「どうした、誰も座らないのか?」落ち着いた高飛車な言い方だった。「せっかく忍んで来たのになあ。おいウェイン、前回の雪辱戦でもするか?」
呼びかけられたのは、タキシード姿の機械人だった。卓を囲う人物たちは、ほとんどが彼女と顔見知りらしい。及び腰の機械人は、カモにされた一人だろう。一歩後退した。「いや、今晩は遠慮しよう」
両替口でチップを交換するあいだ、アルはずっと聞き耳を立てていた。カヨコの話とも合わせると、彼女は席に着いてからずっと相手を探しているらしい。アルには好都合だった。金持ちの上流階級が集まる社交場で、危険をもいとわぬクールなアウトローっぷりを見せつければ、会社の名も上がるというものだ。
プラークとチップを受け取る時、両替係の横に立つ賭場主任が訝し気な顔でこちらを見た。なぜさっさとカジノから出て行かない、目でそう問いかけている。カジノの裏で仕組まれているイカサマのことを知っている以上、長くカジノに居座られてはぼろが出る可能性が高くなる。アルとムツキが麻雀を終えるまで、やつらはきっとハラハラしどおしだろう。
チップを分け合うと、カヨコはアルに忠告を残していった。「それじゃ、くれぐれも虎穴をのぞきこんで取って喰われないようにね」
「虎穴に入らずんば、ともいうわよ」
カヨコとハルカは短いエールを送り、ルーレットのほうへ向かった。アルとムツキは麻雀卓へ振り返る。先ほどより人が集まっていたが、四つある席はまだ三つが空いていた。ブロンドの彼女は、少しもこちらに振り返らない。見物客の中にいる猫の獣人と何か話していた。
「やあラムさん、私を覚えてますか?また巻き上げられに来ましたよ」
「それは楽しみだな、チャールズさん」口調には少しの興味もなかった。
あの獣人は大した腕ではないのだろう。彼女は強者に特有の、自分に並び立つ実力者と勝負がしたいという尊大な欲求があるに違いない。アルは自然と凄みのある笑みを浮かべた。観客たちのどよめく様子が目に浮かぶからだ。これから大舞台へ挑戦者が現れた時の、驚く見物人たちの反応を少しも見逃したくなかった。
卓まであと数歩のところで、アルはわざとヒールを強く踏みならした。「私が相手になるわ」
見物人たちの談笑が止み、一斉に振り返った。ブロンドの彼女も、こちらへ顔を向ける。金塊のような目が、すぐに品定めするかのように、じっとアルを見つめていた。片目をぴくりとつり上げ、さも驚いたような様子でつぶやいた。「これはこれは」
アルは落ち着いた口調で応じた。「私はアル、陸八魔アルです。ゲヘナで便利屋68を運営しています。お見知りおきを」
「ああ、何でも屋というやつか」テーブルへ目をやる。「ちょうど相手がいなかったんだ。陸八魔君、麻雀の腕はあるかな」
「心得はあるけど、そちらもかなりお上手に見えるわ。精いっぱい頑張りましょう」
ひそひそと取り巻きから、アルの名が交わされだした。今しがたの一幕に満足しながら、向かい合う席に腰を下ろす。
金色の目はムツキにも向いた。「ご友人も一緒にどうかな?」
「すっごく楽しそう!ぜひともお手合わせしたいね」
先ほど両替口にいた賭場主任が、いつのまにか流浪人のような女の傍らに立っていた。身を屈めて、いかにも申し訳なさそうに言う。「ラム様、この方々は……」
「いいんだ、彼女たちはゲームの相手になってくれる」
「ですが」口にしかけたが、ラムと呼ばれた女が鋭く「二人にチップを」と伝えると、主任は頷いて素直に引き下がった。
二言三言だが、不思議なやり取りだった。アルは聞いた。「ええと、ラムさん、でいいかしら」
「ご挨拶が遅れたな、眼虎ラムだ。百鬼夜行から出向してきた」椅子からわずかに身を乗り出し、片手を差し出した。
アルは反射的に腰を浮かせて握手した。乾いた手だった。「そんな遠方からとは知らなかったわ。なのにずいぶんと顔が効くのね」
「君たちは運がいい」ラムは右手の中で牌を三つ弄びながら言った。「ここは何度か訪れていてね。さっきの主任とも顔見知りだ。君たちのチップも都合しよう」
「チップなら自分たちでも持ってるわよ」
「私のゲームはいつも高レートで賭ける」ラムはアルの手持ちの小山を見た。「一人百万、二人で二百万だ」
出納係が卓へ近づき、追加のチップを回す。あっという間に雀の涙ほどの小山は何倍にも膨れ上がった。アルはポーカーフェイスを崩さなかったが、内心では肚の底から噴火のようにせり上がる期待と興奮に加え、吐き気をもよおすほどの不安がごちゃごちゃに入り乱れていた。勝負をふっかけたつもりが、気が付けば逆に、桁違いに法外の金を頭上から被されたのだ!敗北のリスクは計り知れない。カヨコとハルカがいくら順当に手持ちを増やしていようと、負債を帳消しになどできない。すすり泣きながらどこかへと連行されていったゴンザレスの姿が脳裏によぎった。
ムツキはいたって笑顔のままだった。よほどの自信があるか、事の重大さに気づいてないかのどちらなのか。真意は分からずとも、ムツキが参っているわけではないのが救いだった。チャールズという黒猫の獣人は裕福さを見せつけるみたいに、自前でチップを調達していた。
「飲み物は何を差し上げようか?」ラムが聞いた。
「ええ、熱いコーヒーをいただくわ」
アルの後にムツキも続いた。「私はミックスジュース!」
ラムが給仕に命じているあいだ、アルは彼女の横顔をまじまじと見つめていた。色白の肌、切れ長の瞳、よく手入れされた長髪。こういったゲームだけでなく、身の回りにも金を使っているのは一目瞭然だった。年齢は自分とそう変わらないはずなのに、この裕福さは何なのだろう?彼女はどうやって資金を稼いでいるんだ?仕事は?それとも彼女の世話をしている人物が、他に誰かいるのだろうか?彼女の素性への興味は尽きなかった。いずれゲームの最中に聞いてみてもいいかもしれない。
「では始めよう」飲み物が来ると、ラムは立ち上がった。「我々のゲームのルールは基本とそう変わらない。ただし最低二翻、上限は十翻。翻数に応じて倍々のチップが入る。よろしいかな?」
「けっこうよ」アルは自ら退路を断つ返事を口にした。もう引き返すことはできない。
先ほどブラックジャックをしたディーラーと同じ制服の出納係が、卓へさいころを二つ置く。ラムがアルに手で示した。「それでは席決めのさいころを振ってもらおう」
麻雀は一荘と呼ばれるゲーム単位で進行する。一荘は、それぞれ東南西北の場が一ラウンドとしてあり、さらに一回の場は親──つまり東家が一巡するまで続くため、最低でも合計十六回のゲームがおこなわれる。プレーヤーたちは、まず東南西北の伏せ牌を一枚引き、それぞれの席と門風を決める。このときに東の牌を引いた者が親となる。
アルはさいころを振り、出た目の数を逆時計回りに数えると、ムツキのところで止まった。ムツキが伏せ牌を引くと、南の文字が現れた。続いてラムが東、チャールズが西、残った北がアルの手に渡る。アルは右隣にラムが来る席に座った。対面にはムツキ、左にチャールズが座る。第一ラウンドとなる東場はラムが親である東家となり、ムツキは二番目の南家、チャールズが三番目の西家、アルが四番目の北家となった。
席が決まると、次に四人は一三六枚ある麻雀牌をかき混ぜる段階へ入った。カードのシャッフルとやることは変わらないが、薄くて滑らかなカードと違い、麻雀牌での作業はとてつもなくやかましい音をたてる。ムツキは緊張感もなく、けらけらと笑いながら牌をごちゃまぜにする作業を楽しんでいた。
それが終わると、裏返した牌の三十四枚を積み上げて山を作る。ようやく声が通るようになったタイミングで、アルは気になっていたことをラムへ尋ねてみた。
「さっき百鬼夜行から出向してきたと聞いたのだけど、お仕事は何をなさっているのかしら?」
「私はずっと研究職だ」ラムは並べかけの山から少しだけ顔を上げた。「百鬼夜行の自治区内に古い城と少しばかりの領地を持っていてね。キヴォトスの歴史は長いが、それは争いの歴史でもある。私は過去の遺産を集めて、キヴォトス全体の利益となる研究をしている」
「何の研究なの?」
「戦争の研究」
ラムは山を積み終えた。アルが作り終えたのも同時だった。微笑のまま問いかける。「戦争の研究?誰かと戦うということかしら?」
「そう単純なものじゃないな。正確には集団や国家同士による戦争術の研究だ。戦略、戦術、戦史──私の扱う題材はどれも極めて規模が大きい。それにデータも詳細かつ膨大に渡るから、個室のような空間で扱うには大きすぎる。だからあらゆる戦争の要素に理解があって、シミュレーションをおこなえるだけの資源力を兼ね備えた限られた人間にしかできない。今のキヴォトスで引き受けているのは、おそらく私くらいだろう。この仕事はある意味で、天命や運命みたいなものだからな」整然と積まれた牌を見て、すかさず「少々喋りすぎたな、失礼した」と詫び言をいった。
山が完成すると、親のラムが二つのさいころを振った。出目は十。ラムが自分を基準にして、逆時計回りに十数えると、ムツキの南家で止まった。南家の山の右から十番目を開門し、配牌四枚を取った。ムツキ、チャールズ、アルもあとに続いて四枚ずつ取っていく。最後にラムが二枚取り、親が十四枚、子が十三枚の手牌を持った。開門した山の割れ目からドラ表示牌を表にして、親が十四枚の手牌から一枚を場に打つと、いよいよゲームが始まるのだ。
アルの最初の手牌はあまり良いとはいえなかった。三と九の萬子が一枚ずつに、二枚の六の萬子。二、三、四、八の筒子。六の索子。南が二枚と、西北が一枚ずつというものだ。
麻雀の上がり役には多くの種類があるが、翻の付き方は十四枚の牌の組み合わせによる。たいていの場合は順子──三枚の連番の数牌や、刻子──三枚か四枚で一組の同じ牌を四組作らねばならない。同種牌が三つなら刻子、四つ揃えば槓子となる。さらに和了──つまり上がるためには、これら四種の順子や刻子、槓子とは別に、同種牌二枚の対子──雀頭が必要になる。ほかにも特別な組み合わせによる役は、より高い得点となることがある。
アルは頭の中で麻雀での役作りのルールを瞬時に復習した。たいていは雀頭の他が刻子や槓子か、もしくは順子で統一したほうが得点は高い。アルは自分の手牌を見つめ、頭を悩ませた。六萬の対子が一組、続き牌は筒子にしかない。自風牌の北が一枚あるから、これで一組作れたら一翻つく。なんとしてももう一翻以上作る手を考えなければ、最低の二翻に届かずチョンボとなってしまう。上がり牌を自分で
ラムは西を捨てた。続いてムツキが一枚自摸り、九索を捨てた。チャールズも一枚自模り、白を捨てる。次はアルが自摸をする番だ。引いたのは八筒だった。これで同種の対子がもう一組できあがった。アルは手牌から用のない西を捨てた。一巡目は危なげなく終わり、二巡目でラムは八索、ムツキは北、チャールズが六筒と捨てる。アルが次に自摸したのは西だった。しまった!さっき西を場へ捨てなければ、さらにもう一組の対子が完成していたのに。
しばらくは麻雀牌の立てる小気味いい音だけが場に流れていたが、ムツキが東を捨てると、ラムが「カン」と宣言して拾い上げ、四枚の東を開いて卓の隅に並べた。自風かつ場風の東を揃えたので、これでラムはすでに二翻ついたことになる。彼女は、あとはどんな手でも上がるだけでよい。
ラムは四索を捨てた。続いて再びムツキの番になる。チー、ポン、カンを宣言した人の右隣からゲームは再開されるのだ。ムツキは一枚自模り、北を捨てた。場にはすでに北が一枚あり、これで四枚中三枚が出たことになる。見込みが薄くなった北は、次の番で捨てたほうが良いわね。
ゲームが進むにつれて、場には捨てられた牌がごちゃごちゃに並んでいく。ラムは手を伸ばして山から一枚自模り、三筒を捨てた。アルはその牌が欲しかったが、ムツキが「チー」と宣言してその牌を取った。チーは左隣のプレーヤーが捨てた牌でしかできない。それにアルの手牌にはすでに六萬と八筒の刻子ができている以上、刻子で進めなければならない。順子が混ざると、翻が下がってしまうのだ。それに立直を狙うなら、組み合わせの牌は自分で自模る必要があった。
ラムはさらに、アルが自摸して捨てた三萬もカンした。取り巻きたちの反応通り、この女はたしかに引きが強い。
その後もなんとか粘ったが、とうとうアルの手牌は良くならなかった。アルが五萬を捨てると、ラムがすかさず「ロン」と宣言し、場に置いた牌を掴んだ。
上がりが出たら、全員が手牌を公開する。ラムの手牌は満貫で、五翻だった。対々和──刻子か槓子を四つ作って上がると成立する──で二翻、自風かつ場風の東で二翻、最後の五萬に赤ドラが入ったことで一翻の合計五翻。ムツキとチャールズは八万払い、上がり牌を放銃したアルは十六万払った。最初の手持ちだけで挑めば、すでに収支はマイナスになっていたところだ。
一局が終わると、門風は逆時計回りに移動する。門風が一巡すれば、第一ラウンドの東場が終了する。だが親のラムが上がったので、門風は変わらずに続行する。誰も上がれなかった場合も同じだ。ラムが親のまま、次のゲームが始まった。
ゲームの途中、右手の爪をいじっていたラムが不意にアルへ問いかけた。「そちらの家業は便利屋と聞いたが、普段はどんな仕事をされているのかな」
「一言ではまとめられないわね。私たちは金さえ貰えれば、何でもする”何でも屋”ですもの」
「内容で選好みはしないのか?」ラムはアルとムツキを交互に見た。
「ええ、もちろん。それが仕事なのよ」アルは不敵な笑みで答えた。嘘は言ってないが、正確には選好みできるほど繁盛していないだけだ。ムツキは余計な口を挟まず、にこにこしてるだけだった。
アルの今度の配牌は、先ほどよりは見込みがありそうだった。三元牌──中、發、白のうち二つを含む、三組の対子ができている。対々和か七対子も狙えるだろう。
だが五分後にチャールズが自摸した牌で上がった。
親以外が上がったため、門風が移動する。ムツキが東家、アルは西家となった。ムツキがさいころを振り、ゲームが開始する。アルはホットコーヒーのカップへ口をつけた。豆の濃い風味と強烈な苦みを感じる。だがおかげで夜更けの勝負でも目は冴えたままだった。ゲームが続くうちは集中力を維持しなければならない。コーヒーを選んだのは正解だった。
三回目のゲームはテンポよく進んだ。全員が何の宣言もなく、場に並ぶ牌ばかりが増えていく。ラムが二索を捨て、ムツキが対面の山から自摸しようと手を伸ばした時、アルはムツキがわざと緩慢な動作で自摸したように見えた。ムツキが自摸した牌を捨てると、次のチャールズは自摸したあと、手牌から九筒を捨てた。アルは七、八の筒子を持っていたため順子を作ろうとしたが、それより早くラムが「ポン」と宣言し、上がり牌を掴んだ。
その回はラムが三翻の手で上がった。
再び門風が移動する。チャールズが東家、アルは南家になった。今度の配牌はすぐに上がれそうだった。数字の近い牌が集まっており、一と九の老頭牌がない。
麻雀が進行するあいだ、アルは時々カヨコとハルカの様子へ目を向けていた。木製のアンテナみたいな形のルーレットの前で、並んであれこれ話している。カヨコがチップの賭け方を教えているらしく、場に慣れていないハルカの手持ちがすぐになくなる可能性は低そうだった。時々目が合うと、頑張って、と言いたげな笑みを向けてくる。佳境に立たされているアルの立場には気づいてない。一手ごとに気を揉んでばかりのこちらと違い、向こうの様子は平和そのものだった。
門風が動き、東場の最後はアルが親になった。配牌の調子は良さそうだった。五筒と五索の赤ドラが二枚あり、四五六の順子の予備軍が三組ある。三色同順という、萬子と筒子と索子で同じ数字の順子があった場合に成立する役が狙えそうだ。ラムが何個目かの牌を捨てた後、ムツキは再び緩慢な動作を見せた。しかも今度は先ほどよりも時間がかかった。ラムは顔に出さないが、ムツキが腰を浮かせて手を伸ばしているあいだ、親指の爪を人差し指で掻いていた。彼女は時々こうして爪を掻く癖があるようだ。ムツキが手牌から六萬を捨てると、待ちかねたようにラムが「ポン」と宣言した。ムツキは肩をすくめて見せた。
東場の最後は、ムツキが捨てた牌でラムが上がった。
これでゲームは四分の一が終了し、次は南場となる。その前に休憩を取り、立ち上がって体をほぐしたり、飲み物を補充したりすることになった。アルは二十六万、ムツキは三十四万負けていた。アルが席を立つと、ムツキも合わせて立ち上がった。麻雀の見物客たちもまばらに散っていく中、一区切りついたことに気づいたカヨコとハルカが卓へ近づいてくる。表情からして、向こうの戦績は悪くなさそうだった。
「社長、ムツキも調子はどう?」カヨコが問いかける。
「そう悪くはないわ。でも相手はとても上手なのよ」
ちょうどラムもゆったりとした動作で立ち上がった。アルはこの機会に、社員たちの紹介をしておこうと決めた。「ラムさん、我が社の課長カヨコ、そして平社員のハルカよ。二人とも、こちらは百鬼夜行出身の眼虎ラムさん」
ラムはカヨコへ片手を差し伸べた。「君たちもご友人か。ここへ学生が大人数で来るとは珍しい」
カヨコは手を握り返す。「ここのルーレットはよく当たるって、知り合いに教わったからね」
「ああ”
「ルーレットでも同じことだよ。回転盤やボールの操作をするのが進行役でも、賭け方を変えることはできる。一見ささいな事でも、あなたのいう大きな結果に届くこともある」
ラムはふんと鼻を鳴らし、今のカヨコの返しに感心したような目を向けた。握手を離すと、背後で待つ顔見知りたちに合流し、今しがたのゲームの振り返りに興じ始めた。
アルたちも卓を離れ、カウンターへ向かう。コーヒーとミックスジュースのお代わりを注文した。
「どどどどうしたらいいの、カヨコ」アルは小声でたずねた。「あいつ、桁違いの金額を貸してきて、そのくせ滅茶苦茶に強いのよ。さっきも結局上がれたのは一回だけだし、二人して手持ちが減る一方よ」
カヨコはため息をついた。「まあ、分かってたけど」
「分かってたの?」
「上がりの宣言がこっちまで聞こえてるからね。確かに強いみたい」
「二百万なんて大金、私たちだけじゃ抱えきれないわよ!私はただカッコいいアウトローになりたかっただけなのに……」
「二百万?」カヨコがあからさまに顔をしかめた。「少し目を離しただけで、どうしてそんな話に飛躍してるの……」
「支払い能力なんてないのに、アルちゃんってば大胆なんだから!」ムツキが楽観的な笑みを見せる。
ハルカは反対に怯えきっていた。「お、お金が必要なら、私が臓器を売ります!いえ、売らせてください!それでアル様のお役に立てるなら、私は存在価値がないので無からお金を生み出せますし」
アルが慌てて止める。「声が大きいわよハルカ!あとそんなことしないでちょうだい!」
小声でわめいているうちに飲み物が来た。卓には早くもラムが席に着いている。
アルは今にも泣きそうだった。「もう私たちから巻き上げる準備ができているみたい。今月の家賃でぎりぎりなのに、もし負けても払えないわよ……」
ムツキはミックスジュースを片手に笑った。「いや、払う必要はなさそうだよ」
三人の視線が集まる。アルはムツキに尋ねた。「どういうこと?」
「努力と創意工夫が大事とは、よく言ったものだね。あいつは紛れもないイカサマ師だよ」