魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~   作:タナト

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 お待たせしました!魔法少女と勇者の物語再始動です。文体は三人視点になって読みやすくなったと思います!
 また主人公が少し若くなり一般人になっています。アルギニアスなんかも名前がガラッと変わったり……読者の皆さんを混乱させてしまうかもしれませんがどうかよろしくお願いします。



第1話 普通以下の少女

 

 少女は走っていた。恐怖に背中を押されて、全身全霊で走っていた。走っている場所はいつも通る道、でもどこか歪んでいるようにも思えた。

 黒猫を庇うように抱きしめながら、後ろを追ってくる得体の知れない怪物から逃げている。

 

「―――…………!!!」

 

 呻き声のような、叫び声のような。言い表しづらい恐ろしい声が聞こえてくる。しかも、その声は確実に近づいていた。怪物の姿は腐っているように半分溶けていて、はっきりとは見えない。

 

―重い……―

 

 少女は葛藤する。胸の中にある小さな命を見捨てれば、もっと速く走れるかもしれない。ただ、この子はなぜだか分からないが、弱っている。少女が腕を離せば、この猫はきっと怪物に食われてしまうだろう。

 

「……っ!……っ!」

 

 全力で走って視界と頭の中が白くなっていく。

このまま死ぬのは怖いけど、この猫が自分のせいで死んでしまうのも怖い。少女はそんな思いで、走り続けた。

 やがて後ろから迫る気配が近づいてきた時、少女の中の天秤は、見捨てればよかったという後悔に傾いていく。

 そして、怪物に追いつかれる瞬間……

 

 

 

「……さん!……碧乃さん!」

 

 その声と、頭頂部に添えられた掌の感触が、少女の意識を一気に覚醒させる。

 

「……っ!? ……んあっ! す、すいません……先生!」

 

 少女は、視界に映っているのが覗き込んでくる先生の顔だと認識して、慌てて背筋を伸ばした。

 

「……碧乃さん、またですか!寝てなんかいないでちゃんと授業を受けてください!」

 

「す、すいません。気を付けます……」

 

 衝撃を受けたことで、彼女の眠気は引いた。これでしばらくは眠気と戦わなくて済む。そんな安堵と、授業をちゃんと受けられない自分への嫌悪感が同時に、彼女の胸で湧いた。

 

「クスクス……」

 

 周りから笑い声が聞こえる。恥ずかしいが、しょうがない。少女はそんな風に周りからの嘲笑を自戒として受け止めて、羞恥心に耐える。周りはみんな普通のいい子だからか、はたまた彼女という人間に興味がないからか、それ以上のいじめにつながることはない。

 少女は気を落としながらも、黒板と、先生の声と、書くべきノートに意識を向けて、授業を受けだす。少女は授業を受けるのを放棄する勇気はない。けどだからこそ、ふがいなさと罪悪感で、気分が重くなる。遅れを取り戻さないといけないのに、ノートを書く手が上手く動いてくれない。それがまた彼女の心を焦らせる。

 

―苦しい―

 

 そう思いながら、一実は時間が過ぎるのを待つ。天見学園中学部2年2組にいる碧乃一実の、いつもの学校生活だった。

 

 ※

 

“キンコンカンコーン……”

 

 放課後、一実は誰とも会話することもなく、最速で靴箱へ向かい、外へ出る。この学校は自分のいるべき場所ではないと感じる。息苦しいから、早く逃げ出してしまいたい。そんな風に彼女は考えている。

 

「……!……!」

 

 男女の楽しそうで、真剣な声が一実の耳に入る。その声は、一実にはとてもいいものに思えた。

 

「みんな、楽しそうだなぁ……」

 

 学園の敷地の外へ出た一実は、中に広がる青春の光景を覗き見て、羨望のにじむ言葉をつぶやいた。

 中高一貫校である天見学園の生徒数は多い。広いグラウンドや、野球場、テニスコートで色んな部活動が行われている。やってみれば、それぞれに苦労があるのかもしれない。でも外から見ている一実には、ただただ眩しくて、楽しそうな光景に見える。

 スポーツにしろ、勉強にしろ、その他の何かにしろ、今目の前にあることに真剣に打ち込むことは、きっと素晴らしいもののはずだ。一実はそんな風に考えている。

 そもそも、外から見るという発想そのものが、自分をみんなから離れたところに置く発想かもしれない。一実はそうも思った。しかし彼女には、その中への入り方も分からなければ、そのための勇気もなかった。

 

「とりあえず、帰ろう……」

 

 一実はあきらめるように呟いて、家へ向かう。彼女は他人とのつながりを求める前に、やるべきことがあると考えていた。まずは自分のことをちゃんとこなせるようにならなければ。そう考えて、一実は“逃げる”。

 まだあそこに入る資格がない、そんな風に考えるのが、自認『普通以下の中学生』である碧乃一実であった。

 

 ※

 

 夕暮れ時、学校から帰ってきた一実は、自室のベッドの上でこの日何度目かのため息をついた。日々の学校生活に対して、本人なりに努力はしている。けれど、勉強も人付き合いもなんとなくうまくいかない。最低限をこなすだけで精一杯で、毎日を楽しむための余裕が少ない。

 親からの勧めで、将来の可能性を広げるために少し頑張って、進学校である天見学園に一実は入学した。しかし、2年生になった今では、身の丈に合っていない場所に来てしまったのではないかと後悔している。

 

 「眠い……でも課題しなきゃな……」

 

 一実はそう言って、勉強机の方を見る。椅子につかなければいけない。けれど彼女の体は重く、その一歩を実行できずにいる。

 学校からの課題に時間がかかるせいで、彼女は日々寝不足気味だ。それが昼間の眠気に繋がっている。そして眠気を家に帰ってからも引きずるせいで、課題も捗らなくなる。それが彼女の悪循環。当たり前のことすら満足にこなせない。だからこその普通以下。

 幸いというべきか、一実はエスカレーター式に高校生になる。でも高校生になっても、そのあと大人になっても、自分はこうなのだろうか、と彼女は思う。多少なりとも頑張れば、トレーニングで筋肉がつくように、要領よくこなせるようになっていくものなのではないか。そんな前向きな考え方を、彼女はもう続けられなくなっている。ずっとこうして日々に苦しむことが未来なら、生きていくということなら、自分はもう将来に希望が持てなくなる、と。

 

「私……何か間違ってるのかな……」

 

 バフッと、柔らかい音を立てて、ベッドが横たわった一実の体を受け止める。彼女の視線は壁に貼られたポスターに向けられた。そこに映るのは、華やかなタレントでもなく、可愛らしいアニメキャラでもない。それでいて、その両方のようでもある。

 

「シンセリーはこんなしょーもないことで躓かないよね」

 

 一実はその心の支えである少女に呟いた。

 ポスターに写る黄色い髪と同じ色のドレスを着た美少女、シンセリー・テルスは、14歳である一実の一つ上の日本人である……らしい。本名は公開されていないため、一実は詳細を知らないが、同年代の少女であることは確かだった。しかし一実は、彼女のことを世界で一番かけ離れた人間であると考えている。

 世に名高い天望愛齎(てんぼうあいさい)シンセリー・テルスは人類の脅威である怪物……『鋼魔』と戦う戦士、『魔法少女』である。魔法で化物と戦うヒーローなど、一昔前ならそれこそアニメの中の絵空事でしかなかった。

 しかし、人を襲う怪物も、それに抗う魔法使いも現実に存在している。鋼魔の脅威は確かに死人を伴うもので、当事者からすれば、たまったものではないのだろうと一実も分かっている。

 それでも一実は、魔法少女という存在に希望をもらっていた。魔法という奇跡で鬱屈とした現実を打ち破り、命がけで人を助け守る善意の存在。そういうヒーローと言える存在が確かにいることが、一実の心を元気づけている。

 

「きっとシンセリーは苦しいって思ってるんだろうけど、私、あなたみたいになりたいよ……」

 

 とても不謹慎で、それでいて贅沢な願いだと、一実自身も分かっている。幸いなことに彼女自身や周囲は、鋼魔の脅威にさらされたことがない。だから、彼女は鋼魔のことを、画面の向こうで行われている遠い国の戦争と同じように考えていた。

 一実としてもよくないことが起きていると知っていて、ひどいとも考えるけれど、それ以上の自分事として捉えることはない。それどころか、シンセリー・テルスという存在の圧倒的な特別性や、英雄性にあこがれを抱いてしまっている。

 他人事だと思っているからそんなことを望めるのだと、一実も分かっている。しかし、普通すらままならない彼女には、その輝いている存在になりたいという醜い願望があった。それは、一実という少女の中にある確かな真実だ。

 

 「んっ……ううぅ……」

 

 一実は、そんな願いを持ってしまう自分自身が情けなくて泣いてしまった。シンセリーも、このようなみじめな気持ちになることがあるだろうか。そんなことを一実は考えてみる。シンセリーでもきっと、落ち込むことはあるだろうとは彼女にも分かった。なにせ、そういうことがあると本人が言っているインタビューを、彼女は見たことがあるからだ。

 

「でも、私は一人なんだよな……」

 

  一実はそんなことを呟きながら、視線をもう一枚のポスターに移した。そこに写っているのはシンセリーではなく、そのパートナーである人型の勇者だった。

 天巌勇者エクスマイン……魔法少女とともに戦う“勇気ある心”を持つアンドロイドだ。2mに届く角ばったシルエットを持ち、赤と黄色の鮮やかな装甲を纏ったロボットが、緑のツインアイを光らせてこちらを見つめている。

 

 シンセリーは、鋼魔との戦いの中で辛いことに悩んでしまうこともあるが、そばに勇者がいてくれるから乗り越えられるのだという。もちろん、碌に友達も作れない一実には、寄り添ってくれる誰かなど想像もできない事柄だ。

 この世にヒーローがいるように、悩める女の子を幸せにしてくれる白馬の王子も、この世のどこかにいるのかもしれないと一実は思う。しかし、いたとしても、自分のようにどうしようもない人間に目を向けてくれることはないのだろう。

 現状をどう変えたいか、その明確なビジョンもないままに、一実の胸の内には、変わりたい、変えたいという漠然としているが強い衝動が渦巻いていた。

 

「はぁー……」

 

 しかし、願っているだけではなにも変わるはずがない。かといって、現状をひっくり返すような大それたことをする行動力もない。一実は鬱屈とした葛藤をしているうちに、全てがおっくうに思えてきて、眠気のままに意識を手放してしまった。

 




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