君というトラウマに――
「うっうー! なんですかこれ! かわいいです!」
「へ?」
僕は思わず間抜けな声を上げてしまう。
やよいは目をキラキラさせながら徳大寺君を見る。
嘘だろ。
「あら、見込みのありそうな子ね。オ〜ホッホッホ、ワタシには及ばないけど、なかなか可愛らしい子じゃないの」
「あ、ありがとうございます!」
にゅるりと徳大寺君は真の足から離れると、やよいの前に立つ。
即座に真が僕の後ろに隠れる。
「や、やよいは、その生物が怖くないの?」
「怖い? うっうー! 全然怖くないです! 可愛いです! 真さんも可愛いと思いますよね?」
「ぼ、ボクは全く――」
「照れちゃって、可愛いわねぇ~。アナタもまことなのね。ウチの副部長と同じだなんて、運命を感じちゃうわ〜」
「ひぃぃぃぃ!」
二頭身から再び蛇のように真に襲いかかろうとする徳大寺君。
生理的拒絶感に贖いながら、僕は真の盾になるために彼の前に立ちはだかる。
全身が鳥肌になっていくのがよく分かる。
「正太郎くんみたいに、ウブな男の子だ良いわぁ〜。プロデューサー、そこをどきなさい。アタシの熱いリビドーが収まらないのよぉー」
「……男の子? 真さんは女の子ですよ」
首を傾げながら、やよいが不思議そうに呟く。
その言葉に、徳大寺君の動きがピタリと止まる。
そして、何処から取り出したのか、犬の着ぐるみを身に着ける。
四つん這いになると僕と真の周りを匂いを嗅ぎながらぐるぐる回る。
「こ、この匂いは、美少年のにほいじゃないじゃない! アナタも三輪友紀と同じね!」
徳大寺君は絶叫する。
僕たちは顔を見合わせて呆然としてしまう。
一分ほど経過しただろうか、徳大寺君はいそいそと犬の着ぐるみを脱ぐと、残念そうな顔で真を見る。
「せーっかく、好みの美少年を見つけたと思ったのに、女の子だったなんて……ヒロミ、がっかりだわー」
そう言って徳大寺君は「ハァーーー」と盛大なため息をつく。
「そ、そうだよ。ボクは女の子だよ」
「もうあなたに用はないわ。アタシ好みの殿方を探しに行くわ」
徳大寺君はそう言って踵を返す。
「ぼ、ボク……助かったの?」
ペタン、と床に座り込む真。
放心している真の頭を僕は優しく撫でる。
「とりあえず、真が無事で良かっ――じゃない! 徳大寺君を確保しないと!」
僕は慌てて徳大寺君の後を追いかけた。
発掘した残骸?を整理してみました。
お読みいただきありがとうございます。
続きは……お察しください……。