便利屋68 黄金将軍   作:まーろう

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12 着弾五秒前

 シーサイド・セレナーデ号の屋上デッキ、四つの見晴台が設けられたアンテナマストの最上段に南波クラビスはいた。

 

 乗船してから、クラビスはずっとここに陣取っていた。姿を晒さぬよう腹ばいになり、船首から船尾にかけて不審な動きがないか偵察する。甲板にぞくぞくと群衆が出てきている。

 

 任務中とはいえ、ため息をつかずにはいられない。早い段階で侵入を気取られたらしく、NASSの包囲網はあっという間に突破された。いま客船の上部構造へ広がっていくのは、一緒に乗船したNASSではなくヴァルキューレ警備局だった。金髪の獣耳がついた厳しい目つきの女が陣頭指揮を取っている。あれは公安局長の尾刃カンナに違いない。局長まで乗船しているとなれば、対策班を餌にわれわれを待ち伏せしていたのだろう。大胆極まりない手口だ。そんな作戦を実行する度胸があるとは、まったくの誤算だった。

 

 クラビスの傍らにはRPG-7対戦車ロケット砲が横たえてあった。だがもはや、ここで使う機会はなくなった。大規模作戦を想定してここに陣取ったが、今日はささやかな工作のみだった。部隊の大多数が倒された以上、一人で大軍に挑んでも勝機は薄い。

 

 甲板に数人、顔の知った人物が出てきた。騒ぎで辺りを見回しているので、顔を拝むこともできる。白髪に切れ長の瞳をした女は、トリニティ代表の氷野イサミだ。エデン条約調印式に出席してはいなかったが、権謀術数が渦巻く諜報世界では大物だと聞いている。ゲヘナと百鬼夜行と思わしき服装の女も二人いた。そのなかに見覚えのある人物の顔があった。紺色の髪でアリウスの白い制服を着ているのは、最近になってアリウスへ復帰した龍ヶ崎シュウだ。長いこと行方をくらませていたが、トリニティの手引きで百鬼夜行に潜伏していたと知ったときは驚きだった。

 

 NASSの信条からすれば、彼女は特級の裏切者ということになる。だが今日の作戦は既に失敗に終わった。その場合は速やかに現場から離れなければならない、そういう指令だった。

 

 船尾方面へ目をやった。二隻の高速艇が急速に遠ざかっていく。そのうち一艇は、クラビスが脱出に使用するはずの船だった。先ほどの落雷のような銃撃音にひるんでいるあいだに、高速艇は動き出してしまった。脱出路が断たれた以上、客船が無事に接岸するまで身を隠すしかない。

 

 カバーに隠した対戦車ロケット砲を背負うと、クラビスはマストを下って操舵室に降りた。ふと凄惨な光景の操舵室内を見る。自分の唸りがくぐもって聴こえたなかでも、操舵室内での二名の会話はなんとか聞き取っていた。かすかに巡航ミサイルといっていた気がする。ガラス片と人体が転がる室内へ押し入ると、クラビスはレーダー計器へ目を走らせた。

 

 レーダー強度が最大まで引き上げられている。エデン条約調印式での光景がまざまざとよみがえった。自分たちの長の指令とはいえ、このまま見過ごせるはずがない。クラビスはすぐさまレーダーを切った。パッシブ・レーダー・ホーミング方式のミサイルなら、狙いを外すにはこれで充分だ。自分まで巻き込まれるのは御免被る。

 

 階段を駆け上がる足音が聞こえた。長居は無用だ。クラビスはさっさと踵を返し、操舵室から船内へ通ずる階段を降りだす。

 

 今日は失敗したが、機会ならまだある。じきに新しい指令が送られてくるだろう。マダム二世は無機質なほど冷静だ。一度の失敗で取り乱したり、勝利を焦るなどありはしない。

 

 

 

 離岸後しばらくは穏やかだったはずの海は、かなり波が高くなったようだった。一波を乗り越えるたび、船体が繰り返しはずむ。だが天候に依然変化はない。最大限まで加速させているからだ。高速艇は特別に機嫌が悪い暴れ馬のようで、乗り心地は最悪だった。

 

 アルは船首右舷でバランスを取りながら、なんとか高速艇にしがみついていた。目先には白波を立てながら逃走する高速艇の船尾が見える。こちらが仲間でないことに気づいたらしく、甲板に何人もの敵兵が出ていた。

 

 船の性能は同等のようだった。互いに最高速で滑走しているため、つかず離れずの距離を保っている。後方の客船からはすでに遠く離れていた。周りは紺碧の海に囲まている。

 

 エンジンが一段と唸りを上げる。船尾に搭載されたスクリューが波しぶきをたてる。高速艇はまだ加速力を残していたらしく、船首の切っ先がウィリーさながらに海面から浮き上がった。船体が激しい縦揺れに見舞われる。

 

 こんな速度で航行を続ければ、二隻ともすぐに燃料が尽きてしまう。なんとか距離を縮めなければならない。操縦席のムツキも、そう判断したに違いない。

 

 強烈な向かい風が吹きつける。気づけば右舷前方に、敵船の姿が近づいていた。操縦席からも確認できたのだろう。船首が右へ向く。横づけするかのごとく、凄まじい勢いで距離を詰めていく。

 

 敵船の左舷甲板で、手すりにつかまりながら敵兵が操縦席へ何かわめいた。その直後、敵船がいきなり進路を左前方へ傾けた。船体側面が急激に接近する。横波にあおられて、高速艇は左へ回避せざるを得なかった。敵船が面舵を右へ切った。急旋回すると、逃げるように右手後方へ遠ざかっていく。

 

 ちょっかいをかけられたことで、ムツキが乱暴に進路変更した。高速艇が海面をスリップするみたいにして、船首を軸に百八十度回転する。目の回るようなスピードだった。船尾にいたら遠心力に耐え切れず、振り落とされていただろう。

 

 再び敵船を正面に捉え直す。高速艇のスクリューが揚力を上げて、みるみる距離を縮める。敵船は側面をこちらへ向けて、海上に留まっていた。左舷の手すりに、敵兵が鈴なりになって銃を構えている。

 

 アルが甲板に伏せると、敵船から一斉掃射が始まった。いくつもの銃口から、銃火が繰り返し閃く。下方側面から跳弾の金属音がした。正面の舷窓が割れ、木製の操舵室に弾が次々に命中する。それでも高速艇は速度を落とさぬまま、敵船へまっしぐらに突き進む。

 

 アルは這ったまま、船首の手すりぎりぎりに近づいた。狙撃銃を構えて伏射の体勢をつくると、手すりの人垣ではなく、奥の操舵室に狙いをつける。碌にスコープも覗かぬうちにトリガーを引いた。ライフルの発射音が轟く。特製の炸薬入り狙撃銃弾は、操舵室側面の丸窓に直撃し、ほとんど間を置かず室内に炎が噴出した。たちまちキャビン全体に燃え広がり、操舵室は火だるまと化す。

 

 警報機のベルが鳴り響いた。後方での火災に泡を喰った敵兵の何人かが手すりから散っていく。掃射の勢いが弱まった。迎撃を継続する人垣の裏で、別の兵士が消化用のホースを引っ張り出している。しばらくは動けないはずだ。まずは逃走手段を封じた。

 

 割れた舷窓からムツキが顔を出した。「このまま敵船に近づけるよ」

 

 高速艇の左手前方に、燃え上がる敵船が近づく。いつしか自動小銃での攻撃は沈黙していた。船体を消火しようと、敵兵があちこち奔走している。アルとハルカは船首甲板に立って、油断なく敵船へ銃を向けていた。向こうへ乗り移れれば、あとはハルカの独壇場だ。

 

 そう思った矢先、黒煙の中から明らかに異なる格好の少女が飛び出した。ウルフカットにした銀髪の女は、NASS共通の戦闘服ではなく、ウェットスーツに救命胴衣を着ている。

 

「鷲羽シルバ!」振り向くと、操舵室のカヨコが目を丸くしていた。「手配写真で見た。間違いない」

 

 アルの胸の内で確信めいたものが浮かんだ。つい先ほど聞いたばかりの名だ。やはりNASSの狙いは……

 

 操縦席のムツキがあっと口を開いた。注意を喚起されると、再び目に入ったシルバは両手で抱えた武器をこちらへ向けた。肥え太ったようなリボルバー、RGB-6グレネードランチャーだった。

 

「やば!」慌てたムツキが進路を変えようとした。

 

 高速艇が回避する間もなく、一発の擲弾が撃ちだされた。黒いレモンみたいな物体が放物線を描く。アルはハルカと同時に甲板へ伏せた。

 

 重くのしかかるような爆発音がして、突き上げるような衝撃波が後方から起こった。熱風が飛んでくる。それも数秒で止んだが、聴覚が著しく麻痺したままだった。埃が舞う中で顔を上げると、操舵室の一角がひしゃげていた。

 

 高速艇は二隻とも海上で停止した。どちらも同じ方向を向いている。直前まで動いていたため、惰力でのろのろと横づけするように近づいていく。向こうからは格好の的に違いない。すぐに次の擲弾が発射される。アルは唇を噛んだ。

 

 だが待てども追撃は来ない。向こうの船上を見ると、さきほどの銀髪が火の上がる操縦席へ慌てて飛び込んだ。無理やりにでも出発するつもりだろうか。

 

 真っ先に動いたのはハルカだった。腕の力だけで跳ね起きると、ショットガンを持ち直す。右舷ぎりぎりへ疾走し、手すりに足をかけると一気に跳躍した。二隻の間隔は衝突寸前まで狭まっている。敵船の甲板へ着地すると、待ち構えていた敵の一人がハルカへアサルトライフルを発砲した。だがハルカはものともせず、敵兵の一人に肉薄すると、ショットガンを棍棒の要領で振るい、敵の頭部を強打した。殴られた敵はよろめき、床の何かにつまずいて背中から倒れ込む。床を見たハルカが息を呑んだ。

 

 いきなり敵船後部の甲板から、噴火のごとく煙と火柱が昇った。肌を焦がすような爆風に、正面から全身が押される。ハルカは踏みとどまれず、敵船の手すりに背中からぶつかった。船内から白い頭部が顔を出し、翼のついた白い魚雷が宙へ舞い上がる。

 

 この戦場の誰もが釘付けになっていた。射出された巡航ミサイルは内蔵された噴射機で水平方向へ向くと、ロケットブースターを一気に燃焼させる。自分がどこを狙うべきかわかっているみたいに、迷いなく客船のあった方向へ飛翔していく。

 

 炎上する操舵室のなかで、シルバが勝ち誇ったような表情をあらわにした。だが計器から火花が散ると、ひどく驚きながら身を屈めて、操舵室から急いで飛び出した。

 

 巡航ミサイルは客船へ向けて発射されてしまった。すでに狙撃銃の射程距離からも抜け出し、水平線まで遠ざかっている。客船の姿は見えないとはいえ、ここまでの航行時間から考えて、五分も飛び続ければ到達してしまう。アルは誰に向けるわけでもなく呟いた。「巡航ミサイルが……」

 

 カヨコが叫んだ。「社長、逆に敵船のレーダー強度を最大にすればいい!船は私とムツキに任せて!」

 

 周囲の排煙が晴れ、視界が開けてきた。アルはキャビンへ狙撃銃を放り込むと、再度ワルサーを引き抜いた。敵船甲板では繰り出した敵兵の群れに、ハルカが単独で応戦している。彼女だけに任せるわけにはいかない。アルも数歩の助走から跳躍し、手すりを足がかりにして、さらに高く飛び上がった。宙に体を投げ出す時間が長く感じる。操舵室を死守しようと群がる敵兵へ、アルは右手の狙いのみで三発撃った。群れの中で、一人がのけぞって倒れるのを視界の端で捉えた。

 

 空宙での銃撃で無理に体を捻ったため、足からの着地は困難になった。すかさず身を丸め、激突の衝撃に備える。ほとんど間をおかず、アルは金属製の甲板に背面から叩きつけられた。息が詰まる。だが瞬時に跳ね起き、敵兵たちから数歩の距離をとった。

 

 ハルカに集中していた狙いがこちらへも向き、アルはアンカーウインチの陰に身を隠した。遮蔽から反撃を試みたが、二発撃つとスライドが後退したまま固まった。弾を撃ち尽くした。非常時を想定した隠し武器、なおかつ客船への持ち込みで、手持ちの銃弾はマガジンに収められているぶんだけだった。アルが狙われたことに気づくと、ハルカは敵愾心をむき出しにして敵陣へ突っ込む。

 

 歯軋りして、辺りを見回す。ふとハルカに倒された敵兵が投げ出したままのアサルトライフルが目についた。装飾の一切ない無骨な銃で、AR-15によく似ている。マガジンは装填されたままだ。

 

 アルは迷いなくアサルトライフルを掴み上げると、鈴なりになっている敵兵へ銃撃した。狙いに気づいたハルカが身を屈める。敵兵たちが脱力して、一度に倒れ込んだ。

 

 アルはウインチから飛び出すと、アサルトライフルを投げ捨て、火の勢いが収まらぬ操舵室へ駆け込んだ。「ハルカ、ここを守ってて!」

 

 半壊した狭い室内は、溶鉱炉のような灼熱の地獄と化していた。だが躊躇してはいられない。アルは意を決して飛び込むと、びっしり並ぶ計器類に目を走らせた。あった。同心円状のレーダーの側に、強度を操作するつまみがある。つまみを“強”のところまで引き上げた。レーダーの中心で動かぬ光点の他に、一直線で外へ向けて動くもう一つの光点が映される。光点が急激に進路を曲げ始めた。この船に狙いが変わった証だ。客船は無事レーダーを落としてくれたに違いない。着弾まで何分かわからないが、すぐにでも離れるべきだ。

 

 肺に流入する空気に熱気がまじり、呼吸がしづらくなってきた。頭上から木材が割れる音が響く。アルが操舵室から転げ出た直後、倒木のような凄まじい音を立てて、赤く燃える操舵室は崩壊した。

 

 この船から逃げなければならない。だがアルが立ちあがろうとした瞬間、水平にはわせたアサルトライフルで、背後から喉を絞められた。火事場から脱出してすぐでは、満足に酸素がいきわたってない。なんとか拘束から逃れようと、アルは力任せの肘打ちを背後目掛けて喰らわせた。握力が緩み、互いの体が離れると、迎撃のため振り向いた。

 

 鷲羽シルバはすぐに持ち直し、アサルトライフルの銃口を向けてきた。丸腰のこちらを見つめる黒い瞳に、憤怒の色が見て取れる。今にもトリガーを引き絞ろうとしていた。

 

 一際大きな銃声が響いた。アルはびくっとしたが、吹っ飛んだのはシルバのほうだった。横向きにどうっと倒れる。

 

 窮地を救ったのはハルカだった。ショットガンを腰の高さで構えたまま立っている。周りにはNASS兵たちが累々と横たわっていた。アルは安堵のため息をついたが、すぐに切り替えた。ミサイル着弾は刻一刻と迫っている。

 アルは簡潔にいった。「脱出するわよ」

 

 ハルカもただ「はい」とだけ返事をした。

 

 手すりの向こうから、甦ったエンジンの唸りが聞こえ始めた。アルとハルカの二人は同時に駆け出し、二隻の船の隙間を飛び越した。甲板にはカヨコが出てきており、二人を抱き止めると、操舵室のムツキへいった。「二人を無事確保。すぐに出発して」

 

 着地を確認すると、アルは洋上へ目を走らせた。白い弾体に陽光が反射する。水平線の向こう、噴射煙を走らせながら、早くも巡航ミサイルが還ってきた。思わず肝が冷える。アルはキャビンへ向いた。「ムツキ、発進よ!」

 

 操舵席のムツキがスロットルレバーを目一杯倒した。船体が大きく後方へ傾き、高速艇はクラウチングスタートさながらに急発進した。三人は互いに手を繋ぎ、海に落ちないことにのみ全神経をかけた。

 

 エンジンの唸りを上げながら、高速艇は海面を滑走する。アルは後方を見た。敵船は燃えたまま、海上に停止している。みるみる遠ざかって、小蝿くらいの影になる。視界にミサイルの姿が入ったのは、それから一秒くらいしかなかった。

 

 すぐに敵船が炸裂し、直後に海水と炎の大噴火が起こった。凄まじい爆風が放射状に広がり、高波を何重にも発生させる。

 

 直撃は回避したが、降りかかる水しぶきは避けようがなかった。アルたちはずぶ濡れになりながら、襲いくる高波の波状追撃に耐えた。だがそれも、黒煙が遠くで立ち昇るほどまで離れれば、あとは元通りの静かな海となった。

 

 どこへ向かうわけでもなく航行する船のエンジン音を、アルはしばらくただ茫然と聞いていた。潮風が吹きつける。肌にまとわりつく衣服が冷たくなってくる。身を起こしてからも、しばらく甲板へ腰を下ろしていた。計画を阻止した達成感とは違う。未知の武力への衝撃のほうが長く尾を引いた。

 

 高速艇がようやく減速すると、よろよろと立ち上がったアルたちはキャビンへ戻った。唯一濡れずに済んだムツキがスロットルレバーを操作している。こちらを見ると、心配するようにいった。「大丈夫?風邪を引かなきゃいいけど」

 

 アルは前傾になりつつ、キャビン内の席に座った。壁伝いに向かい合う椅子の向こうにハルカが腰を下ろす。前髪から雫が何度も滴り落ちていた。

 

 ハルカが低くささやいた。「危ないところでした……」

 

 アルは唸った。「風紀委員会の情報は正しかったわ。NASSはシルバを匿って、見返りにミサイルを作らせていたのよ」

 

 あの船に同乗していた以上、シルバはミサイル運用のための技術要員と考えるべきだろう。カジノでRGB-6を使っていたのは他の隊員だ。大型で重量があるため、彼女も一発撃っただけで武器を手放した。ゲヘナのごろつき上がりの非戦闘員では、しょせん程度の知れてる手合いだ。

 

 カヨコは座らず、キャビンの内部をくまなく探索していた。その目がある一点で止まる。金属の床板に灰がいくつも散乱していた。

 

 おそらくキャビンは兵員輸送室のように使われていたのだろう。紙で書かれた作戦指令は、読後焼却が義務付けられていたと考えられる。しかしNASSも人の子だ。船は乗っ取られまいと高をくくっていただろう敵の一人が、作戦指令書をほったらかして客船へ出払っていた。指令にきわめて従順で、正確無比に動くのがNASSではなかったか。

 

「社長、やつらの船にこんなものがあった」カヨコが指令書をアルへ手渡した。

 

 簡素な指令書だった。文字は数行しかないが、難解な暗号文で書かれているため、内容は精査しなければ読めそうにない。別添えされているのは、白黒の船内図と対策班メンバーの写真だった。全員の顔が正面から映っている。

 

 ふと注意を喚起された。対策班メンバーの人数と写真の数が合わない。トランプの手札みたく扇形に開くと、顔写真は五枚あったのだ。龍ヶ崎シュウの裏に重なっていた写真をつまんで引き抜く。アルは表情を固くした。その一枚を見た途端、カヨコとハルカも息を呑んだ。

 

 操舵席からムツキが聞いた。「どうしたのアルちゃん。知ってる顔でもいた?」

 

「ええ、しっかり記憶に刻み込まれているわ」アルは今では深刻な表情になっていた。写真の顔を子細に検分する。

 

 女は黒髪、耳の裏から僅かに見えるインナーカラーは青色だとわかった。無地の黒いキャップ帽を被り、その下に凛々しい顔立ちがのぞく。前髪はいくらかの束を左へ流している。細くまとまった眉の下には、左右の端をナイフで切ったように鋭い目。顎のラインがはっきりしないのは、面頬のような黒いマスクを着けているからだった。写真にはさらに、黒いノースリーブのインナーと、ラインのくっきりした肩が映っていた。

 

 クール、冷徹、プロフェッショナル──そういった性格が見て取れる。ドン・アランチーノの件で共闘したことは忘れもしない。錠前サオリ。アリウススクワッドのリーダーの写真も添えられていた。

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