魔法少女×勇者!!!~愛の魔法と勇気のメカ、掛け算すれば無敵です!!~ 作:タナト
学校という日常に戻った一実は、自分が魔法少女だったことを忘れて普通以下の中学生に戻る。そう思っていた。
「碧乃さん!大丈夫だった?」
しかし、彼女の運命の変化は、日常にまで侵食していた。
3日ぶりの学校に向かった一実は、少しだけ時の人になった。クラスの男女が、というか中にはクラスを飛び越えて、同学年の生徒たちが一実のもとに来て話しかけてきた。必要な連絡以外、全く周りと会話しない日……というのがままある彼女にとって、初めての経験だった。
「う、うん!怪我はしたけど、そこまでひどいわけじゃないから大丈夫!」
こうなると、早くも魔法少女であることがバレてしまった……わけではなく、鋼魔に襲われ、魔法少女に助けられたということで、みなその体験談を聞きたいのである。一言目には心配の言葉をかけてくれたが、みんなその後の話を聞きたくて目をキラキラさせているのが分かった。
不謹慎な気がしないでもない一実だったが、自分が逆の立場だった場合も、何とか話を聞こうと耳をそばだてているだろうと思ったので、それ以上の悪感情はなかった。
「鋼魔って実際どんな感じなの?」
魔法少女と勇者は、男女ともに人気があるコンテンツになっている。まさに女子に人気な要素と、男子に人気な要素が合わさっているからだ。
「シンセリーに助けられたんでしょ?どんな女の子だった?」
「ご、ごめんね……わ、私、変なフィールド?みたいなものでほとんどの時間気絶してたからほとんど魔法少女と勇者のことは覚えてないんだ……」
「そっかぁ……」
OIDOの人からアドバイスされた言い訳をしたとたん、蜘蛛の子を散らすように生徒たちはそれぞれの場所に戻って行った。
(うぅ……分かっていたこととはいえ、やっぱり寂しい……)
自分という存在に誰も興味を持ってくれないのだと改めて認識して、一実は内心で涙を流した。
「どんな些細なことでもいいの!何か、覚えてることない?」
たった1人だけ、一実に食い下がった女子がいた。眼鏡をかけて、スケッチブックを持っている女の子だ。一実はその女子生徒の名前を思い出そうとする。
(確か、永見愛奈さん……)
例によって一実は個人的な会話をした記憶はないが、よく絵を描いている姿が印象に残っていた。
「実はここだけの話……シンセリーじゃない魔法少女が戦ってたって噂があるの……」
「ええっ!?」
愛奈は眼鏡の位置を直しながら一実に顔を寄せ、小さな声で言った。一実は、あの男の子には秘密にしている約束をしているし、半有機生命圏で意識を失っていた人がほとんどだったので、マーシー・リブラという存在について、すでにそういう話が広がっているとは思っていなかった。
「表に出ていない謎の魔法少女と勇者……なんだかときめかない?」
「う、うん……」
相手の剣幕と、その内容がなかなかにクリティカルなことも相まって、一実は何と答えていいか分からなくなる。
「で、どうなの?碧乃さん!」
「……う~ん、私に言えるのは、本当に気絶してたから、来てくれたのがシンセリーとエクスマインかどうかも分からないってことぐらいかな……」
一実はここで、下手に彼女の話を否定しても後々面倒になりそうだったので、肯定も否定もしないという形で話を濁すことにした。
「そっか~……否定要素もないけど、肯定する要素もないと……OIDOの広報がな~ぜかだんまりしてるから気になるんだよね~」
一実の視界に、ぶつぶつ言っている愛奈のスケッチブックが見えた。描かれているものには見覚えがある。そこで、会話の主導権を握ること半分、あわよくば自分から話題を広げてみること半分で、一実は話しかけてみることにする。
「それ、その絵……勇者の絵を描いてるの?」
「あ、分かるの!?ひょっとして勇者マニアだったり!?」
愛奈は、一実が期待していた以上に話に食いついてきた。話題を振った方が気圧されているほどに。
「うん。どっちかっていうと魔法少女マニアなんだけど勇者も好きだよ」
魔法少女と勇者は表裏一体。程度の差こそあれ、一実も一連の情報は網羅している。
「そっかそっかー!私ずっと語れる相手が欲しかったの!もしかして、プラモとかも作ったりする?」
「う、うん!美プラが多いけど、勇者も作るかな」
ロボットアニメ文化の延長なのか、勇者たちはプラモでの立体化も盛んに行われている。その影響か、魔法少女たちのプラモも多い。
「やった!こんなところに趣味友候補がいるなんて!碧乃さん、これからはもっと仲よくしよう!あ、これ私の連絡先ね!」
「う、うん……」
共通の趣味を足掛かりに距離を縮め、あわよくば友達になる。その展開は一実が望んだ通りだったが、愛奈のエネルギーは想定のはるか上を行っていた。
(ああ、2年にして中学で初めての友達できちゃったかも!永見さん、明るくてよい人だ。憧れるなぁ……)
失礼ながら愛奈に地味なオタクタイプという印象を持っていた一実は認識を大きく改めることになった。彼女は好きなことに一直線なエネルギッシュな女の子のようだ。
「ねぇ、碧乃さん!今日の放課後、空いてる?」
「う、うん?」
「じゃあ、学校が終わったら家に来ない? もっと勇者のこととか話したいなって」
「え、ええっ!?」
一実は、家にお呼ばれしたことなど小学生以来で、焦るほどの衝撃を受けた。そうでなくても急激に距離を詰められたと感じる話の進み方だった。
「……やっぱり突然で困るかな?」
常識からはみ出した提案であるという自覚はあるようで、愛奈は不安そうな顔と声で一実の顔を覗き込んだ。
(いや、せっかくのチャンス……ここで退いちゃだめだ!)
友人が自然にできる千載一遇の機会を逃すまいと、彼女の側も相手の懐に飛び込んでみることにした。
「ううん!せっかくだからお邪魔しちゃおうかな……」
「やった!じゃあ、放課後一緒に帰りましょう!」
「分かった。よろしくね……」
その約束は、外から見れば魔法少女の戦いに比べてどうでもいいことだったが、中学生、碧乃一実にとっては同じくらいに大きな挑戦だった。
不快ではない緊張とドキドキで、一実はその日1日あまり授業に集中できなかった。
※
「じゃあ、行こう!」
「う、うん……」
放課後、2人は玄関で合流して永見家に向かった。滅多なことで散歩などしない一実にとって、初めての場所を歩くだけでも新鮮に感じた。
一実は普段、寄り道などしないタイプなので、そのままでは心配されると思い、親に連絡を入れた。母は事情を聞くと、“頑張って来なさい”と、娘をデートに送り出すときのようなエールを送ってきた。
「急なお誘いだったのに来てくれてありがとう。今日はたまたま部活が休みだったんだよね。碧乃さん、部活とか大丈夫だった?」
愛奈は歩きながら一実に話しかけてくる。人によっては文章に起こすことも馬鹿馬鹿しいことかもしれないが、一実にとっては、それだけで尊敬を覚えるほどの行為だった。
「あっ、えっと私、帰宅部だから……割といつも暇だよ……永見さんは、部活何やってるの?」
「私?私は美術部。……あ、愛奈でいいよ」
「え、あ……じゃあ私も、一実でいいです……」
一実はとても喜んで、愛奈の提案に応えた。彼女は引っ込み思案で積極的にふるまう勇気に欠けているものの、人と仲良くなりたいという欲求は人一倍ある。
「そう、分かった。……一実、なんか緊張してる?」
「え?あ、う~ん……そうかも。多分知ってると思うけど、私ぼっちだから、人と話すのに慣れてないというか……」
図星を突かれた一実は、一瞬取り繕うことを考えたが、自然な会話にこだわってあとでぼろを出すよりいいと思って、弱みをさらけ出した。
「そうなの?もしかして無理して私に付き合ってくれてる?迷惑だった?」
「そ、そんなことないよ!?」
絶対にしてほしくない勘違いをされかけて、一実は声を張って否定する。
「むしろ、ぼっちで寂しいってずっと思ってたから、今日……ながっ……愛奈に誘ってもらって、とっても嬉しいよ!」
「そっか、よかった。私、よいことしたわ!」
なんてことのないようなことでも誇ってみせる愛奈が、一実にはとても眩しかった。
※
「お邪魔……します」
案内された愛奈の家は、中流家庭の一般的な一軒家という印象だった。
「今日、両親とも遅くまで帰ってこないの。上がって上がって!」
「うん」
親がいないという情報は、一実の心を一気に軽くした。騒ぐ気はないが、地雷を踏まない自信がない。
「ここが、私の部屋だよ!」
愛奈は2階へ上がり、1つの部屋へ一実を案内する。
“ガチャ”
「おお……!」
その扉の先には愛奈が作り上げた彼女の楽園が広がっていた。
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