ヘリオポリスの女子学生たちが噂話に花を咲かせていたその頃。
地球、大西洋連邦の首都ワシントン――その政治と軍事の中枢たる一角の、極秘会議室。
重苦しい空気の中、数人の高官と、ジョージ・アルスター事務次官の同僚にあたる背広組のトップたちが、一枚の書面を囲んでいた。
その書面の最上段には、**「G計画:次期主兵装開発プロジェクト」**の文字。
そしてその上から、鮮烈な赤色で**『凍結(TERMINATED)』**のスタンプが、容赦なく捺されていた。
「――よろしい。これで全会一致だな」
議長席の男が、眼鏡の奥の目を光らせながら、静かにペンを置いた。
「ザフトの動きは、我が国の情報部が完全に掴んでいる。あちらの最高評議会は、人型機動兵器……『ジン』と呼称されていた量産計画の予算を完全に削り、プロジェクトを永久凍結した。開発チームもすでに解体され、各民間企業へ払い下げられたそうだ」
「賢明な判断だな、プラントの調整品(コーディネーター)どもも」
別の高官が、皮肉めいた笑みを浮かべて頷く。
「戦争を起こす気もないのに、あんな維持費ばかりかかる二足歩行の玩具を並べて何になる。我々地球連合とて、同じことだ。莫大な国家予算を投じて『ガンダム』などという未知の兵器を開発・維持するのは、この時代の経済感覚からして完全に狂気の沙汰だ」
彼らにとって、軍事力とはあくまで「冷え切った平和」を維持するための天秤の重りに過ぎない。
相手が重りを捨てたのであれば、こちらだけが莫大なコストを支払って重りを買い足す必要は、政治的にも経済的にも全くなかったのだ。
「しかし、ヘリオポリスのオーブ側に委託して進めている試作機(ストライク等)はどうするのです? すでに5機のフレームはほぼ完成していると報告が入っていますが」
実務派の高官が尋ねると、議長は冷淡に言い放った。
「即刻、製造を永久に凍結しろ。現地にいるモルゲンレーテ社の技術者、および我が国の開発チームには、機体の解体、あるいはデータ消去の命令を出す。……まぁ、すでに支払った分の予算は、オーブとの外交的な『貸し』として処理すればいい」
全面戦争が「馬鹿馬鹿しい」とされるこの世界において、最強の兵器ガンダムは、誕生する前に「ただの不良債権」として切り捨てられることになった。
大西洋連邦は、ザフトとの睨み合いを現在のバランスのまま続けることを選んだのだ。
このワシントンでの決定を、まだヘリオポリスにいるフレイ(中身キラ)は知らない。
ザフトに続き、地球軍までもがモビルスーツという「戦争の種」を放棄した。
かつて世界を破滅の一歩手前まで追い込んだ「G」の脅威は、キラが恐れていた襲撃事件すら引き起こすことなく、歴史の闇へと葬り去られようとしていた。
しかし、歴史の歯車が完全に止まったわけではない。
開発に関わっていたオーブの「モルゲンレーテ社」、そしてその周辺にいる「技術者たち」の思惑までは、ワシントンの政治家たちも完全にコントロールできているわけではなかった――。